悪魔は天使の面して嗤う

汐月 詩

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マリコさん

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 その日の夜、マリコさんの言う通り、たろちゃんはいつもより遅くに帰ってきた。右手にコンビニの袋をぶら下げて、「寒いねー」なんて言いながら。
 私はただ、彼の帰りを待ちながら、熱々のお鍋を作っていた。たろちゃんが特に好きだと言っていた、味噌味の鍋を、だ。
 たろちゃんは何も訊かない。だから私も何も言わない。それでいいんだと思う。
 だってたろちゃんはたろちゃんだから。
 彼の過去がどうあれ、たろちゃんは変わったりしない。彼と過ごした数ヶ月が、私にとっての全てだから。
 たろちゃんは「美味しいね」と言いながらご飯を三杯もおかわりした。私は喜んでご飯をよそった。それだけ。たったそれだけのことだけど、きっと私たちには意味のあることなんだと思う。
 幸せって、多分、雪みたいに静かに降り積もっていくものなんだ。
 私はこれからも、そんな幸せをたろちゃんと作っていきたい。今日マリコさんに会って話せてよかった──。
 これで全てが丸く納まった。そのはずだった。
 たろちゃんの過去が判明したと共に、今まで嫉妬の対象だったマリコさんが、たろちゃんの母親がわりの存在だったことがわかった。
 しかもそれを、今までの彼女には言わずに私にだけ教えてくれたのだ。
 けれどなんでだろう? なにかが私の心にひっかかる。
 マリコさんが言った言葉……『母親の死んだ理由が理由だったから──』これは、何を意味するんだろう。なんでたろちゃんの母親は自殺なんかしたんだろう。肝心の理由については、たろちゃんは何一つ語らなかった。
 それに、たろちゃんが偶然私に出会ったと言っていたけれど……本当にそうだろうか。
 まるでドラマのような出会いのシーン。本当に偶然? そもそもたろちゃんは、なんで私の家に転がり込んできたんだっけ?
 心の片隅に、ほんの僅かに残るモヤモヤとした思いが、気がかりでならない。




 私、幸せになれるよね──?
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