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しおりを挟む「いえ、大丈夫ならば良いのです。私が冒険者組合へ行っていたことは知っているでしょうか?」
「ああ、ベルトンの従者から以前起きたことなら聞いたぞ?なんでも冒険者組合の受付嬢がヘマをしたらしいな。その受付嬢は組合長から厳しい対応を受けたとか。」
「その時、組合長と契約していた取引をやめたので問題は起きなかったかな…と。それとですね。…我が家からの仕入れを打ち切りました。」
「ほう。組合長のことは気の毒としか言えないな。しかし仕入れ行っていたことは私も知らないのだが?何か特殊な仕入れなのか」
「ええ、私の知り合いの職人が作っている物なんです。庶民では買えず、貴族の富裕層でしか回らない代物を。」
「………。」
「すでに再開していますが、貴族の家令などは留守を理由に出回っているかもですね。」
「まさか、あの高値の酒ですか!そりゃ、仕事が回らない筈だ。まぁ気長にやっていくとしよう。うちは在庫もあるし大丈夫だ、セリア嬢が気にすることではない。領地へ行ったら、連絡は難しいだろうな」
「何か有れば向かいますので、お構いなく。」
その後、学園長から外出の辞令書をもらい受けたセリアは屋敷への帰路に着く。屋敷では方向性が歪んでいた取引を軌道に戻して、友好な関係に戻ることができていた。家令の多くはグラレス領産の酒類を以前より極少量を回すことで、利益を増やせるように動き回っていた。
「…こんなところでしょうか。満足できたでしょうか、キース様。」
「ええ、よく分かりました。話を聞いた限りでは、やはり商業組合に入っていただきたい。我々としては公爵家とのコネクションを持った商会であれば、何処の誰であろうと引き入れたいのですよ。」
「でも断ります。既にアグレス領では元に戻せないほど、形が出来つつありますから。」
「そのようですね。では、いつか会えるときを期待しましょうかね。」
その会話で終わりと言うように、セリアは席を立ち上がり、護衛と宿を離れていった。それを頃合いに寝たフリをしていた男は身体を戻し、窓越しで去っていく馬車を眺めた。
キースは起きだした男を見ながら、自分が交渉に失敗したことを自覚する。商業組合の視察官でありながら、益となるであろう個人、または商店を引き入れることがキースの役目だった。しかし頑なにセリアは商業組合に入ることに対して拒絶を示してみせた。
セリアへの対応を思案し、それから数日の間、商業組合本部への返答を考え続けることになった。
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