無能な能力者の下克上

しらす(仮)

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始まり

三話「それは突然に」

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 その後、昼食を食べた僕らは色々なアトラクションを楽しんだ。コーヒーカップ、お化け屋敷、観覧車。そして、気がつけば空は橙色に染まっていた。
「そろそろ帰ろっか。」
「そうだね。」
そうして僕らは遊園地を出た。
 「それじゃあ、れいれい、また明日。」
「あ、家まで僕が送っていくよ。」
「いや、でも……。」
「気にしなくて良いよ。たまには彼氏っぽいことしたいし。何より、神奈の両親に挨拶できてないし。」
「それもそうだね。じゃあ、一緒に帰ろっか、れいれい。」
僕らは手を繋ぎ、神奈の家へと歩き出した。
 しばらく歩いていると、突然、神奈がこう言った。
「そうだ、私寄らなきゃ行けないところがあるんだけど、ついてきてくれる?」
「ああ、勿論。」
買い物かな?そう思ってついていった先は……神社だった。なんの変哲もない、ただの神社。
「ここにどういう用があるの?」
「私の能力に関係する用事だよ。」
神奈の能力?それとこの神社になんの関係が?そう思っていると、神奈は
「あっ!」
と、声をあげた。
「どうかした?」
「『結界柱』が破壊されてる!」
「何それ?」
「ごめん、我が家の掟で他者に教えることは禁じられてるの。今はとっても大事なものって思ってて。」
他者に教えることを禁じられるほどに大事なもの?一体なんなのだろう?
「その割には焦ってないように見えるけど?」
「それは……」
そう言って神奈が説明しようとしたそのときだった。
「何故ならそれは、ニセモノだから。だろ?現人神のお嬢さん?」
背後からそんな声が聞こえた。僕らはそちらを振り向く。そこにいたのは一人の男だった。革ジャンにジーパンの格好をした赤髪の男だった。僕は咄嗟に神奈の前に立った。
「ほう、立ち塞がるのか。この俺の邪魔をするというのか。」
「お前は……誰だ……!」
僕は怯えながらもその男を睨んだ。何故怯えているのか?単純だ。本能が訴え掛けてくるからだ。この男は、同級生のいじめっこ共とは全く訳が違うと、まともにりあえば、待っているのは死のみだと、教えてくれるからだ。
「名乗る名等ない。」
「そうか……なら、さっさと立ち去れ!僕らはお前に用などない!」
「なかなか反抗的な態度だな。だが、自分でも理解しているのだろう?お前が場違いだということを。……お前は弱者だ。現代社会に淘汰される弱者だ。それがわかっているのなら立ち去るべきはどちらか、わかりきったことだろう?別に俺は弱者が嫌いな訳じゃない。そもそも、俺の目的を達成するためには弱者が必要だ。逆に、俺は強者が嫌いだ。面倒だからな。そこにいる女みたいな強者は特にな。俺の邪魔になる。それが俺の用事だ。」
男はそう言うと手元に剣を顕現させた。奴の能力はなんだ?武器生成?いや、その程度の能力で神奈に挑むだなんてバカな真似するわけがない。なら、一体?そんなことを考えていると、次の瞬間、そいつは視界から姿を消した。そして、気付けば目の前に……!
