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勇者クラフティ編

第18話「勇者様は女子高生!迫る体育教師の魔の手」⑥

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 サン・ジェルマン学園では、不穏な状況が続いている。高等部では中等部から逃走してきた千葉先生がシュトーレンを狙って、竹刀を携えつつ廊下を徘徊し、中等部では突然、グラウンドに巨大なイチゴタルトの怪物が現れたのである。怪物の身体にはイチゴに紛れるかのように、ピンク色のツインテールの人形が佇む。



『ラテ!ガトー!カオスイーツが現れたわ!!!今すぐに一悟達の気配を消して、保健室へ連れて来てちょうだい!!!!!』



 保健室の窓から見えるグラウンドのカオスイーツに、僧侶は精霊達にテレパシーで指示を出す。テレパシーを聞いたラテは一悟、みるく、雪斗のいる空間を捻じ曲げ、ガトーは一悟達を保健室へ連れて来る。そして…この人物も…

「失礼します!白石さんが、体育館で体調を崩しました!!!」

「ありがと…汀良さん…愛してゆぅー…」

 保健室に入るなり、玉菜は一悟達の前で瑞希に抱き着く。

「やめてください!不純交友です!!!」

 病状を偽り、風紀委員を使ってまで、保健室にやってきたようだ。

「汀良さん、白石さんの治療は私がやります。気を付けて体育館に戻りなさい。」

 僧侶は汀良瑞希もとい、ティラミスが一悟とみるくと玉菜がマジパティであることを知っているのかどうかはわからないが、グラウンドに現れたカオスイーツが、彼女が出したカオスイーツではないという事だけは確信しているようだ。



『甘いですよ…僧侶アンニン…ですが、手柄をあの男に取られるのだけはいただけません…』



 保健室前の廊下で、汀良瑞希はブラックビターの幹部・ティラミスの姿へ変わる。あの男が幹部の仲間入りをしてから、ひしひしと伝わる媒体が存命していた頃に仕えていたある人物の面影…人当たりの良い性格で、そこは生徒会長と通じるところがある。そして、甦るその人物に対する後悔…巨悪と共に炎の中に消えていった…名前は片時も忘れた時はない…

「…甘夏あまなつ様……」

 そして、メイドとくノ一を掛け合わせた恰好で、鬼の角を携えた少女は、カオスイーツと対峙する。



「クグロフからの入れ知恵のようですが、勝手な真似は困りますね!!!」





 カオスイーツの背後には、戦国武将の様な鎧をまとった青年…ベイクが立っている。

「何をしようが私の勝手だ。私は貴様の存在自体気に食わん…」

「奇遇ですね!私もあなたの存在自体、気に入りません!!!」

 そう言いながら、ティラミスはカオスイーツとベイクの前でクナイを構える。ティラミスがベイクが出したカオスイーツと戦っている間に、一悟達は保健室でマジパティに変身する。高等部へ逃亡した伯父、どこへ行ったのかわからない従兄弟…一悟自身には不安が募る。



「バシュッ…バシュッ…」



 ティラミスに向けて飛来する赤いジャムの様な物体を、鬼メイドは次々とクナイで斬りかかる。「甘夏」という存在と共に、段々と芽生えるこの暖かい気持ち…自分はこのままブラックビターの幹部で居続けられなくなるのだろうか…鬼メイドに不安と迷いが芽生える。

「マカロン様…私めのワガママ…お許しください!!!!!」

 鬼メイドは地面を思いっきり踏み、クナイを振り上げるが、カオスイーツから延びる赤いジャムが触手の如く伸び、ティラミスは全身をジャムでがんじがらめにされてしまった。

「フン…メイドはおとなしく主のいう事を聞くだけでいいんだ!この駄メイドが!!!」

「ぐはっ…」

 ベイクの言葉に呼応するかのように、ティラミスの身体はミシミシと音を立て、硬化したジャムによって締め付けられる。媒体の肉体自体が存在しないティラミスだが、「痛み」は存在する。それは他の幹部も知っている…勿論、この男も…



