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 貴族の子息子女による社交界デビューを終えて、早3ヶ月が過ぎていた。

 その間、ティリアにはホルム辺境侯爵家に嫁ぐために家庭教師による淑女の勉強が及第点を与えられるまで続いた。

 家庭教師はホルム辺境侯爵家からの紹介によって派遣されたため、他家の求められる水準よりも優しい部類に入る。

 これはホルム辺境侯爵家当主が、婚約相手の貴族家の地位が子爵であることを考慮した上での人選であった。

 貴族家によってはその家に相応しくあり続けるために、より厳しい教育が設けられることが多い。

 高位貴族ともなれば、夫人自ら教鞭を振るう場合も含まれる。

 だが子爵家は貴族と言っても末端貴族である。

 高い水準で進めたとしても、令嬢本人が潰れてしまっては意味がない。

 だからといって、教育を施さず婚姻するわけにもいかない。

 そのため、必要最小限、かつ令嬢に負担の少ない水準に決定を下したのだった。


 今日はホルム辺境侯爵家が主催するパーティーに婚約者として参列する日である。

 ティリアに告げられている内容はヴァイトゥルスの婚約者として振る舞う、といったものだった。

 だが、共に参列するグレハラ子爵夫妻には別の内容が告げられていた。

 "呼んだ貴族家の話に関わり、少しでも縁を築け。"というものだった。

 もちろん、ホルム辺境侯爵家の主催するパーティーには辺境侯爵家に血筋がある家系がほとんどである。

 ただし、中にはホルム辺境侯爵家から招待されなくとも、他家が招待する貴族家も参列している。

 基本的に侯爵家ともなれば派閥争いが盛んであるため、派閥に属さない貴族家はお断りであるが、ホルム辺境侯爵家は先代が陞爵したといっても他家より日が浅いため、辺境伯爵家だった当時と同様に許していた。

 またホルム辺境侯爵家は陞爵した時から他家の派閥からは身を引き、中立を謳っている。

 その所為もあって、他家の派閥もちらほら参列している。

 彼らにとっては婚約者に指名されたグレハラ子爵家は敵だが、自身の派閥に取り入れようと画策している貴族家が大半である。

 己の派閥に組み入れれば、いくら中立を謳うホルム辺境侯爵家でも融通を効かせるしかないだろう、と。

 だがそれを知って気を許すほどホルム辺境侯爵家当主は甘くはない。

 グレハラ子爵家を先導して他家を紹介しながら歩くことで、画策していた貴族家を圧倒させる。

 紹介する貴族家には当主自らが口添えをしながら話し合いの場を設けさせ、その傍らで紹介された貴族家は信頼されていると安堵しながら応対する。

 そうして他家の貴族家との繋がりを導いたことを見届けて、ホルム辺境侯爵家当主トルクスはパーティー全体に聴こえるように会場に告げた。

ーー本日は我が息子の婚約お披露目に参列いただき、ありがとうございます。ーーと。

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