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ミツハナ脱退編
さようなら、あけみっち その1
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いつもより1時間早く、クラスの全員が登校した。
女子たちは黒板に色や絵を描いている。男子は飾りつけだ。
今日で2年A組のみんなとはお別れとなる。もうこのクラスのみんなで授業を受けることはない。そう思うと、寂しくなってくる。
「おーい、みんな。集合写真撮るぞ」
黒板アートや飾りつけが終わり、明るい小太り男子が声をかけた。
「りんりん、お願い」
明るい小太り男子が廊下に向かって言うと、他のクラスの女子が1人入ってきた。
たしか写真部の部長だ。メガネをかけ、地味ではあるが、藤木さんのようにポテンシャルは持っていそうだ。
それにしても……。
「りんりんって?」
たしか名前は、リサとかリカだったような。
俺が明るい小太り男子に尋ねると返事がすぐに返ってきた。
「俺の彼女だからな。普段からそう呼んでる」
「なんと! そうだったのか? そっか、彼女ができて良かったな。お前、いい奴だもんな。良かった、良かった」
「はは。ありがとうな。俺以外のやつは知らないと思うが、りんりんってメガネを外すと結構可愛いんだぞ。もう他の女子なんていいや、ってなるくらいだ」
途中から帆乃花ちゃんたち女子にかまわなくなったのはそういうことか。
「本当はあけみっちに、りんりんの女子力をアップしてほしかったんだけどな……」
二人で黒板を見る。
その真ん中には大きく華やかに『あけみっち、ありがとう』と描かれていた。
「じゃあ女子は2列、男子はその後ろね。1列目は黒板の前で、2列目と男子は黒板の真ん中あけてね。背の高い女子が2列目だといいかもね」
写真部の部長らしく、テキパキと指示をする。
「了解、リサ」
サッチは顔が広いから写真部部長とも知り合いのようだ。
サッチが前に出て、誰々は前ね、誰々は後ろねと振り分けていく。
自然とそういう役割をサッチが行なってきたので、誰もが素直に従う。
「2列目の女子と男子は真ん中のメッセージを隠さないように。ほら、そこの男子」
サッチの言うことを聞きつつ、俺は2列目の帆乃花ちゃんの後ろについた。
誰にもこのポジションは与えないぞ。
「ケイコの後ろが良かったな」
隣のヒデキがボソッとつぶやく。
藤木さんは友巴ちゃんとともに1列目だ。
「あとで撮ろうぜ。俺もヒデキと撮りたいしな」
「なんだよ、気持ち悪い」
そう言ったヒデキの目が潤んでいるように見えた。
列が整うとサッチが1列目の端につき、パシャリと写真が撮られた。
そのあとは部長がグループごとに撮っていく。
帆乃花ちゃんやサッチは人気者なので、いろいろな女子グループから声がかかる。
最後に、俺、ヒデキ、友巴ちゃん、帆乃花ちゃん、サッチ、藤木さんの6人で撮ってもらった。
「私、この写真ほしい」
「俺も」
みんなが口にする。
写真はあけみっちのアルバムに貼る用で、一眼レフで撮影している。
「スマホでも撮ってもらって、共有しようぜ」
そう俺が提案し、スマホを部長に渡した。
「じゃあサンニイイチでいくよ」
スマホに向かって笑顔を作ったが、たぶんぎこちない笑顔になっているだろう。
今後、この6人で撮ることもないだろうと思うと、寂しいものだ。
「ありがとう、リサ。じゃあ現像よろしく」
今からすぐに暗室で現像作業に入り、終業式後に写真をもらう予定だ。
「わかった。暇な先輩が遊びに来てるから頼んでおく」
部長は、明るい小太り男子に、じゃあと声をかけ教室を出て行った。
俺のスマホを部長から受け取ったサッチがジッと画面を見る。
「……はい。スマホ、シュウゴに返すわ」
「なんだよ。今の間は?」
「ホノカやトモハとムフフな写真撮ってないか見ようと思ったけどやめた」
「あ、あほか。撮るわけないだろ。それにムフフっていつの時代だよ」
「冗談よ。全く。ほらホノカとトモハとスリーショット撮ってあげる」
サッチは一度俺に渡したスマホを取り上げ、5回ほどシャッターを連写した。
「なんだよ、適当だな」
今度こそ俺に返すかと思ったが、サッチは俺の隣に移動しスマホを上にかざした。
「ニッコリ笑って」
カシャ、カシャ
「シュウゴ。今撮った自撮り、絶対に消さないでよ。私にあとで送っておいて。はい、次はケイコとヒデキね」
サッチは俺のスマホを俺の手に握らせてきた。
