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ミツハナ脱退編
進路
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今日は午前が通常授業で、午後は三者面談だ。
十四時三十分からが俺の番となる。
三者面談はその名のとおり、生徒、担任、保護者の三者で、生徒の学校生活や学習状況などを担任から話すほか、進路についても話し合う。
もう高二の二学期だ。俺の将来について、つまり進路について話すのはわかる。だが、あけみっちの将来にも関わるというのは……。やっぱり、子どもができて俺が婿に入るってことか……。
心の準備をしておいてと言われたため、ある程度は覚悟はしてきた。
だが隣の母親には当然何も言っていない。
コンコンとドアをノックする。
「どうぞ」
中に入ると、あけみっちが立っており、椅子を勧められた。
母親とともに座ると、あけみっちは母親の前に座った。
「改めまして。担任の角倉です」
そう言ったあけみっちに対し、母もペコリと挨拶をする。
最初は俺の学校生活についてあけみっちが報告した。みんなが嫌がる作業も積極的にしてくれているとあけみっちが褒めてくれたが、半ば強制的にさせられているとは俺の口からは言えない。
「では次に梅谷くんの将来のこと、進路のことですが……」
いよいよ来たか。
「梅谷くん自身は、将来何になりたくて、どの大学に行きたいかって決まっているのかな?」
「今のところは特に……」
実際に特にしたいことも見つかっていない。大学に入ってからゆっくり考えようと思っている。
「そう。じゃあ私の……」
やっぱり婿になれと。
「おすすめの大学に行って、経営について学んでみるのはどう?」
ん? ちょっと違ったけど、社長になるための勉強ということだな。
「お母さん。私は今は高校の音楽教師をしていますが、実は角倉グループの長女なんです」
「角倉グループ? 角倉グループって、えっまさか、あの!?」
母親が驚く。
そりゃそうだ。角倉グループといえば、テレビコマーシャルもバンバンしており、世界各地に拠点を持つ新進気鋭のジャパニーズスタイルホテルを中心とした巨大グループだ。ホテルや旅館経営だけでなく、不動産事業も手掛け、最近は海外拠点を中心にアニメ事業にも乗り出している。
「梅谷くんには、大学卒業後、私どもの会社の社員になっていただくのはどうかと」
ん? 社員? 社長ではなくて?
「それはありがたいお話ですが、なぜうちの柊伍を?」
「お母さん、正直に言います」
ちょっと待って。俺の子を身籠ったから、ってこの場で言わないでよ。
「梅谷くんがごく普通の人間だからです」
「はあ……」
はあ?
「変に個性がないので、幅広くいろいろな人とも付き合っていけますし、変に知識もないので、これから必要な知識をどんどん吸収していけます。実は私の高校の同級生で今はITベンチャー企業の社長をしている人がいるのですが、高校の時は、梅谷くんと同じように、ごくごく普通の男の子でした。でも大学で専門知識をぐんぐん吸収して今の地位にいるのです」
「そうですか……。でも柊伍の他にも同じような普通の子がいるのでは……」
「確かにそうです。そうですが、梅谷くんでないとダメなんです。理由は後ほど梅谷くんに直接お話しします」
俺でないとダメな理由……。お腹の子は俺の子だから。
「まあ先生がそこまで見込んでくださるなら、本人次第ではありますが、ありがたく先生のおすすめの大学に行かせたいと思います」
「そうですか。ありがとうございます。いくつか候補がありますので学力に合った大学をこれから梅谷くんと相談していきます」
ここで母親はお役御免となり、あけみっちと二人になった。
「あけみっち。俺、覚悟できてるよ」
「ん? なんの?」
「なんのって、父親になる……」
「えっ? 何の話よ。あー、ひょっとして私が梅谷くんの子どもを身籠ったって話? 残念ながら、子どもはできてなかったみたい」
「え、そうなの?」
良かったと思う気持ちに、ほんの少しだけ残念という気持ちが入り混じった。
