席替えから始まる学園天国

空ー馬(くーま)

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修学旅行編

第四話 新幹線の席

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 中部圏にあるこの高校の修学旅行は、長崎、福岡が行き先だ。

 一日目は長距離移動の後、長崎の原爆資料館やグラバー邸を集団行動で見学し、自由行動をはさみ船で離島へ行く。
 一日目はそこの大型リゾートホテルに泊まり、二日目にハウステンボス、三日目に太宰府天満宮などに立ち寄り帰途に着く。
 肝試しは一日目の離島で行われることになっている。

 六月の修学旅行本番までに決めておくことは山積みだ。

 まずは修学旅行委員を決める。その後、自由行動時の行き先、ホテルの部屋割り、二日目のクラスの出し物などを決めなければならない。
 問題となったのは、移動時の席だ。新幹線やバスでどのように席を割り振るか。
 くじ引き委員に続いて修学旅行委員となった佐原さん、須藤さんペアを中心に決められていった。どうやらあけみっちは、単発の委員は二人に任せるようだ。

 佐原さんいわく、自由に決めるとあぶれる人が出るからと、クラスの席を基準に割り振ることになった。
 修学旅行の移動時くらい、気の合う男子と座る方が良いかと思ったが、団体行動、自由行動は男子と動くため、まあ良いとしよう。

 新幹線は、三人がけと二人がけのため、ペアが分かれることもあるが機械的に席が割り振られた。
 36番目の席である俺は、当然5の倍数では、あまり1となる。

「ごめんね、梅谷くん。新幹線の席が一人になっちゃって。代ろうか?」

 授業が始まる前、佐原さんが手を合わせて謝ってきた。その仕草にドキリとする。

「あっ、でもあけみっちが隣か」

 担任が隣か……。まあ隣のクラスのいかつい体育教師と比べれば天国だ。

「気にしなくていいよ。寝とくから」

「ありがとう。英気を養っておいてね。バスは私と隣同士だからよろしくね」

 佐原さんはにっこりと笑い前を向いた。

 名古屋駅に各自集合した後、生徒、引率の担任、学年主任などの教師全員で新幹線で博多駅に向かう。
 その車内、隣に座るあけみっちが修学旅行の資料から目を離し、ふぅっと息を吐いた。

「先生も大変ですね」

 思わず口から出た。

「そうなのよね。旅行気分で良いねって妹に言われたけど、修学旅行にはハプニングがつきもの。時間に間に合わない、時間に来ない、迷子になる、怪我や病気になるとか心配したらキリがないんだけど、いざという時に引率者として対応しないといけないからね。ちゃんと資料に目を通しておかないと。昨日も寝るのが遅かったのよ」

「はあ。先生、寝てて良いですよ」

 二人とも無言では間が持たない。寝ていてくれた方がありがたい。

「そうもいかないの。大人は大変なのよ」

 そう言い、あけみっちは再び資料に目を向けた。

 大阪駅を出発し、ビル群を窓越しに見ていると、肩に体重がかかってきた。あけみっちの頭だ。資料を膝に広げたまま寝てしまったようだ。
 安心してもらっていると思ったら、男として気分は悪くない。

 起こさずそのままにし十分ほど経った時だ。斜め前の席に動きがあった。
 先生を起こす間も無く、女子生徒が先生の隣で止まった。

 顔を見ると森崎さんだった。表情は読み取れない。

 慌ててあけみっちの頭を戻したが、目を覚さない。

「これ、あげる。先生にもあげてね」

 静かに森崎さんはチョコレートを差し出し、無言で席に戻っていった。

 はあ……、変なところを見られてしまった。

 結局、あけみっちはその後もしばらく眠っていたが岡山あたりで目を覚ました。

「あ、ごめん。私寝てたわね」

「まあこれからが大変だから、多少眠れて良かったんじゃないですか」

 俺は全然良くなかったが。

「あら、梅谷くん、優しいわね。その優しさに応えて内緒のこと教えてあげる」

 そう言いあけみっちが顔を寄せてきた。フワッと漂う大人の香りに頭がクラッとする。

「実はさっきね、肝試しの夢を見たのよ。夢では好きな男子と手をつないだだけだったけど、現実ではもう少し進んだのよね」

 もう少し? ってどこまで?

「いい? 私がこんなこと言うのも何だけど、滅多にないチャンスをモノにするのができる男よ」

 あけみっちは俺が佐原さんを好きだと思って言っているのか。それとも単に、クラスのアイドルと二人っきりになる機会を逃すなと言っているのか。

 曖昧にうなずき、森崎さんからもらったチョコレートを口に入れる。手に持ったままだったため随分と柔らかくトロトロになっていた。

<次話:高速バスの席>
 隣に座った女子とちょっとしたハプニング発生!
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