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第3章 スター
3 君はスターになる
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「そしたら僕はこう言ったんだ。それじゃあ君の方じゃないかってね!」
「フフフ。」
ルルは笑いを堪えるのに必死だ。
「でもね、その後僕も・・・」
「ハハハ!やめてロロ!予想がついちゃうわよ!」
ついにルルは声を出して笑った。最初の緊張なんてどこに行ったのやら。ロロとルルはすぐに打ち解けた。もともと年齢も近そうだったし、お互い親近感があったのかもしれないけれどね。それにしても、いざ店奥の暖炉の部屋で昨日と同じミネストローネを飲みながら、話し始めてものの20分もしない間に、2人はもう昔っからの友達みたいに仲良くなってたみたいだよ。
「ちゃんと最初にお金を返したよ。」
あの日帰ってきたロロは、きちんと僕にそう説明していたっけ。お金を返しにきたっていう理由なんて、ロロはもうとっくに忘れていた。
「ところで、ルル。」
30分ほど話をした後に、ロロはふと気付いた。
「うん?どうしたの?」
笑い涙を目に浮かべながら首を傾げるルルは、それはそれは愛らしかった。暖炉のあったかい光が、より一層ルルの和やかな雰囲気を湧きたてているようにも思えた。ロロははっと目を奪われたけど、話しを切り出した。
「さっきから僕の話ばっかりしちゃったな。ルル、君の事を教えてくれないかな。」
思い返すと、ずっとルルを楽しませようと必死で自分の話しをしてきたって思った。ルルが笑ってくれたのはとっても嬉しい事なんだけど、だからこそ一層ルルの事が知りたくなったんだって。ルルは黄色い膝掛けを掛け直してにこってした。
「いいわ。じゃあ、質問して。」
よしきたと言わんばかりにロロは質問を投げかけたんだ。どんな質問もルルは笑顔で答えてくれた。
「じゃあ、名前は?」
ルルはクスって笑った。
「もう、ルルよ。」
ロロも笑顔で続けた。
「このお店の名前は?」
「薬屋 ハイドランジアよ。」
「だからこのお店の中にハイドランジア花を?」
「ええ、とっても良い香りがするでしょ?」
「ルルの好きな花?」
「ええ、とっても。」
「どうして?」
「それは秘密。」
「どうしてさ?」
「少しぐらい秘密にしないと次に話す事がなくなっちゃうでしょ。」
ロロは胸が破裂してしまうぐらい嬉しかったって。
「このお店は1人で?」
「ええ、週に一度だけ仕入れの人が来る時に少し棚に直すのを手伝ってもらうだけね。」
「ルルが始めたの?店は古そうだけど。」
「古いのは余計よ。これはお父さんが始めたの。私がそれを2年前に継いだの。」
「今お父さんは?」
「去年亡くなったわ。」
「ご、ごめんね。」
「いいのよ、もう吹っ切れたわ。」
「お母さんは?」
「私が小さい頃に死んだって。病気よ。」
「そうなんだ・・・ごめんね。」
「ロロが謝ることじゃないわ、いいのよ。」
「兄弟は?」
「私1人よ。」
「大変じゃないの?」
「それはもう大変!フフ。」
「寂しくないの?」
「街の1人は皆んな優しいから。」
「何だ暗くなっちゃったね、ごめん。」
ロロは目線を下げた。考えていたよりも不遇なロロの境遇に、どういう顔をしていいか分からなかった。さっきまでの楽しい雰囲気がどこか遠くへ行ってしまったように思ったんだって。でもね、それはロロだけだった。
「もう、ロロ。そんな顔しないでよ。私は今とっても毎日が充実しているし、元気なんだから。こうしてロロとも知り合えたじゃない。」
ルルはロロの心配をすべて包み込むように言ったんだ。ロロの顔に笑顔が戻った。
「そうだね、ごめんよ。」
「すぐに謝るの禁止ね。」
「分かった、ごめんよ。」
「もう!また!」
2人の笑い声がまた部屋に戻ってきたんだ。
「じゃあ、次は未来の話をしよう。」
ロロは少しでもまたルルを楽しませようと話を始めた。
「未来?」
「そう、未来だよルル。将来の夢。」
ルルは考え込んだんだって。多分、ここ長い間そんな事考えた事もなかったんだろうね。
「今は薬屋をやってるけど、昔はね・・・」
「何だい?」
ロロは身を乗り出して聞いた。
「劇場に出たかったの。」
「へえ!それはいいね!」
ロロは心底そう思った。非の打ち所がない容姿に、澄み切った声。誰でもメロメロさって思った。
「劇場の歌姫、スターよ。綺麗な服を着て、美しい恋の唄なんか歌って。ダンスを踊るのよ、こんな風にね。」
