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心の闇と過去の事件
九話「心に秘めた闇」
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翌朝、そこに茜がいた。昨日僕が言ったことを気にして帰ったかと思っていたのだが、そうじゃなかった。にしても、茜の寝顔を見るなんて小六以来かな?今になって心の底から思うのは
「やっぱり、可愛いな……。」
たったその一言だった。そんなことを思っていると、
「……んにゅ?」
彼女が目を覚ました。
「おはよう。」
「ん?……おはよ。」
そうして僕らはリビングへと向かう。
「おはようございます。」
「うん、おはよう。」
リビングの向こうのキッチンでは雫が朝食のベーコンを焼いていた。
暫くして食卓に料理が並ぶ。僕らは椅子に腰を掛け合掌する。
「「いただきます。」」
そうして朝食を食べる。そこでこの後学校かぁ……と少し億劫に思った。
その後、一度茜は家に帰り学校に行く準備をし、即行で戻ってきた。ちなみにその時点では僕はまだ準備が整っていなかった。早すぎんだろ。
「それじゃあ、行くわよ。」
「なあ、どうやったら学校に行かずに済むと思う?」
「そんな方法はない!ってことで行くよ!」
そうして僕は学校へと連れていかれるのだった。
学校で退屈な時間を四時間過ごし、現在、昼休み。学校唯一の有意義な時間。僕は隠れながら食事をする。そのとき、何処からか足音。だが、僕は既に学んでいた。この足音からして向かってきているのは男ではなく女。そして、聞き覚えのある靴音。僕は隠れる必要がないと判断した。
そうして扉が開き、そこから現れたのは見覚えのある少女だった。
「あれ……?今日はあれしないんですね……。」
「僕をなんだと思ってんの?」
まれに僕の扱いが酷いのどうにかならないかなぁ……?
「そう言えば、まだ自己紹介してなかったな。」
「別に……そんなものいらないけどね……。」
「ここで出会うのも三度目、これも何かの縁だろうし、自己紹介くらいはした方がいいと思うんだ。てな訳で、僕は天海空。」
「え、えーと……私は……春花桃……。」
「いい名前じゃないか。それじゃあ、一緒にごはん食べるぞ。」
「なんでまた……?」
「前から言ってるだろ、縁だって。」
「この妖怪縁結びが……!」
流石に使いすぎたかな?好きなんだけどなぁ縁って言葉。運命っていうのを分かりやすく表す漢字一文字だと思う。
そうして、なんだかんだで僕らは揃って昼御飯を食べていた。
「なあ、卵焼き一個もらっていいか?」
「え?……私から奪わないで……。」
「えー、そんなに卵焼き好き?じゃあ、そうだなぁー……君、唐揚げ好き?僕の奴あげるよ。」
僕はそれを箸で摘まんで桃の弁当の中に入れた。
「え?……どうして……。」
「そりゃ、君から卵とったんだしこっちからも君に与えるべきだろ?いや、まあ、卵返してほしいなら返すけど?」
「え?……あ……。」
気づけば彼女は大粒の涙をボロボロと溢し泣き出した。
「そんなに卵好き?それとも唐揚げが嫌い?いや、僕の中ではそんな人いないだろってそう思ってたから……ごめん、卵返すよ……。」
そう言ったのだが、彼女はまだ泣き止まなかった。なんなら、さらに大声で泣いた。そして、泣きながら僕の唐揚げを食べた。またさらに泣いた。僕は何がなんだかわからなかった。
暫くして、彼女は泣き止んだ。ホッとした僕は彼女に話しかける。
「だ、大丈夫?」
彼女はゆっくり首を縦に振った。質問を間違えたかもしれないとそう思った。
「本当に?」
「……うん……。」