「俺でないといけないって……」
「それは間違ってない。君じゃないとダメなの。だって名前が『シュウゴ』なんだもん」
「ん?」
「私の初恋の人の名前が『シュウゴ』だったの。まあそれだけでなく、雰囲気も今の君にすごく似てたのよね」
たしか家柄が釣り合わないとかの理由で初恋は実らなかったんだったっけ。
ん? そう言えば、あけみっちとエッチした時、「シュウゴくん」ってあえぎながら言っていたけど、初恋のシュウゴを想って口から出たのかもしれない。
「さっき言った高校の同級生で、今はITベンチャー企業の社長って……」
「そう。あっちのシュウゴくんは、大学在学中に社長になったのよ。ふふ、私って男を見る目があるでしょ」
いや、暴力男とも付き合っていたでしょ。
「それじゃ、その彼と結婚したらいいんじゃ……」
大企業令嬢とITベンチャー社長の大型結婚だとマスコミも話題にするかもよ。
「んんー。彼、一緒に会社を起こした同級生と学生結婚しちゃったの」
「そうだったんだ……」
「君、私と結婚する気はないでしょ。じゃあ私が社長になったら、社長秘書候補ね。ただし、ちゃんと大学で経営学を学んでこないと入社はさせないわよ」
「そ、そりゃもちろん」
コネで入ったと言われないように実力はつけておかないと。
「ふふっ。もし、入社したら社長室でいいことしましょ」
美人社長と、社長室でいいことって…。二流ドラマの世界だな。それにその頃、あけみっちはとうにアラサーだ。
「それは婿に来て社長になった人と……」
「それは絶対嫌。あと一年で、父が決めた好きでもない男と結婚させられるの。そんな男が社長になるくらいなら私が社長になる」
「そ、そうなんだ……」
「まあ最後の話は忘れて、社長室でいいことするってところまで覚えておいて。さあ面談はおしまい。次の人、来てくださいって言ってきて」
「……わかった」
廊下に出て、扉を閉める。
そこには悲しそうな顔をしたあけみっちが、ぽつんっと座っていた。
十四時三十分からが俺の番となる。
三者面談はその名のとおり、生徒、担任、保護者の三者で、生徒の学校生活や学習状況などを担任から話すほか、進路についても話し合う。
もう高二の二学期だ。俺の将来について、つまり進路について話すのはわかる。だが、あけみっちの将来にも関わるというのは……。やっぱり、子どもができて俺が婿に入るってことか……。
心の準備をしておいてと言われたため、ある程度は覚悟はしてきた。
だが隣の母親には当然何も言っていない。
コンコンとドアをノックする。
「どうぞ」
中に入ると、あけみっちが立っており、椅子を勧められた。
母親とともに座ると、あけみっちは母親の前に座った。
「改めまして。担任の角倉です」
そう言ったあけみっちに対し、母もペコリと挨拶をする。
最初は俺の学校生活についてあけみっちが報告した。みんなが嫌がる作業も積極的にしてくれているとあけみっちが褒めてくれたが、半ば強制的にさせられているとは俺の口からは言えない。
「では次に梅谷くんの将来のこと、進路のことですが……」
いよいよ来たか。
「梅谷くん自身は、将来何になりたくて、どの大学に行きたいかって決まっているのかな?」
「今のところは特に……」
実際に特にしたいことも見つかっていない。大学に入ってからゆっくり考えようと思っている。
「そう。じゃあ私の……」
やっぱり婿になれと。
「おすすめの大学に行って、経営について学んでみるのはどう?」
ん? ちょっと違ったけど、社長になるための勉強ということだな。
「お母さん。私は今は高校の音楽教師をしていますが、実は角倉グループの長女なんです」
「角倉グループ? 角倉グループって、えっまさか、あの!?」
母親が驚く。
そりゃそうだ。角倉グループといえば、テレビコマーシャルもバンバンしており、世界各地に拠点を持つ新進気鋭のジャパニーズスタイルホテルを中心とした巨大グループだ。ホテルや旅館経営だけでなく、不動産事業も手掛け、最近は海外拠点を中心にアニメ事業にも乗り出している。
「梅谷くんには、大学卒業後、私どもの会社の社員になっていただくのはどうかと」
ん? 社員? 社長ではなくて?
