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ミツハナ脱退編
お相手はヒデキ
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クリスマスイブの日に外泊することは俺の親は了解している。もちろんココアマンションに泊まるとは言っておらず、ヒデキと夜通しカラオケに行くことになっている。まあ、我が子が男子高校生なら、悪さをしない限り親もそれほど気にしないのだろう。
帆乃花ちゃんと友巴ちゃんは、外泊オッケーになっただろうか。
クリスマスプレゼントはそれぞれがそれぞれに買うことになっている。
つまり、俺は帆乃花ちゃん、友巴ちゃんそれぞれにプレゼントを買い、それぞれからもらえるということだ。
12月上旬の週末。ヒデキと買い物に出かけた。
俺一人で帆乃花ちゃん、友巴ちゃんのプレゼントを買う予定だったが、ヒデキが藤木さんへのプレゼントを一緒に選んでくれと頼み込んできたため、仕方なく付き合うことにした。ヒデキの名前を借りている手前、断りづらいというのもある。
「そう言えば、夢の国はどうだった?」
「まさしく夢の国だったぞ。行きのバスからな」
「行きのバスから?」
「おう。ケイコが俺の肩に頭をもたれかけてくるし、ブランケットの中で手をつないでくるしな」
ヒデキにとって確かにそれは夢の国のできごとだろう。俺としても帆乃花ちゃんや友巴ちゃんとエッチするのとは別に、普通にラブラブしたい。
「いいな、それ。俺もしたい」
「おいおい、俺は嫌だぞ」
「アホか! お前とは死んでもしない」
「はは、わかってる。相手は佐原か森崎だろ。だがな、バスは二人席だ。どっちか選べ」
「どっちかって」
「前にも言っただろ。デートはペアが基本。というか、お前もいずれは結婚する時に、誰か一人を選ばないといけないんだぞ。ここは一夫多妻制のアフリカと違うしな」
「うーん。とりあえず高校の間はどちらか選ぶのはできそうにない」
「しょうがない奴だな。金もかかるぞ」
確かに二人に高いものをプレゼントするのは小遣い的に厳しい。今日も貯金していたお年玉をおろしてきた。
だが、やっぱり二人のうち一人を選ぶことはできない。
ショッピングモールに入ると、ヒデキは俺のことなど忘れてプレゼント選びに夢中になった。
どうやらヒデキはマフラーをプレゼントするようだ。
最初は女性ものの小物を選ぶのを恥ずかしがっていたヒデキも、五店舗目くらいからは慣れてきたようだ。
「シュウゴ。ちょっとこのポップ見ろ。高校生女子が喜ぶクリスマスプレゼントは、あったかグッズらしいぞ。その中でもマフラーが一番人気らしい。シュウゴ、お前もマフラーにしろ」
「そうだな。消えものよりも、普段身につけてもらえるものの方がいいな。悪い。俺、最初から見てくるわ。いくつか良さげなものがあったような」
「そうなのか? 俺はこのまま進んでおくから追いついてこい」
「悪い、ヒデキ。あとでな」
俺はショッピングモールの入り口まで戻り、近くの店に入った。
入り口には、お腹がぽっこりしたサンタのオブジェがどんと置かれている。それを境に、左がメンズもの、右がレディースもののコーナーとなっている。
一人でレディースもののコーナーでうろちょろするのはヒデキでなくともなんだか恥ずかしく、じっくりと商品を選んでいられないが、そもそも俺のセンスで二人が喜ぶようなマフラーを選ぶことができるのだろうか……。
そう思っていると、サンタガールの格好をした若い女性店員が近寄ってきた。二十歳くらいのアルバイトか。顔は……わりと可愛い方だ。それよりもミニスカで、胸の谷間がよくわかる格好をしているから相当エロい。
「彼女さんへのプレゼント?」
甘い声で店員が聞いてくる。
「え? ええ」
「そう。どんなものをお探しかな?」
「えっと、今のところマフラーかな」
「マフラーね。学校につけて行く用? それともお出かけ用?」
「そこまで考えてなかった……」
「そう。学校によってはマフラーの着用ルールがあるところもあるからね。ルールとかわからなかったらお出かけ用で探すと良いですよ」
「うーん、ルールか……。どうだったかな」
「無地じゃないとダメだよ」
ん? 誰だ?
その声、もしや? と思い振り返るとやっぱり、後ろにサッチが立っていた。
「彼女さん?」
「いえいえ、ただの男友だちです」
サッチがお笑い芸人の様に、大袈裟に手を振り否定する。
サッチのことだから、彼氏ですと言うかと思ったが、男友だちと素直に言った。
「サッチも買い物か?」
「私は、クリスマスデートだよ」
デートだ? 誰と?