桃は小さくそう言った。取り敢えず、今彼女がそう言っているのならそうだと信じるしかない。残念ながらこれ以上何かを聞く権利はないし、僕と彼女の仲もそこまで良い訳じゃない。
「取り敢えず、お前が僕の唐揚げを食べたってことは僕もこれ食っていいんだよな?」
そう言って僕は卵焼きを箸で摘まみ持ち上げる。僕の質問に彼女は無言で頷いた。僕はそれを了承として受け取りその卵焼きを口に含んだ。
「うまっ!何これ、めちゃくちゃ美味しいんだけど!?」
「え?」
「さっきからお前『え?』しか言っていないぞ?……って、なんでまた泣いてんの!?」
気づけばまた、彼女は泣いていた。そんな彼女を宥めているうちに昼休みは終わりを向かえたのだった。
チャイムが鳴り、五時限目が始まる。だがしかし、僕と桃は二人揃って屋上にいた。そもそも二人とも食事が終わらなかったというのもあるし、遅れてまで教室に戻る気がなかったというのもある。まあ、一限くらい逃したって進級はできるだろう。まあ、指定校推薦だと少し不利になるかもしれないが、そもそもそこまで大学に興味はないし、問題じゃない。
「に、しても、お前はよかったのか?」
「何がですか?」
「僕はともかく、お前は将来の夢とかあるだろ?なら、遅れてでも授業を受けるべきじゃないか?」
「私も、将来の夢なんてないですよ……それに、あんな教室……。」
なにか……ある。僕はそれを感じ取った。
「にしても、話題がねぇな……。」
「そうですね……。」
「まあ、休み時間までここで昼寝でもするかな。」
僕はそう言ってその場に寝転がった。
「汚いですよ?」
「そりゃそうだよなぁ……。」
僕は素早く起き上がったて、そう言った。
「創作物だとよく屋上に寝転がってる気がするけど、普通に考えて、汚れてるよなぁ……。」
あいつら起き上がった後、制服とか髪とかドロドロになってる筈だけど、どうしてるんだろうなぁ……。流石にドロドロのまま授業を受けたりしないだろうし……、まあ、考えても仕方がないくだらない話か。
暫く、僕らは無言で雲を眺めながら時間が流れるのを待った。そうして、気づけばチャイムがなり五時限目が終わった。僕らは揃って屋上を降り、廊下を歩く。
「そう言えば、お前の教室ってどこだ?」
「もしかして、そこまでついて行くつもりで?」
「まあ、折角だしな。」
僕の脳裏には一つの可能性が浮かんでいた。僕は自分自身でも鈍感な方だと思っている。だが、ただ一つだけ敏感なところがある。とあることに関しては人一倍敏感に気づいてしまうのだ。
歩き続け、僕らはその教室の前に立っていた。
「ここが、お前の教室か?」
桃は無言で頷いた。さっきから桃の様子は変だった。僕の勘は確信へと変わった。僕はその教室の戸を開ける。数人の生徒が僕らを睨み付けた。始めて会う人間ばかりだがその目には覚えがあった。悪意のある視線。僕はそれに気づかないふりをした。そんな僕に近づいてくる少女がいた。
「もしかして、桃ちゃんの彼氏さんですか?」
僕はそれを否定しようと口を開こうとした。その瞬間、その少女はさらに僕に歩み寄り、耳元で囁いた。
「この女が彼氏だと言って男を連れてくるのは六度目なんですよ……賢明な先輩なら私のいうことわかりますよね?」
僕はそれに小さく首肯した。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで……。」
僕はそう言ってその場を去った。
それから時は流れていき、放課後となった。いつもなら一人で帰るわけだが、今日はまっすぐ校門には向かわず、とある場所へ向かった。
やがて、僕はそこへたどり着いた。そこにいたのはゴツい男三人と少女二人、うちの一人は男どもにボコボコ殴られていた。
「あんた、今になっても自分の立場がわからないの!?あんたは下の下の下、人と関わることなんて許されちゃいないのよ!しかも、彼氏を作るだなんて!あんた、死にたいの?」
