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しおりを挟む貧民街に近く、銀貨で払える宿屋の一室で2人組の男が話し合っている。
ベッドに腰掛け、茶色い木製のテーブルで紙に情報をまとめている。
「…間違いはないのか?仮に本当だとしたら、世間一般の令嬢が驚くどころじゃないぞ。我々組合は小娘1人に対して負けたということになるぞ!」
「間違いはないだろう。少なくともグラレス支部では組合の経営が回らず、ここ周辺での商いが動いてないらしい。領主館は我関せずといったように動いているし、子爵令嬢は自由奔放と聞いていたが、実際には商会を立ち上げているわけだ。」
疑いつつも実際のところ、領主の知らない場所で商会を立ち上げているのは間違いないだろうと考えられる。それでも警戒するに越した事はない。
「ふむ。まずは会って見ないことには何もできないし、王都の組合からの情報が正しいのであれば、何としてでも子爵令嬢が単独で立てた商会には組合に入ってもらいたいものだ。だが情報が間違っていたとしたら、我々は連帯責任で職を失う可能性すらありえる。」
「だからこそ、会えるなら今日中に会っておきたいのが。さて、どう出てくるか…」
(コンッコンッ)
「誰だ、食事は要らないと言ってあった筈だが?それとも何か用事があるのか?」
話し合っていた2人組は扉をノックする音を聞き、扉の向こう側にいるだろう給仕に話しかけるが…
「すまん、商会の者だ。商会長より言伝を預かったので、今しがた来たところだ。」
「ああ、すまん。それで商会長は何と言っていたのかな?」
「明日なら会えるだろうとの事だ。それで大丈夫だろうか?…何かあれば商会長に伝えておこう」
「いや特には…
「今日じゃ駄目なのか?それとも何か隠し事があるのではないか?」
「…では『この話は無かった』ことにしよう。こちらも別に話すことがある訳ではないしな、では私はこれで…」
扉の向こう側から低い声で言われたことで一瞬だけ言葉に詰まってしまったが、なんとか踏み止まって扉を開き、去って行く男を引き止めた。
「…なっ!
「ちょちょっと待ってくれないか!」
「…なんですかな。こちらは早く主人のもとに戻りたいのだが、何かあるなら早く話してほしい。」
「…っ、明日会おうか。相方が挑発して悪かったよ、此度のことは水に流してほしい。なんなら、その商会長に謝罪をしても良いから。な?」
「それは主人が決めることだ、私が決めることではない。だが先ほどのことも商会長の命令だ、もしも今日会おうと言い出すなら断って来ても構わない、とね。」
一人の令嬢を小娘と侮っていたがまさか断りの言伝まで用意していることに、2人の男は恐ろしく思えてしまった。なぜなら商業組合からの「話」と聞いただけで、これまで誰もが飛びつく者が多かったのが原因だった。この商会の商会長には注意が必要だと改めて決意した瞬間だった。
「むっ…、すまなかった。」
「では、明日会うことを商会長に伝えておこう。時間は日が天辺になった頃合い、でどうだろうか?」
「ああ、それで頼む…いや、頼みたい。」
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