【完結】正体を偽って皇太子の番になったら、クソデカ感情を向けられました~男として育てられた剛腕の女騎士は、身バレした挙句に溺愛される~

鐘尾旭

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3-5 再会と邂逅*

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「参ったな。これじゃ獣だ」

 ベッドの上でブレアを組み敷き、ラザレスは乾いた声で笑った。今すぐにでも襲い掛かりたい衝動を堪えているのか、額には細かな汗がにじんでいる。

 Ωはひとたびヒートを発症すると、周囲の異性を焚きつけてしまう。特に相手がαの場合は顕著で、互いに性的衝動を抑えられなくなると言われている。

「で、殿下……お待ちくだ、さ……」

 ブレアは潤んだ瞳でラザレスを見上げ、声を震わせた。うだるような火照りが治まらず、今にも気が触れそうだ。
 長年騎士をしてきたこともあり、我慢強い性格だと自負していた。しかし、本能の前では無力なのだと思い知らされる。

「そういう煮え切らない態度が一番、男を付け上がらせるぞ?」

 ラザレスは首元のクラヴァットを外し、襟元をゆるめた。質素な板張りの上には、既に脱ぎ捨てられた上着や二人分の靴が転がっている。彼はブレアのローブに手を掛けると、意地の悪い顔で言葉を継いだ。

「駄目ならはっきり言ってくれ」

 シュミーズのなかに手指を忍ばせ、耳元でささやく。その声の低さと指の感触に、ブレアは声にならない叫びをあげた。ゆったりとした衣服のなかをまさぐられ、こそばゆさのあまり体が揺れる。

「……ッ! うっ、ンン……!」

 じりじりと裾をたくし上げられ、ブレアは口惜しそうにくちびるを食んだ。上下がつながったシュミーズにローブを羽織っただけの格好のため、脱がせるのは容易だろう。

 あっという間に衣服を剥ぎ取られ、下着だけの姿となった。乳房が発達していないこともあり、ブラジャーの類は身につけていない。
 露わになった自身の裸体に、ブレアはこれ以上ないほど顔を赤らめた。平べったい素肌に浮かぶ胸の頂が、逢魔が時の陽光に照らされている。

「まんざらでもない顔だな」

 嘲笑交じりに鼻を鳴らし、ラザレスはブレアの衣服をベッドの端に追いやった。その拍子に、額の汗がぽたり、と落ちる。むき出しの胸元にしずくを受け、ブレアは呼応するように体をよじった。
 向こうはまだシャツとスラックスを身につけているにもかかわらず、こちらはショーツ一枚。その明確な差に、羞恥心が煽られる。

 自身の情けない姿に汚辱感を覚え、ブレアは自身の裸体を両手で体を隠した。それを阻むべく、ラザレスは彼女の腕をつかんでは、頭上で押さえつける。そして、シーツの上で丸まったローブに手を伸ばすと、縄で縛る要領で彼女の両手首を固定した。
 ブレアは必死に抵抗するも、力の差がありすぎて歯が立たない。いくら剣の名手とはいえ、上背のある異性が相手では力負けしてしまう。ましてや今はΩとして発情しているのだから、なおさらだ。

「待って、ください……! まだ、心の準備が……!」

 あれよあれよと体の自由を奪われ、ブレアは甲走った声でラザレスに訴えかけた。
 後宮に足を踏み入れた以上、ゆくゆくはこうした関係になるだろうと予想はしていたものの、いくらなんでも性急すぎる。

 そうこうしている間にも下腹の疼きは強くなる一方で、いよいよ期待と興奮が抑えきれなくなってきた。
 ヒクン、ヒクンと体を小刻みに揺らしつつ、ブレアは腕に巻きつけられた衣服を握りしめた。瞬間、ポケットに入れたままのメダルが指先に当たり、人知れず息を飲む。

 まぶたの裏によぎる、五年前の記憶――思い起こせばあの時も、部屋は夕日の赤色で染まっていた。
 番のΩである『ブレンダ』があの時のメダルを持っているなんて、彼は想像もしていないだろう。
 こんなに近くにいるのに、今から体を重ねようとしているというのに、正体を明かすことは許されない。

 身を切られるような痛みを前に、目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
 『ブレンダ』として彼と体を重ねるには、部屋はあまりにもあかかった。当時の忠誠心を思い出しては、醜いΩのさがを突き付けられる。これまで積み上げてきた騎士としての誇りが、自らの欲によって穢されていく。その事実が、堪らなく苦しくて。

「『心の準備』なんて、俺もできてない」

 ブレアの痩躯を掻き抱き、ラザレスがささやいた。薄手のシャツ越しに、自分のものとは異なる鼓動を感じ取る。

「辛いんだろ? Ωの発情ヒートは知識として知っている」

 ラザレスはブレアの額に浮いた汗を拭い、吐息だけで小さく笑んだ。彼はいたずらっぽく目を細め、膝頭をこちらの股ぐらに割り込ませる。

「ひっ」

 湿ったショーツをぐりぐりと押し上げられ、ブレアは弓なりに背筋を反らせた。乱暴とも優しいともつかない絶妙な刺激に、甘い痺れが治まらない。

「ア、だめっ……だめぇ……!」

 鼻にかかった声で懇願するも、膝の押し込みは一層激しさを増していく。ブレアは快楽の濁流に飲み込まれないよう、自由の利かない体でのたうち回る。その様を見つめ、ラザレスは愉悦の表情で胸の尖りを優しくつねる。

「嬉しそうな顔」

 ブレアの外耳を食み、ラザレスは青い瞳をゆったりと細めた。
 口では嫌だと言いつつも、ブレアはもっといじって欲しいとばかりに胸を突き出す。刻々と近付いていく日没に、部屋は一層の赤みを増す。

