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第3章 スター
1 惚れたね
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「ルルか・・・」
びしょ濡れでボロボロのロロが家に戻ってきたのは、11時を過ぎたあたりだったかな。雨と汗で冷えた体は、ぶるぶる震えていた。勢いよく入ってきたロロの姿を見て、ロロのお母さんは顔が真っ青になっていたね。でもロロはそんな事は余所目に、すぐさまソフィアに薬を飲ませたんだ。すると効果は絶大だった。1時間もしない間に、ソフィアの呼吸は落ち着いて熱も下がり始めた。今日はもう遅いからと、ソフィアとソフィアのお母さんはロロの家のソファで寝ることになった。それを全て見届けた後、夜中の1時過ぎにロロは自分の部屋に戻ってきたのさ。疲れを全部振り払うようにうつ伏せにベッドに倒れこむロロ。しばらくそのままゆっくりと深呼吸をして、仰向けになって天井を見た。そして第一声がそれさ。
「ルル・・・」
もちろんソフィアの事は心配だよ。でも、もう大丈夫って気持ちがあったからなんだろうね。ロロはその後に5回は彼女の名前を空で呼んだね。そして僕にいつものように話してくれた。
「店は・・・部屋は良い香りだった。」
ロロは目を閉じて思い出す。
「ハイドランジアの良い香り。」
そして少し間を開けて、
「後、多分彼女の香り。」
そうだ、と何かを思い出したようにロロはカバンの中に財布を入れた。
「明日返しにいかないとね。」
わざとだろうねえ、返しにいかないと、なんて自分に言い聞かせたのさ。本当は、返しに行ける、なのにさ。少し冷静になって思うと、ルルに対して色々と気になると事があったようだね。
「1人でやってるのかな。」
「年齢は同じくらいだろうか。」
「このあたりの生まれだろうか。」
「結婚はしてるんだろうか。」
「恋人は・・・」
誰も答えられないよ、もちろん。ロロにしても僕に聞いているわけでもないし、天井に尋ねているわけでもない。そんなロロを見てると、そりゃあ誰でも分かるよ。
ー惚れたね。
ってね。あの髪の色、瑠璃色の瞳、声、彼女の全て何もかもに魅せられたんだろうね。そしてロロは幸せそうに眠りについた。その寝顔には、何の曇りもなかったよ。久しぶりだった。本当に久しぶりに見たよ、ロロのああいう顔。
「おはよう、母さん。」
次の日のロロの朝は早かったね。いつもより1時間も前に起きておめかしさ。タンスの奥から滅多に着ない空色のセーターなんて引っ張り出しちゃって。滅多にしない髪型のセットなんてしちゃって。昨日の嵐の夜、夜道を走ってぐちゃぐちゃに汚れた靴も、朝からせっせと磨いてた。後は入念に財布の中身をチェックさ。
「よし、ちゃんと薬代は入ってるな。」
そう自分に言って財布を閉めて、また少し不安になって財布を開ける。その繰り返し。朝から元気なロロの姿を見ても、ロロのお母さんは特段何も不思議に思わなかったね。だって今日は、
「誕生日だからはしゃいでいるのかしら。」
ロロの誕生日だ。お母さんは、ふふふって笑ってロロを見てた。でもさ、間違いなくロロは今日が自分の誕生日だって事を忘れてるよね。
「靴よし。」
「服よし。」
部屋の姿見で何度も自分を確認する。
「髪型よし。」
そしてやっぱり財布を開けて、
「・・・お金よし。」
結局朝食を食べにキッチンへ来たのはいつもと同じ時間だった。キッチンの横のソファには、昨日より随分と血色が良くなったソフィアが座ってた。ちょこんとね。
「あ、ロロせんせい。」
ソフィアは2階から降りてきたロロを見て、ぱっと立ち上がった。でもまだ本調子じゃないせいか、またぱたんってソファに倒れこんだ。
