激甘革命!マジパティ(分割版)

夜ノ森あかり

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勇者クラフティ編

第29話「甦る記憶…木津先生と波乱の終業式!」①

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「これ以上の奇襲は、あたし達のミルフィーユと勇者様を怒らせるだけです!」



 余程の事でない限り、ミルフィーユとクリームパフの後ろで補助に回るプディングが黄色い光を帯びた鎖をたぐりつつ、前に立つ。

「今、その場を離れている大切な存在を失ってしまうくらいなら、勇者の愛の名のもとに…」

 変身前は腕力に自身のないプディングだが、今は違う…彼女の心の奥底から湧き上がる大切な想いが、プディングワンドから延びる鎖を一層強くする。



『みるくのプディングとしての力が強まってる…新しい力に目覚める兆しだわ!!!』



 魔界のクリームパフが、プディングの新しい力を察した刹那、ダークミルフィーユが持つ黒い杖が鎖の締め付けが強まると同時に音を立ててきしみはじめ…



「バキィッ!!!!!」



 ダークミルフィーユが持つ黒い杖が真っ二つに折れ、球体がグラウンドに急降下する。

「わわっ…」

 黄色い光を帯びた鎖は瞬く間にプディングワンドへと戻るものの、戻る反動でプディングはバランスを崩してしまう。



「ぽすっ…」



「大丈夫か?」

「プディング、危ないトコだったわね!」

 尻もちをつく寸前で、ソルベとクリームパフに支えられたのだった。ダークミルフィーユの方も上空でバランスを崩したようで、地上にお尻から墜落してしまった。



「…して…どうしてあのミルフィーユ相手に…そんな力を…」



「それは、あたしの大切な存在だからです。大切な存在だからこそ、あたしはミルフィーユを守りたいんですっ!!!」



 ソルベとクリームパフに支えられながらではあるものの、プディングのその言葉とプディングの瞳に偽りは一切見受けられない。



幼馴染おさななじみだから…今まではそうだったかもしれません。でも、あたしはもうミルフィーユの事を「幼馴染だから」で片づけませんっ!!!」



 それはまさしくプディングとしてではなく、米沢よねざわみるくとしての言葉だった。その力強い瞳に何を感じたのか、ダークミルフィーユはすっと立ち上がる。

「あなた…あの女勇者と似たようなトコ…あるのね。今回だけは見逃してあげるけど…次こそは絶対にぶっ潰してやるわ!!!」

 そう吐き捨てたダークミルフィーユは、フッと音を立てて消えてしまった。そんな彼女が去った跡には、折れた黒い杖の残骸が佇むだけだった。







 ………







「うぐっ…っは…」



 うごめく黒いもやの中、カオスが苦しみに満ちた声を上げる。サン・ジェルマン学園から帰還したダークミルフィーユは、カオスの異変に気付くや否や、急いで黒いもやに寄り添う。先刻のプディングとの対峙の時には存在していた髪の黄色いメッシュは消え、彼女のツインテールはピンク一色。ただ…腰のチェーンには黄色いエンジェルスプーンが輝くのみ。

「ニコル!!!大丈夫?なにがあったの?」

 彼女の声に気づいたカオスは、呼吸を整えながら話はじめた。



「私…いや、俺はもう…この状態で…いる…ことに…限…界を感じ…てしまっ…たよう…だ…」



「それって…いつから…?」



「昨日…シュトーレンのいる…場所…から…戻ってきた…時…」



 カオスの背後には黒光りする稲妻…まるで、カオス自体が何者かの精神体を利用している事を象徴しているかの様…

「それじゃあ、あの女の勇者のせいで…」



「シュトーレンを責めるな!!!」



 ダークミルフィーユの言葉に、カオスが突然声を荒げる。



「例えミルフィーユでも…俺の妹を…俺の家族を悪くいう事だけは…許さない…」



 黒い稲妻を受け続けるカオスの黒いもやの中から、徐々に人間の手が出てくる。手の大きさからして、20代前半の男性だろうか…黒いもやから徐々に赤を基調とした甲冑に包まれた腕が現れ、ダークミルフィーユは思わず言葉を失ってしまう。



「俺は…負けてしまったんだ…カオスだけでなく…兄さんの偉大さを憎んできた自分自身にも…」



 甲冑の青年の手が、ダークミルフィーユの両頬に沿う。青年は実態を持たない状態なのか、全身半透明だ。やがて、黒いもやから頭が出て来る。緑がかった黒い髪に、大勇者ガレットと瓜二つの顔立ち…その顔立ちこそ…



