激甘革命!マジパティ(分割版)

夜ノ森あかり

文字の大きさ
上 下
107 / 248
勇者クラフティ編

第29話「甦る記憶…木津先生と波乱の終業式!」①

しおりを挟む
「これ以上の奇襲は、あたし達のミルフィーユと勇者様を怒らせるだけです!」



 余程の事でない限り、ミルフィーユとクリームパフの後ろで補助に回るプディングが黄色い光を帯びた鎖をたぐりつつ、前に立つ。

「今、その場を離れている大切な存在を失ってしまうくらいなら、勇者の愛の名のもとに…」

 変身前は腕力に自身のないプディングだが、今は違う…彼女の心の奥底から湧き上がる大切な想いが、プディングワンドから延びる鎖を一層強くする。



『みるくのプディングとしての力が強まってる…新しい力に目覚める兆しだわ!!!』



 魔界のクリームパフが、プディングの新しい力を察した刹那、ダークミルフィーユが持つ黒い杖が鎖の締め付けが強まると同時に音を立ててきしみはじめ…



「バキィッ!!!!!」



 ダークミルフィーユが持つ黒い杖が真っ二つに折れ、球体がグラウンドに急降下する。

「わわっ…」

 黄色い光を帯びた鎖は瞬く間にプディングワンドへと戻るものの、戻る反動でプディングはバランスを崩してしまう。



「ぽすっ…」



「大丈夫か?」

「プディング、危ないトコだったわね!」

 尻もちをつく寸前で、ソルベとクリームパフに支えられたのだった。ダークミルフィーユの方も上空でバランスを崩したようで、地上にお尻から墜落してしまった。



「…して…どうしてあのミルフィーユ相手に…そんな力を…」



「それは、あたしの大切な存在だからです。大切な存在だからこそ、あたしはミルフィーユを守りたいんですっ!!!」



 ソルベとクリームパフに支えられながらではあるものの、プディングのその言葉とプディングの瞳に偽りは一切見受けられない。



幼馴染おさななじみだから…今まではそうだったかもしれません。でも、あたしはもうミルフィーユの事を「幼馴染だから」で片づけませんっ!!!」



 それはまさしくプディングとしてではなく、米沢よねざわみるくとしての言葉だった。その力強い瞳に何を感じたのか、ダークミルフィーユはすっと立ち上がる。

「あなた…あの女勇者と似たようなトコ…あるのね。今回だけは見逃してあげるけど…次こそは絶対にぶっ潰してやるわ!!!」

 そう吐き捨てたダークミルフィーユは、フッと音を立てて消えてしまった。そんな彼女が去った跡には、折れた黒い杖の残骸が佇むだけだった。







 ………







「うぐっ…っは…」



 うごめく黒いもやの中、カオスが苦しみに満ちた声を上げる。サン・ジェルマン学園から帰還したダークミルフィーユは、カオスの異変に気付くや否や、急いで黒いもやに寄り添う。先刻のプディングとの対峙の時には存在していた髪の黄色いメッシュは消え、彼女のツインテールはピンク一色。ただ…腰のチェーンには黄色いエンジェルスプーンが輝くのみ。

「ニコル!!!大丈夫?なにがあったの?」

 彼女の声に気づいたカオスは、呼吸を整えながら話はじめた。



「私…いや、俺はもう…この状態で…いる…ことに…限…界を感じ…てしまっ…たよう…だ…」



「それって…いつから…?」



「昨日…シュトーレンのいる…場所…から…戻ってきた…時…」



 カオスの背後には黒光りする稲妻…まるで、カオス自体が何者かの精神体を利用している事を象徴しているかの様…

「それじゃあ、あの女の勇者のせいで…」



「シュトーレンを責めるな!!!」



 ダークミルフィーユの言葉に、カオスが突然声を荒げる。



「例えミルフィーユでも…俺の妹を…俺の家族を悪くいう事だけは…許さない…」



 黒い稲妻を受け続けるカオスの黒いもやの中から、徐々に人間の手が出てくる。手の大きさからして、20代前半の男性だろうか…黒いもやから徐々に赤を基調とした甲冑に包まれた腕が現れ、ダークミルフィーユは思わず言葉を失ってしまう。



「俺は…負けてしまったんだ…カオスだけでなく…兄さんの偉大さを憎んできた自分自身にも…」



 甲冑の青年の手が、ダークミルフィーユの両頬に沿う。青年は実態を持たない状態なのか、全身半透明だ。やがて、黒いもやから頭が出て来る。緑がかった黒い髪に、大勇者ガレットと瓜二つの顔立ち…その顔立ちこそ…