ドガッ
という鈍い音と共に、僕の体は吹き飛び、鳥居に激突する。
「やるなぁ……俺の速度に反応できなかった癖に、ダメージを最小限で押さえるとはな。弱者だからこその生きるための努力って訳か?それとも勘が冴えてんのか?」
僕はそいつの拳を両手で包むように受け止め、内蔵へのダメージを抑えていた。
「まあ、生きてようが死んでようが、その出血じゃあ、もう動けねぇだろ。大人しく寝てな。」
そいつがそう言った次の瞬間だった。そいつの左腕がふっ飛んだ。
「は?」
「は?はこっちの台詞よ。」
そう言う神奈の体は神々しく輝いていた。
「よくも……よくも私のれいれいを……!許さない……!くたばれ……!」
「そうかそうか、お前らなんで一緒にいるのかと思ったが、そういう関係性なわけだな?だとしたら、釣り合ってなさすぎだろ」
そう言ってそいつは笑った。
「笑ってられるのも今のうちよ?次に飛ぶのは腕じゃなく……頚だから。」
神奈のその言葉と共に、神奈の手に刀が握られる。そして、しばらく睨み合ったあと、両者は同時に動いた。見えなかった。何が起こっているのかまるでわからない。金属音が鳴り、火花が飛び散る。しかし、本人たちの姿は全く視認できなくった。
 やがて両者共に一度引く。
「あなた……何者なの……?何が……目的なの……?」
神奈は息を整えながら問いかける。
「お前に教える義理はねぇ。」
男のその言葉と共に、また二人は動き始めた。
ガキンッ
そんな金属音と共に二人は中央でギリギリと鍔迫り合いをする。
「っ……!」
「っ……!」
 やがて、両者はすれ違った。それと同時に二人は脇腹から出血する。
「流石は現人神のお嬢さん。能力そのものの強さだけでなく、その精度、練度も目を見張るものがある。」
「そう言うあなたこそ、なかなかの剣の腕前ね。」
そう言って、神奈は自分の傷を治療しようとする。
「その程度の掠り傷すら治そうとするだなんて、柔な体だなぁ?」
「少しの出血でも、放っておけば命取りになるのよ。」
「そうかいそうかい。だが、一つだけ忠告しておこう。その傷は治すべきじゃないぜ?」
その次の瞬間だった。
「ああっ!?」
神奈がその傷を治そうとした瞬間、その傷は更に大きくなった。
「俺の剣で切られた箇所は能力で癒すことができねぇ。もし、能力による治療をしようとした場合、その傷は更に深くなる。ああ、お前の言う通り、その程度の掠り傷でも命取りになるぜ?」
「だから何?この程度なら、まだ現代医学でどうにだってなる。」
「なら、致命傷になるまで斬ってやらあッ!」
再び二人はぶつかり合う。
「どうやら、あなたには本気を出すしかないみたいね。」
神奈の……本気?話は少しだけ聞いたことがある。神奈の能力「神化」は自身に付与するタイプの能力であり、その中でも珍しい能力の重ね掛けができるタイプらしい。つまり、本気というのは「神化」の使用可能回数五回分を全て重ね掛けした状態……!そのときだった。神奈の体が、またしても輝きだした。その光が収まったとき、そこにいたのは全く様子の違った神奈だった。服装は真っ白な巫女服のようなものに変化し、背後には光る輪が浮遊していた。
「もう、容赦はしない。……火雷大神ほのいかづちのおおかみの力『神鳴かみなり』。」
神奈のその言葉と共に電光が迸った。辺りが光に満ち、目を開けていられなくなる。やがて、目を開けるようになると、あの男は全裸で地面に倒れていた。
「神奈、今のうちに……!」
「まだだよ、れいれい。」
神奈の言葉と同時に男は起き上がった。
「あー、何てことしてくれんだ?これじゃあ完全な変質者じゃねえか……はあ……。」
そう言いながら男は剣をくるくると回転させる。
「んじゃ、ラウンド2といこうか!」
そう言って男は神奈に剣先を向けた。
天照大神あまてらすおおかみの力『御光ごこう』。」
先制したのは神奈だった。神奈の手から光が放たれ、男の体を焼く。しかし、その男は悲鳴も呻き声も出さず、ゆっくりと神奈に歩み寄る。
「体が焼ける感覚っていうのも、久しいなぁ……。」
そんなことを呟く男。神奈は後ろへ跳び退いた。
大口真神おおくちのまかみの力『大神』。」
神奈の回りに三体の白い狼が現れた。三体の狼は一斉に燃える男に飛びかかる。更に神奈は追い討ちを掛ける。
建御雷神たけみかずちのかみの力『布都御魂ふつのみたま』。」
神奈はその男を刀で斬った。そして、そちらを振り向く。そこには未だ男が立っていた。体の炎は消え、狼も消えていた。残ったのは身体中の大火傷と噛まれたような傷、そして、一筋の切り傷だった。
「やるな……能力による治癒ができなきゃ、きっと俺は死んでいたなぁ……。」
その男の傷は少しずつもとに戻っていく。
「それじゃあ、次は、俺の番だ。」
そう言い終わると同時に、男は神奈の後ろに立っていた。男の剣が振り下ろされる。
直毘神なおびのかみの力『みそぎ』。」
神奈は咄嗟に技を発動させた。その瞬間、男は何かに弾かれるようにして吹き飛ばされた。
「禊……成る程な……俺の魂は穢れてるってか?」
