激甘革命!マジパティ(分割版)

夜ノ森あかり

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勇者クラフティ編

第14話「大勇者様激白!!!先代マジパティ敗北の理由」②

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「とんでもない事をしましたね?朝っぱらからあなたの娘から「トルテが追い出された」って連絡来たんですけど?」



 午後の中等部の保健室…ガレットは、僧侶様からの呼び出しを食らったのだった。

「また…セーラの暗い未来でも見えたんですか?あの時みたいに…」

「あの時…って?」

「8年前…勇者クラフティが肉体「だけ」帰還した後、ブランシュ卿の所へ駆け込んできましたよね?」

 その言葉に、ガレットは観念し、ある話をし始めた。







「ブランシュ卿…ニコラスの後継が…」

「決まってしまったか…一体、誰だ?君がそんなに血相を変えているという事は…」

 ガレットの表情に、ブランシュ卿は何も言わずに悟った。

「セーラが勇者になる事が…こんなに怖い事なんて…あの子は、まだ…勇者としては…」

「彼がカオスに敗北した以上、そのツケは後継が引き受けることになる…カルマン、まさかそれを自分が引き受けようとは言うまいな?」

 どうやら図星のようだ。



「残念だが…君がそのビジョンを見てしまった以上、君の娘の運命は変えられない!!!!!」



 ブランシュ卿の言葉を聞いたガレットは、赤い絨毯の上に膝をつき、愕然とした。

「5年前に戦争でセレーネが…そして今度はニコラス…これ以上、カオスに大切な人を奪われる事だけは…」

「カルマン…娘の暗い未来から逃れる方法が一つだけあるとしたら…君はどうする?」

 その言葉に、ガレットは顔を上げる。父親として…先々代の勇者として…娘を戦火へ送り込まざるを得なくなった1人の男の彼に差し込んだ、一筋の光…



「ニコラスがカオスに負けた原因は、まだつかめていない。その原因を掴め次第、君の娘…セーラ・シュトーレン・シュヴァリエの運命は変わるだろう…あとは彼女の父親であり、先々代の勇者である君次第だ。」



 不意に浮かぶ娘の笑顔…覚悟を決めた1人の男は、すっと立ち上がる。溢れる涙で頬は濡れているが、彼の瞳は決意に満ちている。







「それで、その日に騎士団長辞めて人間界へ…後は「首藤和真しゅとうかずま」として北海道で板前やりながら、茅ケ崎ちがさきでニコラス達の身辺調査…やっと原因を掴めたのが2年前。その頃にはセーラは勇者として覚醒済みな上に、スイーツ界から別の世界へ…」

「その原因、本人に話したんですか?…って、聞くまでもありませんね。話す途中で泣きたくなって、言葉詰まらせたんですよね?」

 ガレットは何も言わずに頷いた。

「セーラには、俺は身勝手な父親にしか見えなかった…それはわかってる。でも、これ以上セーラにセレーネ達の様な事だけは…」

 弱音を吐く大勇者の言葉に、僧侶はある事を思いついた。

「それなら、セーラは私が説得します!だから…トルテを追い出した事を…」

「それ、誤解ですぅー…」

 アンニンの言葉にガレットが反論した刹那、アンニンのスマートフォンからLIGNEリーニュの通知音が響く。



「ピコン♪」



 僧侶は咄嗟にスマートフォンを手に取り、LIGNEを開くとそこにはいかにも事後ともとれる2枚の画像。1枚目は見覚えのない大きな部屋、もう1枚はシュトーレンの部屋…どちらも左下にはトルテの姿。恐らく自撮りであろう。1枚目では爆睡しているシュトーレンだが、2枚目はトルテと並んで一緒に笑っている…そして、それらの画像に続けてのメッセージが…



「セーラ・シュトーレン・クラージュ・シュバリエはいただいた(3年ぶり2度目)」



「ふふっ…ホントに追い出してないんですね…それなら、まず私に話していただけますか?勇者・クラフティと先代のマジパティがカオスに負けてしまった原因を…」

 トルテからのLIGNEににやけた僧侶は、再び真面目な表情に戻り、大勇者に目を向ける。覚悟を決めた大勇者は、ブランシュ卿の娘に向かって、勇者クラフティと先代のマジパティが敗北した原因を話した。






