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第14話

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 あたし達の前に立ちはだかったいかにも強そうな魔法少女は、ゆっくりこっちの出方を窺っているみたいだった。
 なんだか彼女と戦うことが前提になってるけど、まずはせっかくの魔法少女同士なんだから、仲良くなろうと歩み寄ることも大切だと思うの。
 だからまずはあたしが、そのかっちょいい魔導器について聞いてみようとしたら、

「嵐山、武蔵……なんであなたがこんなところに」

 つきのんが驚いた目を向けていた。あたしはビックリして、言いかけた言葉が引っ込んじゃった。

「もしかしてつきのん、あの子とお友達?」
「違いますわ。家柄の都合でお知り合いという程度で、お友達などでは」

 あたしの疑問に、つきのんはそう言い切った。武蔵……って名前はなんかかわいくないから『むっちー』にしよう。言い切られたむっちーもかわいそうな気がする。
 でもむっちーは気にした様子もなく、むしろつきのんをジッと見つめたあと満面の笑みを作った。

「あっれー! 大山さんじゃん! 久しぶりだね、こんなところで会うなんて偶然」
「ええ、そうですわね。相変わらず、あちこちで道場破りに興じていらっしゃるのかと」
「ああ、それね。もう日本国内はもちろん、他の国の道場も大体破っちゃったんだよ。で、もっと強いヤツと戦うには、いよいよ次元の壁越えるしかないなーって色々試してたら、次元の壁ぶっ壊してこっち来ちゃったんだ」

 すごい。ナチュラルボーンファイターってむっちーみたいな人のこと言うんだなぁ。むしろ控えめに言ってもモンスター級?
 ていうことは、ものすっごい強いんだろうな。ますます敵になってほしくはないけど。
 するとむっちーは、なにかに気づいたようにつきのんへ目を向ける。

「そういう大山さんは……いい脚、見つけたみたいだね」

 義足のことを言われて、たちまち、つきのんの表情が歪む。
 なんだろう。悔しさとか怒りと哀しみが入り交じったような、そんな顔だった。
 ……あれ? でも前にあたしが義足を褒めたら、つきのん、すっごい自慢してたような。

「わたくしだって、こんな脚がなくったって……この脚じゃなくても……。けど、しかたありませんのよ」

 むりやり絞り出すような声で言ったつきのんだけど、むっちーはただ首を傾げるだけ。
 やがて「まっ、いっか」と頭を切り替えたように口を開いた。

「そんじゃ、まぁ。まずは誰があたしと戦う? 全員同時でもいいぜ。むしろその方が楽しいだろうし。ボコボコになるまでやり合おうぜ」

 むっちーはニカッと笑いながら地味に怖いことを言ってのけた。
 でもその顔がすぐ真顔に切り替わり、飛ぶように噴水から降りる。
 同時に、二筋の閃光がむっちーの元いた場所を切った。
 何事!? と驚いていたら、噴水の上に二刀流魔法少女のかすみんとラミラミ先生が現れた。

「すみません、ラミエル先生。失敗しました」
「構いません。失敗は成功の糧となります。それに、太刀筋は素晴らしかった。充分、及第点越えですよ」

 お決まりのパターンでやり取りをしつつ、かすみんは一方の剣をむっちーに、もう一方をあたし達に向けて構える。
 さすがにあたし達は……というかみずっちやつきのんは身構えたけど、むっちーはまったくそんな様子も見せずに口笛を吹いた。

「ひゅ~♪ なかなか様になってんじゃん。でも奇襲は好みじゃないね。勝負は正々堂々、正面からじゃないと」
「戦略の一つですよ。見るからに強そうな相手と正面から挑むのは、愚行でしかありませんからね」
「いや、あんたにはなにも言ってないんだけど。そこの、剣持ってる女の子と話がしたいんだ、私は」

 むっちーがラミラミ先生にガンを飛ばす。
 なんかすごい展開になってきた……っぽいんだけど、完全にあたし達置いてけぼりな気がする。
 心なしか、みずっちやつきのんから「もう帰ってもいいかな?」って雰囲気が滲み出てるよ。若葉ちゃんなんて、洗剤のしゃぼん玉を楽しそうに目で追ってるし。
 すると、寸劇はまだ続くみたいで、ラミラミ先生はむっちーに言った。

