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激甘革命編
第48話「王国壊滅!国王はカオスだった」①
しおりを挟む僕はいつ頃から、彼女を「1人の女性」として意識していたんだろう…
時には姉として
時には妹として
僕は彼女と向き合っていたはずだった
そんな生活が続く中
彼女には好きな人ができた
幸せそうに笑いながらマフラーを編む彼女…
僕は彼女の好きな人に対して
日に日に許せぬ感情を募らせていった
憎らしい…妬ましい…
彼女は僕のもの…誰にも渡したくない…
例えその相手が勇者でも…カオスでも…
そんなある日、僕は知ってしまった…
彼女の好きな人は僕だった
そう…僕は、自分自身に嫉妬していたのだった…
………
雪斗が目を覚ますと、そこは雪斗の部屋だった。ベッドから起き上がり、窓のカーテンを開けると、そこは一面の銀世界…道理であの朝は冷え込んでいたはずだ。
「雪斗、目を覚ましたんですね!!!」
ガトーが持ってきたスマートフォンで時刻を確認してみる。日付は12月12日を示しており、雪斗は丸3日眠っていた事に気づく。
「そういえば、僕はどうやって帰って…」
「覚えてないんですか?あの後、大勇者様とムッシュ・エクレールによって家に運ばれてきたんですよ?ずぶ濡れの状態でひどい熱を出して、何度もうわごとのようにユキの名前を呼んで…」
ガトーの説明に、雪斗は我に返ったかの様に周囲を見回し始める。祖父がユキに買い与えたワードローブも、ユキが集めたぬいぐるみや、ユキがハマっていた「名探偵コニャン」のコミックスも、ユキが毎週欠かさず購入していた「週刊少年サタデー」も、雪斗の部屋から消えている。
「そ、それじゃあ…ユキは…」
「一悟と瑞希さんと一緒に…」
「嘘だっ!!!ユキは僕の目の前で…」
パートナー精霊のセリフを遮るかのように、雪斗は声を荒げる。
「ユキは…消えてしまったんだ…僕にキスをして…すぐに…」
雪斗は床に両手をつき、部屋の畳をぽつり…ぽつり…と、雨の様に涙が落ちる。
………
確かに、雪斗の目の前でユキは消えてしまった。しかし、一悟達にはユキが半透明の状態ではあるが、姿を確認できており、ユキは一悟と瑞希と共に、一悟の父の部下である増田刑事によってカフェまで送られたあと、あかねと合流。あかねが実家から連れて来た双子の妹・あやめの身体にユキが入り込み、ユキは現在「姫路あやめ」として生活しているのである。
だが、ユキの方も一悟達の事は覚えているものの、マジパティとして戦っていた事も、雪斗に関する記憶も全て失っており、現在はあかねの兄夫婦と共に、極真会館近くの一軒家で生活している。そこは元々あかねが曾祖母の姫路若葉から相続した一軒家なのだが、あかねの兄・隼人の仕事の関係で、妻とそこで暮らすことになり、隼人があかねに毎月家賃を払う形で生活している。
「隼人さんから聞いたんだけど、ユキちゃんは「姫路あやめ」として来週から転校生として編入するんだって。」
連日の積雪で公共交通機関が麻痺しているため、サン・ジェルマン学園は昨日から中等部、高等部共に休校となり、玉菜は自室でここなと瑞希と共にテーブルを囲んでいる。3人の前には学校から支給されたタブレット端末があり、どうやらオンラインで出された課題を進めているようだ。
「それは楽しみですね。最近の私達の周囲では雪斗の件で暗い話題ばかりでしたし、明るい話題はいいものです。」
「そうだな…それにしても、どうしてあの時…ユキは「瘴気をマナに変える魔法」を使ったんだ?あれは、隼人氏が過去に失敗した魔法だろう?」
ここなの問いかけに、その時現場にいた瑞希はぐっと息を呑む。
「これは私の推測ですが、ユキには「一悟達の様に雪斗に触れたい」という強い願いがあったんだと思います。ただ…その代償として、ユキは雪斗の身体から離れ、マジパティとして戦っていた事も、雪斗に関する記憶も失ってしまった…」
その時の光景が今でも目に浮かぶ…何が起こったのか分からず、水色の光がバスタオルのように巻かれた状態で瑞希と一悟の所へ駆けつけるユキ…そして、こっちはどうでもいいが、ミルフィーユの姿のまま瑞希の隣で鼻血を吹き出す一悟…カフェに移動中のパトカーの中、瑞希はカフェに連絡すると、あかねから「妹を連れてカフェに向かう」という趣旨の連絡が入った。
後から聞いた話ではあるが、あかねの双子の妹・あやめは6年前に隼人の「瘴気をマナに変える魔法」の失敗に巻き込まれ、その時は軽い怪我で済んだものの、その事故からちょうど3年が経った12月9日…あやめは下校途中に突然意識を失い、まるで時を止められたかの様に、植物状態となってしまったのである。動いでいるのは心臓のみ…それが、兄の魔法の失敗だと判明するまで時間はかからなかった。だが、6年前の隼人はこの魔法に失敗し、今回のユキは成功した。一体2人は何が違っていたのだろうか…最も、ユキがその時の記憶を失っているため、瑞希達に疑問が残る。
「ガチャッ…」
「あのさ、タマねぇ…」
玉菜の部屋のドアが開くと、そこには玉菜と同じハチミツ色の髪の小学生が立っている。
「どうした、蘭ちゃん…」
玉菜が弟の所に駆け寄ると、蘭丸の後ろには雪斗の弟・冷斗と妹・みかんがいる。
「冷ちゃん達が、タマねぇに話がある…って。」
悲しげの顔をする双子…そんな冷斗の手には、落ち込んだ表情のガトーが乗っている白い丸皿があった。
冷斗とみかんによって、一悟達は雪斗が目を覚ました事を知ることになった。しかし、目覚めた雪斗はユキが目の前で消えてしまった事のショックで、ひどく錯乱していたのだった。
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