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第6話

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 奇抜なゴリマッチョのカマエル先生と挨拶をすませたあたし達は、先生の勧めもあって、森での汚れを落とすためお風呂へ入ることになった。
 この学校には大浴場があるそうで、他にも生徒を住まわせるための個室とか食堂まで完備してるらしい。すっごーい、豪華ーっ!
 そんなこんなで、さっそくお風呂を頂くことにしたあたし達なわけだけど。
「ああぁぁん……いいぃん、そこそこぉぉん♪」

 だだっ広い大浴で、あたしはそんな悦びの声を響かせた。
 よく響く声だったからか、すぐそばにいたみずっちはビックリして慌ててしまう。

「ノゾミ、変な声出しちゃダメ」
「だ、だってぇぇん……みずっちの指ぃ、気持ち良くてぇぇ……」

 生首のあたしは自分で洗うことができないから、みずっちに髪を洗ってもらっていた。
 これがまた、細くしなやかな指で的確にツボを刺激してくるから、めちゃくちゃ気持ちいいんだよね!

「……ノゾミ、これからどうするの?」

 わしゃわしゃと髪を揉みながら、みずっちが唐突に聞いてきた。

「その状態だと、身動き取れないでしょ? なのに……こっちで、魔法少女続けるの?」
「そうだよね~。どうしよっか」

 みずっちの言うことはもっともだ。
 なんてったって、あたしには体がない。ないなりに頭使って乗り越えていかないと、魔法少女なんて続けられない。
 ほんと、これからどうしよう。

「どうしよっかって……無計画すぎ。いつものことだけど」

 みずっちが呆れたように息を吐いたところで、あたしなりの考えを説明した。

「とりあえず、体はどうにかしないとだよね。はやく取り返さないと。それまではまあ、自分の髪を動かしたりしてどうにか切り抜けるよ!」
「そんな状態なのに、魔法少女続ける気なんだ……ていうか、髪?」

 みずっちは信じていない、と言うより、どういうことなのか理解できていないって感じに聞き返してきた。
 ならばと、あたしはさっそく実践することにした。
 髪に念を送ってみる。最初はぎこちなく毛先が動く程度だったけど、次第に濡れた泡だらけの髪全体が、ゆらゆらと独りでに動きだしたす。まるでタコの足みたい。
 ……そうか、タコの足か! おもしろいこと思いついちゃった。

「――え? ちょ、ノゾミ……んっ!」

 あたしは長い髪を数本の束にして、みずっちの裸体に絡ませていった。ヌルヌル、スルスルと柔肌へ絡みついていく髪に、みずっちはちょっとだけ顔をしかめた。

「げっへっへ。このままアチキが洗ってあげるでゲスよ……隅々まで」
「や、ちょ、っと……く、んんっ……。ふざけ、ない……んっ……でって」

 あたしの髪がみずっちの体を弄ぶ。キュッと締まったくびれや程よく膨らんでいる胸を這うたびに、みずっちはくすぐったそうな声を上げた。 

「ぐへへへ……洗い残しはないでゲスか? お客さん」
「だ、誰が……ふ、く……お客さんよ、バカァ……んん」



 とか言いつつまんざらでも無さそうなみずっちを、もうちょっと虐めてやろうかと思ったら、

「――あ、ああ、あなた方はなにをしてらっしゃいますの!!??」

 つきのんが顔を真っ赤にして割り込んできた。
 その脇には、赤くした顔を手で覆い隠している若葉ちゃんも一緒だった。

「さ、さっきから黙って聞いておりましたら……ひ、卑猥ですわ、お二方とも! ここは神聖な学校の神聖な浴室でしてよ!」

 怒るつきのん。混ざりたかったってことなのかな?
 それにしても、怒って体が動くたびにボリューミーな双丘がフヨンと揺れるのは…………くっ! 腹立たしいな!

「だ、だいたいあなた達、私の話もそこそこに二人きりの世界に浸ってましたわよね」

 そうだった。一緒にお風呂で裸の付き合いをしつつ、つきのんから学校のことについて聞いている途中だったのだ。
 こう見えて、話を聞く時はちゃんと聞くのがあたし流だ。みずっちに絡ませていた髪をほどく。
 名残惜しそうなみずっちの吐息が聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいかな。
 つきのんはザッとソープの泡を洗い流して湯船へと向かった。

「……まったく。庶民は庶民らしく、もっと富裕層に敬意を払うべきですわ。それで、えっと……どこから再開すればよかったのかしら?」
「この学校に通う目的からですよぉ、ツキノちゃぁん」

 若葉ちゃんが補足しながら湯船へと向かうので、あたしとみずっちもそのあとを追った。
 みずっち達はお湯に浸かり、あたしは湯船に浮かせた桶に乗っけてもらって、話の続きを待つ。

