【完結】正体を偽って皇太子の番になったら、クソデカ感情を向けられました~男として育てられた剛腕の女騎士は、身バレした挙句に溺愛される~

鐘尾旭

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6-6 騎士の功罪*

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 兵力が勝っていたこともあり、フォルルーゼの被害は思いのほか大きくなかった。
 海を背に伏兵と軍艦に挟まれ、苦戦を強いられていた近衛兵や護衛隊も、タウンゼント家の援軍により、勝利に至った。

 その後の取り調べにより、宰相・ヘイスティングが敵兵と内通していることが判明した。
 当人は関与を否定しているものの、真相が明らかになるのは時間の問題だ。王族の名を取り戻すための犯行となれば、動機としては充分だろう。

 子供の頃から目をかけてくれていた臣下の謀反に、ラザレスは少なからず衝撃を受けていた。
 とはいえ、日頃から心当たりはあったらしく、すぐさま気持ちを持ち直したようだ。話によれば、後宮のΩや皇太子妃の件で衝突することが多かったらしい。ヘイスティングの家名を上げるべく、腐心していたと考えれば合点がいく。

 ブレアは城に着くや否やクラリスに引き渡され、再び後宮に押し込められた。
 国を揺るがす戦乱に宮中はてんやわんやの大騒ぎだったらしいが、部屋に籠りっきりのブレアにそうした情報が入ってくることはない。
 世話役の乳母から首謀者や奸計のいきさつを耳にした時には、それなりの日数が経過していた。

 ラザレスが後宮に顔を出すまでの一週間、ブレアは生きた心地がしなかった。ひとつでも選択を誤れば、彼を失っていたかもしれないのだ。
 結果として大事には至らなかったにせよ、もしものことを考えると肝が冷えた。王者として矢面に立つ以上、反逆は避けられない。頭では理解しているものの、実際に起きれば正気ではいられなかった。

「ラザレス……!」

 そうした背景により、彼が後宮に来るや否や、ブレアはその体躯を押し倒さずにはいられなかった。その拍子に女物のローブが揺れ、夕日に照らされたマットレスが大仰に弾む。

 ブレアは彼のジャケットに馬乗りになっては、有無を言わさずくちびるを重ねた。暮れなずむ夕日が窓から差し込み、部屋は五年前と同じ色合いに染まっている。
 見たことのない衣装から察するに、直前まで国務に勤しんでいたのだろう。今日は謀反の関係者に対する裁判が行われると、今朝クラリスが教えてくれた。

「ふ、ンっ……!」

 舌先でくちびるをこじ開け、抜き差ししては角度を変える。
 せっかくの礼服がしわになる――頭の隅で声がするも、聞き入れる余裕なんてない。まるでそこでしか息が吸えないとばかりに、ブレアは自身の口を押し付ける。

 城に帰ってからずっと、重度の発情ヒートに苛まれていた。
 久方ぶりに戦場に出た緊張と興奮が、尾を引いていたのだろう。肝心なところでライオットに打ち負かされたことへの自己嫌悪も、関係しているかもしれない。
 しかし、それ以上に気がかりだったのは、他でもないラザレスの安否だ。

「心配してたんだぞ……! 城のなかでもなにかあったら、って……!」

 厚い胸板に顔を埋め、ブレアは甲走った声ですすり泣いた。宮中伯であるヘイスティングが手を回していたのだ。城のなかだって安心できない。

「君になにかあったら、私は……!」

 溢れ出る涙を隠すべく、目元を強く押し付ける。自分でも情けなくなるほどに声が震えた。ラザレスは鼻で小さく笑み、ブレアの背中に両腕を回す。

「辛い思いをさせたな」
「別に、そんなんじゃ……」

 後頭部をなでられ、ブレアは上擦った声で応酬する。面映ゆさが込み上げるも、触れ合う快感が上回まるせいで、自ずと腰が揺れてしまう。

「すまない。俺のせいで」

 ラザレスに耳元でささやかれ、悪寒のような興奮が背筋を駆けた。ブレアは熱に浮かされ、鼻をすする。情けないやら悔しいやらで、その気はなくとも涙がこぼれた。

「謝るのは私のほうだ……! 君を救わねばならない立場なのに、逆に助けられて……!」

 数日前の戦いを頭のなかで反芻しては、ブレアは自身の醜態を恥じた。
 騎士の功罪をライオットに指摘され、自らの信念が揺らいでしまったのだ。その隙を突いて殺されかけたのだから、もはや騎士失格といえよう。

 あの時の喪失感を埋めるべく、発情ヒートが続いているのかもしれない。
 そうした事実から目を背けつつ、ブレアはラザレスに自身の股ぐらを押し付けた。一刻も早くこの喪失感を塞がなければ、切なさで気が狂いそうだ。

 それを察したのか、ラザレスは無言でブレアの服に手をかけた。
 果実の皮を剥く要領で、するすると衣装を脱がせていく。女物のローブとシュミーズを取り払われ、気付けばショーツ一枚になっていた。
 自身の衣服も脱ぎ捨て、ラザレスは形勢逆転とばかりにブレアをシーツの上に押し倒した。途中で面倒になったのか、ブラウスと下着は着たままだ。はだけた襟元からみえる素肌が艶めかしい。