そう言う少女と殴られている少女、どちらもに見覚えがあった。僕は歯軋りをする。クズの所業だ。男三人で少女一人を殴る。理由は彼氏を作ったから。正しく言うと彼氏ができたと思ったから。勘違い、だが、そうでなくても起こっていたであろう状況。気づけば僕はその場に出ていた。そこにいた全員が僕の方を向いた。
「あら、先輩じゃないですか?どうかしたんですか?」
僕は一歩そいつらに近づいた。
「それは賢明な判断とは思えませんねぇ先輩?」
男のうち二人がこちらに向かってくる。覚悟はできている。そうして、僕はそいつらに告げた。
「来いよ、人を傷つけることでしか安心を得られない下の下の下未満のクズども。」
あれから暫くして、僕はズタボロの状態で地に伏せていた。あいつらは何処かへ言ってしまったようだ。僕はフゥーっと息を吐き、体を起こす。
「このボロボロ具合じゃもう使えないな……。」
穴だらけ泥だらけになった制服を見て僕はそう言った。そして立ち上がり辺りを見渡す。そして、その少女を見つけた。
「大丈夫か、桃?」
「え……あ……うん……。」
「立てるか?」
そう言って僕は手を差しのべた。
「あ、ありがとうございます……。」
桃はその手を取るとゆっくりと立ち上がった。
「にしても先輩……。」
「ん?なんだ?」
「ダサいですね。」
「あ?」
「だって……あんなに息巻いて格好つけてたのに……ボコボコにされてるじゃないですか……。」
「お前、助けようとしてくれた奴に対してその言い方はねぇだろ?」
「……でも、まあ……格好よかったですよ……。」
「結局どっちだよ。」
「どっちもです……。」
「なんだそれ。」
そんな話をしながら僕らは荷物を手に取り、校門へと向かった。
校門の前まで来た僕らはそこで止まった。
「お前、家まで徒歩か?」
「まあ……そうですけど……それがどうかしましたか……?」
「お前の家どっちだ?」
「なんで……言わなきゃならないんですか……?」
「お前がそんなズタボロになってんのに一人で帰らせる訳にもいかねぇだろ?」
「そうですか……。まあ……ズタボロの先輩がいても……頼りないですけどね……。」
「いないよりはマシだろ?で、どっちなんだ?」
「……あっちですよ。」
「奇遇だな。ちょうど僕の家と同じ方向だ。」
そうして僕らはそちらへと歩き出した。
「なあ、お前の親ってどんな奴だ?」
桃を送っている途中、僕はそんなことを尋ねた。
「急に……どうしたんですか……?」
「いや、もし送っていってお前の親と対面したら、お前の現状をどう説明すべきかと思ってな。」
「そんなことなら……気にしなくてもいいですよ……私の親は……私に興味なんてないんですから……。」
「なんかお前、僕に似てるな。」
「どういうことですか?」
「まあ、色々共通点があるなってそう思っただけだ。例えば親が子に対して興味がなかったりとかな。」
「先輩の……両親ってどんな人ですか……?」
「お前の親と同じく僕に一ミリたりとも興味を示さなくて、自分の事ばっかで、中学の頃に海外へ行ったきり帰ってこないし。もう顔なんてあんまり覚えてねぇな。最後に会ったときは確か……ハッ……そう言やアイツに髪型が似てたな……。髪色は黒かった気がするけど。」
「アイツ……?」
「気にすんなこっちの話だ。」
更に歩いていると、桃はとある家を指差してこう言った。
「あそこが……私の家……。」
(あとがき)
どうも、妖怪縁結びことしらす(仮)です。今回から少しばかり話が重くなります。私自身も胃もたれしながら書く覚悟をしております。いや、まだこの段階じゃそんなに重くないですけど。重くなるっていうのもまだ予定でしかないので、実はいくらか軽くなったりするかもしれないんですけど。まあ、そんな感じです。というわけで以上、最近になってネタ集めのためにメモ帳を常備するようになったしらす(仮)でした。
