激甘革命!マジパティ(分割版)

夜ノ森あかり

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レインボーポット編

第34話「想いは一つ!勇者クラフティと明日香の愛の力!!!・後編」③

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「…ご…一悟いちごっ!!!」

 誰かが俺の名前を呼ぶ声がして、俺は不意に目を覚ます。目の前には勇者クラフティの姿がある。
「そういや、俺…しゅうちゃん助けた後、扉に吸い込まれて…」
 自分の姿をじっくりと見回す。ミルフィーユの姿のまま、俺は気を失っていたのだろう…
「それにしても…ここ…は?」
 見慣れた畳の上にいる事から、ここはどことなく見覚えのある家屋ではあるが、どことなく薄暗い。それどころか、窓から見える空も薄紫色で不気味な雰囲気を感じる。
「一悟…ここは一体、どこなんだ?」
「じーちゃん…いいや、ここは8年前のあすちゃんの家の中だ!!!仏壇に、ばーちゃんの遺影と位牌がねぇ…家具の配置も間違いなく8年前だ。」
「やけに詳しい…ってか、お前と明日香はいとこ…だもんな?」
 勇者クラフティがそう言うと、俺は何かの気配を感じ、咄嗟に畳の上から起き上がる。

 精霊のニオイが漂う中、俺は階段を上り、ある部屋のドアに手をかける。その部屋の入口に書かれているのは…

「あすか」

 …つまり、あすちゃんの部屋だ。ぐっとドアノブを回すと、ドアが開く。

「ひぃっ!!!」
 ドアを開けるや否や、言葉にならないほどの明日ちゃんの悲鳴と、まるでおじさんがいるようなおぞましい空気…2人共姿は見えないけれど、いる気配は確かに感じる。
「大丈夫か?一悟…明日香の部屋なのに、なんて酷い空気だ…まるであの黒いもやの中にいるような…」
 無残に散らかるあすちゃんの下着とパジャマ…俺と姉ちゃんの前ではいいおじさんぶっていた男の本性を垣間見たような空気に、俺は吐き気を訴えそうになるが…

「これは、あくまで私の残留思念です。ご気分を悪くされてしまったら、申し訳ございません。」

 落ち着いたような精霊の声がすると、勇者クラフティはその声の主が判ったのか、声の主の名前を呼ぶ。
「モカ!!!モカなのか?」
 彼の言葉に気づいたのか、俺達の前にピンクのマグカップに身体を入れた精霊が宙に浮かび上がる。残留思念であるのか、全身がマグカップを含めて半透明になっている。
「勇者様!!!やっとお会いできましたね?」
 どことなく顔立ちがラテに似ている、ツーサイドアップをドーナツ状にまとめた精霊…

「ラテに似てるな…」

 俺が不意に呟いた刹那、モカは思わず首をかしげる。
「ラテ…?ラテは私の妹ですけど…勇者様、こちらの方は?どことなく明日香と一部の顔のパーツが…」
「俺は千葉一悟!あすちゃ…いいや、千葉明日香のいとこだ!!!」
 俺がそう言うと、モカは驚いたような表情をする。
「一悟…って、あの…頭に包帯を巻いてた子…ですよね?一華いちかちゃんと顔も恰好も殆ど似てましたので…包帯を巻いていたという特徴しか…」
「当時の姉ちゃんの事言うの、マジでやめてほしーんだけど…」
 8年前の俺と姉ちゃんは髪型も恰好も殆ど似ていて、みるくが一緒じゃない時はよく「双子みたい」って言われていた。あすちゃん、柊ちゃんが立て続けに行方不明になってからは、姉ちゃんが髪を伸ばし始めて…「双子」って言われたのはそれっきりだな。

「ふふっ…そうですね。明日香の心の中の世界へ来たという事は、明日香を救いに来たという事でお間違えはないですか?」

 微笑みながら話すモカの言葉に、俺は黙って頷く。


 マジパティになって、ラテとココア、勇者様と出会って…みるくもマジパティになって…雪斗ゆきとがブラックビターの手に堕ちた時は、雪斗の心の闇に気づいて…大勇者様やグラッセ達と出会った事で、俺やみるく、雪斗、タマちゃんだけがマジパティじゃねぇって事を知った…

 あすちゃんもマジパティだった事を知ってからは、俺はどうしてもあすちゃんと再会したかった…

 あすちゃん…あすちゃんは、マジパティとして戦って…どうだった?

 俺は、知りたい…あすちゃんと同じミルフィーユになったマジパティとして…

 あすちゃんと一緒に戦えることを信じて…


 俺はモカの残留思念から、8年前のあすちゃんの心の闇を聞き、それを受け入れた。生々しい表現でリバースしかけそうにはなったけど、あすちゃんは…実際に、おじさんからモノとしか見られていなかった…それを俺や姉ちゃんに見せなかったのは、恐らく2人共運動が大好きだったから、猫かわいがりしてたんだと思う。幼かった俺にとって、そんなおじさんは憧れだった…8年という時間で、俺は時の流れを経て変わったんだ…もう何もできなかった幼い子供じゃない。現実的にまだ子供ではあるけど、俺は「これは法的に許される」、「許されない」の匙加減が判るようになった。
「私からは以上です。どうか…明日香を…心の…闇から…」

「プツッ…」

 モカの残留思念はここで終わった。
「一悟…これは、お前が持ってろ。俺も気持ちの整理をつけてから、合流するさ。」
 勇者クラフティは、俺にあすちゃんのブレイブスプーンを手渡す。恐らく、涼ちゃんから渡されたのだろう…俺はそれを受け取り、ぐっと腕を伸ばす…ピンクの宝石と白い羽根が付いたスプーンから、ピンクの光が放たれ、俺はあすちゃんの部屋の窓を開け、あすちゃんの家の2階から飛び降りた。

「スタッ…」

 上手く庭に着地した俺は、飛び降りた場所を見上げ、窓からこちらをのぞき込む勇者クラフティに向かって敬意を示す。まるで、あすちゃんの事を託したかのように…
「御意、勇者クラフティ!!!」
 俺はそのまま後ろを振り向かずに走り出す。ピンクの光の先を目指して…
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