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勇者クラフティ編

第15話「攫われた勇者!傷だらけのライオン」①

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「はぁっ…はぁっ…」



 湘南しょうなんのビーチを駆ける幼い一悟いちご…彼を追いかけるのは、巨大なタピオカのカオスイーツ…化け物に追いかけられながら、慣れない砂浜を走るのは、もうすぐ6歳になる彼にとっては過酷であった。そんな一悟は砂浜のくぼみに足をとられ、転倒してしまう。

「あぁっ…」

 巨大なタピオカのカオスイーツは、容赦なく一悟に襲い掛かろうとするが…



「ドゴッ…」



 たなびくピンクのツインテール…白とピンクを基調としたコスチューム…見た目は14歳ほどの少女…そんな少女が、幼い子供を襲う怪物を蹴りを入れる。



「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!禍々まがまがしい混沌こんとんのスイーツ、勇者の力を受ける覚悟を決めなさい!!!!!」



 そう叫んだ少女は、ピンク色の長薙刀を呼び出し、構え、そして飛び上がる。



「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」



 ミルフィーユの叫び声と共に一刀両断となったカオスイーツは、瞬く間にサーファーの男性の姿に戻り、砂浜に倒れこむ。人間に戻ったことを確認したミルフィーユは、そっと一悟に手を差し出す。

「もう大丈夫よ…」



 湘南の海を背景に、手を差し伸べる戦う少女の姿…幼い一悟にとって、彼女はヒーローだった。



 そう…ヒーローだったのだ!!!!!







「まただ…またあの夢…」

 先代マジパティ敗北の理由を聞いて以降、一悟は毎晩のように湘南の海と先代のミルフィーユの夢を見るようになった。

「いっくん…また見ちゃったの?」

「あぁ…修学旅行中もずーっとだぜ…」

 先代ミルフィーユの声…どことなくいなくなったいとこと似ている…そして、あの顔立ちも…



「ガラッ…」



 教室のドアが開くと同時に、そこから雪斗と僧侶とよく似た顔立ちの10歳ほどの少女が入って来る。サン・ジェルマン学園中等部の女子制服に、緑色のアンダーリムのメガネの姿をした少女…みるくはどことなく見覚えがあるようだ。

「失礼する!」

 転校生であるのか否か、彼女は雪斗ゆきとを護衛にしているかの如く、一悟とみるくの所へやって来る。

千葉ちば一悟、氷見ひみ雪斗、米沢よねざわみるく…昼休み、弁当持参で保健室に来い!」

 あまりにも唐突な言葉に、一悟達は狐に顔をつままれたような顔をする。

「それから、今日は絶対に首藤聖奈しゅとうせいなと連絡を取るな!勿論、婚約者である取手利雄とりでりおともだ!!現在…」



「ガラッ…」



「みんな、席につけ!ホームルームを…」

 少女のセリフを遮るかのように、顔中にひっかき傷を作った下妻しもつま先生が教室へ入る。

「って、誰だ?そこの緑のメガネの女子!このクラスの者ではないな?速やかに自分のクラスに戻りたまえ!!!!!」

 教師の言葉に、少女は「フン」と鼻で笑った。

「そのひっかき傷…出勤中に猫の縄張り争いにでも巻き込まれたようだな?」

「なっ…教師に向かって、なんという口の利き方を…名を名乗れ!!!」



「私か?私は…厠野花子かわやのはなこさんだ。」



 自らを「厠野花子」と名乗る少女は、そのまま教室を出る。

「か…かわ…や?」

「「トイレ」という意味だ、いちごん。」

 少女の名前に疑問を持つ一悟に対して、雪斗が囁く。







「ガラッ…」



「「「失礼します!!!」」」

 昼休みに入り、一悟達は保健室に入る。そこには普段よりも目がぱっちりとしている、養護教諭が座っている。一悟達が保健室にやってきたと同時に、ベッドのカーテンが開き、そこから今朝の「厠野花子」と名乗る少女が出てくる。

