ハガネノココロ

しらす(仮)

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鋼の女性

四話「名も無き過去の記憶」

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「私、アルバイトとして働こうと思うのです!」
その言葉を聞いた瞬間、驚きのあまり吹き出しそうになった。
「え?何て言った?」
「アルバイトをしようと思うのです。」
「別にそこまでしなくたって……それにもしアルバイトとして働くとして、君は人間社会の常識なんて知らないだろう?」
「それはこれから覚えていくのです。今すぐ働くと言う訳じゃないですし。」
「だとしても……」
そこまで言って、僕は気づいた。なんで僕はアンドロイドをここまで心配しているんだ?まだ出会って三日。なんなら実質二日だ。なのに、なんだこの感情は?彼女の生い立ちを知っているから同情しているとでも言うのか?
「だとしても、何です?」
アンドロイドのその言葉で僕は現実へと戻される。
「はいはい、わかったよ。やりたければやればいいさ。ただ、やるのであればこの人間社会、この現実を知って貰うからな。」
「それくらい百も承知です。」
「だけどその前に……ごちそうさまでした。」
僕はそう言って皿を流し台まで持っていく。
「溜めて言うことがそれなんですか?」
「別にいいじゃん。それじゃ、そろそろ僕は学校に行ってくるよ。」
「あら、いつもより早いのですね。」
「特に理由はないんだけどね。別にここにいたってやることないし。天気予報見るくらいかな?」
「私が現実を学ぶ手伝いはしてくれないのですか?」
「やればいいとは言ったが、手伝うだなんて一言も言ってないからな。それは自力で頑張って。それじゃ。」
「非情な人ですね。」
「それは言い過ぎじゃない?」
そうして僕は家を出た。……訳なのだが、何故か目の前に茜がいる。いつもより早く家を出た筈なのに、茜がいる。
「なんでいるの?」
「何でって、迎えに来たんだけど?」
「そんなに僕と一緒に登校したいわけ?」
「え、えと、まあ、そうね。」
何処からくるんだその執念は。
 というわけで僕はそのまま茜と一緒に登校している訳なのだが……いつも以上に距離が近い。いや、彼女の気持ちもわからなくはない。ただ、やはりすごく邪魔だ。
「退いてくれない?」
「嫌だ。別に誰も見てないしいいじゃん。」
いつもより早い時間に家を出たので、人があまりいない、というか全くいないのでそこまで人目を気にする必要はないのだが。やはりなんと言うか……もしもを考えてやめて欲しい。だが、彼女のことを理解しているが故に抵抗することはできない。普段なら周りの目を気にして彼女もここまではしてこない。だが、今周りには誰もいない。つまりは、前のように逃げるなどということは不可能!ああ、あんなことすべきじゃなかったかな……。
「なぁに暗い顔してんのさ!可愛い幼馴染みが一緒に登校してあげてるって言うのに。」
それ前にも聞いた。
「て言うか、めちゃくちゃ近いんだけど。それに……その……なんか……当たってるんだけれども……。」
「うん。そうね。」
「うん、そうね……じゃないでしょ!?」
「何が?」
もう訳わからん。僕はどうすればいいんだ?茜が何故こうなってしまったのか僕は知っている。だが、それは彼女にも僕にとっても思い出したくない記憶。二人を傷つける記憶。僕らは記憶から逃げている。だが、それでいい。それでいいのだ。これ以上傷つく必要なんてないのだから。
 学校に着いたわけだが、昨日の暗い気分を払拭しようと思っていたが、朝から嫌なことを思い出してしまいいつも以上に機嫌が悪い。僕の生活に癒しはないのか?意味もない授業を寝てすごした。
 チャイムの音で目を覚ます。どうやらもう昼休みらしい。やっとかと思い、僕は弁当を持って教室を出た。
 暫くして、僕はいつもの場所に座り弁当を開けようとしていた。学校生活唯一の癒しかもしれない。そう思っていた時だった。何処からか足音が聞こえてくる。まさか……!どうやら至福の時間はここまでのようだ。教師が来る……!僕は既に準備ができていた。。後は実行するのみ。そして、そのときが訪れる。
「そちらをあなた様に捧げます。なのでどうか生徒指導だけはお止めください。それで足りなければ私が貴方の腕となり脚となりましょう。なので許してください。」
しかし、返答は予想外であった。だが、その声には聞き覚えがあった。
「へ……?ま、また……?ほ、本当に……何してるんですか……!?」
あ……僕また何かやっちゃった?僕は即座に彼女の目の前に捧げた財布をポケットにしまう。
「そんなに怯えるのなら……ここに来なければいいじゃないですか……。」
「そうはいかない。あんな騒がしい動物園みたいなとこにいられねぇよ。」
「そ、そうですか……。」
「前にも聞いたんだけどさ、君はどうしてここに?」
「特に理由はないですって……。」
「特に理由もなくここに来るの?」
