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4-5 憧れだけでよかった*

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「殿下……?」

 言葉の意図が汲み取れず、ブレアは困惑の表情を浮かべた。呼応するように、金髪の前髪から汗がしたたり落ちる。

「いいのか? 焦らなくて」

 ラザレスは嗜虐的に口角を上げ、ブレアの股ぐらに自身の大腿を割り込ませた。服越しに股間をこすられ、ブレアは短い悲鳴を上げる。

「待っ……! なに、考えて……!」

 まなじりを決し、ブレアは彼の腕を振り払おうと力を込めた。しかし、抵抗も空しく、より強い力で抑え込まれる。

「ううっ……!」

 白い細腕がみしみしと鳴り、ブレアは苦痛に顔を歪めた。その姿を見て、ラザレスは嘲笑う。

「強いのは剣だけのようだな」

 小馬鹿にするような口ぶりで、彼はブレアの腕を押さえつけた。先ほどよりも体重を乗せているのか、ピクリとも動かせない。

「おやめください、殿下……!」

 ブレアは眉間にしわを寄せ、険のある口調で言い返した。
 女であり、Ωもあることを逆手に取られ、口惜しさが込み上げる。既に勝敗がついているにもかかわらず、不意を突くやり方も癪に障った。

「睨んでいるつもりか? 怖くないぞ?」

 ラザレスは下卑た笑みを浮かべ、割り込ませた脚を上下させた。鼠径部そけいぶをしつこく刺激され、ブレアは顔を赤らめる。
 衣服越しにもかかわらず、ショーツの向こうが甘く疼いてしまうのだ。火照りを伴ったある種の疼きが、じりじりと体中を駆け巡る。

「この程度でさかるんだから、Ωも憐れな生き物だよな」

 潤んだ碧眼をうっとりと細め、ラザレスはブレアに投げかけた。はじめは押し殺していた嬌声も、気付けばかすかに漏れている。

「……んっ、あ。ふ……!」

 まぶたを固く閉じて顔を背け、ブレアは体の表面を小刻みに震わせた。微弱な刺激がもどかしくて、自ずと腰が揺れてしまう。

「誤解です、殿下……。話を……」

 声がひっくり返らないよう腹に力を込め、ブレアはラザレスに向き直った。悪気があってのことではない――そのことだけでも伝えようと腐心するも、込み上がる快感が邪魔をする。
 ラザレスは薄ら笑いを浮かべたまま、膝頭をブレアの股間に当てがった。服越しでも弱いところを把握したのか、先ほどよりも強い圧を掛ける。

「あ、あああッ!」

 雷に打たれたかのように飛び上がり、ブレアはまなじりを決して叫んだ。Ωのさがに翻弄され、もはやラザレスを説得するどころではない。
 彼は愉悦の表情で身を屈め、「軽くイッたろ?」と耳元でささやいた。

「ちが、ちがう……」

 ブレアは甲走った声で首を振り、わなわなと口を震わせる。
 悔しいやら情けないやらで気持ちがぐちゃぐちゃになり、言葉を継ぐことすらままならない。一方、浅い絶頂では満たされなかった劣情が、下腹の辺りで膨らんでいく。

 どうしてこんな目に遭っているのだろう――それすら理解できず、ブレアはべそべそと鼻を鳴らした。
 素性を偽った報いだろうか。どこからともなく聞こえる声に、ふと涙がこぼれ落ちる。

「そんなに嫌なら逃げてみろ」

 押さえつけた腕をほどき、ラザレスはにやりと口角を上げた。濡れた目元を拭う指先を一瞥し、ブレアは「え?」と眉間にしわを寄せる。

後宮ここの場所を知る者は皆無に等しい。その剣で俺を刺して逃亡したところで、気付くのはおまえの従者くらいだ」

 そう言って、ラザレスは地面に刺さった剣をブレアのもとに置いた。αの象徴である青い瞳は、挑発の光を孕んでいる。

「なに、言って……」

 ぎらぎらと輝く銀色の刃に、ブレアは声を震わせた。ラザレスは嗜虐的なまなざしを向け、畳みかける。

「ほら、斬れよ。ぐずぐずしてると犯すぞ?」

 にこやかに口角を上げるも、目は笑っていなかった。
 ブレアはオリーブ色の瞳を揺らし、浅い呼吸を繰り返した。彼の意図が理解できず、本能的な恐怖が膨らんでいく。命を危険に晒してまで、Ωである自分を辱めたいのだろうか。

「でき、ません……」

 やっとの思いで、ブレアは言葉を発した。五年前にもらった金のメダルが、ポケットのなかでころん、と転がる。
 この地を守り抜こうと邁進する彼の決意に惹かれ、忠誠を誓ったのだ。
 Ωが発覚し、騎士の道を断たれようと、そうした想いは捨てられない。己の誇りを踏みにじられたとしても、主君に刃を向けるなんてあり得ない。

「……おまえなら、そう言うと思ったよ」

 はじめからそうなることを予想していたかのような口ぶりで、ラザレスは小さく鼻を鳴らした。ブレアのそばに置いた剣をつかみ、林のほうへ放り投げる。金色の短髪に彩られた相貌は、劣情のためかうっすらと紅潮していた。

「……女だなんて、考えたこともなかった。ましてや、番として再会するなんて」

 荒々しい呼吸と共にささやきながら、ラザレスは服越しにブレアの輪郭をなぞった。男らしいごつごつとした指先が下がっていくにつれ、ブレアは体の表面を波立たせる。

「出会った日からずっと、『友達になれたら』と思っていたんだ。おまえがどこまで剣を振るう姿をよすがに、日々の重圧をやり過ごしてきた」

 ラザレスは苦々しく顔を歪め、声帯を絞った。その表情が五年前のそれと重なり、ブレアは目を丸くする。
 夕日が差し込む部屋のなか、彼は「自分に祖父の代わりが務まるだろうか」と案じていた。先代国王であるアントルに「おまえは強い」と励まされるも、その真意が分からず途方に暮れていたのだ。

 ――この人はきっと、私と似たような煩悶を抱えているのかもしれない。

 互いに吐息が混じり合うのを感じながら、ブレアは口に出さずにつぶやいた。
 理想とはかけ離れた自身の『劣等感』に苛まれながらも、相手の存在にすがっていたのだ。ブレアが己の性別に翻弄されるように、ラザレスは「自分の『強さ』」が分からず懊悩していた。

「ああっ!」

 そうこうしているうちにショーツを剥ぎ取られ、ブレアは驚嘆の声を上げた。
 ラザレスは自嘲気味に口角を持ち上げ、スカートをたくし上げる。露わになった自身の両脚に、ブレアは頬を赤らめた。

「おまえのようになりたかった……。小さな体でも桁外れに強いおまえに、祖父上が言う『強さ』を重ねていた……」

 うるんだ割れ目に指を這わせ、ラザレスは乾いた声で小さく笑った。表情は嗜虐的にもかかわらず、今にも泣いてしまいそうな目をしている。

「その憧れの存在を、俺はこの手で穢すんだな」

 ラザレスは熱い息を吐き、左右にぷっくり膨らんだ柔肉を割り開いた。現れた淫花は粘液にまみれ、蒸れた蜜の匂いを発している。
 赤く充血した入り口に指をあてがわれ、ブレアは甲走った声で「まって」と鳴いた。少しずつ飲み込まれていく異物の感触に、吐息をわなわな震わせる。

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