 昨日の件でシュトーレンがショックを受けた事もあり、カフェ「ルーヴル」は開いていない。そんな本人はというと、殆ど住居スペースから出ておらず、リビングに置いてあった、ガレットが作った朝食も冷蔵庫に入れただけで手を付けていない。よっぽど、ガレットに対して怒っているのだろう…彼女は今、トルテと一緒に部屋のベッドにいる。

「まさかあの時、姉御があのホテルでバイトしていたなんて…」

「生活かかってたの…あの時は!でも…よかった…あの時抱いてくれたのが…トルテであって…」

 そう言いながら涙ぐむシュトーレンを、トルテは優しく抱きしめる。お互い一糸まとわぬ姿である時点で、2人がやっていた事は明白だ。

「親父はあぁ言っていたけど…でも、もうこれ以上「本当はトルテの事を愛してる」って気持ちに…ウソ…つきたくない…」





「自分の本当の気持ちにウソを重ねるくらいなら…もう…勇者なんて…」



 今でも思い出す…ガレットが突然行方をくらませてから2週間ほどした時のこと…彼女…少女セーラは、突然王宮に呼び出されたのだった。



「セーラ・シュトーレン・シュヴァリエ…突然呼び出してしまってすまないが、勇者の血を受け継ぐ君に頼みがある。」

 シュガトピア国王ベルナルド4世の口から出てくる、勇者クラフティと先代のマジパティ達の敗北後の事…勇者クラフティの肉体が帰還して以降、スイーツ界にカオスが再び進行してきたのだ。15歳になったばかりの少女セーラにとって、正直荷が重い依頼だ。父親から剣技は教わっていたので、剣と運動神経の良さには自信がある。だが…

「その頼み…私には荷が重すぎます…それにいくら私が勇者の娘だからって、勇者としての力に目覚めていない…早すぎです!!!」



「だが、もうカオスはこの世界を蝕んでいる…もう…時間がないんだ。これは君でしかできない事なんだよ…わかってくれるね?勇者ガレットの娘・セーラよ…」



 その日から彼女は「少女セーラ」ではなく、「勇者シュトーレン」としての生活を余儀なくされた。弟と妹は置いていかざるを得なくなったが、諸侯しょこうたちからの計らいで旅にはトルテとアンニンが一緒になった。旅をしている間に勇者としての力に目覚め、ムッシュ・エクレールと出会った。生まれた時から、勝ち気で腕っぷしが強かったワケじゃない。幼馴染…そして、その時から淡い恋心を抱いてきた相手と一緒にいたからこそ、彼女は強くなれた…



「アタシの事…「勇者」としてじゃなく…「セーラ」として見てほしかった…本当の…」

 肩を震わせながらこぼれる女勇者の本音を、トルテは優しいキスで塞いだ。

「姉御…望まぬまま勇者として目覚めたのは、姉御には荷が重すぎたかもしれないっス…でも、勇者として目覚めたからこそ、姉御は一悟達と出会えた…悲しい事ばかりじゃなかったハズっス…勇者としての立場があっても、これからは俺っちが「セーラ」としての姉御を受け止める…それじゃ、ダメっすか?」

 シュトーレンは首を横に振る。泣きたい日も…寂しい日も…他の人の前では強がっていても、トルテの前では本来の泣き虫に戻りたくなる。それこそ、「勇者シュトーレン」から「セーラ」としての自分に戻りたい瞬間なのである。





「何があったか来てみれば…やる時くらい、部屋に鍵…かけときなさいよ?いつ父親が帰宅するのか分からないんだから…」



 突然アンニンの声がして、部屋の入口の方へ目を向けると、そこには1人の僧侶が呆れた表情で立っていた。

「聞いて…たの?」

「ホテルでバイトしていた辺りからね?ホント…幼馴染としては、ライオンにセーラを取られるのは悔しいけどさ…でも、セーラがライオンといる事で幸せになれるなら、私は何も言わない。それは、あなたに重い責任を負わせた男も同じよ!」

「えっ…」

 僧侶の口から出た父親の事に、シュトーレンは耳を疑った。



「セーラ…あなたの父親はね…あなたの未来が見えるのよ!!!あなたが生まれた日からずっと…だから、あなたに対して過保護なのよ。」
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