「先ほども説明しましたとおり、私達魔法少女には、自分の夢を叶えるという共通の目的がありますわ。そしてそのために、この世界を統べる女王に謁見する必要がありますの」

 女王? へえ、そんな人がいるんだ。
 なんだか、話を聞けば聞くほど、本当に夢の世界なんだと思い知らされる。
 どんな人なか。かわいい系か、きれい系か……。
 もやもやと女王の姿を想像していると、若葉ちゃんが口を開く。

「それでぇ、謁見するためにはそれ相応の準備が必要なんですぅ。一つは、魔法少女のコスチュームを完成させることですよぉ。ねぇ、ツキノちゃん」

 若葉ちゃんの言った魔法少女のコスチュームという言葉で、あたしは、みずっちとつきのんが着ていた衣装を思い出した。

「先ほど私達のまとっていたコスチュームは、現時点で色以外は全員が同じデザインですの。それを、各魔法少女が自分の個性を出せるよう完成させ、謁見に必要な『正装』へ仕立てる……それが準備の一つですわ」

 つきのんは一拍おいて続けた。

「そしてもう一つは、魔法少女達を女王と会うに相応しいレディへ教育することですわ。魔法少女はみな出自が様々。私のような立派なレディもいれば、そうでない庶民の方も。女王のご機嫌を損なわないよう、しっかり素養を磨かなければなりませんの」

 なるほどなぁ。
 この学校では、女王に謁見するための準備の諸々を行う。
 生徒は自分の部屋と食堂、お風呂が完備された環境で生活をする。
 まるで合宿みたいだね。楽しそう!

「で、それを教えてくれるのが、オカマル先生ってわけなんだね」
「カマエル先生ですわ! もしかしてわざと間違えてませんこと?」
「あ、そうそうカマエルね! 名前が似てると間違えちゃうんだよねぇ……」

 たははと笑うあたしに、つきのんは長めのため息を零した。

「カマエル先生があなた達をこの神聖な大浴場へ通したということは、生徒として認められたということでもありますわ。私としては、高坂さんはともかく柳瀬川さんの処遇についてはいささか不本意ですけど……カマエル先生が決めたのでしたら、しかたりませんわね」

 ざぱっと立ち上がったつきのんは、そのまま湯船を出て脱衣所の方へ向かった。
 若葉ちゃんも、そそくさと湯船から上がって後を追いかける。

「話は以上ですわ。これから先はご自分で考え、判断してくださいまし。それも、女王との謁見に必要な素養の一つでしてよ」

 そう言い残し、つきのんは立ち去っていく。

「あ~ん、待ってくださいツキノちゃ~ん」
「遅いですわよ! キビキビ歩きなさいな」

 若葉ちゃんもつきのんに叱られつつ、急ぎ足で浴室を後にした。
 ずっと目で追いかけ続けたあたしは、みずっちに向けてボソッと呟く。

「……つきのんってさ」
「うん。ノゾミの言いたいこと、わかるよ」
「すっごい物知りだよね! 勉強になっちゃったよ~」

 キョトンとした反応を見せるみずっち。
 やがてポツリと言った。

「………………え? そっち?」
「あ、そっちじゃなかった? じゃあ……やっぱりつきのんと若葉ちゃんの関係、気になるよね! なんか二人ってベッタリだけど、付き合ってる感じではなさそうだし……」
「いや、そっちでもないんだけど……」

 みずっちが不思議そうに首を横に振った。
 どういうことだ?

「え? じゃあどっちなの?」
「どっちっていうか。すっごい上から目線だな、って感じなかったの?」
「え? あれって上から目線だったの?」

 みずっちがあたしを見つめたまま固まる。
 あたしとしては、つきのんはエルドラにいる期間がきっと長くて、物知りだから親切心で教えてくれたんだと思っていた。
 だいたい、頭に刺さったままで役に立たないレンレンよりはずっといいよ。

「なにはともあれ、ちょっと楽しみになってきたね。ここでの生活」

 あたしが素直な気持ちを口にする。
 みずっちはちょっとだけ複雑そうな顔をして、けどすぐに微笑んでくれた。
 ……その時だった。


「ど、泥棒ー! 泥棒ですわー!!」


 つきのんの焦ったような叫びが脱衣所の方から聞こえてきた!

「事件だ! 行こう、みずっち!」

 あたしが促すと、みずっちはあたしを抱えて湯船を飛び出し、早足で脱衣所へ向かう。
 ロッカーや洗面台の並ぶ脱衣所では、バスタオルを巻いただけのつきのんと若葉ちゃんがオロオロしていた。

「なにがあったの、つきのん!」

 あたしはつきのんに駆け寄った。怪我とかはしてないみたいで、ちょっと安心した。
 するとつきのんは、あたしの顔を見て衝撃的なことを口にする。

「ぬ、盗まれましたの。……わ、私の、大切なパンツが!」
「………………はい?」

 前略。
 エルドラで出くわした最初の事件は、パンツ泥棒でした。
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