【完結】正体を偽って皇太子の番になったら、クソデカ感情を向けられました~男として育てられた剛腕の女騎士は、身バレした挙句に溺愛される~

鐘尾旭

文字の大きさ
上 下
26 / 37

5-7 性別の垣根を超えて*

しおりを挟む
「そうそう、飲み込みが早いな」

 手と手を取り合い、ひとしきり踊り明かしたところで、ラザレスはブレアの腕を引いた。その場でつんのめり、ブレアはラザレスの胸板に倒れ込む。

「こ、光栄です……」

 軽く息を弾ませ、謙遜する。高鳴る鼓動は軽い運動によるものか、それとも気恥ずかしさゆえか、区別がつかない。

「また敬語」

 ラザレスは指先でブレアの額をつつき、口を尖らせた。ステップの踏み方を教えてもらう折、友人のように接するよう指摘されたばかりだ。
 ブレアは決まり悪そうに視線を逸らし、「でも……」と言葉を濁した。そうした素振りに苦笑しつつ、ラザレスは応酬する。

「堅苦しいのは好きじゃない。おまえとは気心知れた仲でいたいんだ」

 星のような碧眼に見つめられ、ブレアは「わ、わかった……」と口ごもった。赤みを帯びていた頬が、よりいっそう熱くなる。
 それを見つめ、ラザレスは満足そうに片頬を上げた。ブレアの前髪を掻き分けて額にくちびるを落とし、次いで彼女の痩躯を抱きしめる。

「はは、欲しくなってきた……」

 乾いた声で笑い、彼は熱く湿った息を吐いた。
 ドレス越しに伝わってくる手の感触に、ブレアは言わんとする意味を察する。男らしいごつごつとした手のひらが、背中や腰、臀部を揉みしだくように這っている。

「あっ……! ラザ、レス……」

 途端に体の力が入らなくなり、ブレアは声を上擦らせた。形式ばった敬称を散々注意されたため、逡巡しつつも彼の名を呼ぶ。そうこうしている間にも、下腹は色めき立っていく。
 楽しく踊り明かしていたせいですっかり忘れていたが、しばらく前までヒートを発症していたのだ。きっかけさえあればすぐにでも、体の芯が火照ってしまう。

「くす、ぐったい……!」

 ビクン、と大仰に背筋を揺らし、ブレアは彼の手から逃げるべく身をよじった。ラザレスは離すまいと腕を絡める。

「嫌か?」

 なかば覆いかぶさるように抱きしめ、ラザレスはつぶやいた。懇願するような口ぶりに胸が締め付けられ、ブレアは二の句が継げない。

「……嫌、じゃない」

 それを聞くや否や、ラザレスは庭に出たとき同様、ブレアを横抱きにして部屋に戻った。
 夜会用とおぼしき靴を煩わしそうに脱ぎ捨て、ブレアをベッドに腰かけさせる。唯一の明かりであるろうそくはぐずぐずに溶け、淫靡な光を灯していた。

「脱がせるぞ」

 流れるような身のこなしで背面に回り、ラザレスはドレスの金具に手をかけた。慣れた手つきにどぎまぎしつつ、ブレアは視線を泳がせる。

 しゅるしゅるとほどける音がして、体が締め付けから解き放たれていく。圧迫されていた緊張が心地良い疲労に変わり、酔いのような感覚が総身を巡る。
 まるで、夢を見ているような心地良さだ。一方、彼の指先が素肌をかすめるたび、胸の奥が切なくなる。

「あっ……!」

 上半身を脱がされ、ブレアは堪らず声を漏らした。体をいっぺんに撫でられたような気がして、自ずと息が弾んでしまう。
 ヒートがぶり返してしまったせいか、一刻も早く触れ合いたくて堪らない。
 わずかな隙間も許さないほど体を密着させ、溶け合いたい――そうしなければ窒息してしまうのではないかというほど、息が苦しくて仕方ない。

「……ラザ、レス…………!」

 複雑なドレープに取り掛かるラザレスに対し、ブレアは消え入りそうな声で訴えかけた。
 早く、早く、早く――高鳴る鼓動の向こうでは、抑えきれない衝動がもんどり打っている。
 そのかたわら、ラザレスは黙々と作業に取り組んでいた。着せるのに時間を要したように、脱がせるのもまた、それなりの手間がかかるのだ。