「やっぱり、可愛いな……。」
たったその一言だった。そんなことを思っていると、
「……んにゅ?」
彼女が目を覚ました。
「おはよう。」
「ん?……おはよ。」
そうして僕らはリビングへと向かう。
「おはようございます。」
「うん、おはよう。」
リビングの向こうのキッチンでは雫が朝食のベーコンを焼いていた。
暫くして食卓に料理が並ぶ。僕らは椅子に腰を掛け合掌する。
「「いただきます。」」
そうして朝食を食べる。そこでこの後学校かぁ……と少し億劫に思った。
その後、一度茜は家に帰り学校に行く準備をし、即行で戻ってきた。ちなみにその時点では僕はまだ準備が整っていなかった。早すぎんだろ。
「それじゃあ、行くわよ。」
「なあ、どうやったら学校に行かずに済むと思う?」
「そんな方法はない!ってことで行くよ!」
そうして僕は学校へと連れていかれるのだった。
学校で退屈な時間を四時間過ごし、現在、昼休み。学校唯一の有意義な時間。僕は隠れながら食事をする。そのとき、何処からか足音。だが、僕は既に学んでいた。この足音からして向かってきているのは男ではなく女。そして、聞き覚えのある靴音。僕は隠れる必要がないと判断した。
そうして扉が開き、そこから現れたのは見覚えのある少女だった。
「あれ……?今日はあれしないんですね……。」
「僕をなんだと思ってんの?」
まれに僕の扱いが酷いのどうにかならないかなぁ……?
「そう言えば、まだ自己紹介してなかったな。」
「別に……そんなものいらないけどね……。」
「ここで出会うのも三度目、これも何かの縁だろうし、自己紹介くらいはした方がいいと思うんだ。てな訳で、僕は天海空。」
「え、えーと……私は……春花桃……。」
「いい名前じゃないか。それじゃあ、一緒にごはん食べるぞ。」
「なんでまた……?」
「前から言ってるだろ、縁だって。」
「この妖怪縁結びが……!」
流石に使いすぎたかな?好きなんだけどなぁ縁って言葉。運命っていうのを分かりやすく表す漢字一文字だと思う。
そうして、なんだかんだで僕らは揃って昼御飯を食べていた。
「なあ、卵焼き一個もらっていいか?」
「え?……私から奪わないで……。」
「えー、そんなに卵焼き好き?じゃあ、そうだなぁー……君、唐揚げ好き?僕の奴あげるよ。」
僕はそれを箸で摘まんで桃の弁当の中に入れた。
「え?……どうして……。」
「そりゃ、君から卵とったんだしこっちからも君に与えるべきだろ?いや、まあ、卵返してほしいなら返すけど?」
「え?……あ……。」
気づけば彼女は大粒の涙をボロボロと溢し泣き出した。
「そんなに卵好き?それとも唐揚げが嫌い?いや、僕の中ではそんな人いないだろってそう思ってたから……ごめん、卵返すよ……。」
そう言ったのだが、彼女はまだ泣き止まなかった。なんなら、さらに大声で泣いた。そして、泣きながら僕の唐揚げを食べた。またさらに泣いた。僕は何がなんだかわからなかった。
暫くして、彼女は泣き止んだ。ホッとした僕は彼女に話しかける。
「だ、大丈夫?」
彼女はゆっくり首を縦に振った。質問を間違えたかもしれないとそう思った。
「本当に?」
「……うん……。」
桃は小さくそう言った。取り敢えず、今彼女がそう言っているのならそうだと信じるしかない。残念ながらこれ以上何かを聞く権利はないし、僕と彼女の仲もそこまで良い訳じゃない。
「取り敢えず、お前が僕の唐揚げを食べたってことは僕もこれ食っていいんだよな?」
そう言って僕は卵焼きを箸で摘まみ持ち上げる。僕の質問に彼女は無言で頷いた。僕はそれを了承として受け取りその卵焼きを口に含んだ。
