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レインボーポット編
第30話「いざ、茅ケ崎!ミルフィーユよ、立ち上がれ!!!」③
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祖母の法事も滞りなく終わった一悟は再び着替え、涼也、ほなみ、いすみと一緒に買い物を兼ねた散歩へ行こうとしていた。一悟の姉の一華は、受験生であるほなみに諭され、祖父の指導の下、勉強中である。そんな4人の前に瀬戌ナンバーのマーチが停まる。
「おーっす!一悟、涼也!法事は終わったのか?」
木津先生もとい、有馬だ。そんな有馬の姿は、端から見れば男のような口調で話す女性にしか見えない。
「終わった…けど、どうしてここに…」
「いやー…俺の本来の実家を見てみたくってさぁ…さっさと仕事片付けて首都高飛ばしてきたんだ。」
…というのは、建前である。有馬の車の後部座席には紫色のスーツケースが乗っている。
「まぁ…見に来たはいいんだけど…俺の実家、なくなってんだけど?」
有馬の指さす先には、3件の分譲住宅…8年前には有馬の実家である歯科医院があった場所だ。
「藍本歯科…ですよね?確か、3年前に茅ケ崎駅の近くに移転して、藍本さん一家…そちらに引っ越しましたよ?」
「引っ越し…た?」
涼也の言葉に、有馬の表情は青ざめる。
「はい…おじいちゃん先生が4年前にアルツハイマー型の認知症になっちゃって、藤沢の大学病院で働いてた息子さんがあとを継いだんですけど…」
「その後だよね…東日本台風で藍本さんの所の窓ガラス殆ど割れちゃって、設備がめちゃくちゃ…んで新型病原菌だー、介護問題だー…ってなんだかんだあって、歯医者さんごとお引越し。」
淡々と話すほなみに、いすみが説明を付け加える。
「あのじーさん、もうトシだったからなぁ…ありがと。俺、他に立ち寄りたい場所あるから、そっちに行ってくる!2人共、あとでなー!」
有馬はそう言いながら運転席のパワーウィンドウを閉め、海岸方面へ向かってしまったのだった。
「あと…で?」
一悟の祖父の家がある東海岸から南下し、国道134号線を西へしばらく進むと、有馬はサザンクロスビーチの近くにある赤い屋根の屋敷の駐車スペースにマーチを止める。そこには既にハイエースと赤いデミオがあり、有馬はスーツケースを転がしながら屋敷のインターホンを鳴らす。
「大勇者様、有馬です。遅くなってすみませーん!」
3分後に玄関が開き、出てきたのは大勇者ではなく…
「遅いぞ、バカもん!どこで道草食ってた!!!」
僧侶アンニンだった。アンニンは呆れた顔をしながら、有馬の話を聞く。
「8年ぶりに実家を見に…分譲住宅になってましたけど。」
「そういや、有馬の実家は明日香の家の向かいで、歯科医院だったな。」
「明日香の家の前で一悟と涼也を見かけましたが、いとこ2人と散歩中でした。こっちの事は話してません。」
「それならまだ大丈夫なようだな?こっちは今、海の家を閉めているところだ。長旅で疲れただろ…少し休むといい。」
僧侶の言葉に、有馬はリビングスペースにスーツケースを置く。そこでは、ここなとトロールがテーブルをはさんで向かい合い、オセロをしている。
「この角ももらった…」
「うぐぅ…また…角…」
流石のトロールも、ボードゲームが得意なここなに手も足も出ないようだ。
今回、茅ケ崎の海岸で合宿に至った事には、理由があった。一つは、友菓の祖父が毎年プロデュースしている海の家のスタッフの数が足りず、3日ほど友菓の祖父が新たなスタッフを確保する間だけ、シュトーレン達が海の家のスタッフを任されることになったのだ。もう一つは、友菓、ここな、有馬、クラフティの4人の間にできてしまったわだかまりを無くすには、「茅ケ崎に行って腹をわって話し合うのがいいだろう」と、ガレットが判断したからだった。合宿先は運よく賢者トリュフの義理の弟が1か月ほど前からハワイへサーフィンに出かけたため、彼の家を合宿先として使える事になったのだ。
