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しおりを挟むセリアはキースとの話し合いが終わり、護衛が用意していた馬車に乗って、シリア商会へ帰路についていた。護衛は御者台に座り、馬車内にはセリア1人だけであった。
商業組合が公爵とのコネクションに気を遣っているとは思わなかったセリアだが、分かってしまった以上、これから先の対応について考える必要が出てきた。ただただグラレス領を原点に動くのは簡単であるのだが、領地から離れても問題は無いに等しいのであった。その他で問題と成り得ることは貴族位がある親と子という肩書きと、学園の対応と、商会の職員であった。貴族位に関しては既に王都で準備を終わらせているので、危険性はないため今は除外として考えている。
しかし学園長の決定を遂行するには平民であれば無償に近いが、貴族となれば当主からの承認が必要だった。また平民の場合は無償の代わりに卒業後は進路の選択が少ないが、貴族位の令嬢ともなれば社交界などの肩書として使えるだけである。
「商会長、おかえりなさい!来訪した方の対応はどうなったでしょうか?」
「ええ。おもに商会を商業組合に入らないかと言う勧誘だったわ!もちろん、断ったけれどね。」
『…ほっ』
「それよりも、会議をしたいから会議室に職員を集めて欲しいのよ。これから先のことについて、相談したいことがあるわ!」
「すぐに集めてきますね。」
シリア商会の職員はグラレス領民であるので商会としてなら離れられるが、皆が皆、離れられるかと言えば、難しいことに変わりはなかった。そこまで考えれば、自ずと職員の対応が分かってくる。
ただし少なくともグラレス領に職員が残ることになっても商会自体は領地に残すことはできない。更に言えば、商業組合グラレス支部を敵に回しているため、他領へ行かないといけないのだが。
「集まってもらって悪いのだけれど、近いうちにグラレス領を出て、違う土地を拠点にしたいと考えています。」
『………』
「そこで、私と来たいと思う職員は実際のところ、居るのかしら?最低でも商会経営ができる人数だから、今の半数は連れて行く予定ではあるわ。私の事情はこの際、置きます。さて、皆さんはこの領地から離れることを望んでいますか?それとも、まだグラレス領に残りたいですか?」
「それは、…移住するってことでしょうか?我々は離れることに否とは言いません。ですが、その土地を追われることは無いのでしょうか?」
「少なくとも、私の目が黒いうちは大丈夫です。仮にダメだとしても、候補は多くあります!もちろん移った先々で暮らしたい、と言うのであれば多少資金を渡すつもりです。」
『………』
「返事はいつでも良いです。私も明日すぐにでも離れるわけではありません。よく考えて行動するように。…では今日はもう帰りますので、お疲れ様です。」
『………』
シリア商会の会議室で大勢の職員が黙り込む中、セリアは商会の出入り口へ向かった。出入り口では平民の格好から鎧に身を纏った護衛が馬車を準備していた。セリアは準備を終えるまで、職員の対応について思考を続ける。職員の決断に迷いがあると、今後いつ商会が無くなるか分かったものではなかった。かのキーシュ家では従業員が減っても、多くの従業員を雇えるだけの伝手がある。それに比べて未だ噂すら広がっていない商会など、一つの言動で左右されかねないのだ。
会議室で固まっていた職員は黙り込んでいたが、セリアが去ってから幾分か過ぎた頃、やっと作業に取り掛かった。それでもセリアが語ったことが頭から離れず、その日の作業効率が落ちたことで解散することになった。それほどまでにセリアの語ったことに衝撃を受けていた。
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