「うまっ!何これ、めちゃくちゃ美味しいんだけど!?」
「え?」
「さっきからお前『え?』しか言っていないぞ?……って、なんでまた泣いてんの!?」
気づけばまた、彼女は泣いていた。そんな彼女を宥めているうちに昼休みは終わりを向かえたのだった。
チャイムが鳴り、五時限目が始まる。だがしかし、僕と桃は二人揃って屋上にいた。そもそも二人とも食事が終わらなかったというのもあるし、遅れてまで教室に戻る気がなかったというのもある。まあ、一限くらい逃したって進級はできるだろう。まあ、指定校推薦だと少し不利になるかもしれないが、そもそもそこまで大学に興味はないし、問題じゃない。
「に、しても、お前はよかったのか?」
「何がですか?」
「僕はともかく、お前は将来の夢とかあるだろ?なら、遅れてでも授業を受けるべきじゃないか?」
「私も、将来の夢なんてないですよ……それに、あんな教室……。」
なにか……ある。僕はそれを感じ取った。
「にしても、話題がねぇな……。」
「そうですね……。」
「まあ、休み時間までここで昼寝でもするかな。」
僕はそう言ってその場に寝転がった。
「汚いですよ?」
「そりゃそうだよなぁ……。」
僕は素早く起き上がったて、そう言った。
「創作物だとよく屋上に寝転がってる気がするけど、普通に考えて、汚れてるよなぁ……。」
あいつら起き上がった後、制服とか髪とかドロドロになってる筈だけど、どうしてるんだろうなぁ……。流石にドロドロのまま授業を受けたりしないだろうし……、まあ、考えても仕方がないくだらない話か。
暫く、僕らは無言で雲を眺めながら時間が流れるのを待った。そうして、気づけばチャイムがなり五時限目が終わった。僕らは揃って屋上を降り、廊下を歩く。
「そう言えば、お前の教室ってどこだ?」
「もしかして、そこまでついて行くつもりで?」
「まあ、折角だしな。」
僕の脳裏には一つの可能性が浮かんでいた。僕は自分自身でも鈍感な方だと思っている。だが、ただ一つだけ敏感なところがある。とあることに関しては人一倍敏感に気づいてしまうのだ。
歩き続け、僕らはその教室の前に立っていた。
「ここが、お前の教室か?」
桃は無言で頷いた。さっきから桃の様子は変だった。僕の勘は確信へと変わった。僕はその教室の戸を開ける。数人の生徒が僕らを睨み付けた。始めて会う人間ばかりだがその目には覚えがあった。悪意のある視線。僕はそれに気づかないふりをした。そんな僕に近づいてくる少女がいた。
「もしかして、桃ちゃんの彼氏さんですか?」
僕はそれを否定しようと口を開こうとした。その瞬間、その少女はさらに僕に歩み寄り、耳元で囁いた。
「この女が彼氏だと言って男を連れてくるのは六度目なんですよ……賢明な先輩なら私のいうことわかりますよね?」
僕はそれに小さく首肯した。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで……。」
僕はそう言ってその場を去った。
それから時は流れていき、放課後となった。いつもなら一人で帰るわけだが、今日はまっすぐ校門には向かわず、とある場所へ向かった。
やがて、僕はそこへたどり着いた。そこにいたのはゴツい男三人と少女二人、うちの一人は男どもにボコボコ殴られていた。
「あんた、今になっても自分の立場がわからないの!?あんたは下の下の下、人と関わることなんて許されちゃいないのよ!しかも、彼氏を作るだなんて!あんた、死にたいの?」
そう言う少女と殴られている少女、どちらもに見覚えがあった。僕は歯軋りをする。クズの所業だ。男三人で少女一人を殴る。理由は彼氏を作ったから。正しく言うと彼氏ができたと思ったから。勘違い、だが、そうでなくても起こっていたであろう状況。気づけば僕はその場に出ていた。そこにいた全員が僕の方を向いた。