教室のあちらこちらで写真撮影会が行われ、それが落ち着いた頃にあけみっちが教室に入ってきた。
黒板を見たあけみっちが「わあ」っと驚く。
「みんな、ありがとう。すっごく素敵なメッセージ」
そう言い目頭を押さえたあけみっち。
あけみっちが学校を辞めると告げた時、クラスのみんなが泣いた。だが今回は笑顔で送り出そうという約束をクラス全員でした。
「ありがとう、あけみっち」
明るい小太り男子が声を出したのをきっかけに、教室のあちらこちらから、感謝の言葉が発せられる。
「みんな……ありがとう。教師生活最後にみんなのような素敵な生徒に出会えて良かった。前にも言ったけど、みんなは私の一生の宝物です」
約束は守られず、あちらこちらから啜り泣きが聞こえてくる。
「教師であった期間は短かったけど、みんなのおかげで悔いのない教師生活を送ることができました。みんなも悔いのない学生生活を送ってください。さあ、みんなで終業式に行くわよ」
とびっきりの笑顔であけみっちが言った。
終業式では、あけみっちが学校を去ることも告げられ、あけみっちが壇上で挨拶をした。
続いて生徒を代表して、帆乃花ちゃんが花束を渡した。本当に絵になる二人だ。
1年の時の終業式はつまらない物であったが、2年の終業式は様々な気持ちが入り乱れすっきりとしない。3年になりいよいよ受験の年になるという不安だけではない。
もやもやした気持ちのまま、終業式を終え、今は教室に戻る途中だ。
「俺たち、これでお別れだな」
ヒデキがつぶやく。
「世界の果てに行くわけでもなく、同じ学校にいるんだしたまには昼飯でも一緒に食おうぜ」
「そうだな。だけど、あけみっちとはなかなか会えないな。世界の果てでもないけど」
「まあな」
俺はサブスク中なので、何度も会える権利はあるが、あけみっちも経営のことで忙しいだろうから、頻繁に会えるわけではない。
「なあシュウゴ。あけみっちって、ほんといい先生だったよな。なんか、教師っぽくなくて、俺たちを見守る母ちゃんみたいだったし」
「はは。母ちゃんか。姉ちゃんくらいにしとけ」
俺にとっては師匠である。それに仮の恋人という面も……。
「ところで、シュウゴ。帰りまでにアルバムは完成しそうか?」
「今から写真部にいって、さっき撮ってもらった写真をもらってくる。そこから女子がデコレーションしてとなると1時間くらいかかるかもな」
「あけみっちには、それまで学校にいてもらわないといけないし、内緒にしとかないといけないな」
「そうだな」
「シュウゴ。お前、あけみっちを音楽室にとどめておけよ」
「俺が?」
「最後にあけみっちの授業を受けたいとか言って」
おいおい。俺にとっての授業の意味、知っているのか?
……まあいい。適当に言って、音楽室にいてもらおう。
「わかった。とりあえず写真部に行ってくる。先に教室に戻っておいてくれ」
写真部の部室に行くと、写真部の先輩と思われる男子、女子がワイワイと騒いでいる。
進路も決まり、新生活に向けみな充実しているのだろう。
2年A組の写真を取りに来たことを告げると、すぐに現像したものを渡してくれた。
「受験は大変だけど、それを乗り越えると楽しい未来が待っていると思って、頑張って」
「あと、勉強ばかりでなくって高校の思い出作りも忘れちゃだめだよ」
先輩方のメッセージをありがたく受け取り、教室に戻った。
だが、みんないない。
教室ではなく、どこかに集合だったけ? と思いうろうろしていると自分の机の上に、メモ書きが置いてあるのに気づいた。
『音楽室に集合です』
簡潔明瞭なこの文、丁寧で綺麗な文字は帆乃花ちゃんか。最後にハートマークをつけてほしかったな。
急いで音楽室に向かい、扉を開けると皆がワイワイとあけみっちを囲って写真を撮っている。
「遅いよ、シュウゴ」
俺を見つけたサッチが頬をフグのように膨らませている。
「みんな。シュウゴも来たし、あけみっちも入れて集合写真撮るよ」
どういうことか、帆乃花ちゃんに尋ねた。
「あけみっちは音楽室にいてもらうことにして、アルバムは教室で作ることにしたの」
帆乃花ちゃんが小声で答える。
「ああー、ヒデキが言ってた」
「アルバムは一部の女子で作るんだけど、ここであけみっちとみんなが最後のお別れをしている間に作ろうと思って。多分1時間くらいみんなここにいると思うから」
ということは、俺とあけみっちの二人で音楽室にいるという状況にはならないのか……。
「そっか。で、集合写真は?」
