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レインボーポット編
第34話「想いは一つ!勇者クラフティと明日香の愛の力!!!・後編」②
しおりを挟む「俺…?」
紫色の髪に、白い半袖のワイシャツと黒いスラックス姿の少年…その姿こそ、8年前の藍本有馬だった。8年前の有馬は、3人のクリームパフの姿を見るや否や、紫色の宝石が付いたブレイブスプーンを構え、それを空高く掲げる。
「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」
8年前の有馬は瞬く間に銀髪に紫色、白を基調とした姿へと変わる。その様子に、パートナー精霊であるバニラと一体化した有馬はぐっと覚悟を決める。
「白銀のマジパティ・クリームパフ!!!禍々しい混沌のスイーツ!勇者の光で、邪な心を打ち砕いてみせる!!!」
恐らく今の彼には、3人のクリームパフがカオスイーツに見えるのだろう。彼は咄嗟にクリームグレネードを構えるが、現代の有馬は8年前の自分の所へ飛び、彼の右手首にチョップをかました。
「バシッ…」
銀髪少年の持つ紫色の銃はテニスコートの上に落下する。
「思い出した…最後の戦いの前、バニラが見た予知夢を…俺が他のクリームパフとテニスコートの上で戦うって奴…」
8年前の彼は咄嗟にクリームグレネードを拾い上げようとするが…
「やめろ!!!ここはお前にとって、神聖なテニスコートだろ!!!銃を構えて戦う場所じゃねぇっ!!!!!」
そう言いながら、現代の有馬はクリームグレネードをテニスラケットに変えてしまった。
「テニスだ…俺とテニスで勝負しろ!!!」
現代の有馬に何を感じたのか、8年前の有馬も自身の銃をテニスラケットへ変えてしまった。
「ちょっ…何で、いきなりテニスに…」
「俺、学生時代はテニス部だったんだよ。教師として帰国してからは、部活で指導するだけになっちまったけどな?サーブはこっちからだっ!!!」
玉菜にそう答えながら、有馬はコートの外で黄色いテニスボールを真上に目掛けて放り投げ、それを向かいのコートを目掛け、ラケットで打ち放つ。ボールはネットを越え、8年前の有馬のいるコートへ入り、有馬はそれを見事に打ち返す。
「流石は元テニス部…綺麗なフォームね…」
現代の有馬が打ったボールを、8年前の有馬が打ち返す…2人のラリーが続く音がテニスコート全体に響く中、テニスコートの端で身動きが取れない玉菜とトロールに異変が起こる。
「じゅわっ…」
2人の身体から何かが溶ける音がして、玉菜が目線を下ろすと…
「な、なによこれっ…」
2人を拘束しているフェンスから繊維片を溶かす液体が漏れ出し、腕のアームカバーとスカートの裾が溶け始めたのである。玉菜とトロールは何とかフェンスから抜け出そうとするが、思うように抜け出せず、玉菜を下にして転倒してしまう。
「ぶはっ…やっと息できたァ…」
「こら、私を下敷きにすんなーっ!!!」
漏れ出した液体は重力に沿うかのように、徐々に2人のコスチュームを蝕む。特に玉菜の方は、有馬達のラリーが続くと同時に、段々と素肌が露わになっていく…
「ラリー続けてないで、さっさと白黒つけんかーーーーーーーーーーーーーいっ!!!」
恥辱寸前の玉菜の叫びも虚しく、有馬達のラリーはまだ続いている。
「俺は…明日香に幸せになってほしいだけだっ!!!だから、俺は戦うんだ!」
「幸せになってほしい?それなら、どうして仲間同士が争っている事に気づかなかった!!!そこには明日香がいたはずだぞ!!!」
ラリーを続けながら、2人の有馬は互いの本音をぶつけ合う。
「本当は明日香の事が好きだったんだろ?妹同然の存在じゃなく、1人の女として!!!」
有馬がそう叫んだ刹那、8年前の有馬は危うくボールを打ち返しそびれる。恐らく、革新的な事を突かれたのだろう…
「それでも、明日香はクラフティの事を愛していた…お前は、明日香の気持ちを尊重し、明日香を応援した…違うか?」
「バシュウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥ…」
現代の有馬が打ち返したボールは、打ち返そうとする8年前の有馬の目の前でワンバウンドし、コートの外へ飛び出す。勝負が決まった瞬間だ。
「明日香は、俺を頼れる兄として見ていただけだった…だから、俺は明日香の想いに応えた…」
コートの上で膝を落とし、悲しげな表情でボールを見つめつつ、8年前の有馬はそう答えた。現代の有馬はやれやれと言わんばかりに、8年前の自分の所へやってくる。
「それでも、明日香に対して「Like」ではなく「Love」のままでいたかった気持ちは揺るがなかった…それを言わなかったのは、勇者をライバル視して、明日香に嫌われたくなかったから。それは、今でも変わんねぇ…」
「今…でも…?」
現代の有馬は黙って頷き、覚悟を決めて正体を明かす。
「俺、バニラと一体化してこの姿になっちまったんだけどな…俺は未来のお前だ。」
無邪気に微笑む現代の有馬の背後に、2人のクリームパフが並ぶ。鳥の翼を携えた方のクリームパフはコスチュームが所々溶けているが、隣にいるオッドアイの方のクリームパフの方は局部こそはギリギリで隠れているものの、スカートは殆ど機能を失っており、水色と白の縞模様のショーツが丸見えとなっている。
「玉菜ってば、酷い恰好ね…」
「誰のせいだ、誰のっ!!!」
あくまで、トロールに悪気はない。2人はトロールの力でフェンスから脱出できたようだが、今の有馬達
にとっては、修羅場という空気に切り替わりかねない。
「あーちゃんっ!!!」
テニスコートに入るためのフェンスが開き、そこから明日香が有馬の所へ駆けつける。8年前の有馬はクリームパフの姿から戻り、明日香と合流する。
「どうした、明日香…またあいつに…」
「違うの、勉強に付き合ってほしくて…あーちゃん、英語得意でしょ?だから…英語を教えて欲しいの!!!」
そんな2人の様子に、現代の有馬は安堵する。安堵と同時に、有馬はどうして過去の自分が明日香の心の世界に存在しているのか理解した。
「明日香にとって、有馬は兄でもあり、憧れの存在」
…だったからだ。
「俺も…ちゃんと明日香に伝えるか…明日香を愛していた…てな?」
そう言いながら、現代の有馬は2人のクリームパフに微笑みながら振り向いた。
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