段々とシュトーレン達がビーチから屋敷へ戻ってくる。疲れている様子から、今日の海の家は大繁盛だったようだ。
「さてと…少し休んだら、夕飯食べに行くかー!!!」
そう言いながら大勇者ガレットが大きく伸びをした刹那…
「大勇者様っ!!!」
背後から涼也の声がして、振り向くと、そこには自転車に跨る涼也が、同じこげ茶色の髪を背中の真ん中あたりまで伸ばしたピンクを基調としたトップスに白い膝丈のスカートの女子中学生を乗せている。彼女は涼也のTシャツと共に明日香のブレイブスプーンを掴んでいるが、恐ろしいものを見てしまった表情をしており、ひどく怯えている。
「何でここに居るのか知りてぇけど、今はそれどころじゃねぇっ!!!紗山中学校にマンゴープリンのカオスイーツと鎧の幹部が現れて、一悟が戦ってる!」
「何…だって!?そ、その子は…」
「は…ひぃ…は…」
自転車から降りたほなみは、涼也に支えられてはいるものの、気が動転しているせいか通常の会話に戻れるまで、時間を要するようだ。
「ほなみの奴、8年前に目の前でマンゴープリンのカオスイーツに姉さんとモカが襲われた時の事が、フラッシュバックしたんだ…お願いします!!!せめて一悟のパートナーであるココアだけでも…このままだと…隣接している小学校まで被害が及ぶんです!!!」
そう言いながら涼也はいとこを支えつつ、大勇者ガレットに頭を下げる。勇者でなくても、マジパティでなくても…自分に一悟をみんなを守るため、涼也が選んだ手段…
「セーラ、移動するならコレを使え!」
「!?」
バッグからアクセサリー化した自分の大剣を取り出す娘に、ガレットはアロハシャツのポケットからコンパクトのような大きさの白と金色を基調とした物体を投げ渡す。それは扉のような形をしており、真ん中にはマジパティと同じモチーフが飾られている。
「スイーツのエネルギーがたまっている今のセーラなら、ブレイブポルトを使いこなせるはずだ。紗山中学校の座標は既に登録してある。行ってこい…」
大勇者の言葉に、シュトーレンの背後にみるく、ユキ、玉菜の3人が並ぶ。
「御意…大勇者ガレット…」
「おーっす!一悟、涼也!法事は終わったのか?」
木津先生もとい、有馬だ。そんな有馬の姿は、端から見れば男のような口調で話す女性にしか見えない。
「終わった…けど、どうしてここに…」
「いやー…俺の本来の実家を見てみたくってさぁ…さっさと仕事片付けて首都高飛ばしてきたんだ。」
…というのは、建前である。有馬の車の後部座席には紫色のスーツケースが乗っている。
「まぁ…見に来たはいいんだけど…俺の実家、なくなってんだけど?」
有馬の指さす先には、3件の分譲住宅…8年前には有馬の実家である歯科医院があった場所だ。
「藍本歯科…ですよね?確か、3年前に茅ケ崎駅の近くに移転して、藍本さん一家…そちらに引っ越しましたよ?」
「引っ越し…た?」
涼也の言葉に、有馬の表情は青ざめる。
「はい…おじいちゃん先生が4年前にアルツハイマー型の認知症になっちゃって、藤沢の大学病院で働いてた息子さんがあとを継いだんですけど…」
「その後だよね…東日本台風で藍本さんの所の窓ガラス殆ど割れちゃって、設備がめちゃくちゃ…んで新型病原菌だー、介護問題だー…ってなんだかんだあって、歯医者さんごとお引越し。」
淡々と話すほなみに、いすみが説明を付け加える。
「あのじーさん、もうトシだったからなぁ…ありがと。俺、他に立ち寄りたい場所あるから、そっちに行ってくる!2人共、あとでなー!」
有馬はそう言いながら運転席のパワーウィンドウを閉め、海岸方面へ向かってしまったのだった。
「あと…で?」
一悟の祖父の家がある東海岸から南下し、国道134号線を西へしばらく進むと、有馬はサザンクロスビーチの近くにある赤い屋根の屋敷の駐車スペースにマーチを止める。そこには既にハイエースと赤いデミオがあり、有馬はスーツケースを転がしながら屋敷のインターホンを鳴らす。
