商会を立ち上げたい【完結】

青緑

文字の大きさ
上 下
20 / 32

19

しおりを挟む

「お久しぶりです。ジーナ叔母様、セリアでございます。ローナにはいつも助かっています。」

「…っ、ローナは専属になったと聞きました。本日はお世話させていただきます。」

「ほかに客はいるのですか?それと入り口にいた彼らは、ご近所さんで?」

「はい。この区域で過ごしている仕事仲間です。普段助けてもらっているので、用心棒として頼んで守ってもらっております。」

「数日経ったら屋敷へ帰りますので、庶民の生活をお教えくださいね。」

「はい。と言っても、それほどできることは少ないかと思いますが。」

「いえいえ。護衛は周辺の偵察を行わせます。」

 セリアとの会話中も護衛は宿の周辺で動き、情報を集めていく。その情報から重要な事や、住民の暮らしを含めた多くの事をセリアに口頭で伝えていった。


 そんな数日間の生活も、過ぎ去るのは早く、宿を去る日が来てしまった。ジーナは名残惜しそうだったが、護衛と屋敷へ向けて帰路についた。屋敷へ着いてみれば、屋敷前には以前見かけた貴族の馬車が止まっていた。
 その周囲は騎士に守られていたが、気が荒いようで屋敷の見張り番と睨み合ってしまう。そんな雰囲気の前をセリアと護衛は通っていく。

「おい。平民が来るような場所ではない。さっさと立ち去れ!」

『………』

「聞いているのか?それとも商家の者か?まあ良い、我々はキーシュ男爵家のものである。用件は我々の後にするが良い!」

「…帰るぞ。屋敷の主人はいないようだった。これから下町へ…。そこの者、数日前に下町で見かけたぞ。ここには何用か?それとも…」

「お嬢様、お帰りなさいませ!お迎えが遅くなってしまい、申し訳ありません。ささ、こちらへお通りください。」

「ええ。かの方が来られるかもしれません、用心をなさって。」

『はっ、分かりました』

「…まさか。そこの者は、この屋敷の関係者かな?できることならば、お名前をお聞きしたく…」

「グラレス子爵家令嬢、セリア・グラレスでございます。我々は急いでいるので、失礼します」

 まさかと言いたげな男爵一行を放置して屋敷へと入っていく。門の先に入った途端、門前で騒いでいたが気にせず屋敷へと向かった。
 屋敷に入ると家令の1人が出迎えをしてくれていた。その周囲では騎士と侍女が大慌てで移動し続けて、何かを準備していた。

「お帰りなさいませ、お嬢様。報告は後程いたします。現在、一部の下町で炊き出しを行うための資材を集めているところです。少々貴族らがクビにした者が多く、路地にまで溢れています。ひとまずは炊き出しのみに力を注ぐ所存です。」

「そう。先程キーシュ家が来たことと関係があるのかしら?」

「はい。庶民に施さなくても何とかなると、言い出して妨害してきたので追い出しました。あそこは富裕層しか与えない商会ですから。」

「では私の私財からも徴収をして良いわ。それと雇えるなら失業者を雇っておいて。いずれ必要になるでしょうし。」

「分かりました。…では早めに手を打ちます。既に騎士団が動いているので、暴動に発展しかねません。」

「それと念のために、炊き出し中は子爵家の家紋を使って構いません!多少の問題は、貴族だからと解決するでしょう。」

「では早速行います。それと学園から近日中に来訪するようにと使者が来ました。学園側は既にチャール公爵の件を知っている可能性があるかと思われます。」

 家令からの報告を聞きながら学園での対応を考え、自室へと向かう。家令は指示通り、セリアの私財から必要な数値だけ出して炊き出しに当てた。
 その日は子爵家が多くの炊き出しを行ったため、暴動も起こらず事なきを得た。それまで溢れていた住民や失業者たちはセリアに感謝を示し、それから数日ごとに数を減らしていった。
 その多くは王都の屋敷で料理人や騎士へ入り、恩を返すために励みに入った。その路地から住民が居なくなった分、冒険者への依頼が殺到し、派遣されていた騎士団は結局何もせず役割を終えることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。

木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。 不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。 当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。 多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。 しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。 その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。 私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。 それは、先祖が密かに残していた遺産である。 驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。 そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。 それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。 彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。 しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。 「今更、掌を返しても遅い」 それが、私の素直な気持ちだった。 ※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)

【完結】山猿姫の婚約〜領民にも山猿と呼ばれる私は筆頭公爵様にだけ天使と呼ばれます〜

葉桜鹿乃
恋愛
小さい頃から山猿姫と呼ばれて、領民の子供たちと野山を駆け回り木登りと釣りをしていた、リナ・イーリス子爵令嬢。 成人して社交界にも出たし、今では無闇に外を走り回ったりしないのだが、元来の運動神経のよさを持て余して発揮しまった結果、王都でも山猿姫の名前で通るようになってしまった。 もうこのまま、お父様が苦労してもってくるお見合いで結婚するしか無いと思っていたが、ひょんな事から、木の上から落ちてしまった私を受け止めた公爵様に婚約を申し込まれてしまう。 しかも、公爵様は「私の天使」と私のことを呼んで非常に、それはもう大層に、大袈裟なほどに、大事にしてくれて……、一体なぜ?! 両親は喜んで私を売りわ……婚約させ、領地の屋敷から王都の屋敷に一人移り住み、公爵様との交流を深めていく。 一体、この人はなんで私を「私の天使」などと呼ぶのだろう? 私の中の疑問と不安は、日々大きくなっていく。 ずっと過去を忘れなかった公爵様と、山猿姫と呼ばれた子爵令嬢の幸せ婚約物語。 ※小説家になろう様でも別名義にて連載しています。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います

kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。 でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。 サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。 ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...