「それはありがたいお話ですが、なぜうちの柊伍を?」
「お母さん、正直に言います」
ちょっと待って。俺の子を身籠ったから、ってこの場で言わないでよ。
「梅谷くんがごく普通の人間だからです」
「はあ……」
はあ?
「変に個性がないので、幅広くいろいろな人とも付き合っていけますし、変に知識もないので、これから必要な知識をどんどん吸収していけます。実は私の高校の同級生で今はITベンチャー企業の社長をしている人がいるのですが、高校の時は、梅谷くんと同じように、ごくごく普通の男の子でした。でも大学で専門知識をぐんぐん吸収して今の地位にいるのです」
「そうですか……。でも柊伍の他にも同じような普通の子がいるのでは……」
「確かにそうです。そうですが、梅谷くんでないとダメなんです。理由は後ほど梅谷くんに直接お話しします」
俺でないとダメな理由……。お腹の子は俺の子だから。
「まあ先生がそこまで見込んでくださるなら、本人次第ではありますが、ありがたく先生のおすすめの大学に行かせたいと思います」
「そうですか。ありがとうございます。いくつか候補がありますので学力に合った大学をこれから梅谷くんと相談していきます」
ここで母親はお役御免となり、あけみっちと二人になった。
「あけみっち。俺、覚悟できてるよ」
「ん? なんの?」
「なんのって、父親になる……」
「えっ? 何の話よ。あー、ひょっとして私が梅谷くんの子どもを身籠ったって話? 残念ながら、子どもはできてなかったみたい」
「え、そうなの?」
良かったと思う気持ちに、ほんの少しだけ残念という気持ちが入り混じった。
「俺でないといけないって……」
「それは間違ってない。君じゃないとダメなの。だって名前が『シュウゴ』なんだもん」
「ん?」
「私の初恋の人の名前が『シュウゴ』だったの。まあそれだけでなく、雰囲気も今の君にすごく似てたのよね」
たしか家柄が釣り合わないとかの理由で初恋は実らなかったんだったっけ。
ん? そう言えば、あけみっちとエッチした時、「シュウゴくん」ってあえぎながら言っていたけど、初恋のシュウゴを想って口から出たのかもしれない。
「さっき言った高校の同級生で、今はITベンチャー企業の社長って……」
「そう。あっちのシュウゴくんは、大学在学中に社長になったのよ。ふふ、私って男を見る目があるでしょ」
いや、暴力男とも付き合っていたでしょ。
「それじゃ、その彼と結婚したらいいんじゃ……」
大企業令嬢とITベンチャー社長の大型結婚だとマスコミも話題にするかもよ。
「んんー。彼、一緒に会社を起こした同級生と学生結婚しちゃったの」
「そうだったんだ……」
「君、私と結婚する気はないでしょ。じゃあ私が社長になったら、社長秘書候補ね。ただし、ちゃんと大学で経営学を学んでこないと入社はさせないわよ」
「そ、そりゃもちろん」
コネで入ったと言われないように実力はつけておかないと。
「ふふっ。もし、入社したら社長室でいいことしましょ」
美人社長と、社長室でいいことって…。二流ドラマの世界だな。それにその頃、あけみっちはとうにアラサーだ。
「それは婿に来て社長になった人と……」
「それは絶対嫌。あと一年で、父が決めた好きでもない男と結婚させられるの。そんな男が社長になるくらいなら私が社長になる」
「そ、そうなんだ……」
「まあ最後の話は忘れて、社長室でいいことするってところまで覚えておいて。さあ面談はおしまい。次の人、来てくださいって言ってきて」
「……わかった」
廊下に出て、扉を閉める。
そこには悲しそうな顔をしたあけみっちが、ぽつんっと座っていた。
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