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三年生編
クラス替え
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5月の最終週。早速クラス替えが行われた。
A組からは、6人が普通クラスに移ることとなった。6人とも、無念の表情で、声もかけ辛い。俺も普通クラスに移動とならないように気をつけなければ……。
新しく普通クラスから来た6人は、抜けた席に座ることとなった。あいうえを順で、窓側前列から順に、空いた席に着くのだ。
つまり、隣の木下が普通クラスに移らなければ、当面の間、友巴ちゃんが俺の隣にくる可能性はない。
まあ、木下の成績は普通クラスに移るようなものではないため、二学期の席替えに望みを託そう。
20分の長休み。友巴ちゃんが廊下に面した教室の窓から顔を出した。
「シュウゴくん、ホノカちゃん」
あー、今日も可愛い俺の天使。
「あ、トモハちゃん」
「私、今から英語のこと聞きに行くけど、一緒に行く?」
「行く、行く。シュウゴくんは?」
友巴ちゃんと帆乃花ちゃんが行くのに、俺が行かないわけがない。言葉は悪いが監視という意味もある。
優雅なピアノの音色が音楽室に向かうにつれ、大きくなってきた。
あーあ。ピアノを弾いているのがあけみっちだったらな。準備室で、サブスクするのに……。
「なんだかあけみっち思い出すね、シュウゴくん」
友巴ちゃんの言葉にどきりとした。
「毎日のように会ってたのに、もう2ヶ月会ってないもんね。夏休みまでまだだいぶあるし」
「夏休みに入る前に、特進クラスに移れたよって報告したいな。頑張ろーっと」
「そうだね。それで合宿入れたらいいね」
心からそう思っている。
「シュウゴくんの合宿の目的、違うことだよね」
帆乃花ちゃんが鋭いツッコミを入れてくる。
「うっ……」
「まあまあ、ホノカちゃん。私も楽しみだよ、合宿。そのためにも英語頑張らなくちゃ」
ノックをしたあと、失礼しますと挨拶し、3人で音楽室に入る。
イケメン講師が、ピアノの演奏をやめ、こちらを向きにこりと笑う。
ううぅ……、平凡な高校男子には全く歯が立たない完璧な大人だ。
「先生、すみません。私たち音楽の授業も取ってないのに」
友巴ちゃん、帆乃花ちゃんともに選択科目は美術だ。つまり、イケメン講師は、誰の担任でも専門科目の先生でもない。友巴ちゃんが恐縮した声で続ける。
「それも音楽じゃなくて英語の勉強教えてだなんて。それに仲間も連れてきちゃいました」
「ノープロブレム。音楽だけじゃなくて、英語も生徒みんなに好きになってもらいたいからね」
「えっと、君が梅谷君で、君が佐原さんだね。角倉君から聞いたとおりだね」
「角倉君ってあけみっち、あけみ先生のことですか?」
帆乃花ちゃんが尋ねる。そう言えば、このイケメン講師はあけみっちの先輩だったな。
「そうだよ。ふーん、なるほどね」
イケメン講師が俺の顔を舐めるように見る。
「あのー、何か俺の顔についてますか?」
「いや。ある男を思い出してね。まあいいや。森崎さんが聞きたいのは英語のスピーキングについてだったね」
イケメン講師は、音楽の教師らしく、スピーキングのコツはリズムだと教えてくれた。
ピアノの音に合わせ、イケメン講師が作った例文を3人で順番に言っていく。
「もっと、リズム良く大きな声で。はい」
いつの間にか音楽の授業のようになっていたが、もしかしたら文法や英単語もこのリズムで自然と身につくかもしれない。
休み時間が終わりそうになったため、3人とも急いで教室に戻ることになったが、正直、本来の英語の授業よりも楽しく、身につきそうだ。
「トモハちゃん。また誘ってね。英語が好きになっちゃいそう」
「ホノカちゃん、先生も好きになっちゃかも?」
友巴ちゃんが俺の顔を見て笑う。今だけは天使の笑顔ではなく、小悪魔の笑顔に見えた。
「友巴ちゃんや帆乃花ちゃんが行く時は俺も一緒に行くから」
サッチが聞いていたら、きっと「なんだかいやらしい」と言っていただろうが、ここは強めに言っておいた。
「はいはい。3人で一緒に行こうね」
帆乃花ちゃんが笑って言った。
そして、7月上旬の期末テストが始まった。
中間テスト後のリアルなクラス替えを目の当たりにしているため、特進クラスの全員が死に物狂いでテスト用紙に向かう。ギリギリ特進クラスに入ることのできなかった普通クラスの生徒も同じだろう。
友巴ちゃんも頑張っているし、俺も頑張ろう。お揃いのシャーペンを見て、気持ちを昂らせた。
ちらりと右横を見ると、帆乃花ちゃんの真剣な横顔が見えた。そんな帆乃花ちゃんも素敵だ。
「シュウゴくん。どうだった? 期末?」
「うーん、なんだか英語の調子が良かったみたい」
「そうだよね。私も。音楽室での特訓が良かったかな?」
「この調子だと、友巴ちゃんも英語の成績上がるかな」
「そうだね。きっと特進クラスに入ってこられるよ」
総合順位が発表される前に友巴ちゃんと話をしたが、「まあまあできたかな」っと言っていた。全体的に友巴ちゃんが上位にいればいいな。いや、絶対に入っているはず。
順位表を上から見る。
木下は6位。友巴ちゃんが8位。俺は20位だ。
友巴ちゃんは……。いた。83位だ。正直微妙だが、すっごく頑張ったのがわかる。
そして、入れ替えメンバーを見る前に帆乃花ちゃんが叫んだ。
「あった! トモハちゃん、特進クラスだよ!」
そう言い、帆乃花ちゃんが走り去った。おそらく、友巴ちゃんに伝えに行くのだろう。
俺は、もう一度、じっくりと入れ替えメンバーを見る。
入れ替え10人のメンバーの10人目だ。ギリギリでも入れ替えは入れ替え。よし!