「もう、ソフィア!まだ無理しちゃだめ。」
ソフィアのお母さんが駆け寄ってソフィアをソファに寝かせる。
「昨日よりはましかい?ソフィア。」
ロロはソフィアに駆け寄って頭を3回撫でた。
「うん!」
にっこりとソフィアは笑った。
「ああロロ、ロロ先生、本当にありがとう。本当にありがとう!ロロはソフィアの命の恩人よ!」
ソフィアのお母さんは、何度もロロにお礼を言った。
「ソフィア、昨日先生がね隣町まで薬を買ってきてくれたの。ちゃんとありがとうって言うのよ。」
ちっちゃいソフィアは満月みたいな目でロロを見つめた。
「ありがと!せんせい!」
ロロはまたソフィアの頭を今度は4回撫でた。
「ソフィアが元気になって良かった。」
ロロは心底良かったって思ったよ。
「ソフィア、今日は学校に来なくていいから、おうちでゆっくり休んどくんだよ。」
ロロは次にソフィアのお母さんの方に振り向いた。
「熱は下がっても、薬は飲ませて下さい。」
「分かったわ。ロロ、ありがとう。」
そう言ってソフィアとソフィアのお母さんは、ロロのお母さんの暖かい朝ごはん、正確にはクロワッサンとハムエッグとシーフードシチューを食べた後、しばらくしてから家に戻っていった。
「じゃあお母さん、行ってきます。」
朝食を食べ終えて玄関へ向かったロロにお母さんが駆け寄った。
「ロロ、分かっているでしょうけど今日はあなたの誕生日よ。」
「あ・・・もちろん分かってるよ。」
嘘つきだね。
「とびっきりの料理を作っておくからね。お父さんも夕方には帰ってくるし。」
「そうだね。」
「ロロも早く帰っておいでね。」
ロロは何だか恥ずかしく思ってさ、お母さんにルルの事を言わなかった。
「あのさ、ちょっと今日は仕事終わりに用事があるんだけど、なるべく急いで帰るよ。」
お母さんはちょっと不満気な顔さ。
「あらそう、なるべく早くね。」
びしょ濡れでボロボロのロロが家に戻ってきたのは、11時を過ぎたあたりだったかな。雨と汗で冷えた体は、ぶるぶる震えていた。勢いよく入ってきたロロの姿を見て、ロロのお母さんは顔が真っ青になっていたね。でもロロはそんな事は余所目に、すぐさまソフィアに薬を飲ませたんだ。すると効果は絶大だった。1時間もしない間に、ソフィアの呼吸は落ち着いて熱も下がり始めた。今日はもう遅いからと、ソフィアとソフィアのお母さんはロロの家のソファで寝ることになった。それを全て見届けた後、夜中の1時過ぎにロロは自分の部屋に戻ってきたのさ。疲れを全部振り払うようにうつ伏せにベッドに倒れこむロロ。しばらくそのままゆっくりと深呼吸をして、仰向けになって天井を見た。そして第一声がそれさ。
「ルル・・・」
もちろんソフィアの事は心配だよ。でも、もう大丈夫って気持ちがあったからなんだろうね。ロロはその後に5回は彼女の名前を空で呼んだね。そして僕にいつものように話してくれた。
「店は・・・部屋は良い香りだった。」
ロロは目を閉じて思い出す。
「ハイドランジアの良い香り。」
そして少し間を開けて、
「後、多分彼女の香り。」
そうだ、と何かを思い出したようにロロはカバンの中に財布を入れた。
「明日返しにいかないとね。」
わざとだろうねえ、返しにいかないと、なんて自分に言い聞かせたのさ。本当は、返しに行ける、なのにさ。少し冷静になって思うと、ルルに対して色々と気になると事があったようだね。
「1人でやってるのかな。」
「年齢は同じくらいだろうか。」
「このあたりの生まれだろうか。」
「結婚はしてるんだろうか。」
「恋人は・・・」
誰も答えられないよ、もちろん。ロロにしても僕に聞いているわけでもないし、天井に尋ねているわけでもない。そんなロロを見てると、そりゃあ誰でも分かるよ。
