ハガネノココロ

しらす(仮)

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彼に届かぬ恋心

八話「あまりにも遠い心」

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 あの後私たちは夕食を食べていた。昼と同じく質素な食事。だが、とても美味しい。本当は私が彼に手料理を振る舞ってあげたいが生憎と私は客人。今はそういう立場ではない。にしても、どうすれば空を振り向かせることができるのだろう?私には見当がつかなかった。いくら誘惑しても靡かない。だが、私は彼に救われ、彼を心のそこから愛してしまった。だから、どうにかして振り向かせたい。でもどうやって?そう言えば、アンドロイドはここに住み始めてそこまで日にちが経っていない。なのに、空に受け入れられている。それは何故か?私はその話題を切り出すことにした。
「何で、そのアンドロイドは空と仲がいいの?あんたたち出会ってそう日が経っていない筈でしょ?」
「うーん……何でだろ……?別になにか特別なことをした覚えもされた覚えもないけど……。」
「私がしたことと言えば……家事くらいですかね?」
その程度で空と仲良くなれるとは思わない。だって彼は自ら人を拒絶するようになった。だから、アンドロイドとはいえ無関係な奴とそう簡単に仲良くなるわけがない。
「あ、後は一緒に寝たことくらいでしょうか?」
「はあ!?」
私は近所迷惑なんじゃないかと思われるくらい大きな声で驚いた。そんな出会って数日で……そんな……。
「そこまで、驚く!?……あ、いや、それもそうか……君からすれば意味がわからないか……でも、別に僕がそう仕向けた訳じゃないからね?」
空はおそらく私の気持ちなんて理解しちゃいないだろう。ああ……彼は本当に鈍感だ……。
 その後は他愛のない会話を交わしながら食事をした。そして、就寝時刻。私はアンドロイドに案内され、その部屋にいた。まあ、この部屋で寝るつもりなんて毛頭ないが。とはいえ、今行動しても追い返されるだけなので、暫く考え事をする。どうすれば、空は振り向いてくれるだろうか?私は様々な方法で空を誘惑したり、私を意識するようなことをしたのに、彼は振り向いてはくれなかった。この後一緒に寝たって彼が私を意識することはないだろう。
 そんな風に考えているうちに時間は過ぎていき、私はその部屋へ向かうことにした。扉に手を掛け、ゆっくりと音を立てずに開ける。彼はもう既に寝てしまったようですぅすぅと可愛い寝息を立てている。私はそんな彼の眠るベッドへと忍び足で近づき、布団の中へ潜り込んだ。そして、彼の後ろから抱きつく。温かい……。幸せな気分に包まれる。そのときだった。
「やっぱり今日、様子がおかしくない?」
前からそんな声が聞こえてきた。
「別におかしくないと思うけど?」
私はしらばっくれた。本当は彼に好きだと伝えたいが、今はそのときじゃない。だから、私は嘘をつく。
「じゃあ、何で僕の部屋の僕のベッドの上で僕を後ろから抱き締めてるわけ?」
「だって、君は罰ゲームとして今日一日私のそばにいなきゃいけないんだよ?」
「そう言えばそんなのもあったね。」
「だから、今夜はよろしくね。」
私はそう言ってさらに強く彼を抱き締めた。更に彼に胸を押し付ける。
「ひゃっ……!?な、何してるの?」
「別にぃ?何でもないよぉ?」
「そ、そんなことはないと思うけど……。」
沈黙が訪れる。そんな沈黙を破るように私は声を発した。
「ねぇ……空……?」
「ん?何?」
「昼間にさ……私と付き合わないかって言ったじゃん?」
「ああ、君が冗談でそんなことを言ってたね。それがどうかしたの?」
「もしあれが私の本音だったら……どうする?」
無意識のうちにそんなことを喋っていた。わたしはもう止まらなかった。このままの勢いで告白してしまおうかとすら思った。
「あれが……本音だったら?昼にも言ったけど、僕と君とじゃ釣り合わない。君は可愛いし賢い。だから、きっと僕よりずっといい男を彼氏にできるはずだ。そうだろう?」