ルルはその場で立ち上がって、少し踊ってみせた。なんて美しいんだ、ロロは眩しすぎて目をつむりそうになったって。
「でも、今は薬屋で十分よ。皆んなの役に立てるこの薬屋が、私の大事な場所。」
ルルはそう言ってまた座った。
「劇場の歌姫、皆んなのスターか・・・」
ロロは目を閉じた。
ー大きな舞台、3階席まで満員だ。開演前からコールが鳴り響く。
『ルル!ルル!』
皆が劇場の歌姫、大スタールルの登場を待ちわびているんだ。時間になるとぱっと照明が消えて、ステージに7色のライ
トが差す。一気に観客は大盛り上がり。より一層ルルのコールと拍手が飛び交い、その歓声の中、美しい緑色のドレスを
着たルルが颯爽と可憐に、そして優雅に登場する。劇場はまるで夢の世界かのように光に包まれる・・・
ロロははっと我に帰った。記憶の遠くに掛け時計の鐘の音が聞こえる。いったい時計の鐘は何回鳴った?あれ、今のは自分の想像なのか。慌ててルルに聞いたんだ。
「ルル!今何時!」
さっきまで気持ちよさそうに目を閉じていたロロが急に大声をあげたので、ルルはびっくりして慌てて時計を見た。
「えっ、どうしたの?6時過ぎだけど。」
ロロは驚きで椅子から転げ落ちそうになった。
「・・・驚いたな。」
ロロは勢いよく立ち上がった。そして部屋をウロウロし始めた。ロロはまた、本当かどうか思い出した。今見た光景は自分の想像なのか、それともかって。
「何が?どうしたの?」
ルルは一体全体何の事か分からず、さっきから小刻みに動き回るロロをただ見ていた。ロロはそうだと言わんばかりに立ち止まり、ルルを一目見た後そっと目を閉じた。今度はしっかりと意識してね。
ー明日の夕方だ。
店の看板の前に、黒いスーツ姿の男が2人。窓越しにルルの姿を確認する。
そしてお互い相槌を打って納得した様子で店の中に入る。
『ルルさんですか?』
紳士のような立ち振る舞いで清潔感のある2人がルルに名刺を渡す。名刺を一見して客じゃないと分かったルルは、ゆっく
りと頷く。
『このような方が、私に何の用でしょうか。』
2人の男は笑顔で手を伸ばす。
『ルルさん。あなたはスターになる。』
ロロは今度は慌てずに目を開いた。落ち着こうとしながらも、胸は躍動している。嬉しさと驚きのあまり、ロロは大きくルルに向かって手を広げた。そして言ったんだ。
「ルル、君はスターになるよ!」
「フフフ。」
ルルは笑いを堪えるのに必死だ。
「でもね、その後僕も・・・」
「ハハハ!やめてロロ!予想がついちゃうわよ!」
ついにルルは声を出して笑った。最初の緊張なんてどこに行ったのやら。ロロとルルはすぐに打ち解けた。もともと年齢も近そうだったし、お互い親近感があったのかもしれないけれどね。それにしても、いざ店奥の暖炉の部屋で昨日と同じミネストローネを飲みながら、話し始めてものの20分もしない間に、2人はもう昔っからの友達みたいに仲良くなってたみたいだよ。
「ちゃんと最初にお金を返したよ。」
あの日帰ってきたロロは、きちんと僕にそう説明していたっけ。お金を返しにきたっていう理由なんて、ロロはもうとっくに忘れていた。
「ところで、ルル。」
30分ほど話をした後に、ロロはふと気付いた。
「うん?どうしたの?」
笑い涙を目に浮かべながら首を傾げるルルは、それはそれは愛らしかった。暖炉のあったかい光が、より一層ルルの和やかな雰囲気を湧きたてているようにも思えた。ロロははっと目を奪われたけど、話しを切り出した。
「さっきから僕の話ばっかりしちゃったな。ルル、君の事を教えてくれないかな。」
思い返すと、ずっとルルを楽しませようと必死で自分の話しをしてきたって思った。ルルが笑ってくれたのはとっても嬉しい事なんだけど、だからこそ一層ルルの事が知りたくなったんだって。ルルは黄色い膝掛けを掛け直してにこってした。
「いいわ。じゃあ、質問して。」
よしきたと言わんばかりにロロは質問を投げかけたんだ。どんな質問もルルは笑顔で答えてくれた。
「じゃあ、名前は?」
ルルはクスって笑った。
「もう、ルルよ。」
ロロも笑顔で続けた。
「このお店の名前は?」
「薬屋 ハイドランジアよ。」
「だからこのお店の中にハイドランジア花を?」
「ええ、とっても良い香りがするでしょ?」
「ルルの好きな花?」
「ええ、とっても。」
「どうして?」
「それは秘密。」
「どうしてさ?」
「少しぐらい秘密にしないと次に話す事がなくなっちゃうでしょ。」
ロロは胸が破裂してしまうぐらい嬉しかったって。
「このお店は1人で?」