俺も友巴ちゃんの元に行こう。
あとは、A組に移って来て、俺の近くにいてくれれば。
ん?そういえば、A組で普通クラスに移るのは……。
足をもう一度、順位表のところに戻し、入れ替えメンバー表を見た。
おっ!俺の前の席の女子が普通クラスに!
加えて、普通クラスから特進クラスに移るメンバーをあいうえお順にすると、友巴ちゃんは「森崎」で一番後ろだ。
となると、友巴ちゃんがA組であった場合、俺の目の前にくる可能性が高い。
お願い!誰が決めるか知らないけど、友巴ちゃんを絶対、絶対A組にして。
俺は心の中で強く強ーく願った。
そして、その必死の願いが通じたのか、友巴ちゃんはA組に編入となった!
しかも、俺の読み通り、友巴ちゃんが目の前に……。
うー、神様、仏様、それに友巴ちゃんをA組にしてくれたどなたか知りませんが、ありがとうございます……。
「これから、またよろしくね」
友巴ちゃんが後ろを向き、にっこりと微笑む。
夏休み前の7月下旬。俺の前に再び天国が広がった。
A組からは、6人が普通クラスに移ることとなった。6人とも、無念の表情で、声もかけ辛い。俺も普通クラスに移動とならないように気をつけなければ……。
新しく普通クラスから来た6人は、抜けた席に座ることとなった。あいうえを順で、窓側前列から順に、空いた席に着くのだ。
つまり、隣の木下が普通クラスに移らなければ、当面の間、友巴ちゃんが俺の隣にくる可能性はない。
まあ、木下の成績は普通クラスに移るようなものではないため、二学期の席替えに望みを託そう。
20分の長休み。友巴ちゃんが廊下に面した教室の窓から顔を出した。
「シュウゴくん、ホノカちゃん」
あー、今日も可愛い俺の天使。
「あ、トモハちゃん」
「私、今から英語のこと聞きに行くけど、一緒に行く?」
「行く、行く。シュウゴくんは?」
友巴ちゃんと帆乃花ちゃんが行くのに、俺が行かないわけがない。言葉は悪いが監視という意味もある。
優雅なピアノの音色が音楽室に向かうにつれ、大きくなってきた。
あーあ。ピアノを弾いているのがあけみっちだったらな。準備室で、サブスクするのに……。
「なんだかあけみっち思い出すね、シュウゴくん」
友巴ちゃんの言葉にどきりとした。
「毎日のように会ってたのに、もう2ヶ月会ってないもんね。夏休みまでまだだいぶあるし」
「夏休みに入る前に、特進クラスに移れたよって報告したいな。頑張ろーっと」
「そうだね。それで合宿入れたらいいね」
心からそう思っている。
「シュウゴくんの合宿の目的、違うことだよね」
帆乃花ちゃんが鋭いツッコミを入れてくる。
「うっ……」
「まあまあ、ホノカちゃん。私も楽しみだよ、合宿。そのためにも英語頑張らなくちゃ」
ノックをしたあと、失礼しますと挨拶し、3人で音楽室に入る。
イケメン講師が、ピアノの演奏をやめ、こちらを向きにこりと笑う。
ううぅ……、平凡な高校男子には全く歯が立たない完璧な大人だ。
「先生、すみません。私たち音楽の授業も取ってないのに」
友巴ちゃん、帆乃花ちゃんともに選択科目は美術だ。つまり、イケメン講師は、誰の担任でも専門科目の先生でもない。友巴ちゃんが恐縮した声で続ける。
「それも音楽じゃなくて英語の勉強教えてだなんて。それに仲間も連れてきちゃいました」
「ノープロブレム。音楽だけじゃなくて、英語も生徒みんなに好きになってもらいたいからね」
「えっと、君が梅谷君で、君が佐原さんだね。角倉君から聞いたとおりだね」
「角倉君ってあけみっち、あけみ先生のことですか?」
帆乃花ちゃんが尋ねる。そう言えば、このイケメン講師はあけみっちの先輩だったな。
「そうだよ。ふーん、なるほどね」
イケメン講師が俺の顔を舐めるように見る。
「あのー、何か俺の顔についてますか?」