「私が聞きたいのはそんなことじゃないの!」
「え?急に大声を出してどうしたの?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと感情的になっちゃって……。」
「にしても……僕と君が付き合うか……。」
彼は深く考え込んでいた。そして、暫くしてこう言った。
「きっと、悪いことにはならないんだろうな。そこには幸せがある気がする。でも、それが想像できないな。君と僕とが付き合う姿が思い浮かばない。」
「あ、そう……。」
「でも、嬉しいよ。君みたいな美少女にそんなことを言われるだなんて光栄だよ。まあ、きっと君は僕の事が好きだとか付き合いたいだとかそういうことじゃないんだろうけどさ。」
違うの……私は空が好き……だから、こうやっていま貴方の隣で貴方に抱きついて寝ようとしてるの。私はそう心の中で呟いた。
「それじゃあ、お休み。」
「うん、お休み。」
そう言って彼は眠ってしまった。いつだって私の気持ちは彼に届かない。でも、私は諦めない。だって私は彼を好きになってしまったから。そう言えば……彼は私の事可愛いって言ってくれた……。どうやら、チャンスはゼロじゃないらしい。
「ズルいよ……。」
彼の寝息が聞こえる部屋の中、私は一人小さくそう呟くのだった。
 翌朝、私たちは朝食を食べ、ゆっくりと休日を過ごしていた。
「で、君はいつになったら帰るつもり?」
「明日かな?」
「いや、今日中に帰れよ。明日は学校だろ?」
「いや、それはそうなんだけど……別に家近いしいいかなって。」
「はいはい、好きにすれば……。」
珍しく言うことを聞いてくれる空だった。いや、多分私の相手をするのが面倒臭かっただけだろうけど。
「それじゃあ暇だし、ゲームでもするか。」
「いいけど……できればアンドロイドはなしで……。」
あんな奴とゲームやってたら精神が持たない。結局前回は1ラウンドすら勝てなかったどころか、1ダメージも与えられなかった。
「流石にあいつももう興味はないだろうし、誘わないよ。」
「それなら空を完膚なきまでに叩きのめすことができそうね。」
「そんなことしなくてもいいと思うけど!?」
「で、今回もやろうよ。」
「アレ?」
「負けた方はかった方の言うことを一つだけ聞くっていうやつ。」
「ああ、それね。」
さて今度はどんな命令にしようかな?私は勝気満々でいた。何故なら私には秘策があるから。昨日のうちに調べておいたのだ。このゲーもの必勝法、つまり最強のキャラクターを。
そうして、私たちはゲームを起動しキャラクターを選択する。
「へぇ~、君はそのキャラを選ぶのか。」
私が選んだのは単発火力、コンボ火力、コンボ難易度、全てにおいて高水準のキャラクターだ。これで彼に圧勝し何かしらいい感じの命令をしてやる!
「フフフ……フハハハハ!」
「え、何?急に高笑いなんかしだして……怖いんだけど……。と、取り敢えず……僕は……」
そう言って彼が選んだのは……
「ま、まさか……それは……!!」
「そう、コンボ界最強キャラだ!」
私の選んだキャラクターは一つだけ弱点がある。それはコンボ耐性があまりないということ。普通のコンボなら頑張れば脱け出せないこともない。だが、彼の選んだキャラクターはコンボに使用する技の発生が早く、私のキャラクターの殆どの技よりも早い。つまり、一度コンボが始まればかなりの確率で抜けられずに死ぬ。とはいえ、それは彼がコンボをうまく決められるのならという話。そう、このキャラクターのコンボは超がつく程難しいのだ。流石に小手先の実力だけで使いこなすことは不可能だろう。
 そして、戦いの火蓋は切られ……結果、私は完膚なきまでに叩きのめされた。1ラウンドも取れなかった。
「は?」
私の口から発せられたのははそんな素っ頓狂な声だった。
「どうかした?」
「何がどうしてどうなって……はあ?」
「取り敢えず大丈夫な感じじゃなさそうだね。」
全く持って理解ができなかった。まるで使いなれているかのような……はっ……!まさか……!