「教室で撮った写真はあけみっちに感謝の言葉を伝えるために撮ったものだけど、やっぱりあけみっちとも集合写真を撮りたいってみんなが言って。じゃあ音楽室で撮ろうってことになったの」
「そっか。じゃあ、写真部の先輩に来てもらおうか」
「大丈夫みたい。画質のいいスマホでリモート撮影してみんなで共有するんだって」
「そうなんだ。了解」
花束を持ったあけみっちを中心に集合写真を撮り、写真が共有された。
「俺、ちょっと写真部に行ってくる」
この場を仕切っているサッチに行き先を告げ、現像された写真を渡した。
「了解。私とホノカとトモハは教室にいるから」
俺は、写真部に行き、先輩方に、スマホ画像の印刷を頼んだ。
集合写真1枚だけということで、快く印刷をしてくれた。
印刷している間に、「お礼に先輩方の集合写真も撮ります」と伝えたところ、とても喜んでもらえた。
カメラ越しに、仲の良い雰囲気が伝わってくる。仲間って良いものだ。
印刷された写真を持って、教室に行くと、女子三人がワイワイとアルバムをデコレーションしている。俺は、あけみっちの写った写真をサッチに渡した。
「おっ、ナイス。シュウゴ。じゃあ、これを頭にして、私たち生徒だけの集合写真は一番後ろかな」
「そうだね。感謝の気持ちを一番最後に伝えるのがいいね」
「ホノカもそう思う?」
「みんなにメッセージも書いてもらわないとね」
「だね。トモハの言うとおり。ということで、シュウゴ。写真を個別にとったグループごとで順番に教室に来てと伝えて」
「おい、俺は伝書鳩か」
「いちいち古い。メッセンジャーくらい言えないの」
「はいはい。行ってきます」
「全くもう。ホノカやトモハが言ったら、シュウゴはすぐに行くのに。って私の言葉、なんだかいやらしい」
そんなサッチのぼやきかネタかを後ろに教室を出た。
音楽室に行くと、あけみっちを慕う他のクラスの生徒も混じり、大混雑であった。
結局、音楽室であけみっちと二人っきりになることなく、アルバムは完成した。
もちろん俺もあけみっちと二人の写真を撮ったし、アルバムにメッセージも書いた。
『いつまでも俺の先生でいてください』と。
女子たちは黒板に色や絵を描いている。男子は飾りつけだ。
今日で2年A組のみんなとはお別れとなる。もうこのクラスのみんなで授業を受けることはない。そう思うと、寂しくなってくる。
「おーい、みんな。集合写真撮るぞ」
黒板アートや飾りつけが終わり、明るい小太り男子が声をかけた。
「りんりん、お願い」
明るい小太り男子が廊下に向かって言うと、他のクラスの女子が1人入ってきた。
たしか写真部の部長だ。メガネをかけ、地味ではあるが、藤木さんのようにポテンシャルは持っていそうだ。
それにしても……。
「りんりんって?」
たしか名前は、リサとかリカだったような。
俺が明るい小太り男子に尋ねると返事がすぐに返ってきた。
「俺の彼女だからな。普段からそう呼んでる」
「なんと! そうだったのか? そっか、彼女ができて良かったな。お前、いい奴だもんな。良かった、良かった」
「はは。ありがとうな。俺以外のやつは知らないと思うが、りんりんってメガネを外すと結構可愛いんだぞ。もう他の女子なんていいや、ってなるくらいだ」
途中から帆乃花ちゃんたち女子にかまわなくなったのはそういうことか。
「本当はあけみっちに、りんりんの女子力をアップしてほしかったんだけどな……」
二人で黒板を見る。
その真ん中には大きく華やかに『あけみっち、ありがとう』と描かれていた。
「じゃあ女子は2列、男子はその後ろね。1列目は黒板の前で、2列目と男子は黒板の真ん中あけてね。背の高い女子が2列目だといいかもね」
写真部の部長らしく、テキパキと指示をする。
「了解、リサ」
サッチは顔が広いから写真部部長とも知り合いのようだ。
サッチが前に出て、誰々は前ね、誰々は後ろねと振り分けていく。
自然とそういう役割をサッチが行なってきたので、誰もが素直に従う。
「2列目の女子と男子は真ん中のメッセージを隠さないように。ほら、そこの男子」
サッチの言うことを聞きつつ、俺は2列目の帆乃花ちゃんの後ろについた。
誰にもこのポジションは与えないぞ。
「ケイコの後ろが良かったな」
隣のヒデキがボソッとつぶやく。
藤木さんは友巴ちゃんとともに1列目だ。
「あとで撮ろうぜ。俺もヒデキと撮りたいしな」
「なんだよ、気持ち悪い」
そう言ったヒデキの目が潤んでいるように見えた。
列が整うとサッチが1列目の端につき、パシャリと写真が撮られた。
