席替えから始まる学園天国

空ー馬(くーま)

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修学旅行編

第二話 運命の女神様

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「まあ、続きは席が決まってからのお楽しみ」

 おい、あけみっち。最後まで言わんのか。

 高二の一学期の大きな行事といえば修学旅行しかない。それはわかった。それはわかったのだが、ペアでその……何だ??

「私が昨日の夜、汗水、涙とか流して『あみだクジ』と番号札を作ってきたから、みんな感謝して引くよーに」

 男子生徒からは「もっと早く準備しろよ」などと、女子生徒からは「汗水流して作ったクジやだ」などとツッコまれたあけみっちだが、「だよね」と笑って受け流す。
 このように日頃からからかわれているが、それは男女問わず生徒たちから慕われている証拠でもある。

「じゃあとりあえず、くじ引き委員を決めましょう」

 くじ引き委員? そんなもの必要か?

「私の一存で、佐原さんと須藤さん、お願いします」

「はーい」

 そろって返事をした二人は例のクラスのアイドル的存在の女子だ。

 『佐原帆乃花ほのか』は割と長身、おそらく百六十センチ超えですらっとしているが出ているところは出ている女子で、ポニーテールがよく似合っている。
 一方、『須藤さや香』は平均的身長で佐原さんと同じく、これまた出るところは出ている女子。どこかしら女性フェロモンが漂っているように思える。今の時期はブレザーを着用しているが、六月からのブラウス姿を想像し興奮する男子もいるようだ。
 二人ともそんじょそこらのアイドルの何十倍も可愛い。その上、性格は明るく、高飛車なところやねたところもない。
 佐原さんが高嶺の花、須藤さんはひまわりのような存在だ。完璧と言えるこの二人だが、やはり俺には森崎さんがドンピシャなのだ。彼女を花に例えるなら、形、色、におい、手触りまでもが俺の好みの名もなき可憐な花一輪だろう。

 佐原さんと須藤さんがあけみっちと何やら話をし、佐原さんが教壇に立った。

「何かと名簿番号順、つまり男子の前からだから、今回は女子の後ろからのくじ引きにします。あみだくじなので、順番に好きな場所に名前を書いてください」

 佐原さんの説明の間に須藤さんが座席表を黒板に貼った。
 今と同じで縦六席、横六席だ。窓側前列の一番から後方に下がり六番、また前列に戻り七番から十二番といった感じで、廊下側後列の三十六番まで番号が振られている。
 
 二年A組は文系クラスのため男子十五人に対し女子は二十一人。男子同士が隣り合う確率は高くはないのが幸いだ。だが、隣が女子なら誰でも良いわけではない。場合によっては隣が男子である方が気が楽かもしれない。

 くじ引きが始まった。俺の今の席は窓側中程のため、体を少し右に振れば教室全体を見渡せる。男子、女子関係なく幾人かはくじ引きに戦々恐々としている様子だ。しばらくの間、隣で勉強をすることになるというだけでなく、修学旅行の謎のお楽しみがその理由かもしれない。

 たぶん俺が隣になっても嫌がる女子はいない。あまりにも普通、人畜無害だからだ。俺の隣になった女子がひとこと言うとしたら、「ま、いいか」だと思う。

 森崎さんの様子をうかがうと、いつになく神妙な表情をしている。

 彼女は名簿では後ろから二番目のため、すぐに番が回ってきた。
 俺は教壇に向かう彼女の後ろ姿を目で追う。
 名前を書き、くるっと振り返った顔はやはり可愛いく、胸が締め付けられる。彼女が書いた場所はいったいどの席なのだろう。

 席に戻る途中、森崎さんがチラリとこちらを向いた。海の見える窓側の席は人気があるため、森崎さんも窓側を希望しているのだろう。

 頭の中で『学園天国』がぐるぐると流れている間に、記名するのは残り五人、つまり俺の番となった。
 このクラスで一番の美人の隣……、つまり佐原さんもいいけど、欲を言えば、森崎さんの隣でありますように。そう心の中で願い名前を書いた。
 顔を上げると、クラスで一番の美人と目があった。心を見透かされているようで、少しドキリとする。

