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しおりを挟む「お久しぶりです。ジーナ叔母様、セリアでございます。ローナにはいつも助かっています。」
「…っ、ローナは専属になったと聞きました。本日はお世話させていただきます。」
「ほかに客はいるのですか?それと入り口にいた彼らは、ご近所さんで?」
「はい。この区域で過ごしている仕事仲間です。普段助けてもらっているので、用心棒として頼んで守ってもらっております。」
「数日経ったら屋敷へ帰りますので、庶民の生活をお教えくださいね。」
「はい。と言っても、それほどできることは少ないかと思いますが。」
「いえいえ。護衛は周辺の偵察を行わせます。」
セリアとの会話中も護衛は宿の周辺で動き、情報を集めていく。その情報から重要な事や、住民の暮らしを含めた多くの事をセリアに口頭で伝えていった。
そんな数日間の生活も、過ぎ去るのは早く、宿を去る日が来てしまった。ジーナは名残惜しそうだったが、護衛と屋敷へ向けて帰路についた。屋敷へ着いてみれば、屋敷前には以前見かけた貴族の馬車が止まっていた。
その周囲は騎士に守られていたが、気が荒いようで屋敷の見張り番と睨み合ってしまう。そんな雰囲気の前をセリアと護衛は通っていく。
「おい。平民が来るような場所ではない。さっさと立ち去れ!」
『………』
「聞いているのか?それとも商家の者か?まあ良い、我々はキーシュ男爵家のものである。用件は我々の後にするが良い!」
「…帰るぞ。屋敷の主人はいないようだった。これから下町へ…。そこの者、数日前に下町で見かけたぞ。ここには何用か?それとも…」
「お嬢様、お帰りなさいませ!お迎えが遅くなってしまい、申し訳ありません。ささ、こちらへお通りください。」
「ええ。かの方が来られるかもしれません、用心をなさって。」
『はっ、分かりました』
「…まさか。そこの者は、この屋敷の関係者かな?できることならば、お名前をお聞きしたく…」
「グラレス子爵家令嬢、セリア・グラレスでございます。我々は急いでいるので、失礼します」
まさかと言いたげな男爵一行を放置して屋敷へと入っていく。門の先に入った途端、門前で騒いでいたが気にせず屋敷へと向かった。
屋敷に入ると家令の1人が出迎えをしてくれていた。その周囲では騎士と侍女が大慌てで移動し続けて、何かを準備していた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。報告は後程いたします。現在、一部の下町で炊き出しを行うための資材を集めているところです。少々貴族らがクビにした者が多く、路地にまで溢れています。ひとまずは炊き出しのみに力を注ぐ所存です。」
「そう。先程キーシュ家が来たことと関係があるのかしら?」
「はい。庶民に施さなくても何とかなると、言い出して妨害してきたので追い出しました。あそこは富裕層しか与えない商会ですから。」
「では私の私財からも徴収をして良いわ。それと雇えるなら失業者を雇っておいて。いずれ必要になるでしょうし。」
「分かりました。…では早めに手を打ちます。既に騎士団が動いているので、暴動に発展しかねません。」
「それと念のために、炊き出し中は子爵家の家紋を使って構いません!多少の問題は、貴族だからと解決するでしょう。」
「では早速行います。それと学園から近日中に来訪するようにと使者が来ました。学園側は既にチャール公爵の件を知っている可能性があるかと思われます。」
家令からの報告を聞きながら学園での対応を考え、自室へと向かう。家令は指示通り、セリアの私財から必要な数値だけ出して炊き出しに当てた。
その日は子爵家が多くの炊き出しを行ったため、暴動も起こらず事なきを得た。それまで溢れていた住民や失業者たちはセリアに感謝を示し、それから数日ごとに数を減らしていった。
その多くは王都の屋敷で料理人や騎士へ入り、恩を返すために励みに入った。その路地から住民が居なくなった分、冒険者への依頼が殺到し、派遣されていた騎士団は結局何もせず役割を終えることになった。
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