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三年生編
受験
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秋も深まり最後の席替えが行われた。
席替え委員の帆乃花ちゃんに頼み、隣はあまり親しくない男子にしてもらった。勉強に集中するためだ。とは言え真後ろは帆乃花ちゃん、斜め後ろ、つまり帆乃花ちゃんの隣は友巴ちゃんだ。顔を少し後ろに向けると友巴ちゃんの顔が見える。誘惑に弱い俺には、そのくらいがちょうどいい。
すでに街はクリスマスムード一色だ。
去年のクリスマスは二人にはサンタガールの格好をしてもらい楽しかったな。だが今年は俺たちは受験生だ。三人の誕生日祝いとクリスマスパーティーは卒業旅行までとっておくとみんなで誓った。
結局、2学期の中間テスト、期末テストでもサッチは特進クラスに入ることはできなかったが、95番前後とかなり頑張った。友巴ちゃんは、普通クラスに落ちるどころか、英語の成績は今や学年でトップ10に入るくらいまでになった。くやしいが、音楽のイケメン先生のおかげもあると思う。
「いいなー、トモハ。推薦決まったんでしょ」
「うん。みんなには悪いけど正月はゆっくりする」
いつものファストフード店で、サッチが友巴ちゃんに向かって疲れた顔で言う。対する友巴ちゃんは笑顔だ。
「シュウゴくんとホノカちゃんは京都の大学でしょぉ。サッチは100番以内に入れたから県外の大学、OKになったの?」
「あー、県内の大学もいちおう受けるけどね」
「県外はどこ受けるの?」
帆乃花ちゃんがサッチに尋ねる。
サッチのやつ、帆乃花ちゃんを追って、京都って言わないだろうな。
「東京」
「え? 東京?」
「そう。ホノカにも言ってなかったけど、やっぱり憧れるんだよね、東京って。おしゃれで華やかで」
「そうなんだ。私なんか東京は遊びに行く所で住む所だなんて思えないけど……」
「まあ渋谷とかに住むわけじゃないし。もし合格したら郊外から大学に通うよ。家賃も安いし。遊びに来た時に泊めてあげる。シュウゴもね」
「ん? んん……」
「……そっかぁ。みんな受験に成功したら地元に残る人は誰もいなくなるね。寂しいな」
友巴ちゃんがそう言い視線を落とした。
「そう言ってるトモハちゃんが一番遠くに行っちゃうんだけどね……」
帆乃花ちゃんがそう言った。
友巴ちゃんは地元のミッション系私立大学に推薦入学したあと、数ヶ月でイギリスに留学するのだ。このことは今朝、教室で友巴ちゃんから直接聞いた。
「ちょっとシュウゴ。さっきからずーっとくらい顔して。あー、私と離れるのが寂しいんでしょ」
「いや、まあみんなと離れるのが……」
「そうだよね。学校帰りにこうやって4人で集まってワイワイすることもなくなっちゃうね……」
「なにホノカまで暗くなってるのよ。みんな受験失敗して地元に残ってるかもよ」
それはそれで笑い話にもならない。
帆乃花ちゃんの成績だったら、当日にトラブルでも発生しない限り合格だ。一方、俺は直近の模試では帆乃花ちゃんと同じ大学は「B」判定だった。つまり合格率60から80%だ。
帆乃花ちゃんと京都で楽しいキャンパスライフを送るためにも受験勉強に集中だ。
元日。学業に御利益のある神社で参拝を済ませ、鳥居をくぐったところでヒデキと藤木さんに会った。
「シュウゴ。お前も神頼みか?」
「まあね。親から親戚までお守りをくれるから、ほれこのとおり」
俺はお守りがじゃらじゃらとついたカバンを見せた。
「神様がケンカしそうだろ」
「ははっ。まあそれだけ神様がついてたら大丈夫だろ」
「だといいけどな。藤木さん、ヒデキの初詣に付き合ってあげるんだ」
藤木さんは地元の短大に推薦入学が決まっている。保育士を目指すらしい。
「うん。ホノカちゃんやトモハちゃんは?」
「こらケイコ。シュウゴは地元のどこでもいいから大学に入れたらいい、なんて思ってないから、禁欲だ。一方の俺は禁欲などしないでもどこかに入れる。ふふーん」
自信満々の笑顔でヒデキが藤木さんに腕を絡ませる。藤木さんは苦笑いだ。
「おいおいその物言い、神様の前で不謹慎だな。お前も禁欲しろよ。どこも受からんぞ」
「へいへい、言い方には気をつけます。じゃあな、シュウゴ。学校で」
藤木さんがぺこりとし、ヒデキと手を繋いで手水場に向かった。
ヒデキは気楽でいいよな……。
時はあっという間に過ぎ、本命の合格発表の日となった。