そのあとは部長がグループごとに撮っていく。
帆乃花ちゃんやサッチは人気者なので、いろいろな女子グループから声がかかる。
最後に、俺、ヒデキ、友巴ちゃん、帆乃花ちゃん、サッチ、藤木さんの6人で撮ってもらった。
「私、この写真ほしい」
「俺も」
みんなが口にする。
写真はあけみっちのアルバムに貼る用で、一眼レフで撮影している。
「スマホでも撮ってもらって、共有しようぜ」
そう俺が提案し、スマホを部長に渡した。
「じゃあサンニイイチでいくよ」
スマホに向かって笑顔を作ったが、たぶんぎこちない笑顔になっているだろう。
今後、この6人で撮ることもないだろうと思うと、寂しいものだ。
「ありがとう、リサ。じゃあ現像よろしく」
今からすぐに暗室で現像作業に入り、終業式後に写真をもらう予定だ。
「わかった。暇な先輩が遊びに来てるから頼んでおく」
部長は、明るい小太り男子に、じゃあと声をかけ教室を出て行った。
俺のスマホを部長から受け取ったサッチがジッと画面を見る。
「……はい。スマホ、シュウゴに返すわ」
「なんだよ。今の間は?」
「ホノカやトモハとムフフな写真撮ってないか見ようと思ったけどやめた」
「あ、あほか。撮るわけないだろ。それにムフフっていつの時代だよ」
「冗談よ。全く。ほらホノカとトモハとスリーショット撮ってあげる」
サッチは一度俺に渡したスマホを取り上げ、5回ほどシャッターを連写した。
「なんだよ、適当だな」
今度こそ俺に返すかと思ったが、サッチは俺の隣に移動しスマホを上にかざした。
「ニッコリ笑って」
カシャ、カシャ
「シュウゴ。今撮った自撮り、絶対に消さないでよ。私にあとで送っておいて。はい、次はケイコとヒデキね」
サッチは俺のスマホを俺の手に握らせてきた。
教室のあちらこちらで写真撮影会が行われ、それが落ち着いた頃にあけみっちが教室に入ってきた。
黒板を見たあけみっちが「わあ」っと驚く。
「みんな、ありがとう。すっごく素敵なメッセージ」
そう言い目頭を押さえたあけみっち。
あけみっちが学校を辞めると告げた時、クラスのみんなが泣いた。だが今回は笑顔で送り出そうという約束をクラス全員でした。
「ありがとう、あけみっち」
明るい小太り男子が声を出したのをきっかけに、教室のあちらこちらから、感謝の言葉が発せられる。
「みんな……ありがとう。教師生活最後にみんなのような素敵な生徒に出会えて良かった。前にも言ったけど、みんなは私の一生の宝物です」
約束は守られず、あちらこちらから啜り泣きが聞こえてくる。
「教師であった期間は短かったけど、みんなのおかげで悔いのない教師生活を送ることができました。みんなも悔いのない学生生活を送ってください。さあ、みんなで終業式に行くわよ」
とびっきりの笑顔であけみっちが言った。
終業式では、あけみっちが学校を去ることも告げられ、あけみっちが壇上で挨拶をした。
続いて生徒を代表して、帆乃花ちゃんが花束を渡した。本当に絵になる二人だ。
1年の時の終業式はつまらない物であったが、2年の終業式は様々な気持ちが入り乱れすっきりとしない。3年になりいよいよ受験の年になるという不安だけではない。
もやもやした気持ちのまま、終業式を終え、今は教室に戻る途中だ。
「俺たち、これでお別れだな」
ヒデキがつぶやく。
「世界の果てに行くわけでもなく、同じ学校にいるんだしたまには昼飯でも一緒に食おうぜ」
「そうだな。だけど、あけみっちとはなかなか会えないな。世界の果てでもないけど」
「まあな」
俺はサブスク中なので、何度も会える権利はあるが、あけみっちも経営のことで忙しいだろうから、頻繁に会えるわけではない。
「なあシュウゴ。あけみっちって、ほんといい先生だったよな。なんか、教師っぽくなくて、俺たちを見守る母ちゃんみたいだったし」
「はは。母ちゃんか。姉ちゃんくらいにしとけ」
俺にとっては師匠である。それに仮の恋人という面も……。
「ところで、シュウゴ。帰りまでにアルバムは完成しそうか?」
「今から写真部にいって、さっき撮ってもらった写真をもらってくる。そこから女子がデコレーションしてとなると1時間くらいかかるかもな」
「あけみっちには、それまで学校にいてもらわないといけないし、内緒にしとかないといけないな」
「そうだな」
「シュウゴ。お前、あけみっちを音楽室にとどめておけよ」
「俺が?」
「最後にあけみっちの授業を受けたいとか言って」
おいおい。俺にとっての授業の意味、知っているのか?
