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夏休み合宿編
疑惑
しおりを挟むふーっとバレないように息を出したのが功を奏したのか、ルーレットは『ひだりあし』を通り過ぎ『みぎて』、つまり帆乃花ちゃんのところで止まった。
よっしゃーと俺は心の中で叫んだ。
帆乃花ちゃんの部屋で単に寝るだけでなく、昨日の友巴ちゃんみたいにあんなことを……。
って、これって浮気?
昨日の友巴ちゃんの時とは異なり、今回は、帆乃花ちゃんと一緒に部屋に入った。もちろん、アレ入りの荷物を持って。
なんだか帆乃花ちゃんのいい香りがする。もちろんあけみっちが炊くあの香りではない。
少しそこで待っててと言われ、一人がけソファに座っていると、帆乃花ちゃんが飲み物を持って戻ってきた。
手に持っていたのはノンアルコールビールだ。それにおつまみのアーモンドも。
帆乃花ちゃんも一人がけソファに座る。俺のななめの位置だ。
二人で乾杯と言って、プシュッとプルタブを起こす。
「ふふ、何に乾杯かなぁ」
帆乃花ちゃんは、友巴ちゃんと比べると大人の雰囲気を持っている。特に今は普段のポニーテールではなく、髪をストレートにおろしているから余計にそう感じられた。
髪をかきあげノンアルコールを飲む横顔は可愛い、といより美しく見える。
「俺的にはルーレットで『みぎて』って出たのに乾杯」
「ははっ、ありがとう。私も、それに乾杯」
二人して、ぷふぁーっと、大げさに口にする。
「シュウゴくん。二十歳になったら、一緒にお酒飲もうね」
二十歳の帆乃花ちゃんか……。今よりもさらに綺麗になっているんだろうな。
「いいねぇ。その頃は大学生かな」
「そうだね。二人とも同じ大学だと最高なんだけど。シュウゴくん、どこの大学に行きたいの?」
正直、どこって決めてない。将来何になりたいか何てこの時点で本当にわかるのだろうか。小学生の頃は社長になるっていってたけど。
「うーん。まだここって決めているわけではないけど、京都の大学に行きたいな」
「え? そうなの? 私も京都に住みたかった」
「いいよね、京都。あの雰囲気の中で大学生活送りたい。だけど一人暮らしだとお金がかかるしな」
我が家は、大学費用に加え、俺の一人暮らし費用を出せるほど裕福ではない。
きっとアルバイト三昧になるだろう。
「もういっそう、私と同棲しちゃう? 家賃半分で済むよ」
なぬ? 帆乃花ちゃんと同棲? 毎日、一緒にお風呂とベッド?
「い、いいねえ。それを目標に勉強頑張れる」
実際、相当頑張らないと帆乃花ちゃんの学力に相応しい大学に俺はいけないだろう。
「私も頑張ろっと。あーあ、でも今日はもう寝るね」
え? もう寝るの?
ノンアルコールビールをまだ数口しか飲んでいないと思われるが。
帆乃花ちゃんは目をこすりながら、布団にもぐった。
「同棲した時の練習。シュウゴくんももう寝ようよ。こっちにおいで」
甘いトーンの帆乃花ちゃんの誘い。その誘いにすぐに乗り、ベッドの左側から入り込んだ。
ああ、帆乃花ちゃんのにおい。大好きだ。
「もう。このパーカー、寝づらい」
そう大げさに言い、帆乃花ちゃんがパーカーを脱ぐ。
「シュウゴくんも脱いだら」
そうだ、この言葉。肝試しの時に、小屋の中で、帆乃花ちゃんが言った言葉だ。
もはやあの頃が懐かしい。
布団の中で、帆乃花ちゃんが俺の右手をとり、自分の胸に手を置く。ノーブラなので、手のひらに乳房の突起が当たる。
「甘い香りもないし、あけみっちの不思議ドリンクもない。だけど、だから、すごいドキドキしてるのわかる?」
帆乃花ちゃんの胸の鼓動が伝わってくる。俺と同じくらい速い鼓動だ。
思わず抱きしめたいと横を向きかけた時だ。
帆乃花ちゃんが、上を向いていてと静かに、かつ素早く言ってくる。
「今日はここまで。私、昨日はすぐに熟睡しちゃったから気にしなかったけど、多分、この部屋、あけみっちに見られてる」
え? え??
「シュウゴくん、昨日、トモハちゃんとエッチしたでしょ。お風呂に入る時、あけみっちがサッチに話しているのが聞こえたの。シュウゴくんの行動はお見通しなんだって」
いや、それ本気で怖いんですけど。
「ミツハナにシュウゴくんを誘い込んだのも何か意図があってだと思う。もしかしたら私とかトモハちゃんも……」
だとして、あけみっちの目的はなんだ?
俺をハーレムにハマらせ、あけみっちの奴隷にする?
うー、恐ろしい。この部屋にもカメラが仕掛けられているのか……。
その夜は、帆乃花ちゃんと一緒に寝ているという現実よりも、あけみっちへの疑惑で、心静かに眠れなかった。
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