すでに経営学部のある地元の大学には合格しているため浪人だけは免れている。
「じゃあ開くよ」
日曜の午後2時。ココアマンションのリビングで、友巴ちゃんのスマホを俺と帆乃花ちゃんが覗きこむ。
合格者の受験番号が載ったページを友巴ちゃんがそっと押した。
学部ごとに記載されており、商学部のページを開く。上から「A1005」、「A1013」と合格者の受験番号が並んでいる。
「あった! 良かった」
そう言ったのは帆乃花ちゃんだ。
だが喜んだのも一瞬で、再びスマホ画面に視線を落とした。
俺の受験番号の100番ほど前まで来た時には、ドキドキという緊張よりも少し気持ちが悪くなってきた。
あー、もう見ていられない。
「あったよ、やった!」
帆乃花ちゃんが俺の腕にしがみついてきた。
俺、合格したのか……。
「やだもう。シュウゴくん、涙目になってるよ」
「いや、もう……」
二人の顔が涙でにじむ。
本当に良かった……。
「おめでとう、二人とも。日本に帰ってきたら京都に泊めてね」
「もちろん。でもイギリスに行く前にも来て。それまでに、京都を案内できるようにしとくね」
「うん。じゃあホノカちゃん、美味しいケーキ屋さん探しといてね」
「ふふっ。トモハちゃんは京都に来てもそれ?」
「へへ。京都はおしゃれなお店がいっぱいあるからね。その中でも美味しいお店をお願い。シュウゴくんには京都の風情ある街並みを案内してもらおっと。ってまだ嬉し泣きしてるの?」
「半分は……」
「半分は? もう半分は何泣き?」
そう友巴ちゃんが聞いてくる。
「友巴ちゃんに今みたいに会えなくなると寂しくて……」
女々しいと思われるかもしれないが、それが今の本音だ。
「……。そうだよね。私とシュウゴくんはこれからも大学で一緒だけど、友巴ちゃんとは別々になっちゃうもんね。改めてそう思うと寂しくなるね……」
「まあまだ2か月くらいは一緒にいられるし。そうだ。今まではここで勉強頑張ったご褒美あったでしょ。みんな受験頑張ったんだから、ご褒美復活しようよ」
「うん。そうだね。シュウゴくん泣かないで、今度の土曜日はここで、三人でお泊まり会しよ、ね」
帆乃花ちゃんに頭を優しく撫でられる。
友巴ちゃんも俺の手を握ってくれた。
あー、神様ありがとうございます。志望校を合格させてくれて。それと、こんな素敵な女子二人と会わせてくれて。
涙が再び滲んできた。
席替え委員の帆乃花ちゃんに頼み、隣はあまり親しくない男子にしてもらった。勉強に集中するためだ。とは言え真後ろは帆乃花ちゃん、斜め後ろ、つまり帆乃花ちゃんの隣は友巴ちゃんだ。顔を少し後ろに向けると友巴ちゃんの顔が見える。誘惑に弱い俺には、そのくらいがちょうどいい。
すでに街はクリスマスムード一色だ。
去年のクリスマスは二人にはサンタガールの格好をしてもらい楽しかったな。だが今年は俺たちは受験生だ。三人の誕生日祝いとクリスマスパーティーは卒業旅行までとっておくとみんなで誓った。
結局、2学期の中間テスト、期末テストでもサッチは特進クラスに入ることはできなかったが、95番前後とかなり頑張った。友巴ちゃんは、普通クラスに落ちるどころか、英語の成績は今や学年でトップ10に入るくらいまでになった。くやしいが、音楽のイケメン先生のおかげもあると思う。
「いいなー、トモハ。推薦決まったんでしょ」
「うん。みんなには悪いけど正月はゆっくりする」
いつものファストフード店で、サッチが友巴ちゃんに向かって疲れた顔で言う。対する友巴ちゃんは笑顔だ。
「シュウゴくんとホノカちゃんは京都の大学でしょぉ。サッチは100番以内に入れたから県外の大学、OKになったの?」
「あー、県内の大学もいちおう受けるけどね」
「県外はどこ受けるの?」
帆乃花ちゃんがサッチに尋ねる。
サッチのやつ、帆乃花ちゃんを追って、京都って言わないだろうな。
「東京」
「え? 東京?」
「そう。ホノカにも言ってなかったけど、やっぱり憧れるんだよね、東京って。おしゃれで華やかで」
「そうなんだ。私なんか東京は遊びに行く所で住む所だなんて思えないけど……」
「まあ渋谷とかに住むわけじゃないし。もし合格したら郊外から大学に通うよ。家賃も安いし。遊びに来た時に泊めてあげる。シュウゴもね」
「ん? んん……」
「……そっかぁ。みんな受験に成功したら地元に残る人は誰もいなくなるね。寂しいな」
友巴ちゃんがそう言い視線を落とした。
「そう言ってるトモハちゃんが一番遠くに行っちゃうんだけどね……」
帆乃花ちゃんがそう言った。