ー惚れたね。
ってね。あの髪の色、瑠璃色の瞳、声、彼女の全て何もかもに魅せられたんだろうね。そしてロロは幸せそうに眠りについた。その寝顔には、何の曇りもなかったよ。久しぶりだった。本当に久しぶりに見たよ、ロロのああいう顔。
「おはよう、母さん。」
次の日のロロの朝は早かったね。いつもより1時間も前に起きておめかしさ。タンスの奥から滅多に着ない空色のセーターなんて引っ張り出しちゃって。滅多にしない髪型のセットなんてしちゃって。昨日の嵐の夜、夜道を走ってぐちゃぐちゃに汚れた靴も、朝からせっせと磨いてた。後は入念に財布の中身をチェックさ。
「よし、ちゃんと薬代は入ってるな。」
そう自分に言って財布を閉めて、また少し不安になって財布を開ける。その繰り返し。朝から元気なロロの姿を見ても、ロロのお母さんは特段何も不思議に思わなかったね。だって今日は、
「誕生日だからはしゃいでいるのかしら。」
ロロの誕生日だ。お母さんは、ふふふって笑ってロロを見てた。でもさ、間違いなくロロは今日が自分の誕生日だって事を忘れてるよね。
「靴よし。」
「服よし。」
部屋の姿見で何度も自分を確認する。
「髪型よし。」
そしてやっぱり財布を開けて、
「・・・お金よし。」
結局朝食を食べにキッチンへ来たのはいつもと同じ時間だった。キッチンの横のソファには、昨日より随分と血色が良くなったソフィアが座ってた。ちょこんとね。
「あ、ロロせんせい。」
ソフィアは2階から降りてきたロロを見て、ぱっと立ち上がった。でもまだ本調子じゃないせいか、またぱたんってソファに倒れこんだ。
「もう、ソフィア!まだ無理しちゃだめ。」
ソフィアのお母さんが駆け寄ってソフィアをソファに寝かせる。
「昨日よりはましかい?ソフィア。」
ロロはソフィアに駆け寄って頭を3回撫でた。
「うん!」
にっこりとソフィアは笑った。
「ああロロ、ロロ先生、本当にありがとう。本当にありがとう!ロロはソフィアの命の恩人よ!」
ソフィアのお母さんは、何度もロロにお礼を言った。
「ソフィア、昨日先生がね隣町まで薬を買ってきてくれたの。ちゃんとありがとうって言うのよ。」
ちっちゃいソフィアは満月みたいな目でロロを見つめた。
「ありがと!せんせい!」
ロロはまたソフィアの頭を今度は4回撫でた。
「ソフィアが元気になって良かった。」
ロロは心底良かったって思ったよ。
「ソフィア、今日は学校に来なくていいから、おうちでゆっくり休んどくんだよ。」
ロロは次にソフィアのお母さんの方に振り向いた。
「熱は下がっても、薬は飲ませて下さい。」
「分かったわ。ロロ、ありがとう。」
そう言ってソフィアとソフィアのお母さんは、ロロのお母さんの暖かい朝ごはん、正確にはクロワッサンとハムエッグとシーフードシチューを食べた後、しばらくしてから家に戻っていった。
「じゃあお母さん、行ってきます。」
朝食を食べ終えて玄関へ向かったロロにお母さんが駆け寄った。
「ロロ、分かっているでしょうけど今日はあなたの誕生日よ。」
「あ・・・もちろん分かってるよ。」
嘘つきだね。
「とびっきりの料理を作っておくからね。お父さんも夕方には帰ってくるし。」
「そうだね。」
「ロロも早く帰っておいでね。」
ロロは何だか恥ずかしく思ってさ、お母さんにルルの事を言わなかった。
「あのさ、ちょっと今日は仕事終わりに用事があるんだけど、なるべく急いで帰るよ。」
お母さんはちょっと不満気な顔さ。
「あらそう、なるべく早くね。」
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