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エピソード4・思わぬ再会

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 __あの日から、ルビアがサフィーに会いに行くことはなくなった。彼女のことを忘れようとするように、より一層、良い皇女になるための勉強や稽古に打ち込むようになったのだ。

“勉強が終わった後、この国の王子と結婚し、サフィーへの未練を完全に断ち切る”

 そういった想いの他に、ルビアはもうひとつ、

“自分のことだけではなく、他人の幸せを願うことが出来る人間になりたい”

 という決意を、胸に抱いていた。

 それから一ヶ月が経ち、ルビアは父親から命じられた通り、皇族の者として相応しい、上品で賢い娘へと変わった。以前城の者から後ろ指を指されていたじゃじゃ馬娘とは、まるで別人のようになっていた。

「そろそろ、城に帰っても良い頃でしょう」

 お抱えの教師がそう言うと、早速隣の自国の皇帝に、“姫様が見違えるほどに成長なされました三日後、姫様と共に帰国致します”というような内容を通告した。

 その通告の内容通り、ルビアは一度、自分の国へ帰国した。
 謁見の間にて、皇帝が二ヶ月ぶりに末娘と対面した時、やはり変わった、と彼は実感した。
 皇帝の目に映っていたのは、知性と気品、そして儚さを持った淑女であった。

「お前はもう、皇族の血を引くものとして、どこへ出しても恥ずかしくない娘となった。その成長、父として心から祝福するぞ、ルビア……」

「……ありがとうございます。お父様」

 娘の成長を喜んだ皇帝は、早速ルビアと隣国の王子の縁談を進めることを決めた。

 それから三日後、ルビアは皇帝と共に、再び隣国へ足を運んだ。隣国の王子やその親である国王、王妃を交えて、本格的に縁談の話をまとめるためだ。

(これで、ようやくサフィーを忘れることができる……)

 ルビアは、心の底から安堵していた。だが……。
 隣国の城の謁見の間で、王子の顔を見た時、ルビアは凍りついた。何故なら、その男は__。

「貴女は……!」

 __あの日、浜辺でサフィーに助けられ、サフィーと一緒に楽しそうに笑いあっていた男だったからだ。



「まさか、このような場で貴女と再会できるとは、思いもしませんでした」

「……えぇ、私もです」

 縁談の話が滞りなく進み、皇帝や隣国の王族たちと共に食事を済ませた後、ルビアは王子の部屋で、共にワインを飲みつつ、雑談を交わしていた。
 けれど、楽しそうな笑顔を見せる王子とは対照的に、ルビアの表情は曇っていた。
 王子の顔を見てから、ルビアの脳内は、ある疑問に支配されてしまっていた。

“彼はサフィーと結婚するのではなかったのか?”

 そもそも、ルビアとの縁談の話は、前々から決まっていたこと。王子自身も、そのことをわかっていたはずだ。
 なのに……。

『お世話になってる彼が、プロポーズをしてくれたの。といっても、彼は特殊な事情があって、正式な婚約や結婚は先になりそうだけど……。せめて言葉だけでも伝えたかったんですって』

(……どうして、サフィーはあんなことを?)

「……ルビア皇女?」

「……!」

 心配そうにこちらを見る王子に、ルビアはハッ、と我に返る。

「……顔色が優れないようですが、具合でも悪いのですか?」

「……いいえ、ご心配をおかけしてごめんなさい」

 ルビアはそう言って、何事も無かったかのようにワインを一口飲んだ。けれど、ワインによる甘い酔いでも、胸に渦巻く疑惑を晴らすことはできない。

(……聞くのは怖いけれど……それでも、聞かざるを得ない……)

 そう思ったルビアは、とうとう口にしてしまった。

「……他に、婚約者がいたのでは……?」
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