友巴ちゃんは地元のミッション系私立大学に推薦入学したあと、数ヶ月でイギリスに留学するのだ。このことは今朝、教室で友巴ちゃんから直接聞いた。
「ちょっとシュウゴ。さっきからずーっとくらい顔して。あー、私と離れるのが寂しいんでしょ」
「いや、まあみんなと離れるのが……」
「そうだよね。学校帰りにこうやって4人で集まってワイワイすることもなくなっちゃうね……」
「なにホノカまで暗くなってるのよ。みんな受験失敗して地元に残ってるかもよ」
それはそれで笑い話にもならない。
帆乃花ちゃんの成績だったら、当日にトラブルでも発生しない限り合格だ。一方、俺は直近の模試では帆乃花ちゃんと同じ大学は「B」判定だった。つまり合格率60から80%だ。
帆乃花ちゃんと京都で楽しいキャンパスライフを送るためにも受験勉強に集中だ。
元日。学業に御利益のある神社で参拝を済ませ、鳥居をくぐったところでヒデキと藤木さんに会った。
「シュウゴ。お前も神頼みか?」
「まあね。親から親戚までお守りをくれるから、ほれこのとおり」
俺はお守りがじゃらじゃらとついたカバンを見せた。
「神様がケンカしそうだろ」
「ははっ。まあそれだけ神様がついてたら大丈夫だろ」
「だといいけどな。藤木さん、ヒデキの初詣に付き合ってあげるんだ」
藤木さんは地元の短大に推薦入学が決まっている。保育士を目指すらしい。
「うん。ホノカちゃんやトモハちゃんは?」
「こらケイコ。シュウゴは地元のどこでもいいから大学に入れたらいい、なんて思ってないから、禁欲だ。一方の俺は禁欲などしないでもどこかに入れる。ふふーん」
自信満々の笑顔でヒデキが藤木さんに腕を絡ませる。藤木さんは苦笑いだ。
「おいおいその物言い、神様の前で不謹慎だな。お前も禁欲しろよ。どこも受からんぞ」
「へいへい、言い方には気をつけます。じゃあな、シュウゴ。学校で」
藤木さんがぺこりとし、ヒデキと手を繋いで手水場に向かった。
ヒデキは気楽でいいよな……。
時はあっという間に過ぎ、本命の合格発表の日となった。
すでに経営学部のある地元の大学には合格しているため浪人だけは免れている。
「じゃあ開くよ」
日曜の午後2時。ココアマンションのリビングで、友巴ちゃんのスマホを俺と帆乃花ちゃんが覗きこむ。
合格者の受験番号が載ったページを友巴ちゃんがそっと押した。
学部ごとに記載されており、商学部のページを開く。上から「A1005」、「A1013」と合格者の受験番号が並んでいる。
「あった! 良かった」
そう言ったのは帆乃花ちゃんだ。
だが喜んだのも一瞬で、再びスマホ画面に視線を落とした。
俺の受験番号の100番ほど前まで来た時には、ドキドキという緊張よりも少し気持ちが悪くなってきた。
あー、もう見ていられない。
「あったよ、やった!」
帆乃花ちゃんが俺の腕にしがみついてきた。
俺、合格したのか……。
「やだもう。シュウゴくん、涙目になってるよ」
「いや、もう……」
二人の顔が涙でにじむ。
本当に良かった……。
「おめでとう、二人とも。日本に帰ってきたら京都に泊めてね」
「もちろん。でもイギリスに行く前にも来て。それまでに、京都を案内できるようにしとくね」
「うん。じゃあホノカちゃん、美味しいケーキ屋さん探しといてね」
「ふふっ。トモハちゃんは京都に来てもそれ?」
「へへ。京都はおしゃれなお店がいっぱいあるからね。その中でも美味しいお店をお願い。シュウゴくんには京都の風情ある街並みを案内してもらおっと。ってまだ嬉し泣きしてるの?」
「半分は……」
「半分は? もう半分は何泣き?」
そう友巴ちゃんが聞いてくる。
「友巴ちゃんに今みたいに会えなくなると寂しくて……」
女々しいと思われるかもしれないが、それが今の本音だ。
「……。そうだよね。私とシュウゴくんはこれからも大学で一緒だけど、友巴ちゃんとは別々になっちゃうもんね。改めてそう思うと寂しくなるね……」
「まあまだ2か月くらいは一緒にいられるし。そうだ。今まではここで勉強頑張ったご褒美あったでしょ。みんな受験頑張ったんだから、ご褒美復活しようよ」
「うん。そうだね。シュウゴくん泣かないで、今度の土曜日はここで、三人でお泊まり会しよ、ね」
帆乃花ちゃんに頭を優しく撫でられる。
友巴ちゃんも俺の手を握ってくれた。
あー、神様ありがとうございます。志望校を合格させてくれて。それと、こんな素敵な女子二人と会わせてくれて。
涙が再び滲んできた。
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