「ニコル…」



 その姿こそ正しく、勇者クラフティもとい…ニコラス・クラフティ・ブラーヴ・シュヴァリエ本人だ。

明日香あすか…すまない…俺の心が弱かったばかりに…」

 そう言いながら勇者クラフティは、精神体の状態でダークミルフィーユを優しく抱きしめる。



 そんな光に戻ろうとする2人を遮るかの如く、黒いもやは2人の背後に忍び寄ろうとする。







 ダークミルフィーユが去り、折れてしまったダークワンドを僧侶アンニンに見せたみるくとラテは、解析のためにアンニンの車でアンニンの住むマンションへやって来た。

「おかえりなさいませ、マスター。準備は整ってます。」

「うむ…大勇者様とセーラの許可は得た。頼むぞ、みるく!ラテ!」

「はいっ!!!」

 みるくはブレイブスプーンを空高く掲げ、呪文を叫ぶ。



「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」



「マジパティはカオスイーツのいない所で変身してはいけない」という掟がある。だが、カオスにまつわる物質の解析及び、精霊の治癒は例外だ。この掟はアンニンが父親であるブランシュ卿から、僧侶になる勉強の一環で教えられたものである。ラテは白いマグカップから飛び出し、人間の姿に変わる。白いマグカップは一悟や雪斗とのブレイブレットと同じ形状のブレスレットに変化し、ラテの左腕に装着された。



「それから、姉さん。パパ上様から預かってた石板、読みやすくしといた。」

 そう言いながら、ジュレは姉に石板を手渡す。点だけで記された石の板…届けられた当初は、真っ黒で一切読めなかった石板ではあったが、ジュレとキョーコせかんどのお陰で、アンニンがたやすく解読できるまでになっている。

「ありがとう…ふむ、やっぱり点字と変わらんか…」

 ため息をつきながらつぶやく僧侶は、スイーツ界の姿へと戻る。アンニンのスイーツ界の姿が、常に幼女であるとは限らない。特に新月を挟んだ3日間は、月を経由してスイーツ界からエネルギーを取り入れられる時間帯が夕方のみであるため、僧侶アンニンにとっては非常に分が悪い。マカロンとのライブ中継の時は、前回の満月の時に力を使わなかった事で力が蓄積されていたため、短期間で幼女の姿を披露できたのである。すなわち、今の僧侶アンニンの姿は実年齢と相応の体系となっている。



 僧侶はプディングに変身したみるく、ラテと共にジュレが作り出した結界の中へ入る。月が見える位置に折れてしまったダークワンドを置き、自身の杖をダークロッドの上にかざす。



「僧侶アンニンの名において命ず!光よ、月の導きと共にこの杖に集結せよ!!!」



 スイーツ界のエネルギーがアンニンの杖に集まり、結界には二重の円と六芒星の魔法陣が現れる。プディングはアンニンの杖にプディングワンドを近づけ、ラテはプディングの真横に立ち、プディングワンドを反対側から支える。膨大なスイーツ界のエネルギーに2人は圧倒されそうになるが、今のみるくとラテにはそう弱音を吐いている時間などなかった。

「黒きけがれよ、光と共に溶け込み、この場にその正体を現せ!!!!!」

「プディングオペラシオン!!!!!」



 アンニンとプディングの叫び声と共に、白い光と黄色い光が結界の中で混ざり合い、ダークワンドの球体は混ざり合う光の中で徐々に形を変えていく…



「ゴォッ…」



 結界の中で突風が吹き荒れ、アンニンのロングスカート、プディングのスカート、ラテのワンピースが髪と共にふわっと浮かび上がり、ラテは突風にあおられ、結界の障壁にぶつかり、そのまま精霊の姿に戻ってしまった。

「はにゃ~~~~」

 突風がおさまると、そこにはダークワンドではなく、濃紺の襟に白い身頃のセーラー服に身を包んだこげ茶色の髪の少女…その姿にプディングは驚きを隠せない。



「ここなさんっ!!!」



 ダークワンドから出てきたのは、先代プディングであった金城ここなだったのである。ダークワンドから金城ここなを解放した僧侶アンニンは、まるでぷつりと糸が切れたマリオネットの如く、その場に倒れこんでしまったのだった。



「姉さんっ!!!」

「僧侶さまッ!!!」
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