あたりを見回したがそれらしき人物はいない。
「誰か気になるんでしょ?」
「いや、特に」
「サラッと否定しないで気にしなさいよ。シュウゴも知っている人だよ」
「俺が知っている……。そうか、明るい小太りだな」
「そうそう、私って小太りな男子に目がなくて、ちょうどクリスマスだからお腹ぽよぽよサンタにコスプレさせようってアホか」
「長いノリツッコミだな。で、誰だ?」
「私の家庭教師」
「家庭教師?」
そう言えば、この間のテストで、サッチの校内順位がほんの少し上がっていたが、家庭教師の影響か。
「俺の知っている家庭教師なんていないぞ。ってまさか……」
「そう、そのまさかだよ。ホノカのお兄ちゃん。隣のお店で私のプレゼント選んでくれてるからもう行くね。じゃ」
「元気で明るい娘ね。うちのお店にバイトに来ないかな。サンタガールも似合いそうだし」
サッチがサンタガールの格好をして呼び込みをしたら、この店員以上に、男どもをわんさか寄せ集めるだろう。
そうだ、クリスマスには、帆乃花ちゃんと友巴ちゃんにもサンタガールの格好をしてもらおう。あの二人がミニスカに黒いストッキングなんて興奮するわ。
「えっと、学校は無地しかダメなのね。うちは、無地のマフラーがこの紺色しかないけど、肌触りは抜群よ。柄物ならこっちに色々あるけど」
「俺、センスないから……」
「そう。彼女さんは、お出かけの時、どんな服装してるのかな?」
「服装ですか。大人っぽい落ち着いた感じとフェミニンな感じというか……」
「あら、極端な性格を持った彼女さんね。TPOに合わせて服装を変えるのかしら」
「えっと……」
一人じゃなくて二人ですとは言えなかった。
「うちはどちらかと言うと、フェミニンな感じのマフラーが多いから、そっちをご案内すると……」
店員が選んでくれたのは、ピンク×白系の可愛らしいマフラーであった。触り心地もなかなか良い。値札をさりげなく見たが、それほど高くはない。
「これ良いですね。これください」
「はい。ありがとうございます。きっと彼女さんも喜びますよ」
ふう。早速、友巴ちゃんのマフラーが決まって良かった。
帆乃花ちゃんのマフラーは別のところで探そう。
「ところで、落ち着いた感じの服装の時はどんなマフラーが良いんですか?」
ラッピングしてくれている店員に聞いてみた。
「んー、高校生なら、茶系のチェック柄なんてどうですか? 一種類しかないですが、うちにもありますよ」
「茶系のチェック柄……。わかりました。ちょっと考えます。」
ラッピングされたマフラーを受け取り店を出た。
隣の店をチラッとのぞいたところ、帆乃花ちゃんのお兄様とサッチが仲良く商品を選んでいる姿が見えた。まるで恋人同士のようだ。
何故だか、見てはいけないものを見てしまったようで、足早にその場を去った。
買う物が決まっていると探すのは楽だ。茶色のチェック柄のマフラーのみを色々な店で見て回っていると、ヒデキに追いついた。
「ヒデキ、買えたか?」
「いや、まだだ。ってお前、もう済んだのか?」
「いや済んでない。もう一つ買うからな」
「やっぱり二つ買うのか」
「高校の間は、二人に買うって決めた。それよりサッチがいたぞ」
「まじか。最近、サッチがケイコを俺が取ったってうるさいからな。顔を合わせないようにしよう」
「そうだな。ところで、マフラー選びに困ったら、入り口すぐの店がいいぞ。アドバイスをくれるサンタガールがいる。ミニスカだし、顔も結構可愛いぞ」
「そんな店員いたか? だが、そんな店員にマフラー選びのアドバイスをもらえるなら、行ってみようかな」
「俺も行く」
色々見たが結局、帆乃花ちゃんのマフラーもそこで買うことにしよう。
決して、ミニスカのサンタガールに接客してもらいたいからではない。
サッチに会わないように注意しながら、最初の店に戻った。
「いたいた。あれか。ほう、なかなかな格好だな。ケイコにしてもらおうかな」
ヒデキのやつ、俺と一緒のこと考えていやがる。
「あら、また来てくれたの? お帰りなさい」
「ただいまです。友だち連れてきました。こいつも彼女にマフラーをプレゼントするのでアドバイスしてあげてください」