 最後の男子が席に戻ると、須藤さん、佐原さんの順に名前を書き込んだ。

「これで全員が名前を書き終えたので、今から結果を見ます。番号札を先生がくれるので、その番号が今回の席になります」

 須藤さんがそう言い、あけみっち、佐原さんと合流した。「あみだくじー、あみだくじー」と楽しそうに佐原さんと須藤さんが歌っている。三人の背で紙は全く見えない。俺と森崎さんの番号は何番だろう。

「はーい。じゃあ今から順に番号札を渡すからそのまま席にいてね」

 結果が出たようだ。あけみっちは、その結果を見つつ男子の先頭からどんどんと番号札を渡していく。

「はい。梅谷くんはこの番号」

 番号札をそっと見ると、『36』と書かれていた。『36』は一番最後の数字。つまり廊下側の一番後ろだ。
 授業中にぼんやりと窓の外に広がる海を見るのが好きだったため、この席から移動するのは残念だが、仕方がない。

 最後に佐原さん、須藤さんに番号札を渡し、あけみっちは教壇に立った。

「佐原さん、須藤さん、ありがとう。ではみんな、さっそく席を移動して」

 ガヤガヤと皆が席を立ち、椅子を机に乗せ持ち上げる。
 廊下側ヘ移動する間、森崎さんをチラッ、チラッと見たが移動する気配がない。
 不思議に思いつつも、森崎さんの後ろに机を置いた。

「あれ、森崎さん移動しないの?」

 森崎さんの隣に移動してきた女子が聞いた。須藤さんだ。

「うん。35番だからここ。移動しなくていいから楽チン」

「良かった。変な男子じゃなくて。むしろ森崎さんでラッキー」

 クラス内で目立つ女子たちと地味な女子たちにそれぞれ派閥があるわけでも、スクールカーストがあるわけでもなく女子同士の仲は良い。
 二人の会話を後ろで聞いていると、ガタっと机を下ろす音が左耳に入ってきた。

「一番後ろでラッキー、ラッキー」

 俺は視線を森崎さんから左に移した。目に入ってきたのは、このクラスで一番の美人でアイドル、佐原さんの笑顔だ。

「良かった。変な男子じゃなくて」

 佐原さんは俺に向かって、ではなく彼女の友人、須藤さんに向けて言った。

「ちょっとぉ。それ私のセリフ、パクったでしょ」

「えっ? ダメだった?」

「いいけどさ。それって、なんて言うか、消極的な言い方じゃん。続きないの?」

 続きとは? 須藤さんは何を言っているのだろうか。

「ない。まあとりあえず、サッチの後ろだし、ちょっかいかけられておもしろそう」

「ちょっとぉ。後ろから何する気?」

「うーん。ブラのホック外すとか」

 おいおい、なんて会話をしてるんだ。ここは女子校か。って女子高の実態、知らないけど。

 森崎さんは前を向いたままだが、この会話は耳に入っているはずだ。そんな森崎さんのブラウス姿を想像し、ふと考える。

 ブラのホックってどう外すんだ?

「ねえ、梅谷くん。変なこと考えてない?」

 佐原さんがストレートに聞いてきたが、軽蔑という感じではなく、にこりと笑っている。

「やだ。梅谷くん、ホノカと一緒に私のブラホック外す気?」

「おっ。いいね、それ。梅谷くん、一緒にサッチの外してみる?」

「しない、しない」

 手振りもあわせて、あわてて否定したが、顔が熱っているのが自分でもよくわかる。クラスのアイドル二人の少々エッチな会話だ。普通男子の俺がそうなるのも無理はない。

 席替え直後でクラス全体が騒がしいのが幸いし、俺たち三人の会話は誰の耳にも入っていないだろう。目の前の森崎さんを除いて……。

 森崎さん、俺はそんなことしないですよ。

 今後しばらく騒がしくなりそうだが、おそらく、いや確実に俺は席替えの勝ち組だ。こんなハーレム状態は二度とないだろう。運命の女神様、ありがとう。

「みんな移動したわね。ではさっきの続きを発表します」

 <次話:ペアですること>
 クラスのアイドル佐原さんと修学旅行ですることとは……
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