「そう……です。」
なんと言うか話しにくいな……。会話しようとしても向こうから切ってくる感じ。まあ、この学校に通っていると言う点を除けば赤の他人だしな。まあ、変に詮索するのはやめよう。それに彼女に何かあろうと、僕には関係ない。そうだ、関係ないのだ。ただ、折角だし……
「ねぇ、一緒に食べよ?二回もここで出会うってのも何かの縁だしさ。」
「ふぇ?へ?え?え~~~!?」
なんだその驚き方は。ギャグマンガかな?
「な、何かの聞き間違え……ですか……?わ、私と……?へ?え?……本当?」
そう言ってあたふたする後輩。何これ可愛い……。いや恋愛とかそう意味じゃなくてなんか猫を見てる感じ。つまりは癒し。なんか、悩みが一気にどうでもよくなるような感覚。
「そんな驚かなくていいじゃん。一緒に食事くらい。それとも異性と食事することに抵抗でもあるの?」
「て、抵抗……と言うか、知り合いと食事したことないと言うか……。」
まあ、そんなことだろうとは思ってた。いかにも陰キャって感じだし。
「家族とすら……食事したことないし……。」
さすがにそれは嘘だろ?ま、まあ、いいか。気にしないでおこう。
「ほら、こっち来なよ。」
「は、はい……どうぞご自由に……。」
別になにもしないから!……あれ?おかしいな。今日は茜に好き勝手される日かと思っていたのに。そっちよりはまだ平和で、僕は助かるけど。そんなことを思いながら僕は弁当箱の蓋を開けた。僕はその中身を見て、クスッと笑ってしまった。
「ど、どうか……したんですか……?」
「いや別に……。」
弁当の中の白ご飯の上に海苔で「頑張ってください」と書いてあった。
「ほんとにアンドロイドかよ……。」
僕はそう呟くと弁当を食べ始めた。
 その後も午後の授業を寝て過ごし、放課後になった。今日は金曜日。そう、金曜日だ。それが意味すること、それは茜の部活がないということ。つまり……。そう考えていた次の瞬間、校門から出ようとした僕の背中にぶつてかってくる何か。それはとても柔らかかった。僕はすぐに逃げようとしたのだが、すでに僕の腕は掴まれていた。逃げられない。終わった……。
「何逃げようとしてるの!ほら!一緒に帰ろ!」
「嫌だ。」
「いいじゃんいいじゃん!減るもんじゃあるまいしさ!」
減ってくれた方がよかった。いや、今は今朝と違い、周りにたくさん他人がいる。ならばいつも通り逃げれる筈!……なんだけれど、ここまでガッツリ掴まれてたら逃げるのも一苦労だなぁ……。今、茜は僕の左腕に抱きついてきている。柔らかいものが押し付けられるくらいにはおもいっきり抱きつかれている。これでは振りほどけない。男女の筋力差なんて関係ない。そもそも僕自身、そこまで筋力がある方じゃない。つまり……逃げれないQ.E.D.。周りからの視線が痛いどころの騒ぎじゃない。だが、茜から逃げることも、この視線から逃げることも叶わない。あぁ……最悪だ。しかし、茜はそんな僕のことなど無視して話し掛けてくる。
「ねぇ、明日、空の家に遊びにいっていい?」
「駄目。」
「じゃあ、明日の朝そっちにいくね。」
「断る。」
「いいよね?」
「断る!」
「やったー!いっぱい遊ぼ!」
「こ・と・わ・る!」
そろそろ我慢の限界だった僕は大声で「話を聞け!断るって言ってるだろ!」と言いそうになったが、周りからの目線もあり、何も言えなかった。ただ、彼女にされるがまま、流されていった。
 その後は茜と僕との物理的距離感以外は特に何もなく、家の近くまで来ていた。
「や、やっとここまで来た……。」
きっと歩いていたのはほんの十数分だろう。だが、僕にはそれが一時間くらいに感じた。
「ここまで来たんだからそろそろ離してくれない?」
僕がそう言うと、茜は手を離してくれた。あれ?以外とすんなり……と思っていると突然彼女は走り出した。
「え?ちょ、どうしたの!?」
僕の言葉も無視して、茜はどこかへ行ってしまった。おそらく彼女の家だろうけれど。それにしてもなんだったんだあいつは。そう思いながら、僕は我が家の扉を開けた。
***
その頃茜は……
 空から逃げるように走り、私は我が家に帰っていた。我が家には誰もいない。パパもママも夜遅くまで仕事なのだ。私はスサスサと自分の部屋に入りカバンを床に投げ捨て、ベッドに寝転がった。
「はぁー何があったらあんなカタブツになるのかしら。前はさほどじゃなかったんだけど。」
そう呟いて彼の姿を思い浮かべる。胸が熱くなるのを感じた。
「あーあ、何で気付かないかな私の気持ちに。あんなに近づかれたらどんな男子でも意識すると思ったんだけど。やっぱり幼馴染みだから、あいつももうなれたのかな?幼馴染みっていうのもいいことばかりじゃないのね。」
私が彼に思いを寄せるようになったのはいつからだろう?覚えていない。彼に何かして貰った気もするが、なんだったかよく思い出せない。ただたった一つ言えることがあるのなら、間違いなく私は彼に惚れている。
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