「あら、先輩じゃないですか?どうかしたんですか?」
僕は一歩そいつらに近づいた。
「それは賢明な判断とは思えませんねぇ先輩?」
男のうち二人がこちらに向かってくる。覚悟はできている。そうして、僕はそいつらに告げた。
「来いよ、人を傷つけることでしか安心を得られない下の下の下未満のクズども。」
あれから暫くして、僕はズタボロの状態で地に伏せていた。あいつらは何処かへ言ってしまったようだ。僕はフゥーっと息を吐き、体を起こす。
「このボロボロ具合じゃもう使えないな……。」
穴だらけ泥だらけになった制服を見て僕はそう言った。そして立ち上がり辺りを見渡す。そして、その少女を見つけた。
「大丈夫か、桃?」
「え……あ……うん……。」
「立てるか?」
そう言って僕は手を差しのべた。
「あ、ありがとうございます……。」
桃はその手を取るとゆっくりと立ち上がった。
「にしても先輩……。」
「ん?なんだ?」
「ダサいですね。」
「あ?」
「だって……あんなに息巻いて格好つけてたのに……ボコボコにされてるじゃないですか……。」
「お前、助けようとしてくれた奴に対してその言い方はねぇだろ?」
「……でも、まあ……格好よかったですよ……。」
「結局どっちだよ。」
「どっちもです……。」
「なんだそれ。」
そんな話をしながら僕らは荷物を手に取り、校門へと向かった。
校門の前まで来た僕らはそこで止まった。
「お前、家まで徒歩か?」
「まあ……そうですけど……それがどうかしましたか……?」
「お前の家どっちだ?」
「なんで……言わなきゃならないんですか……?」
「お前がそんなズタボロになってんのに一人で帰らせる訳にもいかねぇだろ?」
「そうですか……。まあ……ズタボロの先輩がいても……頼りないですけどね……。」
「いないよりはマシだろ?で、どっちなんだ?」
「……あっちですよ。」
「奇遇だな。ちょうど僕の家と同じ方向だ。」
そうして僕らはそちらへと歩き出した。
「なあ、お前の親ってどんな奴だ?」
桃を送っている途中、僕はそんなことを尋ねた。
「急に……どうしたんですか……?」
「いや、もし送っていってお前の親と対面したら、お前の現状をどう説明すべきかと思ってな。」
「そんなことなら……気にしなくてもいいですよ……私の親は……私に興味なんてないんですから……。」
「なんかお前、僕に似てるな。」
「どういうことですか?」
「まあ、色々共通点があるなってそう思っただけだ。例えば親が子に対して興味がなかったりとかな。」
「先輩の……両親ってどんな人ですか……?」
「お前の親と同じく僕に一ミリたりとも興味を示さなくて、自分の事ばっかで、中学の頃に海外へ行ったきり帰ってこないし。もう顔なんてあんまり覚えてねぇな。最後に会ったときは確か……ハッ……そう言やアイツに髪型が似てたな……。髪色は黒かった気がするけど。」
「アイツ……?」
「気にすんなこっちの話だ。」
更に歩いていると、桃はとある家を指差してこう言った。
「あそこが……私の家……。」
(あとがき)
どうも、妖怪縁結びことしらす(仮)です。今回から少しばかり話が重くなります。私自身も胃もたれしながら書く覚悟をしております。いや、まだこの段階じゃそんなに重くないですけど。重くなるっていうのもまだ予定でしかないので、実はいくらか軽くなったりするかもしれないんですけど。まあ、そんな感じです。というわけで以上、最近になってネタ集めのためにメモ帳を常備するようになったしらす(仮)でした。
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