「あなた、武蔵さんと仰いましたね? 強いかたと戦いたいらしいですが……。実は私達、どうしてもあちらの集団に勝たなければならない事情があって何度も戦いを申し込んでいるんですが、どうにも負け続けでして」
「へえ。挑む根性は認めてやるけど……そっか、あんたら弱いのか。ならいいや」

 もの凄い切り替えの速さで興味を無くしたむっちーは、あたし達の方に向き直ろうとして――ラミラミ先生が止めた。

「それだけ、彼女たちが強いと言うこと。そこでどうでしょう。あの子達と戦う場を、これからも優先して整えてあげます。なので手を組みませんか?」

 なんちゅー強引な交渉なんだろうか!
 さすがにそんな荒い交渉に乗るはずない……とあたしは思っていたんだけど。

「……あいつらに限らず、『強いやつら』と戦う場をこれからも約束してくれるんなら、考えてやってもいい。ただ仲間になるのはごめんだ。言ったろ、奇襲は好みじゃない。私が気分よく強いやつと戦うために利用させてもらう」

 むっちーは勝ち誇ったように笑って、さらに続けた。

「そうすりゃ、あんたも私を利用しやすくなって{※『あんたも私を利用しやすくなって』に傍点}一石二鳥……Win-Winな落としどころだろ?」
「……見透かされていましたか。ですが、その洞察力は九十点。素晴らしいです」

 あ、なんか寸劇も一区切りついたみたいだね。
 しかも……なんかあのお三方、仲良くなってる?

「カスミ君。今日から新しい生徒が体験入塾しました。ムサシ君と協力して、ノゾミ君達の心を折って差し上げなさい」
「はい、先生!」

 むっちーに向いていた剣が向きを変え、二本ともあたし達に向けられる。
 あたし達は結局、なに一つ言葉を挟み込めないまま、一方的に狙われるハメになってしまった。



 かすみんとむっちーの連携プレーは、はじめてのタッグなのにものすごい息がピッタリだった。
 すばやい動きで剣を振るうかすみんと、そうして崩れたところを問答無用で殴りに来るむっちーに、四人もいるあたし達は為す術がなかった。まぁあたしは、ほとんどなにもできないんだけどね!
 みずっち達も魔法少女の姿に変身し、魔導器で応戦している。けれど押されっぱなしだった。いつもより調子が悪いみたい。

「私の魔導器で防御の陣を張りますわ! その隙に早く――早く新しいパ、パ、パンツを履いてくださいまし!」

 つきのんが顔を赤くして叫ぶ。なにをそんなに恥ずかしがってるのかな?
 みずっちと若葉ちゃんは頷いて、適当に拾ったパンツを履こうとした。
 けど、

「させない!」

 かすみんがつきのんの防御を崩して迫ってくるので、二人とも応戦するしかない。
 でも、結局パワー負けして退くことしかできなかった。
 なんで防戦一方なのかというと、みずっちやつきのん、若葉ちゃんが今履いてるパンツは、まさにいつ脱げてしまうかもわからない『くたパン』だったからだ。
 心を守る最後の砦が心許なさ過ぎて、思うように魔法少女としてのパワーが出せないらしい。
 だから隙を見て履こうとしているんだけど、どうやらかすみん達にその弱点を見透かされたっぽくて、ちょっとでも履こうという仕草を見せると集中砲火を受けるのだ。
 これはいわゆる、後手後手ってやつだね!
 なので結果的に、

「い、一時撤退ですわ! 体勢を立て直しませんと!」

 こういう展開になった。
 あたしはみずっちに抱えてもらい、他三人は全力で逃げだしたのだ。

「ひゃ~、すごいすごい! スリル満点の逃亡劇だね! 名付けてパンツッタ・デッドヒート! ハリウッドも欲しがるネタだよ!」

 ジェットコースターのように右や左、上や下にと全力で進むもんだから、あたしは楽しくなってしまった。
 パルクールを駆使した追いかけっこをVRで体験したら、きっとこんな感じでおもしろいんだろうなぁ!