「いや。ある男を思い出してね。まあいいや。森崎さんが聞きたいのは英語のスピーキングについてだったね」
イケメン講師は、音楽の教師らしく、スピーキングのコツはリズムだと教えてくれた。
ピアノの音に合わせ、イケメン講師が作った例文を3人で順番に言っていく。
「もっと、リズム良く大きな声で。はい」
いつの間にか音楽の授業のようになっていたが、もしかしたら文法や英単語もこのリズムで自然と身につくかもしれない。
休み時間が終わりそうになったため、3人とも急いで教室に戻ることになったが、正直、本来の英語の授業よりも楽しく、身につきそうだ。
「トモハちゃん。また誘ってね。英語が好きになっちゃいそう」
「ホノカちゃん、先生も好きになっちゃかも?」
友巴ちゃんが俺の顔を見て笑う。今だけは天使の笑顔ではなく、小悪魔の笑顔に見えた。
「友巴ちゃんや帆乃花ちゃんが行く時は俺も一緒に行くから」
サッチが聞いていたら、きっと「なんだかいやらしい」と言っていただろうが、ここは強めに言っておいた。
「はいはい。3人で一緒に行こうね」
帆乃花ちゃんが笑って言った。
そして、7月上旬の期末テストが始まった。
中間テスト後のリアルなクラス替えを目の当たりにしているため、特進クラスの全員が死に物狂いでテスト用紙に向かう。ギリギリ特進クラスに入ることのできなかった普通クラスの生徒も同じだろう。
友巴ちゃんも頑張っているし、俺も頑張ろう。お揃いのシャーペンを見て、気持ちを昂らせた。
ちらりと右横を見ると、帆乃花ちゃんの真剣な横顔が見えた。そんな帆乃花ちゃんも素敵だ。
「シュウゴくん。どうだった? 期末?」
「うーん、なんだか英語の調子が良かったみたい」
「そうだよね。私も。音楽室での特訓が良かったかな?」
「この調子だと、友巴ちゃんも英語の成績上がるかな」
「そうだね。きっと特進クラスに入ってこられるよ」
総合順位が発表される前に友巴ちゃんと話をしたが、「まあまあできたかな」っと言っていた。全体的に友巴ちゃんが上位にいればいいな。いや、絶対に入っているはず。
順位表を上から見る。
木下は6位。友巴ちゃんが8位。俺は20位だ。
友巴ちゃんは……。いた。83位だ。正直微妙だが、すっごく頑張ったのがわかる。
そして、入れ替えメンバーを見る前に帆乃花ちゃんが叫んだ。
「あった! トモハちゃん、特進クラスだよ!」
そう言い、帆乃花ちゃんが走り去った。おそらく、友巴ちゃんに伝えに行くのだろう。
俺は、もう一度、じっくりと入れ替えメンバーを見る。
入れ替え10人のメンバーの10人目だ。ギリギリでも入れ替えは入れ替え。よし!
俺も友巴ちゃんの元に行こう。
あとは、A組に移って来て、俺の近くにいてくれれば。
ん?そういえば、A組で普通クラスに移るのは……。
足をもう一度、順位表のところに戻し、入れ替えメンバー表を見た。
おっ!俺の前の席の女子が普通クラスに!
加えて、普通クラスから特進クラスに移るメンバーをあいうえお順にすると、友巴ちゃんは「森崎」で一番後ろだ。
となると、友巴ちゃんがA組であった場合、俺の目の前にくる可能性が高い。
お願い!誰が決めるか知らないけど、友巴ちゃんを絶対、絶対A組にして。
俺は心の中で強く強ーく願った。
そして、その必死の願いが通じたのか、友巴ちゃんはA組に編入となった!
しかも、俺の読み通り、友巴ちゃんが目の前に……。
うー、神様、仏様、それに友巴ちゃんをA組にしてくれたどなたか知りませんが、ありがとうございます……。
「これから、またよろしくね」
友巴ちゃんが後ろを向き、にっこりと微笑む。
夏休み前の7月下旬。俺の前に再び天国が広がった。
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