「充分な働きだったさ。タウンゼント家の援軍がなければ、俺も死んでいた」
「でも……!」
「よせよ、ベッドの上で反省会か? おまえの真面目さには恐れ入るな」

 ラザレスは困ったように眉を下げ、くつくつと喉を鳴らした。ブレアの頬に手のひらを添え、くちびるを重ねる。

「んっ、ふ……!」

 絡まる舌の動きに合わせ、嬌声混じりの吐息が漏れた。その間、彼は空いている手でブレアの裸体をそろり、そろりとなぞっては、ショーツに指先をもぐらせる。

「あ、あッ……!」

 触れるかどうかの愛撫だけで、背筋が弓なりに反ってしまう。
 快感に流されないよう、ブレアはラザレスの背にしがみついた。それでも、内なる欲求は治まらない。

「はやくっ、挿れて……」

 とうとう待ちきれなくなり、切羽詰まった口調で投げかけた。
 はしたないと頭では理解していても、火照りと疼きが治まらないのだ。五年前と同じ夕日に染まる天井を眺め、ブレアは荒い息を繰り返す。

 ラザレスを失っていたかもしれないという不安と、戦場に舞い戻った高揚感。そこにΩ特有の本能が加わり、言いようもない焦りが降り積もる。
 被害は最小で済んだとはいえ、傷つき、死んだ者もいるのだ。そのなかに彼や自分が含まれていても、不思議ではなかった。

「こわいんだ……! 忘れさせて、くれ……!」

 熱く湿った息を吐き、鼻にかかった声で言葉を継いだ。
 煽情的に誘われ、辛抱ならなくなったのだろう。ラザレスは荒々しく息を吐くと、引きちぎるかのようにショーツを降ろした。

「少し痛むぞ」

 そう言って、自身も残った衣服を脱ぎ捨てる。床に落ちる男物のブラウスと下着。赤い陽光に照らされた金髪が、五年前の出来事を彷彿させる。

 ブレアは再び彼の背に腕を回し、「きて」と小声でささやいた。一糸まとわぬ裸体を互いにこすりあわせ、そのぬくもりを分かち合う。
 瞬間、股ぐらに硬いものがあてがわれた。めりめりと侵入する動きに合わせ、赤く色づいた入り口がたわんでいく。

「あ、ああ゛ッ……!」

 切っ先が入ったところで、残りをズン、と押し込められた。ブレアはラザレスにしがみついたまま、ビクン、と総身を弾ませる。

「あっ、あ……! ラザ、レス……」

 痛みのあまり、声も身体もぶるぶる震えた。前戯をしていないのだから当然だ。
 極限まで広がった淫花は、苦痛を逃すべくひっきりなしに収縮を繰り返している。そのたびに体内に埋められた陰茎の形が浮き彫りになり、「犯された」という実感が湧き上がる。

 ブレアの疼痛を気取ったのか、ラザレスは彼女に覆いかぶさり、その痩躯を抱きしめた。股間回りの素肌が重なり合い、ひとつになったことを言外に悟る。

「動くぞ」

 耳元でささやき、ラザレスは小刻みに腰を揺らした。まだ充分にほぐれていないのもあり、ビリビリとした疼きが内部に走る。
 そうした痛みに耐え切れず、ブレアは色気のない声でかすかにうめいた。吐き出される息に、くぐもった呻吟が混ざり合う。
 痛みに喘ぐブレアを見かねてか、ラザレスは彼女の頭を抱きかかえるように慰撫した。時折、額や頬にくちびるを落としては、こちらの様子をうかがっている。

「痛いんだろ? 無理するなよ」
「い、やだ……」

 ゆるゆると首を振り、ブレアはラザレスの素肌に目元を埋めた。気付かないうちに涙がにじんでいたのか、ぬるっとした感触がまぶたに伝わる。

 ゆるい抽送を繰り返しているうちに、最奥が少しずつ潤んでいくのを感じた。
 刺激に反応し、蜜液が分泌されたのだろう。疼痛は変わらず続いているものの、その先にうっすらとした快楽を感じ、ブレアは頬をゆるませる。

「すこし、よくなってきた、かも…………」

 ラザレスの体臭を胸いっぱいに吸い込み、ブレアはほっと息をついた。健康的に焼けた彼の素肌が、赤い夕日に照らされている。

 ――こんなふうに愛し合うなんて、五年前は想像すらしなかった。

 当時交わした言葉を思い返しては、ぼんやりと考える。彼に対する愛情にも、その奥に潜む恋慕にも。気付かないまま生涯を終えるのだと思っていたのに。

 はじめは痛々しかったうめき声が、次第に甘さを帯びていく。ブレアはラザレスの背に腕を回したまま、両目を細めた。
 燃え盛る赤色に包まれた部屋――あの時と同じ光景が、夢とうつつの境を溶かしていく。

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