「…………ほんっとに、能天気! ノゾミは!」



 みずっちが微かに苛立ちを見せながら言った。確かにちょっと空気読めてなかったかも。
 でもね、あたしだってなーんにも考えてないわけじゃない。
 かすみん達をやり過ごすための案をちゃんと考えていたのだ!
【案その1】銅像にカムフラージュする!
 街道の途中にいくつか銅像が建っていたので、その傍でいい感じのポーズを決めてみた。
 あたしの魔法でみんなの体を銅像と同じ色にもしたし、これならやり過ごせるはず!
 実際、かすみん達はあたし達の前を通り過ぎていった。わりと簡単に騙せたなぁ……。
 と、成功を確信して油断していると。
 直後、戻ってきてあたし達の顔を覗き込んだかすみんは、脇腹を突いたりして人間であることを確かめると、すぐに攻撃を仕掛けてきたのだ。

「くそ~、完璧なカムフラージュだと思ったのになぁ」
「カムフラージュという言葉を今一度勉強しなさいな!」

 案その1は失敗。つきのんに怒られましたとさ。
【案その2】噴水に潜ってやり過ごす!
 結局パンツッタ・デッドヒートは町中をぐるっと回るハメになり、噴水に戻ってきた。
 なのでそのまま勢いで噴水に飛び込み、かすみん達をやり過ごそうとした。
 ……んだけど、むっちーが手甲の魔導器で水面をデコピンした瞬間、全部の水が弾け飛んで、潜っていたあたし達がこんにちは。
 満面の笑顔で出迎えてくれたむっちーの攻撃をギリギリ避けて、再び逃げ出すハメに。

「なんで潜ってるってバレちゃったのかなぁ」
「水の上から覗き込めば、そりゃ見つかりますわよ!」

 案その2も失敗。またしてもつきのんに怒られちゃった。
 その後も【案その3】【その4】と色々繰り出してみたけど、一昔前の追いかけっこアニメよろしくすべてが不発に終わり四苦八苦。
 それでもなんとか隠れることには成功……したのだけど。

「さ、さすがにこれは……狭い」

 みずっちがモゾモゾと体を動かすたびに、他三人の体にガシガシと当たってしまう。

「こ、これではパンツを履き替えることもできませんわね」

 つきのんも苦しそうに体を動かす。

「ともあれ。彼女たちをやり過ごすことはできたようですが、見つかるのも時間の問題でしてよ。こんな、適当な荷馬車の木箱なんて」

 そうなのだ。あたし達は、たまたま停車していた荷馬車にこそこそ乗り込み、すっからかんだった木箱に潜んでいたのだ。
 木の隙間から外を覗けるので様子を窺ってみると、かすみん達がキョロキョロと辺りを探し回っていた。

「みんな、ごめんね。あたしも加勢できたら違ってたんだろうけど」

 あたしは素直にみんなへ謝る。あたしは他のみんなと違って脱がされるパンツもないから、カカシの体さえあれば心置きなく戦えるはずだった。
 けど肝心のカカシを置いてきてしまったがために、「まあ、楽しい!」とか言ってたあとでアレだけど、正直ただのお荷物なわけで……。

「今更それを持ち出しても、現状は変わりませんわ。とにかく、まずは北池さん、嵐山さんをどうにか退き、仲間の元へ逃げ果せませんと……」

 つきのんが「うーん」と唸る。
 みずっちも黙々と考え始めているようだった。
 若葉ちゃんはさっきからあたしのほっぺをつねって「柔らかくてかわいいですねぇ」と遊んでる。
 あたしもさらに打開策を考える。案その1~その4までは全部失敗に終わって、正直もう、あとがない。
 これ以上あたしの案が失敗したら、多分みんなからの信頼が落ちると思う。多分もう一緒にお風呂には入ってくれなくなる。それぐらいの危機感はあたしにだってあるの。
 みずっち達はパンツの件がネックになってて思うように動けない。そこをカバーするのがあたしの役目だろうけど、今は体がない。
 かといって、カカシの体を取りに帰れるぐらいならそのまま逃げちゃえる。カカシの体はないものとして考えた方がいいよね。
 そもそもが逃げるためにどうするかだし。
 かすみん達を倒す、あるいは足止めでもいいから対抗して、逃げる。
 そのために必要な戦力として、あたしが自分の体として使えるものを見つけないと……。

「…………あるじゃん。この街に」

 閃いたと同時に、ポロッと口から零れる。
 一瞬にして作戦が浮んだあたしは、みんなに提案する。

「思いついたよ。かすみん達をやり過ごすための【案その5】……名付けて『煽って釣ってまとめてドン!』作戦が!」
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