ヒデキは店員の胸に目がいっている。そう言えば、ヒデキは胸好きだったな。
ヒデキは、店員のアドバイスを聞いているのか聞いていないのかよくわからないが、店員の選んだ三枚のマフラーから一枚を選ぶ。無地の紺色マフラーだ。藤木さんに通学で使ってもらうつもりなのだろう。
「すみません。やっぱり、茶色のチェック柄のマフラーも買います」
「あら、彼女さんに二枚もマフラーをあげるの?」
「え、ええまあ」
さっき買ったマフラーと一緒にラッピングしてくれようとしたが、丁重に断った。
昼ご飯はフードコートで食べることになった。
ヒデキは430円のラーメンだ。
「それだけで足りるか?」
「金はギリ足りるが、腹は満たされん。まあこの前、夢の国に行ったばかりだからな。仕方ない」
俺は海鮮丼大盛りを頼み、少しヒデキに分けてやった。
「シュウゴ。これ食べたら、ちょっと付き合ってくれ」
「金ないのに、まだ何か買う気か?」
「ふふ。まあな」
ヒデキに連れられて、着いた店は雑貨屋だった。
「あった、あった。これこれ」
ヒデキが手にしたのはサンタガールのコスプレ衣装だ。
「お前、金ないんだろ」
「ふふふ。金はないが、俺にはこれがある」
ヒデキが財布から取り出したのは、図書カードだった。
「親戚のおじさんに勉強に使えってもらったやつだ。ありがたく使わせてもらいます」
そうか。ここは図書カードも支払いに使える雑貨屋だ。それにしてもだ……。
「ヒデキ……勉強のためにってもらったんだろ」
「社会勉強に使うんだからいいだろ」
「社会勉強って……」
「コスプレ学だ」
「はあ。コスプレ学ねえ……」
ヒデキがサンタガールと書かれたコスプレ衣装を手にした。
在庫は四つ。ヒデキが買うと残り三つだ。
「俺も社会勉強しとこっと」
一つ約二千円。少し痛いが帆乃花ちゃんと友巴ちゃんのサンタガール姿を見るためだ。だがこれ以上の出費は厳しい。黒ストッキングは諦め……いや、はいてきてもらおう。
「シュウゴ。やっぱり二人はきついだろ」
「い、いや。平気、平気」
たぶん全然平気なようには聞こえなかっただろう。
帆乃花ちゃんと友巴ちゃんは、外泊オッケーになっただろうか。
クリスマスプレゼントはそれぞれがそれぞれに買うことになっている。
つまり、俺は帆乃花ちゃん、友巴ちゃんそれぞれにプレゼントを買い、それぞれからもらえるということだ。
12月上旬の週末。ヒデキと買い物に出かけた。
俺一人で帆乃花ちゃん、友巴ちゃんのプレゼントを買う予定だったが、ヒデキが藤木さんへのプレゼントを一緒に選んでくれと頼み込んできたため、仕方なく付き合うことにした。ヒデキの名前を借りている手前、断りづらいというのもある。
「そう言えば、夢の国はどうだった?」
「まさしく夢の国だったぞ。行きのバスからな」
「行きのバスから?」
「おう。ケイコが俺の肩に頭をもたれかけてくるし、ブランケットの中で手をつないでくるしな」
ヒデキにとって確かにそれは夢の国のできごとだろう。俺としても帆乃花ちゃんや友巴ちゃんとエッチするのとは別に、普通にラブラブしたい。
「いいな、それ。俺もしたい」
「おいおい、俺は嫌だぞ」
「アホか! お前とは死んでもしない」
「はは、わかってる。相手は佐原か森崎だろ。だがな、バスは二人席だ。どっちか選べ」
「どっちかって」
「前にも言っただろ。デートはペアが基本。というか、お前もいずれは結婚する時に、誰か一人を選ばないといけないんだぞ。ここは一夫多妻制のアフリカと違うしな」
「うーん。とりあえず高校の間はどちらか選ぶのはできそうにない」
「しょうがない奴だな。金もかかるぞ」
確かに二人に高いものをプレゼントするのは小遣い的に厳しい。今日も貯金していたお年玉をおろしてきた。
だが、やっぱり二人のうち一人を選ぶことはできない。
ショッピングモールに入ると、ヒデキは俺のことなど忘れてプレゼント選びに夢中になった。
どうやらヒデキはマフラーをプレゼントするようだ。
最初は女性ものの小物を選ぶのを恥ずかしがっていたヒデキも、五店舗目くらいからは慣れてきたようだ。
「シュウゴ。ちょっとこのポップ見ろ。高校生女子が喜ぶクリスマスプレゼントは、あったかグッズらしいぞ。その中でもマフラーが一番人気らしい。シュウゴ、お前もマフラーにしろ」
