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ミツハナ脱退編
お泊まりまで
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次の日の帰り、あけみっちはクラスのみんなの前に笑顔で立った。
「みんな、これまでありがとう。私はこの三学期でこの学校を卒業します」
帆乃花ちゃんや友巴ちゃん、サッチも含めクラス全員がどよめく。
俺は下を向いてしまった。
「ちょっと待て。あけみっち、別の学校に行っちゃうの? そんなのムリなんですけど」
ヒデキが立ち上がり、声を出す。
「そうだよ、あけみっち。せめてあと一年いてよ」
今度はサッチが立ち上がって言った。
それに続いて何人かが立ち上がり、「どこにも行かないで」とあけみっちに懇願する。
「ごめんね。どこかの学校に行くわけではなく、教師を辞めるの」
「そんな……」
「やだよ」
藤木さんや武藤さんが顔を手で覆い泣きだす。他にもすすり泣く声があちらこちらで漏れる。
俺だけ聞いていたとみんなに知られるとあけみっちも困るだろう。俺も立ち上がり、辞めて欲しくないと声を出す。それが本心だ。
「私たちへの裏切りじゃん!」
立ち上がっていたサッチが強い口調で言う。
「サッチ! 裏切りって、それは違うんじゃない」
それまで座っていた帆乃花ちゃんも立ち上がる。サッチにそう言えるのは帆乃花ちゃんだけだ。
「あけみっちだって……」
帆乃花ちゃんの言葉を遮り、サッチが言う。
「私たちの卒業も見ないで先生を辞めちゃうなんて裏切りだよ」
「そうかもしれないけど、きっと事情があるんだよ」
「そうやってホノカはいつも優等生ぶるんだから」
「何それ? 私はあけみっちのことも考えてって当たり前のこと言っただけじゃん」
だんだんと二人の喧嘩に発展しそうになる。俺がまあまあと止めようとした時、あけみっちが声を出した。
「一番の親友同士が喧嘩しちゃうくらい、私のこと気にしてくれているのね。みんなありがとう。……教師は辞めるけど、みんなはこれからも私の生徒、一生の宝物です。みんなに会えて本当に良かった。って、これ終業式の時に言う言葉ね」
あけみっちは目に涙を溜めて、ふふっと小さく笑った。
ただ笑ったのはあけみっちだけで、男子まで鼻をすすっている。帆乃花ちゃんとサッチも何も言わず下を向き立ちすくんでいる。
「この前、私のマンションでクリスマスパーティーしたでしょ。あの部屋はこれからもずっとあるわ。だから時折、あなたたちを招待するわ。そこで成長した姿を見せてね」
「俺、めっちゃ成長してあけみっちに良いところ見せるよ」
そうヒデキが言ったのに続きみんなが「私も」、「俺も」と声を出す。
間をおき明るい小太り男子が手を挙げ「俺も」と言ったのに対し、ヒデキが「お前はもう十分成長してるぞ」と返し、教室中が笑った。
小太り男子はヒデキにグーっと合図をした。良い奴だ。
「何度も何度でも言うけど、みんなありがとう。まだしばらくはみんなの担任だからよろしくね。じゃあ今日はこれで解散!」
あけみっちが教室を出て行こうとすると、女子生徒たちが駆け寄り、あけみっちを取り囲む。隣の友巴ちゃんも駆け寄って行った。
帆乃花ちゃんも動き出した時、サッチがこちらにズカズカと向かってきた。
おいおい、まだ喧嘩の続きをするつもりか?