……まあいい。適当に言って、音楽室にいてもらおう。
「わかった。とりあえず写真部に行ってくる。先に教室に戻っておいてくれ」
写真部の部室に行くと、写真部の先輩と思われる男子、女子がワイワイと騒いでいる。
進路も決まり、新生活に向けみな充実しているのだろう。
2年A組の写真を取りに来たことを告げると、すぐに現像したものを渡してくれた。
「受験は大変だけど、それを乗り越えると楽しい未来が待っていると思って、頑張って」
「あと、勉強ばかりでなくって高校の思い出作りも忘れちゃだめだよ」
先輩方のメッセージをありがたく受け取り、教室に戻った。
だが、みんないない。
教室ではなく、どこかに集合だったけ? と思いうろうろしていると自分の机の上に、メモ書きが置いてあるのに気づいた。
『音楽室に集合です』
簡潔明瞭なこの文、丁寧で綺麗な文字は帆乃花ちゃんか。最後にハートマークをつけてほしかったな。
急いで音楽室に向かい、扉を開けると皆がワイワイとあけみっちを囲って写真を撮っている。
「遅いよ、シュウゴ」
俺を見つけたサッチが頬をフグのように膨らませている。
「みんな。シュウゴも来たし、あけみっちも入れて集合写真撮るよ」
どういうことか、帆乃花ちゃんに尋ねた。
「あけみっちは音楽室にいてもらうことにして、アルバムは教室で作ることにしたの」
帆乃花ちゃんが小声で答える。
「ああー、ヒデキが言ってた」
「アルバムは一部の女子で作るんだけど、ここであけみっちとみんなが最後のお別れをしている間に作ろうと思って。多分1時間くらいみんなここにいると思うから」
ということは、俺とあけみっちの二人で音楽室にいるという状況にはならないのか……。
「そっか。で、集合写真は?」
「教室で撮った写真はあけみっちに感謝の言葉を伝えるために撮ったものだけど、やっぱりあけみっちとも集合写真を撮りたいってみんなが言って。じゃあ音楽室で撮ろうってことになったの」
「そっか。じゃあ、写真部の先輩に来てもらおうか」
「大丈夫みたい。画質のいいスマホでリモート撮影してみんなで共有するんだって」
「そうなんだ。了解」
花束を持ったあけみっちを中心に集合写真を撮り、写真が共有された。
「俺、ちょっと写真部に行ってくる」
この場を仕切っているサッチに行き先を告げ、現像された写真を渡した。
「了解。私とホノカとトモハは教室にいるから」
俺は、写真部に行き、先輩方に、スマホ画像の印刷を頼んだ。
集合写真1枚だけということで、快く印刷をしてくれた。
印刷している間に、「お礼に先輩方の集合写真も撮ります」と伝えたところ、とても喜んでもらえた。
カメラ越しに、仲の良い雰囲気が伝わってくる。仲間って良いものだ。
印刷された写真を持って、教室に行くと、女子三人がワイワイとアルバムをデコレーションしている。俺は、あけみっちの写った写真をサッチに渡した。
「おっ、ナイス。シュウゴ。じゃあ、これを頭にして、私たち生徒だけの集合写真は一番後ろかな」
「そうだね。感謝の気持ちを一番最後に伝えるのがいいね」
「ホノカもそう思う?」
「みんなにメッセージも書いてもらわないとね」
「だね。トモハの言うとおり。ということで、シュウゴ。写真を個別にとったグループごとで順番に教室に来てと伝えて」
「おい、俺は伝書鳩か」
「いちいち古い。メッセンジャーくらい言えないの」
「はいはい。行ってきます」
「全くもう。ホノカやトモハが言ったら、シュウゴはすぐに行くのに。って私の言葉、なんだかいやらしい」
そんなサッチのぼやきかネタかを後ろに教室を出た。
音楽室に行くと、あけみっちを慕う他のクラスの生徒も混じり、大混雑であった。
結局、音楽室であけみっちと二人っきりになることなく、アルバムは完成した。
もちろん俺もあけみっちと二人の写真を撮ったし、アルバムにメッセージも書いた。
『いつまでも俺の先生でいてください』と。
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