「そうだな。消えものよりも、普段身につけてもらえるものの方がいいな。悪い。俺、最初から見てくるわ。いくつか良さげなものがあったような」
「そうなのか? 俺はこのまま進んでおくから追いついてこい」
「悪い、ヒデキ。あとでな」
俺はショッピングモールの入り口まで戻り、近くの店に入った。
入り口には、お腹がぽっこりしたサンタのオブジェがどんと置かれている。それを境に、左がメンズもの、右がレディースもののコーナーとなっている。
一人でレディースもののコーナーでうろちょろするのはヒデキでなくともなんだか恥ずかしく、じっくりと商品を選んでいられないが、そもそも俺のセンスで二人が喜ぶようなマフラーを選ぶことができるのだろうか……。
そう思っていると、サンタガールの格好をした若い女性店員が近寄ってきた。二十歳くらいのアルバイトか。顔は……わりと可愛い方だ。それよりもミニスカで、胸の谷間がよくわかる格好をしているから相当エロい。
「彼女さんへのプレゼント?」
甘い声で店員が聞いてくる。
「え? ええ」
「そう。どんなものをお探しかな?」
「えっと、今のところマフラーかな」
「マフラーね。学校につけて行く用? それともお出かけ用?」
「そこまで考えてなかった……」
「そう。学校によってはマフラーの着用ルールがあるところもあるからね。ルールとかわからなかったらお出かけ用で探すと良いですよ」
「うーん、ルールか……。どうだったかな」
「無地じゃないとダメだよ」
ん? 誰だ?
その声、もしや? と思い振り返るとやっぱり、後ろにサッチが立っていた。
「彼女さん?」
「いえいえ、ただの男友だちです」
サッチがお笑い芸人の様に、大袈裟に手を振り否定する。
サッチのことだから、彼氏ですと言うかと思ったが、男友だちと素直に言った。
「サッチも買い物か?」
「私は、クリスマスデートだよ」
デートだ? 誰と?
あたりを見回したがそれらしき人物はいない。
「誰か気になるんでしょ?」
「いや、特に」
「サラッと否定しないで気にしなさいよ。シュウゴも知っている人だよ」
「俺が知っている……。そうか、明るい小太りだな」
「そうそう、私って小太りな男子に目がなくて、ちょうどクリスマスだからお腹ぽよぽよサンタにコスプレさせようってアホか」
「長いノリツッコミだな。で、誰だ?」
「私の家庭教師」
「家庭教師?」
そう言えば、この間のテストで、サッチの校内順位がほんの少し上がっていたが、家庭教師の影響か。
「俺の知っている家庭教師なんていないぞ。ってまさか……」
「そう、そのまさかだよ。ホノカのお兄ちゃん。隣のお店で私のプレゼント選んでくれてるからもう行くね。じゃ」
「元気で明るい娘ね。うちのお店にバイトに来ないかな。サンタガールも似合いそうだし」
サッチがサンタガールの格好をして呼び込みをしたら、この店員以上に、男どもをわんさか寄せ集めるだろう。
そうだ、クリスマスには、帆乃花ちゃんと友巴ちゃんにもサンタガールの格好をしてもらおう。あの二人がミニスカに黒いストッキングなんて興奮するわ。
「えっと、学校は無地しかダメなのね。うちは、無地のマフラーがこの紺色しかないけど、肌触りは抜群よ。柄物ならこっちに色々あるけど」
「俺、センスないから……」
「そう。彼女さんは、お出かけの時、どんな服装してるのかな?」
「服装ですか。大人っぽい落ち着いた感じとフェミニンな感じというか……」
「あら、極端な性格を持った彼女さんね。TPOに合わせて服装を変えるのかしら」
「えっと……」
一人じゃなくて二人ですとは言えなかった。
「うちはどちらかと言うと、フェミニンな感じのマフラーが多いから、そっちをご案内すると……」
店員が選んでくれたのは、ピンク×白系の可愛らしいマフラーであった。触り心地もなかなか良い。値札をさりげなく見たが、それほど高くはない。
「これ良いですね。これください」
「はい。ありがとうございます。きっと彼女さんも喜びますよ」
ふう。早速、友巴ちゃんのマフラーが決まって良かった。
帆乃花ちゃんのマフラーは別のところで探そう。