「ニコル…」



 その姿こそ正しく、勇者クラフティもとい…ニコラス・クラフティ・ブラーヴ・シュヴァリエ本人だ。

明日香あすか…すまない…俺の心が弱かったばかりに…」

 そう言いながら勇者クラフティは、精神体の状態でダークミルフィーユを優しく抱きしめる。



 そんな光に戻ろうとする2人を遮るかの如く、黒いもやは2人の背後に忍び寄ろうとする。







 ダークミルフィーユが去り、折れてしまったダークワンドを僧侶アンニンに見せたみるくとラテは、解析のためにアンニンの車でアンニンの住むマンションへやって来た。

「おかえりなさいませ、マスター。準備は整ってます。」

「うむ…大勇者様とセーラの許可は得た。頼むぞ、みるく!ラテ!」

「はいっ!!!」

 みるくはブレイブスプーンを空高く掲げ、呪文を叫ぶ。



「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」



「マジパティはカオスイーツのいない所で変身してはいけない」という掟がある。だが、カオスにまつわる物質の解析及び、精霊の治癒は例外だ。この掟はアンニンが父親であるブランシュ卿から、僧侶になる勉強の一環で教えられたものである。ラテは白いマグカップから飛び出し、人間の姿に変わる。白いマグカップは一悟や雪斗とのブレイブレットと同じ形状のブレスレットに変化し、ラテの左腕に装着された。



「それから、姉さん。パパ上様から預かってた石板、読みやすくしといた。」

 そう言いながら、ジュレは姉に石板を手渡す。点だけで記された石の板…届けられた当初は、真っ黒で一切読めなかった石板ではあったが、ジュレとキョーコせかんどのお陰で、アンニンがたやすく解読できるまでになっている。

「ありがとう…ふむ、やっぱり点字と変わらんか…」

 ため息をつきながらつぶやく僧侶は、スイーツ界の姿へと戻る。アンニンのスイーツ界の姿が、常に幼女であるとは限らない。特に新月を挟んだ3日間は、月を経由してスイーツ界からエネルギーを取り入れられる時間帯が夕方のみであるため、僧侶アンニンにとっては非常に分が悪い。マカロンとのライブ中継の時は、前回の満月の時に力を使わなかった事で力が蓄積されていたため、短期間で幼女の姿を披露できたのである。すなわち、今の僧侶アンニンの姿は実年齢と相応の体系となっている。



 僧侶はプディングに変身したみるく、ラテと共にジュレが作り出した結界の中へ入る。月が見える位置に折れてしまったダークワンドを置き、自身の杖をダークロッドの上にかざす。



「僧侶アンニンの名において命ず!光よ、月の導きと共にこの杖に集結せよ!!!」



 スイーツ界のエネルギーがアンニンの杖に集まり、結界には二重の円と六芒星の魔法陣が現れる。プディングはアンニンの杖にプディングワンドを近づけ、ラテはプディングの真横に立ち、プディングワンドを反対側から支える。膨大なスイーツ界のエネルギーに2人は圧倒されそうになるが、今のみるくとラテにはそう弱音を吐いている時間などなかった。

「黒きけがれよ、光と共に溶け込み、この場にその正体を現せ!!!!!」

「プディングオペラシオン!!!!!」



 アンニンとプディングの叫び声と共に、白い光と黄色い光が結界の中で混ざり合い、ダークワンドの球体は混ざり合う光の中で徐々に形を変えていく…



「ゴォッ…」



 結界の中で突風が吹き荒れ、アンニンのロングスカート、プディングのスカート、ラテのワンピースが髪と共にふわっと浮かび上がり、ラテは突風にあおられ、結界の障壁にぶつかり、そのまま精霊の姿に戻ってしまった。

「はにゃ~~~~」

 突風がおさまると、そこにはダークワンドではなく、濃紺の襟に白い身頃のセーラー服に身を包んだこげ茶色の髪の少女…その姿にプディングは驚きを隠せない。



「ここなさんっ!!!」



 ダークワンドから出てきたのは、先代プディングであった金城ここなだったのである。ダークワンドから金城ここなを解放した僧侶アンニンは、まるでぷつりと糸が切れたマリオネットの如く、その場に倒れこんでしまったのだった。



「姉さんっ!!!」

「僧侶さまッ!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...