「駄メイドに相応しい姿にしてやろう…ベリータルトカオスイーツ、駄メイドを精神的に追い詰めろ!!!!!」



「じゅわっ…」



 何かが蒸発する音と共に、湯気が立ち込める。ティラミスが視線を見下げると、彼女のシノビ装束とエプロンがみるみるうちに溶け始め、徐々に彼女の素肌が露わになっていく…

「な…なんて不埒な真似を…そのゲスな表情…ますます不快になります…」

 痛みと共に薄れゆく意識…そんな彼女の視線に、カオスイーツの腰にある物体がぶら下がっている事に気づく。

「あ…あれ…は…」

 言葉を出す事すら許されぬほどの締め付けで、ティラミスの状況はますます悪化していく…その時だった。







「クリームバレットクラッシャー!!!!!」



 クリームパフの声と共に白銀の光を纏ったドリルがティラミスを拘束するジャムを砕き、ティラミスは身体の自由を取り戻した。そして、ティラミスの背後に現れた4人のマジパティ達…

「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」

「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ブルーのマジパティ・ソルベ!!!」

「白銀のマジパティ・クリームパフ!!!」



「「スイート…」」

「「レボリューション!!!」」



「「「「マジパティ!!!!!」」」」



「さぁ、禍々しい混沌のスイーツ!!!勇者の光を恐れぬのならばかかってきなさい!」

 マジパティ達の姿を確認したティラミスは、丸出し状態となってしまった右胸を左手で隠しつつ、いつもの態度へと切り替え、ベイクはマジパティの登場に「チッ」と舌打ちし、「フッ」と音を立ててその場からいなくなってしまった。

「やっと来ましたか…マジパティども…この際ですから、ご説明いたします!あの鎧の男にカオスイーツにされたのは、2年B組出席番号31番・千葉涼也…腰のスプーンの形状からして、恐らく…彼の行方不明となった姉・千葉明日香あすかは、先代のマジパティだと思われます…」

 ティラミスの言葉に、ミルフィーユは愕然とする。

「そ…そんな…あすちゃんが…」

「私も…この現実を受け入れたくありませんでした…お願いです…カオスイーツとなった彼を…助けてください…ブラックビターの幹部がマジパティどもに助けを請うのも、変ですよね?でも…彼はカオスイーツにはなるべきではない人材だったんです…」

 そんなブラックビターの幹部の言葉に、クリームパフはフッと笑う。



「助けを請うのがオグルだろうが、海坊主であろうが、誰であろうとも、マジパティの本来の目的はカオスイーツを浄化する事…そうでしょ?ミルフィーユ…」



 そう言いながら、クリームパフは愕然とするミルフィーユに手を差し出す。

「それにね…涼也は一悟がマジパティであるからこそ、お姉さんの時にできなかったサポートをしたいんだって…」

 そう言いながらソルベもクリームパフに続いて、ミルフィーユに手を差し、プディングはミルフィーユの真横につく。

「だから、悲しんでいる暇はありません…涼ちゃんのお願い、マジパティとして叶えましょう!」

 他のマジパティ達の言葉に、ミルフィーユは再び立ち上がる。



「あぁ!涼ちゃん、俺が絶対に元に戻してやる!!!」



 立ち直るミルフィーユを前に、カオスイーツはツインテールの人形の目を光らせ、再びジャムのような赤い物体をマジパティ達に向けて放つ。

「ソルベブリザード!!!!!」

 ソルベは長弓をバトンの要領で回転させながら冷たい風を起こし、カオスイーツが放った物体をみるみるうちに凍り付かせてしまう。

「プディングサーチャー!!!!!」

 プディングは2本の触角をぴこぴこと動かし、今回のカオスイーツの弱点を探ろうとする。触角の動きがピタッと止まったと同時に、プディングはミルフィーユに弱点を告げる。



「ミルフィーユ、イチゴに紛れているあのツインテールのお人形を狙ってください!!!!!」



 プディングの言葉に黙って頷いたミルフィーユは、クリームパフが作った足場に飛び移り、ミルフィーユグレイブを構える。



「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」



 ミルフィーユは足場から飛び上がり、ツインテールの人形に斬りかかる。ミルフィーユに斬られた人形は、瞬く間に砂のようにさらさらと崩れ、人形が完全に崩れ去ったと同時に、カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿である千葉涼也の姿へと戻る。怪物から戻る従兄弟を、ミルフィーユは優しく抱きしめ、彼の姉の形見のブレイブスプーンを、彼に持たせる。
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