ちょっとサッチ待てと言おうとした時だ。
「ごめん、ホノカ」
「こっちこそ強く言っちゃった。ごめん」
「優等生ぶるなんて言っちゃったけど許して」
「そうだよ。私、優等生ぶってるんじゃなくて優等生だもん」
「ははっ、そうだった」
「サッチ、一緒に行こ」
「それちょっといやらしい」
いや全然いやらしくはない。
まあそれはさておき、二人がすぐに仲直りできて良かった。
「俺たちも行くか」
先ほどちょっと見直した明るい小太り男子に声をかけた。
「それちょっといやらしい」
明るい小太り男子がサッチの声真似をし立ち上がった。
「バカなこと言ってないで、もう行くぞ」
「それちょっといやらしい」
「はいはい」
すでにあけみっちのまわりは三重、四重の輪ができていた。
俺としても学校であけみっちに相談できないのは残念だが、サブスクがあるから少なくとも月に一回は会えるし、あけみっちと身体を交わらせることができる。しかも、あけみっちにとっては不幸なことだから喜べはしないが、あけみっちの中に思う存分放てるのだ。寂しくはない。
俺は家に帰るといったんあけみっちのことは忘れ、お泊まり旅行計画を練り直すことにした。
午前中に友巴ちゃんも交えて相談し、土曜日の昼過ぎまで友巴ちゃんがお祝いし、その後、高速バスで大阪のホテルに向かうことにした。
友巴ちゃんは朝から大阪に行って二人で観光しなよと言ってくれたが、帆乃花ちゃんが友巴ちゃんにもお祝いしてほしいと言ったのだ。
名古屋を15時に出て、大阪には18時前に着く。しかも料金は格安の1,600円程度。早速2席予約した。
バスの到着先は新大阪か。ここからあけみっちが取ってくれたホテルまでのアクセスは……。
そもそもあけみっちが取ってくれたホテルってどんなところだ? アクセス方法も書いてあるだろうから一度公式サイトを見てみよう。
俺はホテルのサイトを見て驚いた。
一言で言うと超豪華なオシャレホテルだ。さすが角倉グループ経営のホテルだ。
ホテル予約サイトを見てみると、土曜日の宿泊は最低でも1人20,000円はする。
こりゃ、あけみっちの秘書になった暁には身を粉にして働かなければ。
このあと、駅からホテル、ホテルからテーマパークまでのアクセス、ごはんどころを調べ、帰りの高速バスを予約したところで今日は終了とした。あと、「毎日ストレッチしておいてね」と帆乃花ちゃんにLINEした。
布団の中に入り思ったのは、帆乃花ちゃんとのホテルでの一夜ではなく、あけみっちのことだ。
4月からは毎日目にしていたあけみっちの笑顔が見られなくなる。音楽室にもいない。やはり寂しさを覚える。
だが次に頭に思い浮かんだのは、ベッドでのあけみっちの顔と声だった。とことんダメな奴だな、俺は……。
「みんな、これまでありがとう。私はこの三学期でこの学校を卒業します」
帆乃花ちゃんや友巴ちゃん、サッチも含めクラス全員がどよめく。
俺は下を向いてしまった。
「ちょっと待て。あけみっち、別の学校に行っちゃうの? そんなのムリなんですけど」
ヒデキが立ち上がり、声を出す。
「そうだよ、あけみっち。せめてあと一年いてよ」
今度はサッチが立ち上がって言った。
それに続いて何人かが立ち上がり、「どこにも行かないで」とあけみっちに懇願する。
「ごめんね。どこかの学校に行くわけではなく、教師を辞めるの」
「そんな……」
「やだよ」
藤木さんや武藤さんが顔を手で覆い泣きだす。他にもすすり泣く声があちらこちらで漏れる。
俺だけ聞いていたとみんなに知られるとあけみっちも困るだろう。俺も立ち上がり、辞めて欲しくないと声を出す。それが本心だ。
「私たちへの裏切りじゃん!」
立ち上がっていたサッチが強い口調で言う。
「サッチ! 裏切りって、それは違うんじゃない」
それまで座っていた帆乃花ちゃんも立ち上がる。サッチにそう言えるのは帆乃花ちゃんだけだ。
「あけみっちだって……」
帆乃花ちゃんの言葉を遮り、サッチが言う。
「私たちの卒業も見ないで先生を辞めちゃうなんて裏切りだよ」
「そうかもしれないけど、きっと事情があるんだよ」
「そうやってホノカはいつも優等生ぶるんだから」
「何それ? 私はあけみっちのことも考えてって当たり前のこと言っただけじゃん」
だんだんと二人の喧嘩に発展しそうになる。俺がまあまあと止めようとした時、あけみっちが声を出した。