「やっと来たか…キョーコせかんど、カーテンは…閉めたようだな?」

「はいっ!思いっきりここ最近の話をお伝え出来ますよ、マスター♪」

「キョーコ…せかんど…?」

「マスター…?」

 養護教諭と少女のやり取りに、一悟と雪斗は疑問を示すが…

「僧侶様…もしかして、明日…満月ですか?」

「うむ…今日から十六夜の月である明後日まで、この体格だ。」

 そう言いながら、アンニンはキョーコせかんどが用意した、敷かれた茣蓙に置いてあるちゃぶ台の前に座る。

「話はあとでするとして、まずは食事だ。」

 そう言いながら、幼女の姿の僧侶は自身の弁当をちゃぶ台に置く。



 一方、下妻先生は食堂にやって来て、仕事中の大勇者様とひそひそ声で会話をしている。その大勇者様はどことなーく…機嫌がよろしくない。

「大勇者様、また魔眼まがん使いましたね?」

「だとしたら、なーにー?こっちは娘の事でむしゃくしゃしてるんだけどー?」

「ところで、娘の聖奈さん…近々ご入籍されるそうで…」

 弟、そして娘とかつて共に旅をしてきた相手のその発言に何を感じたのか、ガレットは乱暴にお皿のご飯にカレーをかける。



「ドンッ!!!!!」



「やっぱり…お前、気に入らねぇっ!!!!!」

 更に、ガラムマサラを振りかける。どうやら、一悟達が修学旅行で不在中、勇者の身に何かが起こったようだ。







「こいつは「KYOKOキョーコ.MysterGynoidマイスターガイノイド.4-12エイプトゥエルフ」…通称「キョーコ」だ。「キョーコせかんど」と呼んでくれ。」

 食事を終えた僧侶は、一悟達にキョーコせかんどについて説明する。ヨーロッパにある内陸国・ヴィルマンド王国…この国は元々ロボット工学超先進国で、彼女は人間界の姿をしたアンニンをベースに、ヴィルマンド王国で製作されたメイド型アンドロイドである。普段はアンニンの住んでいるマンションで、家政婦同然の生活をしている。

「はいっ!満月が近い期間は、マスターの体格は人間界でいう幼い少女の姿になってしまうので、その間だけ私が「養護教諭・仁賀保杏子にかほきょうこ」としてお勤めしてます。」

「パパ上様の遺伝だ。カオスの呪いで30歳の誕生日まで、私は外見年齢が10歳の姿で生活せねばならん…特に人間界では、キョーコせかんどが来るまでは不便だった。バイトやら、学校も休まねばならなかったからな…キョーコせかんど、そろそろ本題に入れ!」

 そう言いながら、幼い姿の少女はキョーコせかんどが煎れたお茶をすする。



「コトッ…」



 主の言葉に、キョーコせかんどはちゃぶ台の真ん中に薄汚れた車の鍵を置く。

「コレは、昨日…トルテ様が傷だらけの姿で口に咥えていた、犯人の動かぬ証拠品…そう、勇者シュトーレン様はこの車の鍵の持ち主に連れ去られました。」

「「「「えええええええええぇっ!!!!!!!????」」」」

 キョーコせかんどの説明に、一悟、みるく、雪斗、ラテは驚きを隠せない。

「ランボルギーニの鍵に、キーホルダーの中身の写真…犯人は既にわかっている。それに、傷ついたココアと共にトルテがライオンの姿で私のマンションの入り口に倒れていたという事は…」

「勇者様の婚約に対しての事が理由ですね。トルテ様は、ココアと共にその事をマスターに伝えようと…本来なら、皆さんが北海道から帰ってきた翌日…つまり、本日付で勇者様はトルテ様とご入籍のご予定でした。」

「でも…犯人は、何で勇者様の婚約を知って…」

 雪斗の疑問に、アンドロイドは小型の機械を見せる。

「単刀直入に言えば、「」です。勇者様の部屋に、盗聴器が仕掛けられていました。勇者様は何度か盗聴器を発見次第、破壊しておりましたが、今回はパソコンに盗聴器が仕掛けられてました。発見が私が調べに来た時だったのは、恐らく勇者様は今日のご予定で浮かれていたのかと…」

「やっぱり、そーゆーオチか…」

 幼馴染の失態に、僧侶様とラテはあきれ果てる。

「あと、この保健室にも盗聴器仕掛けた不届き者がおられましたので、大勇者様と一緒に処分しておきました♪」

「それで…ココアとトルテは…」

「ココアはジュレに預けて、トルテは彩聖さいせい瀬戌せいぬ病院に入院させた。流石にライオンの姿ではまずいから、人間の姿にしておいてな。だから、勇者様とトルテに連絡を取らないように告げたんだ。…これで、私からは以上って事でいいんだな?大勇者様…」

 そう言いながら、幼い姿の僧侶様は自身のスマートフォンをちゃぶ台に置く。その画面は、ガレットと通話中である事を示している。



「今回は、確かにセーラが浮かれていたって落ち度はある。だが…娘のストーカーが犯人だとしたら、俺も黙ってはいられない。一刻も早く、セーラが連れ去られた場所を突き止めなければ…」



 娘を連れ去られた大勇者の言葉に、一悟達は息をのむ。
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