「ええ、週に一度だけ仕入れの人が来る時に少し棚に直すのを手伝ってもらうだけね。」
「ルルが始めたの?店は古そうだけど。」
「古いのは余計よ。これはお父さんが始めたの。私がそれを2年前に継いだの。」
「今お父さんは?」
「去年亡くなったわ。」
「ご、ごめんね。」
「いいのよ、もう吹っ切れたわ。」
「お母さんは?」
「私が小さい頃に死んだって。病気よ。」
「そうなんだ・・・ごめんね。」
「ロロが謝ることじゃないわ、いいのよ。」
「兄弟は?」
「私1人よ。」
「大変じゃないの?」
「それはもう大変!フフ。」
「寂しくないの?」
「街の1人は皆んな優しいから。」
「何だ暗くなっちゃったね、ごめん。」
ロロは目線を下げた。考えていたよりも不遇なロロの境遇に、どういう顔をしていいか分からなかった。さっきまでの楽しい雰囲気がどこか遠くへ行ってしまったように思ったんだって。でもね、それはロロだけだった。
「もう、ロロ。そんな顔しないでよ。私は今とっても毎日が充実しているし、元気なんだから。こうしてロロとも知り合えたじゃない。」
ルルはロロの心配をすべて包み込むように言ったんだ。ロロの顔に笑顔が戻った。
「そうだね、ごめんよ。」
「すぐに謝るの禁止ね。」
「分かった、ごめんよ。」
「もう!また!」
2人の笑い声がまた部屋に戻ってきたんだ。
「じゃあ、次は未来の話をしよう。」
ロロは少しでもまたルルを楽しませようと話を始めた。
「未来?」
「そう、未来だよルル。将来の夢。」
ルルは考え込んだんだって。多分、ここ長い間そんな事考えた事もなかったんだろうね。
「今は薬屋をやってるけど、昔はね・・・」
「何だい?」
ロロは身を乗り出して聞いた。
「劇場に出たかったの。」
「へえ!それはいいね!」
ロロは心底そう思った。非の打ち所がない容姿に、澄み切った声。誰でもメロメロさって思った。
「劇場の歌姫、スターよ。綺麗な服を着て、美しい恋の唄なんか歌って。ダンスを踊るのよ、こんな風にね。」
ルルはその場で立ち上がって、少し踊ってみせた。なんて美しいんだ、ロロは眩しすぎて目をつむりそうになったって。
「でも、今は薬屋で十分よ。皆んなの役に立てるこの薬屋が、私の大事な場所。」
ルルはそう言ってまた座った。
「劇場の歌姫、皆んなのスターか・・・」
ロロは目を閉じた。
ー大きな舞台、3階席まで満員だ。開演前からコールが鳴り響く。
『ルル!ルル!』
皆が劇場の歌姫、大スタールルの登場を待ちわびているんだ。時間になるとぱっと照明が消えて、ステージに7色のライ
トが差す。一気に観客は大盛り上がり。より一層ルルのコールと拍手が飛び交い、その歓声の中、美しい緑色のドレスを
着たルルが颯爽と可憐に、そして優雅に登場する。劇場はまるで夢の世界かのように光に包まれる・・・
ロロははっと我に帰った。記憶の遠くに掛け時計の鐘の音が聞こえる。いったい時計の鐘は何回鳴った?あれ、今のは自分の想像なのか。慌ててルルに聞いたんだ。
「ルル!今何時!」
さっきまで気持ちよさそうに目を閉じていたロロが急に大声をあげたので、ルルはびっくりして慌てて時計を見た。
「えっ、どうしたの?6時過ぎだけど。」
ロロは驚きで椅子から転げ落ちそうになった。
「・・・驚いたな。」
ロロは勢いよく立ち上がった。そして部屋をウロウロし始めた。ロロはまた、本当かどうか思い出した。今見た光景は自分の想像なのか、それともかって。
「何が?どうしたの?」
ルルは一体全体何の事か分からず、さっきから小刻みに動き回るロロをただ見ていた。ロロはそうだと言わんばかりに立ち止まり、ルルを一目見た後そっと目を閉じた。今度はしっかりと意識してね。
ー明日の夕方だ。
店の看板の前に、黒いスーツ姿の男が2人。窓越しにルルの姿を確認する。
そしてお互い相槌を打って納得した様子で店の中に入る。
『ルルさんですか?』
紳士のような立ち振る舞いで清潔感のある2人がルルに名刺を渡す。名刺を一見して客じゃないと分かったルルは、ゆっく
りと頷く。
『このような方が、私に何の用でしょうか。』
2人の男は笑顔で手を伸ばす。
『ルルさん。あなたはスターになる。』
ロロは今度は慌てずに目を開いた。落ち着こうとしながらも、胸は躍動している。嬉しさと驚きのあまり、ロロは大きくルルに向かって手を広げた。そして言ったんだ。
「ルル、君はスターになるよ!」
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