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レイミナ=モリスの当日譚
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レイミナは確信した。
学園の大講堂、自分の隣には第二王子、それ取り巻く第二王子の側近たち。
そしてーーーー目下の学園生徒たちに取り囲まれる一人の令嬢。
この光景には覚えがある。
それもそのはず、前世で幾度となくプレイした乙女ゲームのクライマックスである悪役令嬢の断罪シーンなのだから。
◆
レイミナ=モリスには秘密がある。
それは前世の記憶がある、ということだ。
前世でのレイミナは裕福な家庭の、遅くに生まれた一人娘だった。
そういった背景もあり両親と祖父母が前世のレイミナー前ミナと呼ぼうーを蝶よ花よと大層甘やかして育てた結果、前ミナは自己中心的な娘になってしまった。前ミナの友人は皆両親の部下の子供だったこともあり、前ミナの要望が通らないことはなかった。忖度である。
それを自分が周囲に愛されているからだと都合よく勘違いしたまま、年月は過ぎ去っていった。
年月を経て女子高校生になった前ミナは、通学途中で見かける男子高校生に恋をした。一目惚れというやつだ。
しばらく男子高校生をこっそり追いかけては学校や家を特定し、SNSアカウントを見つけてフォローし、友人の協力の元、あらゆる個人情報も集めた。家族構成、好きなもの、趣味。自分の人望の厚さからか、手数料さえ支払えば皆が調べてくれた。彼の情報を知れば知るほど恋心が高まっていく。
前ミナは告白することにした。彼女もいないらしいので、今がチャンスだ。きっと彼は嬉しい、ありがとう、俺も好きだよと言ってくれる。自分は周りの人たちに好かれているから、彼もそうなるに違いない。
そう信じてやまない前ミナは学校が終わると、初恋の男子高校生の最寄り駅で待ち伏せすることにした。この日は塾もないはずだし彼は真っ直ぐ家に帰ってくると思っていたのだが、なかなか姿を現さない。
待つこと一時間。ようやく現れた彼に駆け寄ると、前ミナは想いの丈をぶつけた。これで薔薇色のカレカノライフの始まりだとワクワクしながら彼の返事を待つ。しかし。
「お前だったのか、ストーカーは。気持ち悪いんだよ、勘違い女」
返ってきたのは蔑みの言葉と、冷たい眼差しで。
二度と関わるなと吐き捨てるように言うと、彼は前ミナを置いて去って行った。前ミナは状況を飲み込めずに呆然と立ち尽くした。
御飯時になっても帰って来ない前ミナを心配した両親が、GPS機能を使って居場所を特定し迎えに来てくれた。
両親の姿を認めた瞬間、前ミナは泣きながら母親に抱きついた。
家に帰ってからも泣いて泣いて、泣き疲れて眠った。
深夜になった頃。喉がカラカラになって目が覚めた前ミナは、今何時かを確認しようとスマホをタップした。
新着通知が入っている。開いてみると、あの男子高校生のアカウントの新着投稿だった。
『ストーカー撃退完了!勘違い女怖ぇ~』
その投稿にはたくさんのリプライがついている。どれも前ミナを嘲笑するものばかりだ。
流れていく文字を眺めていると、再び涙が出た。なんてひどい男だろう、優しい人だと思っていたのにと。
明日学校に行ったら、親友たちに慰めてもらおう。彼女たちならきっとわかってくれる。たくさん愚痴を聞いてもらって元気付けてもらったら、今度はもっと素敵な人を探そう。また協力してもらって、次こそは恋を叶えるんだ。
そう心に決めて画面を閉じようとした時だった。
『何かゴメンね?マジ勘違い女すぎでウザいよね~ウチらも迷惑してるんだぁ』
自分を知ってる風なリプライを見つけた。だが、アカウント主の名前もアイコンには見覚えがない。自分のフォロワーではない。
けれど、近い存在な気がした。
指を滑らせ、そのアカウントのホームを表示させ、プロフィールや投稿内容、フォロワーを確認していく。
