席替えから始まる学園天国

空ー馬(くーま)

文字の大きさ
上 下
46 / 118
ミツハナ脱退編

進路

しおりを挟む
 今日は午前が通常授業で、午後は三者面談だ。
 十四時三十分からが俺の番となる。
 三者面談はその名のとおり、生徒、担任、保護者の三者で、生徒の学校生活や学習状況などを担任から話すほか、進路についても話し合う。
 
 もう高二の二学期だ。俺の将来について、つまり進路について話すのはわかる。だが、あけみっちの将来にも関わるというのは……。やっぱり、子どもができて俺が婿に入るってことか……。
 
 心の準備をしておいてと言われたため、ある程度は覚悟はしてきた。
 だが隣の母親には当然何も言っていない。

 コンコンとドアをノックする。

「どうぞ」

 中に入ると、あけみっちが立っており、椅子を勧められた。
 母親とともに座ると、あけみっちは母親の前に座った。

「改めまして。担任の角倉です」
 
 そう言ったあけみっちに対し、母もペコリと挨拶をする。
 
 最初は俺の学校生活についてあけみっちが報告した。みんなが嫌がる作業も積極的にしてくれているとあけみっちが褒めてくれたが、半ば強制的にさせられているとは俺の口からは言えない。

「では次に梅谷くんの将来のこと、進路のことですが……」 

 いよいよ来たか。

「梅谷くん自身は、将来何になりたくて、どの大学に行きたいかって決まっているのかな?」

「今のところは特に……」
 
 実際に特にしたいことも見つかっていない。大学に入ってからゆっくり考えようと思っている。

「そう。じゃあ私の……」
 
 やっぱり婿になれと。

「おすすめの大学に行って、経営について学んでみるのはどう?」
 
 ん? ちょっと違ったけど、社長になるための勉強ということだな。

「お母さん。私は今は高校の音楽教師をしていますが、実は角倉グループの長女なんです」

「角倉グループ? 角倉グループって、えっまさか、あの!?」
 
 母親が驚く。
 そりゃそうだ。角倉グループといえば、テレビコマーシャルもバンバンしており、世界各地に拠点を持つ新進気鋭のジャパニーズスタイルホテルを中心とした巨大グループだ。ホテルや旅館経営だけでなく、不動産事業も手掛け、最近は海外拠点を中心にアニメ事業にも乗り出している。

「梅谷くんには、大学卒業後、私どもの会社の社員になっていただくのはどうかと」
 
 ん? 社員? 社長ではなくて?

「それはありがたいお話ですが、なぜうちの柊伍を?」

「お母さん、正直に言います」

 ちょっと待って。俺の子を身籠ったから、ってこの場で言わないでよ。

「梅谷くんがごく普通の人間だからです」

「はあ……」
 
 はあ?

「変に個性がないので、幅広くいろいろな人とも付き合っていけますし、変に知識もないので、これから必要な知識をどんどん吸収していけます。実は私の高校の同級生で今はITベンチャー企業の社長をしている人がいるのですが、高校の時は、梅谷くんと同じように、ごくごく普通の男の子でした。でも大学で専門知識をぐんぐん吸収して今の地位にいるのです」

「そうですか……。でも柊伍の他にも同じような普通の子がいるのでは……」

「確かにそうです。そうですが、梅谷くんでないとダメなんです。理由は後ほど梅谷くんに直接お話しします」
 
 俺でないとダメな理由……。お腹の子は俺の子だから。

「まあ先生がそこまで見込んでくださるなら、本人次第ではありますが、ありがたく先生のおすすめの大学に行かせたいと思います」

「そうですか。ありがとうございます。いくつか候補がありますので学力に合った大学をこれから梅谷くんと相談していきます」
 
 ここで母親はお役御免となり、あけみっちと二人になった。

「あけみっち。俺、覚悟できてるよ」

「ん? なんの?」

「なんのって、父親になる……」

「えっ? 何の話よ。あー、ひょっとして私が梅谷くんの子どもを身籠ったって話? 残念ながら、子どもはできてなかったみたい」

「え、そうなの?」
 
 良かったと思う気持ちに、ほんの少しだけ残念という気持ちが入り混じった。

「俺でないといけないって……」

「それは間違ってない。君じゃないとダメなの。だって名前が『シュウゴ』なんだもん」

「ん?」

「私の初恋の人の名前が『シュウゴ』だったの。まあそれだけでなく、雰囲気も今の君にすごく似てたのよね」
 
 たしか家柄が釣り合わないとかの理由で初恋は実らなかったんだったっけ。
 
 ん? そう言えば、あけみっちとエッチした時、「シュウゴくん」ってあえぎながら言っていたけど、初恋のシュウゴを想って口から出たのかもしれない。

「さっき言った高校の同級生で、今はITベンチャー企業の社長って……」
「そう。あっちのシュウゴくんは、大学在学中に社長になったのよ。ふふ、私って男を見る目があるでしょ」
 
 いや、暴力男とも付き合っていたでしょ。

「それじゃ、その彼と結婚したらいいんじゃ……」
 
 大企業令嬢とITベンチャー社長の大型結婚だとマスコミも話題にするかもよ。

「んんー。彼、一緒に会社を起こした同級生と学生結婚しちゃったの」

「そうだったんだ……」

「君、私と結婚する気はないでしょ。じゃあ私が社長になったら、社長秘書候補ね。ただし、ちゃんと大学で経営学を学んでこないと入社はさせないわよ」

「そ、そりゃもちろん」
 
 コネで入ったと言われないように実力はつけておかないと。

「ふふっ。もし、入社したら社長室でいいことしましょ」
 
 美人社長と、社長室でいいことって…。二流ドラマの世界だな。それにその頃、あけみっちはとうにアラサーだ。

「それは婿に来て社長になった人と……」

「それは絶対嫌。あと一年で、父が決めた好きでもない男と結婚させられるの。そんな男が社長になるくらいなら私が社長になる」

「そ、そうなんだ……」

「まあ最後の話は忘れて、社長室でいいことするってところまで覚えておいて。さあ面談はおしまい。次の人、来てくださいって言ってきて」

「……わかった」
 
 廊下に出て、扉を閉める。
 そこには悲しそうな顔をしたあけみっちが、ぽつんっと座っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...