 布越しにちっぽけなメダルを握りしめ、ブレアは無意識に腰を揺らした。迎合してはいけないと理性が警鐘を鳴らしているにもかかわらず、Ωの本能は聞く耳を持たない。
 騎士として、彼と共にこの地を守る。叙任する前から胸に秘めてきた忠誠心が、卑しい快楽に翻弄されていく。

「ア、やあ……! んう、ああッ……!」

 涙で濡れた視界の向こうに、快感の頂がかすかに見えた。ラザレスはブレアの頬にくちびるを落とし、変わらず膝頭で彼女の股間を押し上げている。
 蹴り上げるのではなく、むしろ優しく焦らすような動かし方だ。包み込むような微弱な刺激に、気高かったはずの精神が昇りつめていく。

「かわいいよ、ブレンダ・・・・

 ラザレスはわずかな胸のふくらみを揉みしだき、耳元でささやいた。窓から差し込む夕日が、凹凸の少ない白い裸体を赤色に染める。
 絶頂を間近に体が火照る一方、胸の奥は冷え切っていた。
 騎士としての『ブレア』はもう死んだのだと、改めて突き付けられた気分だ。これからはΩとして、命尽きるまで慰み者として扱われねばならない。

「ンンっ……! あ、アアアアっ!」

 さめざめとした気分すらも絶頂の糧となり、ブレアは総身を震わせた。ショーツがじんわりと濡れていく生温かい感触に、恍惚と気持ち悪さが入り混じる。
 焦点の合わない目でぼんやりと天井を眺め、ブレアは荒い息を繰り返した。
 下着越しに軽くいじられた程度でこの乱れっぷり。そう考えると、自分に割り当てられた二つの性別が汚らわしく思える。

 軽く絶望する姿を絶頂の余韻と解釈したのか、ラザレスは薄ら笑いを浮かべ、ブレアのショーツに手を掛けた。

「ヒクヒクしてる……」

 熱く滾った粘膜の縁取りをなぞり、耳元にくちびるを落とす。真っ赤に充血した淫花のフリルは、穿たれる瞬間を今か今かと待ち望んでいる。
 そうした現実から目を逸らさんと、ブレアは目いっぱいに顔を背けた。ラザレスは咎めるように、なかば強引にくちびるを重ねる。

「んっ、んう……!」

 無理やり口をこじ開けられ、彼の舌先が入ってきた。ある種のこそばゆさに耐え切れず、ブレアは身体を震わせる。
 絡まっては離れ、角度を変えて先ほどよりも深く触れ合う。
 くすぐったくて仕方ないのに、互いの舌がこすれるたび、もっともっと欲しくなる。頭では否定しているにもかかわらず、切なさが込み上がる。そのどうしようもない狂おしさに、一瞬気が触れかける。

「はっ、あ……! ん、あ……」

 息継ぎをしては、角度を変えて再度絡める。
 はじめは抵抗の意思を見せていたものの、いつしか彼の舌を追いかけている自分に気付く。ブレアは夢中でラザレスにしがみつき、その輪郭を味わうように舌を這わせた。

 騎士のプライドは忘却の彼方へ追いやられ、理性は完全にとろけている。ブレアは恍惚の表情で目を細め、自分の体を彼に押し付ける。
 生殖を司る臓器のすべてが、その先の行為を急いでいるのだ。止めどなく溢れる焦燥感が、甘い痺れとなって体の隅々まで伝搬していく。

「かわいい」

 迎合の意を示すブレアを眺め、ラザレスは脂下がった。赤く膨らんだ胸の頂を指で弾いては、包み込むように押しつぶす。

「つねられるの、好きなんだ?」
「やっ、ア……んッ、ああ……!」

 そう言って、彼は濡れそぼるほと・・に指を入れた。胸の愛撫も相まって、ブレアは情けない声で鳴く。
 自分でも触ったことのない場所を暴かれているのだと思うと、被虐と歓喜で心が震えた。侵入してくる指の感触に、自ずと腰が揺れてくる。むき出しの白い足は雄を求め、じれったそうにシーツを掻きむしっている。その姿に、ラザレスはくつくつと喉を鳴らした。

「欲しがり」
「――っ!? ち、ちが……!」

 薄く笑うラザレスの姿に羞恥がよみがえり、ブレアは驚嘆の声を発した。快楽に身悶えするばかりかその先をねだるなど、淫乱としか言いようがない。
 人知れず汚辱感に打ち震えていると、すぐそばで微笑が聞こえた。ラザレスは頬をねっとり上気させ、ぎこちなく口の端を持ち上げている。

「……俺も余裕がなくなってきた」

 そう言って、彼は衣服越しに自身の股間を押し当てた。太ももに触れる熱くて硬い感触に、ブレアは生唾を飲み下す。

「お、お心のままに、殿下……」

 窓から差し込む陽光は、五年前の夕暮れのように赤かった。それに染まる金髪も、あの頃と同じ色合いをしている気がして。
 ブレアは口の端を引き結び、ラザレスの碧眼を見つめた。

 ――上手く笑えているだろうか。私は『ブレンダ』として、振る舞えているだろうか。

 自問自答を繰り返すも、答えが見つかる気配はない。ブレアはローブのポケットのちっぽけなメダルを握りしめ、涙が出そうになるのを必死で堪える。

「真面目だな」

 ラザレスは上体を起こし、小さく笑った。邪魔な衣服を床の上に放り投げ、鍛え抜かれた肉体を晒す。
 真面目――そう言って吹き出す表情が、五年前と同じに見えるのは、自身の願望によるものか、それとも。

 考えあぐねていると、かちゃかちゃとベルトを外す音が耳朶を打った。忙しない衣擦れの音に続き、熱い塊が内ももに触れる。

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