自分のよく知る出来事がたくさん書いてある。そして散見する『ダダ子』という人物への悪口、嘲笑。
「『ダダ子』って私か」
ダダ子について話すときに絡んでいるのは特定の四人だけだ。四人はきっと、自分の友人だろう。いつものメンバーだ、自分を除いた。
そのことに気づいた瞬間、二度と学校に行きたくなくなった。親友だと思ってた彼女たちは裏で自分をバカにしていたのだから。
翌日から前ミナは不登校になり、部屋からもあまり出て行かなくなった。
両親は心配そうにはしていたけれど、好きにしていいと言ってくれたので遠慮なく引きこもりに徹することにした。 友人たちは心配するようなメールをくれはしたが、裏アカウントでは来なくなって清々したと言っているので既読スルーしていたら連絡は来なくなった。
本当に心配してくれているなら家まで訪ねてきそうなものだが、そんなこともなく。やはり彼女たちは友達ではなかったのだなと改めて思い知る。
片想いしていた彼も、思っていたような人ではなかった。
「あんな性格ブスたちしか周りにいないし、彼も性格悪かったし。私の良さがわからない人ばっかりで、私ってかわいそう。まあいいけど」
まあいいけど、という言葉は本当は良くないから口から出る言葉なのだが。
フンと鼻息荒く強がりながら、布団の中で暇つぶしにスマホをタップしていると広告が表示された。
「絵が綺麗……この王子様、めっちゃ好み……」
目にしたのは乙女ゲームアプリの広告だった。メインキービジュアルに描かれたキャラクターは当たり前だがみんなイケメンだ。
乙女ゲームどころかゲームそのものに興味がない前ミナだったが、なぜだかそのゲーム、『恋するロマンス学園』にはとても心が惹かれてしまう。
そして、吸い込まれるようにインストールボタンを押した。
前ミナはその乙女ゲームに夢中になった。好みの絵柄、自分の選択肢で簡単に自分に落ちていくイケメン攻略キャラたち。
楽しくて仕方がない。彼らは自分を愛してくれる。嬉しい。何度繰り返しプレイしても最高だ。
乙女ゲームの才能があるのか、選択肢を間違えることはなかった。バッドエンドなんて見たくないのでリプレイする時も同じ選択肢しか選ばない。いつもスーパーハッピーエンド。
イケメンが自分に籠絡されていく様のなんと愉快なことか。
他の乙女ゲームもたくさんやった。だが、プレイしたたくさんのゲームの中でも一番好きなのは最初にプレイした『ロマ学』だった。
『ロマ学』のキャラクターはみんな好きだが、第二王子セドリックは特に好きだった。
とにかく好みだ。優しくて、好みのイケメンで万能なザ・王子様。傷心の最中に優しくされて恋に落ちていたのかもしれない。そこそこ人気ゲームだったのでグッズ展開もしていたのだが、前ミナはネットでセドリックグッズを親の金に物を言わせて買い漁ったほどだった。
すっかり乙女ゲームオタクになった前ミナは、ある日楽しみにしていた乙女ゲームの公式イベントの会場に向かう途中で最寄駅のエスカレーターから転落してしまった。きっと打ち所が悪く死んでしまったのだろう、前世の記憶はそこで途切れている。
記憶を取り戻したのは7歳の頃、階段から転げ落ちて頭を打った時だったか。
大好きな『ロマ学』の、それもヒロインに生まれ変われたと知れた時は大喜びした。
大好きなキャラたちに、セドリックに愛してもらえると思うと嬉しくて仕方ない。愛されるためにどう振る舞えばいいかなんて丸わかりだ、ゲームで予習をしているのだから。
「今回は世の中イージーモードね。時代がようやく私に追いついたわ!!」
そう。実際イージーモードだったのだ、なぜか悪役令嬢が苛めてくれはしなかったが、誤差はそのくらいのもので。攻略対象は自分を愛してくれている。あんなに好きだったセドリックが傍にいる。皆が自分にちやほやする。何て幸せなのだろう。あとはリリーディアを片付けるだけだ。
そしてついに、その時が来たのだ。
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