「ところで、落ち着いた感じの服装の時はどんなマフラーが良いんですか?」
ラッピングしてくれている店員に聞いてみた。
「んー、高校生なら、茶系のチェック柄なんてどうですか? 一種類しかないですが、うちにもありますよ」
「茶系のチェック柄……。わかりました。ちょっと考えます。」
ラッピングされたマフラーを受け取り店を出た。
隣の店をチラッとのぞいたところ、帆乃花ちゃんのお兄様とサッチが仲良く商品を選んでいる姿が見えた。まるで恋人同士のようだ。
何故だか、見てはいけないものを見てしまったようで、足早にその場を去った。
買う物が決まっていると探すのは楽だ。茶色のチェック柄のマフラーのみを色々な店で見て回っていると、ヒデキに追いついた。
「ヒデキ、買えたか?」
「いや、まだだ。ってお前、もう済んだのか?」
「いや済んでない。もう一つ買うからな」
「やっぱり二つ買うのか」
「高校の間は、二人に買うって決めた。それよりサッチがいたぞ」
「まじか。最近、サッチがケイコを俺が取ったってうるさいからな。顔を合わせないようにしよう」
「そうだな。ところで、マフラー選びに困ったら、入り口すぐの店がいいぞ。アドバイスをくれるサンタガールがいる。ミニスカだし、顔も結構可愛いぞ」
「そんな店員いたか? だが、そんな店員にマフラー選びのアドバイスをもらえるなら、行ってみようかな」
「俺も行く」
色々見たが結局、帆乃花ちゃんのマフラーもそこで買うことにしよう。
決して、ミニスカのサンタガールに接客してもらいたいからではない。
サッチに会わないように注意しながら、最初の店に戻った。
「いたいた。あれか。ほう、なかなかな格好だな。ケイコにしてもらおうかな」
ヒデキのやつ、俺と一緒のこと考えていやがる。
「あら、また来てくれたの? お帰りなさい」
「ただいまです。友だち連れてきました。こいつも彼女にマフラーをプレゼントするのでアドバイスしてあげてください」
ヒデキは店員の胸に目がいっている。そう言えば、ヒデキは胸好きだったな。
ヒデキは、店員のアドバイスを聞いているのか聞いていないのかよくわからないが、店員の選んだ三枚のマフラーから一枚を選ぶ。無地の紺色マフラーだ。藤木さんに通学で使ってもらうつもりなのだろう。
「すみません。やっぱり、茶色のチェック柄のマフラーも買います」
「あら、彼女さんに二枚もマフラーをあげるの?」
「え、ええまあ」
さっき買ったマフラーと一緒にラッピングしてくれようとしたが、丁重に断った。
昼ご飯はフードコートで食べることになった。
ヒデキは430円のラーメンだ。
「それだけで足りるか?」
「金はギリ足りるが、腹は満たされん。まあこの前、夢の国に行ったばかりだからな。仕方ない」
俺は海鮮丼大盛りを頼み、少しヒデキに分けてやった。
「シュウゴ。これ食べたら、ちょっと付き合ってくれ」
「金ないのに、まだ何か買う気か?」
「ふふ。まあな」
ヒデキに連れられて、着いた店は雑貨屋だった。
「あった、あった。これこれ」
ヒデキが手にしたのはサンタガールのコスプレ衣装だ。
「お前、金ないんだろ」
「ふふふ。金はないが、俺にはこれがある」
ヒデキが財布から取り出したのは、図書カードだった。
「親戚のおじさんに勉強に使えってもらったやつだ。ありがたく使わせてもらいます」
そうか。ここは図書カードも支払いに使える雑貨屋だ。それにしてもだ……。
「ヒデキ……勉強のためにってもらったんだろ」
「社会勉強に使うんだからいいだろ」
「社会勉強って……」
「コスプレ学だ」
「はあ。コスプレ学ねえ……」
ヒデキがサンタガールと書かれたコスプレ衣装を手にした。
在庫は四つ。ヒデキが買うと残り三つだ。
「俺も社会勉強しとこっと」
一つ約二千円。少し痛いが帆乃花ちゃんと友巴ちゃんのサンタガール姿を見るためだ。だがこれ以上の出費は厳しい。黒ストッキングは諦め……いや、はいてきてもらおう。
「シュウゴ。やっぱり二人はきついだろ」
「い、いや。平気、平気」
たぶん全然平気なようには聞こえなかっただろう。
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