 はだけたドレスの真ん中で、ブレアはこれまでの交わりを頭のなかで反芻させた。
 乳房を揉まれ、くちびるを重ね、大事なところを何度も何度も突き上げられる――記憶の断片とは思えない生々しい感触の連なりに、焦りがどんどん降り積もる。まさにこれから、そういう行為・・・・・・に溺れようとしているのだ。

 ラザレスはドレスが入っていた簡易クローゼットの扉を開き、脱がせたものを軽く畳んで中に入れた。
 雑に扱って壊さないよう、配慮しているのだろう。そうした優しさに舞い上がるも、下腹の疼きは止まらない。むしろ、乱暴に扱ってくれてもいいのに、と泣きじゃくってしまいそうだ。

 ややあってシュミーズとショーツを脱がされ、一糸まとわぬ姿となった。並行して自分の装備を外していたらしく、彼も同様の格好だ。

「んっ、んんッ……!」

 ブレアは一目散に彼の胸板に飛び込み、膝立ちの状態でラザレスの両頬を押さえつけた。彼はシーツで胡坐をかいているため、目線はこちらのほうがやや上だ。
 互いにねっとりとした視線を交わしたのち、ブレアは自身のくちびるを押し付けた。薄く開かれた口の隙間に、おずおずと舌を割り挿れる。

「はッ、あ……フ、んう……」

 だんだん夢中になってきて、角度を変えて深く絡めた。散々おあずけされていた犬が餌を貪るように、彼の舌をひたすら舐る。
 そうしなければ凍えてしまうと言わんばかりに、ふたりは自分の素肌を押し付けた。互いの熱がこすれ合い、それだけで昇りつめてしまいそうになる。
 そうこうしているうちに、固いしこりを下腹に感じた。ブレアは視線を下げ、期待を孕んだ目つきで脂下やにさがる。

「ん、はあっ……! おっき、ぃ……」

 そそり立つ陰茎に自身の陰部を押し付け、嬌笑交じりにはにかんだ。
 ラザレスは吐息だけで小さく笑い、ブレアの腰に腕を回して押し倒す。膝立ちで彼の頭を抱え込んでいたのが一転、正常位で組み敷かれた。

「足の付け根までぐっしょりだな」

 漏れ伝う粘液を指でなぞり、ラザレスは薄く笑った。自身の発情っぷりを突き付けられた気がして、ブレアは決まり悪く顔を背ける。
 そうしている間も、淫花はαの精を求めてわなないていた。ドレス越しに体をまさぐられた時からずっと、犯される瞬間に焦がれていたのだ。

 触れられたわけでもないのに、ブレアは腰をく、く、く、と小刻みに反らした。
 一刻も早くこの切なさを埋めて欲しくて、視界が煽情的に潤んでしまう。腹の奥に眠る快楽の臓器は収斂しゅうれんを繰り返し、虚構の快楽に溺れている。
 「もう我慢ならない」という言外の意思を汲んでか、ラザレスは粘膜の縁取りに指を突き立てた。

「あうっ!」

 総身を震わせ、ブレアは目を白黒させる。いきなりの侵入に驚き、体が過剰に反応したのだ。しかし、悦びのほうが大きいせいか、次第に表情がゆるんでいく。

「アッ、だめぇっ……!」

 いところを探り当てられ、頭のなかに火花が散った。焦らされたフラストレーションが快感に代わり、理性が多幸感に蹂躙される。

「やっ、やだ……! アアアッ……!」

 指を抜き差しされるたび、色白の痩躯がビクン、ビクン、と跳ねあがる。その都度押し出される嬌声に汚辱感を覚え、声を殺すようにくちびるを食む。先ほどからずっと、浅い絶頂が止まらない。
 その様を見て、ラザレスは青い双眸をギラギラと光らせた。αのさがを彷彿させるような、嗜虐と独占欲にまみれた瞳だ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる
恋愛
 シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。 ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。 そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。 国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。 そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。 彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。 そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。 隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…  この話は全てフィクションです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...