偽聖女なので、聖女じゃありません【完結】

青緑

文字の大きさ
上 下
3 / 3

偽聖女なので、聖女じゃありません 3

しおりを挟む
 ミーリアは微妙だが成果を上げられたことに歓喜し、他の魔法も試しだした。
 だがそんな彼女を遠くから見ている者がいることに、ミーリアは気付いていなかった。


 その日、貴族に教会の宣伝という恒例行事のために教会の神父がある貴族家を眺めていた。老齢に近い白髪をした神父だが、見た目と違い、まだまだ長生きができる男であった。自身が行う魔法の失敗によって、見た目が変わってしまったことが原因でもあるが、神父はこの見た目を好いていた。
 近所からはお爺さん神父として、子供たちに好かれていたため、自然と気にならなくなっていた。

 ある貴族家に生まれ、数日前に祝福を受けた御令嬢から知らせが来ないため恒例行事という名目で来ていた。
 だが本邸に向かう道中で、僅かな魔力に向かう方向を変えた。緑の深い森林を抜け、魔力源へ顔を覗かせると、そこには例の令嬢が魔法の練習をしているようだ。
 その時ミーリアは光魔法に挑戦していた。夢中になって僅かに残る残滓を拾うように、黒い塊から一つの光を掬うように闇を徐々に外していった。
 神父からは組んだ手から何かを捻り出そうとする子供にしか見えなかった。そっと眺めるうちに、訪問した時刻をとうに過ぎていることを察した神父は音を立てないように動こうとした。

 その時、令嬢から小さな輝く光が生み出された。それは例に見ない光魔法そのものだった。神父はその光の影でドス黒く禍々しい闇を知覚できず、光魔法の誕生に歓喜した。
 民間や貴族には伝わらず、教会に属して地位を確立させた者しか知り得ない事だが、光魔法を扱えるのは世界に一人だけと言われる聖女か、聖職者の他には存在しない。
 聖職者の中にも光魔法が使える者は非常に少なく、神父のような人や物を鑑定するギフトもあれば、様々な魔法を扱う者もいる。正確に言えることは聖女から巫女など特別な地位が無ければ、後天的に光魔法を習得することは難しいとされている。
 それを祝福からそれほど経っていない筈の令嬢が光魔法を発動できたことに、神父は嬉しく感じていた。ただ貴族に生まれた者は教会に身を寄せることが、ほぼ無いのだが神父はこのとき抜けていた。

 早る想いから自身を落ち着かせた神父は公爵家の本邸に向かった。公爵は気品ある振る舞いで社交辞令を告げると、謝礼として金銭の入った巾着を寄越した。
 つまりは『来たことの礼にコレを渡すから帰れ』という意味である。神父は去り際に令嬢について、暗に触れると公爵自身も知らないことが発覚した。
 神父は今後のことを考え、知人や聖職者にそれとなく話を通して、教会の各所において、陰で次期聖女かもしれない者が現れたという噂が流れた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

ライバル令嬢に選択肢取られてるんですけど?

こうやさい
ファンタジー
 気がつくと乙女ゲーの世界にヒロインとして転生していた。うん、フィクションなら良くある。  そのゲームの攻略キャラには婚約者がいた。うん、これもある。  けどその婚約者がヒロインの言うはずのセリフ言ってるのはありなの?  うん、タイトルまんまの話。恋愛には発展しません。  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!

ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」 卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。 よくある断罪劇が始まる……筈が。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...