そう言うと男はまた神奈に向かっていく。
「何度やっても同じことよ。」
「そりゃどうだろうな!?」
男はそう言って神奈から少しはなれたところで剣を薙いだ。
「何をやってるの?そんな距離で届くはず……ッ!?」
元々の長さなら届いていないであろう距離。しかし、その剣の刃は神奈の胸元を軽く切り裂いた。
「禊で払われるのはあくまで俺だけ、剣なら対象外って訳か。これなら、れる。」
「一瞬で、こちらの能力を解析した……!?どうやら、本当に油断できない相手みたいね……。」
神奈は刀を構え直す。
天之手力男神あめのたぢからおのかみの力『神力』。」
神奈はそう唱えると共に地面を蹴る。轟音と共に神奈の姿が消えた。神奈がいたところの石畳はバキバキに割れていた。
「……速っ!?」
神奈は男の目の前にいた。
須佐之男命すさのおのみことの力『神風』。」
神奈は刀を荒々しく振り回す。普通ならあんな振り方で攻撃が当たるはずもないが、能力により速度が強化されているため、避けようのない攻撃と化していた。
ザシュッ
ズバッ
グシャッ
そんな肉を絶つ音が聞こえそうな程激しい攻撃だった。血液が飛び散り、辺りは真っ赤に染まる。
 やがて、神奈の攻撃が止んだ。そして、僕は息を飲んだ。だって……だってだってだって……神奈の体を剣が貫いていたのだから。
「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」
男は息を切らしながら、剣を引き抜いた。剣先からは血が滴り落ちる。神奈の体から光が失われ、元の姿に戻る。
「あと……一撃……あと一撃さえいれることができたのなら……俺は死んでいた。間違いなく……出血多量だ……。回復する暇すら与えない、連続攻撃……だが、俺はそれに耐えきった。俺は、神に勝利した。そうだな……折角だ。名付けよう……我が名は……我が名は天災ディザスター……神をも越える天災だ。……現人神のお嬢さん、安らかに眠れ……。次の世界は俺が作る。」
そう言うと男はその場から消えた。僕はすぐに神奈に駆け寄った。
「神奈!」
涙を流しながら彼女の名を呼ぶ。
「れい……れい……。」
彼女はその声に反応してくれた。
「ちょっと待ってて!今すぐ救急を呼ぶから!」
僕は携帯を取り出し119番通報をした。
「すぐ来てくれるって!大丈夫!大丈夫だから!あともう少しの辛抱だよ!だから、あともう少しだけ……!」
僕は懇願するように言った。
「ねぇ……れいれい……。」
「な、何?」
「私は……もう助からない……。このまま……出血多量で死ぬ……。」
「そんな、そんなことないよ!まだ、間に合う!だから、そんな縁起でもないこと言わないで!」
「自分のことは……自分が一番……よくわかってる……。死期が近いことがよくわかるの……。」
「そ、そんな……。」
僕はもう、何も言えなかった。彼女の言っていることが僕にもわかってしまったから。この出血じゃもう助からないとわかっていたから。
「だから……れいれい……最後に、貴方に……渡したいものがあるの……。」
神奈はその何かを握って渡してくる。僕はそれを両手で受け取った。
「……石……?」
「御守り、だよ……それは、きっと……貴方を助けてくれる……。」
僕はそれを握りしめると大事に鞄の中に仕舞った。そして、彼女に話しかける。
「ねえ、神奈……。」
「な……に……?」
神奈の声が掠れる。そろそろなのかもしれない。
「僕も、最後に言いたいことがある。」
僕は彼女の頬に触れ、能力を発動させる。
『すきだ』
僕はその三文字を彼女に伝えた。彼女は優しく微笑んだ。
「私も、だよ……。」
そして僕らは口づけを交わした。少しだけ血の味がした。
(あとがき)
どうも、最近遅刻ばかりのしらす(仮)です。本当にすみませんでした。実は、リアルと他サイトでの活動が忙しくて……少しばかり投稿が安定しないかもしれませんが、お許しください。ちなみに現在の私のやることリストがこちらです。
・小説投稿(アルファポリス)
・小説投稿(他サイト)
・イラスト製作(三枚程度)
FAファンアート製作(二枚程度)
・作曲(一曲)
・その他リアルのこと
スケジュール管理が苦手なことで有名なしらす(仮)故に、こんなことになってしまいました。どうすれば計画性が手に入るのだろう。そう言うわけで以上、これでもギリギリ友人よりは忙しくないしらす(仮)でした。
(解説)
〈神奈の能力について〉
神奈の能力は「神化」。使用可能回数は五回。使用すると身体能力が上昇し、飛行が可能になる他、自信や他者の怪我や病気を癒すこともできる。重複して使用可能であり、重複させると効果が増す。また、能力を解除することにより、使用可能回数が復活する仕組みとなっている。この能力を使用可能回数の限界である五回分重複させて使用すると、日本神話の神々の力すらも扱えるようになる。
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