「大勇者様、有馬です。遅くなってすみませーん!」
3分後に玄関が開き、出てきたのは大勇者ではなく…
「遅いぞ、バカもん!どこで道草食ってた!!!」
僧侶アンニンだった。アンニンは呆れた顔をしながら、有馬の話を聞く。
「8年ぶりに実家を見に…分譲住宅になってましたけど。」
「そういや、有馬の実家は明日香の家の向かいで、歯科医院だったな。」
「明日香の家の前で一悟と涼也を見かけましたが、いとこ2人と散歩中でした。こっちの事は話してません。」
「それならまだ大丈夫なようだな?こっちは今、海の家を閉めているところだ。長旅で疲れただろ…少し休むといい。」
僧侶の言葉に、有馬はリビングスペースにスーツケースを置く。そこでは、ここなとトロールがテーブルをはさんで向かい合い、オセロをしている。
「この角ももらった…」
「うぐぅ…また…角…」
流石のトロールも、ボードゲームが得意なここなに手も足も出ないようだ。
今回、茅ケ崎の海岸で合宿に至った事には、理由があった。一つは、友菓の祖父が毎年プロデュースしている海の家のスタッフの数が足りず、3日ほど友菓の祖父が新たなスタッフを確保する間だけ、シュトーレン達が海の家のスタッフを任されることになったのだ。もう一つは、友菓、ここな、有馬、クラフティの4人の間にできてしまったわだかまりを無くすには、「茅ケ崎に行って腹をわって話し合うのがいいだろう」と、ガレットが判断したからだった。合宿先は運よく賢者トリュフの義理の弟が1か月ほど前からハワイへサーフィンに出かけたため、彼の家を合宿先として使える事になったのだ。
段々とシュトーレン達がビーチから屋敷へ戻ってくる。疲れている様子から、今日の海の家は大繁盛だったようだ。
「さてと…少し休んだら、夕飯食べに行くかー!!!」
そう言いながら大勇者ガレットが大きく伸びをした刹那…
「大勇者様っ!!!」
背後から涼也の声がして、振り向くと、そこには自転車に跨る涼也が、同じこげ茶色の髪を背中の真ん中あたりまで伸ばしたピンクを基調としたトップスに白い膝丈のスカートの女子中学生を乗せている。彼女は涼也のTシャツと共に明日香のブレイブスプーンを掴んでいるが、恐ろしいものを見てしまった表情をしており、ひどく怯えている。
「何でここに居るのか知りてぇけど、今はそれどころじゃねぇっ!!!紗山中学校にマンゴープリンのカオスイーツと鎧の幹部が現れて、一悟が戦ってる!」
「何…だって!?そ、その子は…」
「は…ひぃ…は…」
自転車から降りたほなみは、涼也に支えられてはいるものの、気が動転しているせいか通常の会話に戻れるまで、時間を要するようだ。
「ほなみの奴、8年前に目の前でマンゴープリンのカオスイーツに姉さんとモカが襲われた時の事が、フラッシュバックしたんだ…お願いします!!!せめて一悟のパートナーであるココアだけでも…このままだと…隣接している小学校まで被害が及ぶんです!!!」
そう言いながら涼也はいとこを支えつつ、大勇者ガレットに頭を下げる。勇者でなくても、マジパティでなくても…自分に一悟をみんなを守るため、涼也が選んだ手段…
「セーラ、移動するならコレを使え!」
「!?」
バッグからアクセサリー化した自分の大剣を取り出す娘に、ガレットはアロハシャツのポケットからコンパクトのような大きさの白と金色を基調とした物体を投げ渡す。それは扉のような形をしており、真ん中にはマジパティと同じモチーフが飾られている。
「スイーツのエネルギーがたまっている今のセーラなら、ブレイブポルトを使いこなせるはずだ。紗山中学校の座標は既に登録してある。行ってこい…」
大勇者の言葉に、シュトーレンの背後にみるく、ユキ、玉菜の3人が並ぶ。
「御意…大勇者ガレット…」
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