「一番の親友同士が喧嘩しちゃうくらい、私のこと気にしてくれているのね。みんなありがとう。……教師は辞めるけど、みんなはこれからも私の生徒、一生の宝物です。みんなに会えて本当に良かった。って、これ終業式の時に言う言葉ね」
あけみっちは目に涙を溜めて、ふふっと小さく笑った。
ただ笑ったのはあけみっちだけで、男子まで鼻をすすっている。帆乃花ちゃんとサッチも何も言わず下を向き立ちすくんでいる。
「この前、私のマンションでクリスマスパーティーしたでしょ。あの部屋はこれからもずっとあるわ。だから時折、あなたたちを招待するわ。そこで成長した姿を見せてね」
「俺、めっちゃ成長してあけみっちに良いところ見せるよ」
そうヒデキが言ったのに続きみんなが「私も」、「俺も」と声を出す。
間をおき明るい小太り男子が手を挙げ「俺も」と言ったのに対し、ヒデキが「お前はもう十分成長してるぞ」と返し、教室中が笑った。
小太り男子はヒデキにグーっと合図をした。良い奴だ。
「何度も何度でも言うけど、みんなありがとう。まだしばらくはみんなの担任だからよろしくね。じゃあ今日はこれで解散!」
あけみっちが教室を出て行こうとすると、女子生徒たちが駆け寄り、あけみっちを取り囲む。隣の友巴ちゃんも駆け寄って行った。
帆乃花ちゃんも動き出した時、サッチがこちらにズカズカと向かってきた。
おいおい、まだ喧嘩の続きをするつもりか?
ちょっとサッチ待てと言おうとした時だ。
「ごめん、ホノカ」
「こっちこそ強く言っちゃった。ごめん」
「優等生ぶるなんて言っちゃったけど許して」
「そうだよ。私、優等生ぶってるんじゃなくて優等生だもん」
「ははっ、そうだった」
「サッチ、一緒に行こ」
「それちょっといやらしい」
いや全然いやらしくはない。
まあそれはさておき、二人がすぐに仲直りできて良かった。
「俺たちも行くか」
先ほどちょっと見直した明るい小太り男子に声をかけた。
「それちょっといやらしい」
明るい小太り男子がサッチの声真似をし立ち上がった。
「バカなこと言ってないで、もう行くぞ」
「それちょっといやらしい」
「はいはい」
すでにあけみっちのまわりは三重、四重の輪ができていた。
俺としても学校であけみっちに相談できないのは残念だが、サブスクがあるから少なくとも月に一回は会えるし、あけみっちと身体を交わらせることができる。しかも、あけみっちにとっては不幸なことだから喜べはしないが、あけみっちの中に思う存分放てるのだ。寂しくはない。
俺は家に帰るといったんあけみっちのことは忘れ、お泊まり旅行計画を練り直すことにした。
午前中に友巴ちゃんも交えて相談し、土曜日の昼過ぎまで友巴ちゃんがお祝いし、その後、高速バスで大阪のホテルに向かうことにした。
友巴ちゃんは朝から大阪に行って二人で観光しなよと言ってくれたが、帆乃花ちゃんが友巴ちゃんにもお祝いしてほしいと言ったのだ。
名古屋を15時に出て、大阪には18時前に着く。しかも料金は格安の1,600円程度。早速2席予約した。
バスの到着先は新大阪か。ここからあけみっちが取ってくれたホテルまでのアクセスは……。
そもそもあけみっちが取ってくれたホテルってどんなところだ? アクセス方法も書いてあるだろうから一度公式サイトを見てみよう。
俺はホテルのサイトを見て驚いた。
一言で言うと超豪華なオシャレホテルだ。さすが角倉グループ経営のホテルだ。
ホテル予約サイトを見てみると、土曜日の宿泊は最低でも1人20,000円はする。
こりゃ、あけみっちの秘書になった暁には身を粉にして働かなければ。
このあと、駅からホテル、ホテルからテーマパークまでのアクセス、ごはんどころを調べ、帰りの高速バスを予約したところで今日は終了とした。あと、「毎日ストレッチしておいてね」と帆乃花ちゃんにLINEした。
布団の中に入り思ったのは、帆乃花ちゃんとのホテルでの一夜ではなく、あけみっちのことだ。
4月からは毎日目にしていたあけみっちの笑顔が見られなくなる。音楽室にもいない。やはり寂しさを覚える。
だが次に頭に思い浮かんだのは、ベッドでのあけみっちの顔と声だった。とことんダメな奴だな、俺は……。
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