「空、もしかしてこのキャラの事が好きだったりする?」
「え、あ、まあ、そうだけど……?」
私は空を睨み付けた。何故か?それは彼が選んだキャラクターにある。
「何で女性キャラなの!?」
「このキャラが使いやすかっただけだけど?」
「そんなわけないでしょ!?もし本当にそうなら何で今まで使わなかったのよ!?」
「いや、まあ、たまたまってやつだよ……。」
「ねぇ……空はこういう女の子が好きなの?」
「えーと……どういう意味で?」
「言い方帰ると、空はこういう女の子がタイプなの?白い長髪で、ジト目で背が高くて胸が大きなそういう女の子がタイプなの?」
「いや、別にそう言う訳じゃないけど?」
「へぇ~。」
「なんか疑ってる?ほんとに違うからね?そんなゲスを見るような目で僕の事を見ないで!?」
私もそれなりに胸あると思うけどなぁ……何が足りないんだろう?やっぱり身長かなぁ……?
「それで、空は私に何を命令するつもり?まさか……変なこと言うつもり?」
「違うから!……とはいえ、何も思い浮かばないんだよねぇ……なんかいい命令……ないなぁ。」
「なんだっていいんだよ?どんなことでもなんだって命令できるんだからね?」
私としては彼から命令されるならむしろ嬉しい。彼の命令なら何でも受け入れられる気がする。これが恋は盲目ってやつなのかな?
「まあ、この権利は今度使うことにしておくよ。今は何にも思いつかないし。」
「早めに使いなよ?忘れちゃうから。」
「考えておくよ。」
 その後は特に何もなく雑談をしたり、ゲームをしたりして過ごした。楽しい時間はすぐに過ぎていき、夜になった。私は今日もその部屋へ来ていた。音を立てないようにその扉を開ける。
「あれ?」
私はそんな驚きの声をあげた。何故なら、彼は起きていたから。昨日と殆ど同じ時間にここへ来たのに彼は起きていた。
「何で起きているんだろうって思ってる?そう難しい話じゃないよ。君がここに来るだろうと思っていたから。聞きたいことが一つだけある。」
私何かしたのかな?そう思っていると彼は衝撃的な一言を告げた。
「君、もしかして……僕の事好きだったりする?」
「え?」
意外だった。まさか彼が私の気持ちに気付いていただなんて。でも、バレていたのならそれはそれで楽だ。そもそもバレたくないわけでもないし。
「別に証拠も根拠も確信も何もないんだけど。で、どうなの?」
私は彼が好きだ。あの日、助けて貰ってから。それをそのまま告げようと口を開こうとした瞬間、彼はそれを遮ってしまった。
「なんてな。君が黙るってことは多分そうじゃないんだろうな。ごめん、変なこと言った。気にしないで。それじゃあお休み。」
そう言うと彼は布団にくるまって寝てしまった。私もその布団に潜り込み横になる。何で、あそこまで気付いたのに正解にたどり着けないかなぁ……ほんとに鈍感なんだから……まあ、そう言うとこも好きなんだけど。そんなことを思いながら。私は眠りにつくのだった。
(あとがき)
どうも、突然章を分け始めたしらす(仮)です。久しぶりの二週連続投稿ですね。あ、今回から恐らく毎回あとがきをつけると思います。え?前からそうだっただろって?今までのはあとがきではない、お詫びだ。今後お詫びを書くだなんて事はないと思います。余裕ができたので。それでは次回もよろしくお願いいたします。以上、最近寝不足のしらす(仮)でした。
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