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4-7 憧れだけでよかった*

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 そう言って、彼はべろり、とうなじを舐めあげた。これまでとは性質の異なる刺激を前に、ブレアは「ひいっ」と甲走った声で鳴く。

「やだあ、だめぇ……!」

 牙を剥くラザレスを思い浮かべ、かぶりを振って泣き喚いた。Ωの本能に押し潰されそうになりつつも、なけなしの理性が抵抗を示す。

「なにが『駄目』だ。こんなになっておいて」

 おあずけを喰らった犬のように唾液を滴らせ、ラザレスは目を吊り上げた。一刻も早く噛みたいを言わんばかりに、うなじをじゅくじゅくと舐っている。

「おまえはもう俺のものだ。五年間おあずけを喰らって、やっと手に入れたんだ。絶対に離すものか……!」

 怒りと興奮が入り混じった口ぶりで、ラザレスは吐き捨てるかのように言葉を継いだ。そうしている間も執拗にうなじを責められ、ブレアはひいひいとよがり鳴く。

 一般的に、うなじを噛まれたΩは、パートナーのために非可逆的な体の変化を迎えるという。
 相手の子を宿すため、身体的機能が書き換えられてしまうのだ。すなわち、対象のαの子を産むだけの存在に成り下がる。心のなかで生き延びていた「騎士の精神」までもが、死んでしまうかもしれない。

「いやぁ! ゆるしてください、でんかぁっ!」

 朦朧とする意識のなかで、ブレアは涙交じりにさんざめいた。白んでいく視界のなかに、五年前の情景が広がる。
 赤い夕陽のなか誓った忠誠。たとえΩとして辱められたとしても自分にはまだ、騎士として「守りたいもの」が存在している――。

「やくそくっ、まもれなく、なる……から……!」
「『約束』?」

 ラザレスは怪訝そうに眉をひそめ、腰の抽送を止めた。快楽の余韻に翻弄されつつも、ブレアはポケットからメダルを取り出す。

「『なにがあっても、殿下のために戦う』って……」

 時折声を上擦らせ、ブレアは当時の誓いをそらんじた。五年前にこのメダルを賜った際、ラザレスと共にこの地を守ると決めたのだ。
 そのことを思い出したのか、ラザレスはブレアの背後で息を飲んだ。

「……やっぱり、おまえは真面目だな」

 うなじを舐るのを止め、ラザレスは上体を起こしてつぶやいた。背後位のため表情は伺えないが、五年前の彼を彷彿させる口ぶりだ。
 楽しそうに笑っているようで、少しだけ寂しい。そんな雰囲気を醸し出しつつ、ラザレスはブレアの腰に両腕を回した。

「おまえは強いよ。俺とは大違いだ」

 聞こえるかどうかの声量でつぶやき、挿入した状態でブレアの体を持ち上げる。
 背後位のまま無理やり上体を起こされ、ブレアは「ああっ!」と短く叫んだ。膝立ちの状態で、後ろから羽交い絞めにされる格好だ。自重のせいか、陰茎が最奥に突き刺さる。

「これぇ、ふかい……!」

 ブレアは総身を震わせ、呻吟した。手中のメダルが滑り落ち、白いシーツの上を跳ねる。
 ラザレスは屹立の角度を変え、自身の両膝にブレアを座らせた。背を向けたまま正座する彼の上に腰を下ろす格好だ。バランスが取れず前傾になるブレアの上半身を、彼の腕が支えている。

「軽くイッたろ? ナカ、うねってるぞ?」

 ワンピース状のローブを胸の位置までたくし上げ、ラザレスは嘲笑するかのような口調で言った。
 ブレアはむき出しになった己の痩躯に視線を落とし、羞恥のあまり悲鳴を上げる。まごうことなき女の裸体――眼下に映る自分の体に、汚辱感が掻き立てられる。

「や、やだっ! やめてくださいっ……!」

 ブレアは悲鳴を上げ、わなわなとかぶりを振った。うっすらと上気した白い素肌に、小さな乳房。その頂を彩る二つの突起は、性の悦びに充血している。誇り高き騎士のそれとはほど遠い雌の姿に、総身が粟立った。
 ラザレスはたくし上げた衣服を押さえつつ、充血した胸の突起を指で弾いた。そうやってブレアの反応を見ながら、次第に腰の動きを激しくしていく。

「ああああっ!? おく、だめぇ!」

 上下の抽送に自重も相まって、彼の肉杭が子宮の入り口に突き刺さる。体を串刺しにされるような快感に身悶えするも、上体を羽交い絞めにされているため、気持ちよさを逃がすことすらままならない。
 我も忘れてよがるブレアの背後で、ラザレスはくつくつと喉を鳴らした。強引に腰を打ち付けては、淫花の最果てをなぶり続ける。

「勝手にイクなよ? 俺のために戦うって決めたんだろ?」

 絶頂の予兆に身悶えするブレアに対し、ラザレスは釘を刺した。下卑た笑顔を浮かべているのが、見ずとも伝わってくる。
 ブレアが早々に昇りつめようとしていることを察し、意地の悪いことを言っているのだ。

「やっ、ア、ああっ!」

 彼の言わんとする意味を察し、ブレアは目を白黒させた。
 どう頑張っても不可能だ。甘やかな痙攣を繰り返す下腹を眺め、焦燥感を積もらせる。Ωの本能はおろか、ブレア自身も絶頂の瞬間に焦がれているのだ。

「やだっ、ゆるして! イカせてくだしゃい!」

 ろれつが回らなくなるのも厭わず、ラザレスに許しを乞うた。彼は腰の抽送を一層激しくしながら、嘲笑う。

「そんなんじゃ、騎士の名が泣くぞ?」

 揶揄の声に続き、股間をグチュグチュと掻き回される。ブレアは口惜しげにくちびるを噛みしめるも、湧き上がる快感は止まらない。
 最果てをひたすら小突かれるたび、背筋がく、く、く、と海老反りになった。その姿を、シーツの上に投げ出されたメダルが冷ややかに見つめる。

「も、だめぇ! ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

 迫りくる絶頂に抗いきれず、ブレアは髪を振り乱して懺悔した。当時の忠誠も約束も、なにひとつ守れないことを突き付けられる。どれだけ己を律しようと、しょせんはΩで雌なのだ。

「イクっ、イクぅ……! ああッ、アアアア――っ!」

 途方もない悦楽が押し寄せ、断末魔を上げてまなじりを決した。
 次いで、ラザレスの呻きが耳朶を掠める。彼は喉を絞るように「射精る……!」とつぶやくと、そのままブレアのなかで果てた。

「あぐ、う……! ン、ひ……!」

 内側にじんわり広がる白濁液の感触に身悶えしながら、ブレアは息も絶え絶えに背筋をわななかせた。
 腰が砕けて倒れ込むも、ラザレスが後ろから抱きかかえる。

「……ごめん、なさい。ごめ、なさ…………」

 実際声に出したかどうかも区別がつかないまま、ブレアは虚に向かってつぶやいた。ラザレスと過ごした記憶の数々が、走馬灯のように明滅している。
 性別を偽ったこと、約束を守れなかったこと、無様な醜態を晒してしまったこと、もう騎士を続けられないこと――。

 朦朧とする意識のなか、悔恨が込み上げる。
 うわ言のように謝罪を繰り返した後、ブレアはゆっくりとまぶたを閉ざした。最後に目にしたのは、シーツの上に転がるちっぽけなメダル。

 なにに対して謝っているのだろう――どこからともなく声が聞こえるも、答えは見つかりそうにない。

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