何がどうしてこうなった!?

かのう

文字の大きさ
上 下
4 / 11
本編

4(完)

しおりを挟む

「事前に報告を受けた内容と若干事情が異なるようだが、まあ解った。……セドリック」

「はい」

「おまえの側近たち及びレイミナ=モリスはリリーディア=ローゼ嬢を貶め、断罪せんとしたが、それもローゼ嬢本人に加え隠密の証言で未遂に終わった。だがセドリック、おまえにも場を大事にしたという責任はある。おまえがそのような気がなかったとしても、だ。解るな?」

「はい、軽率な真似をいたしました。申し訳ございません、父上」

 セドリックは皆もすまなかったなと講堂に集まった人々に向けても謝罪を口にする。これには全員が恐縮した。

「リリーディア=ローゼ嬢。そなたはこの件の一番の被害者だ。この者たちに如何様な処分を下したい? そなたの希望にできるだけ沿った処遇にしよう」

 国王のこの言葉にリリーディアは目を瞠った。ただの学生である令嬢に罪を犯したるものたちの処遇を委ねるなど、前代未聞だからである。
 リリーディアは正直なところ、はぁぁあ!?このイケオジは何考えてんの!こんな重要案件学生に過ぎない小娘に任せるなんて正気の沙汰じゃないわ!冗談じゃないわよぉおおおお!と叫び出したい気持ちでいっぱいであった。
 レイミナに対してはたまりにたまった苛つきと言いがかりをつけられ貶められたことに対して怒りはある。しかし、極刑は望んではいない。これから自分に、自分の大切なものに害がなければそれでいい。王室に任せているとすぐに王国法に則り極刑に処しそうで怖い。 悪役にあまり厳しくないゲームの世界とは言いつつ、やはり庶民には厳しい節があるのだ。
 視線をレイミナに投げてみる。ものすごい顔で睨まれた。怖い。悪役はあちらではないだろうか。げんなりとした気分で嘆息すると、リリーディアは国王に告げた。

「陛下、発言をよろしいでしょうか」

「許可する」
 
 国王は頷いた。リリーディアは一旦目を伏せ深呼吸をした後、国王を見据える。

「陛下、私は彼女らへの厳罰を望みません」

 その言葉に周囲が騒めいた。国王の傍に控えていた側近である宰相が手を上げ周囲を治める。

「そなたは濡れ衣を着せられ侮辱されたにも拘らず、罰を与えるなと?」
 
 国王の問いかけにリリーディアは首を横に振った。

「そうではありません。罪は罪、何かしらの罰は必要でしょう。彼女たちはまだ学生の身分です。そして確かにいろいろございましたが、実害が大きくなる前に防ぐことができました。ですから、今回だけは極刑をご容赦いただけませんでしょうか」

 周囲が再び騒めく。刑が軽すぎる、リリーディア様は慈悲深い、貴族の示しがつかないので極刑に処すべきだなど、反応は様々だ。リリーディアの傍らに添うセドリックも渋い顔をする。

「リリィ、だめだ。お前……いや、あなたの名誉を著しく傷つけた者たちを許すべきではない」

「許すわけではないのです。どうかご理解くださいセドリック殿下、私は……」

 人の命を背負うなんて真っ平御免つってんの!!
 リリーディアは眼力で訴えた。

「リリィ……」

 セドリックはリリーディアの手を取ると、両手で包み込み苦笑した。流石に幼少の砌より婚約者として付き合ってきただけある、ばっちり以心伝心したようだ。
 二人は微笑み合うと、国王へと向き直る。

「彼女たちが今までのことを反省するならば、厳罰に処さないでいただきたいのです」

 どうか学園追放あたりでお願いしたい。処刑にならなくてもあまり厳しい罰だと恨んできそうだ。特にレイミナが。
 リリーディアが心の中で念を送っていると、国王がそこまでそなたが言うならばと微笑んだ。そしてレイミナと愉快な取り巻きたちに視線をやると、一段階調子を落とした声で投げかける。

「レイミナ=モリス、カシム=マディソン、クラヴィス=ヴァレンシア並びにブラッドレイ=アンバード。ローゼ嬢がこう申しているが、貴様らに反省の意はあるか?」

 取り巻きたちは即座に反省します、申し訳ありませんでしたと最敬礼を以て謝罪した。レイミナも若干不満げではあるがぺこりと頭を下げる仕草をした――――リリーディアにではなく、国王に向かってだが。

「学院内で起きたことであり、実害が大きくなる前に止まったこと。更には本件の被害者であるリリーディア=ローゼの嘆願もあり――――レイミナ=モリス以下三名は一月の謹慎。事を大きくするに至ったセドリック=トリクセンは一週間の謹慎とする」

 国王が沙汰を高らかに宣言した。
 少々処罰が軽すぎるような気もするが、リリーディアとしては他人を残酷な目に遭わせたくもないので十分だな、と思い頷いてそれを了承した。だが。

「その後は今まで通り同じ教室で学院生活を送るように、よいな」

「え!?」
 
 耳を疑いたくなるような、信じられない言葉が降って来た。

 よくない!!全く以ってよくない!!!
 同じ教室とか、気まずいことこの上ないではないか!!!!!

「へ、陛下! お、お待ちくださ……」

 リリーディアが慌てて国王の引き留めに掛かるも、その手は虚しく空を切る。国王は満足げな表情を浮かべ、かっこよくマントを翻すと場を退出してしまった。
 会場内に何とも言えない空気が流れる。
 
 確かに相手に厳重な罰など望んでいなかった。だが……だが!!!

 リリーディアがレイミナを見やれば、反省の色は微塵もなさそうであった。セドリックに向かって必ず振り向かせて見せますなどと宣っている。
 そんな彼女を無視しつつセドリックはリリーディアをそれはそれは愛しそうに抱きしめてきた。しかし、リリーディアはそれどころではない。
 胃が痛い、とにかく胃が痛い。せめてクラスは変えて欲しかった。一月後のストレスマックスな生活を思い浮かべて身震いする。





何がどうしてこうなった!!!!!!





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】運命の恋に落ちたんだと婚約破棄されたら、元婚約者の兄に捕まりました ~転生先は乙女ゲームの世界でした~

Rohdea
恋愛
「僕は運命の人と出会ってしまったんだ!!もう彼女以外を愛する事なんて出来ない!!」 10年間、婚約していた婚約者にそう告げられたセラフィーネ。 彼は“運命の恋”に落ちたらしい。 ──あぁ、とうとう来たのね、この日が! ショックは無い。 だって、この世界は乙女ゲームの世界。そして、私の婚約者のマルクはその攻略対象者の1人なのだから。 記憶を取り戻した時からセラフィーネにはこうなる事は分かってた。 だけど、互いの家の祖父同士の遺言により結ばれていたこの婚約。 これでは遺言は果たせそうにない。 だけど、こればっかりはどうにも出来ない── そう思ってたのに。 「心配は無用。セラフィーネは僕と結婚すればいい。それで全ての問題は解決するんじゃないかな?」 そう言い出したのは、私を嫌ってるはずの元婚約者の兄、レグラス。 ──何を言ってるの!? そもそもあなたは私の事が嫌いなんでしょう? それに。 あなただって攻略対象(隠しキャラ)なのだから、これから“運命の恋”に落ちる事になるのに……

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

処理中です...