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エピソード1・ワガママ姫の一目惚れ
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「皇女ルビアはじゃじゃ馬姫だ」
使用人の皆は口を揃えてそう言う。
ルビアは七人兄妹の末の娘で、この国の第四皇女にあたるのだが、良く言えば自分に正直、悪く言えばワガママな娘であった。
例えば、料理に苦手な物があれば食べたくない、勉強や稽古をやらせようとすればやりたくない、欲しいドレスがあれば欲しい、と自分の望みを包み隠さず口にしていた。
そんな振る舞いを続けていた為か、ルビアはお淑やかな姉たちや冷静な兄たちとは違う、異質な存在として城の中で孤立していった。
そしてある日、父である皇帝からこう告げられた。
「お前は皇族の血を続く者としてあまりにも品性がなさ過ぎる。しばらく隣国へ勉強をしてくるといい。お前が姫としての知識と品性を身につけたら、そのまま隣国の王子との縁談を進めよう」
こうして、ルビアは隣国にある浜辺近くの宿で、贅沢三昧だった城での日々とはかけ離れた生活を送る羽目になった。
ルビアは納得がいかなかった。窮屈な場所で勉強を強いられたことはもちろん、決められた相手と結婚しなければならないこともだ。隣国の王子については噂話で聞いたことのある程度の認識だ。急に縁談だなんて簡単に受けいられるわけがない。
(皇族の娘として生まれたからって、どうしてあたしは自由に生きちゃダメなの?あたしは皇女以前に女の子だもん。窮屈な稽古よりも甘いお菓子を欲しがって何が悪いの?自分の好きな人に恋をするのはいけないことなの?)
不満を心に募らせながら隣国での勉強漬けの日々は過ぎ去っていく。
そんな中ある朝ルビアは、空気を吸うついでに散歩をしようと浜辺へ足を運んだ。昨晩は嵐が吹き荒れていたために、心配で眠ることが出来なかった。少しでも気分転換をしたかったのだ。
(気持ちのいい空気ね。昨日の嵐が嘘みたい……)
爽やかな風が頬に流れるのを感じて、思わず笑みを零しながら歩いていたその時、ルビアは足を止めた。
遠目に何かが倒れているのが見えたからだ。その正体を確かめようと、ルビアは歩みを進める。
物体の正体がわかるほどの距離についた時、ルビアは思わず悲鳴をあげそうになった。それは物ではなく、若い男の姿だったのだ。
ルビアはすぐさまに男の安否を確かめるために駆け寄ろうとした……が、一歩踏み出した時、男の傍に何かがいるのが見えた。
「……!!」
ルビアは目を見張った。なぜなら、後光が指すほどに美しい娘が、岩に座って男を見下ろす姿が見えたからだ。
まるで太陽に照らされた海の水面をそのまま切り取ったような、綺麗な青い長髪。
真珠のような美しい瞳。
絹のようなきめ細やかな肌。
男を心配そうに見つめるその表情でさえ、儚くも美しく見えた。
けれど、彼女がただの美少女ではないことはすぐにわかった。何故なら、身体の腰から下が、まるで魚のようになっていたからだ。
ルビアは息を飲んだ。
(きっと彼女は、昔おとぎ話で見た人魚ね。なんて神秘的で美しいの……)
トクン、と胸が高鳴る。もう少しあの美しい人魚に見蕩れて居たかったが、流石に倒れている男をそのままにはしておけない。ルビアは男に近づこうと駆け出した。その時。
「……!」
ルビアが近づく足音に気づいた人魚は、ハッ、と顔をあげれば、そのまま逃げるように海の中へ飛び込んでしまった。
まって!!と声を上げて引き止めたかった。しかし、ルビアが声を出す前に、人魚の姿は波に攫われたように見えなくなってしまった。
その後、ルビアは倒れている男を自分の住んでいる小屋まで連れていき、自身のお抱え教師と共に介抱した。
冷えきった身体にぬくもりが戻ってきた頃、男は目を覚ました。そして、まだぼんやりとした表情でルビアを見つめながらこう言った。
「……あなたが助けてくれたのですか?」
ルビアはそれに対し、微笑みを浮かべながら首を横に振る。
「あなたの命を救ったのは、とても美しい人魚です」
使用人の皆は口を揃えてそう言う。
ルビアは七人兄妹の末の娘で、この国の第四皇女にあたるのだが、良く言えば自分に正直、悪く言えばワガママな娘であった。
例えば、料理に苦手な物があれば食べたくない、勉強や稽古をやらせようとすればやりたくない、欲しいドレスがあれば欲しい、と自分の望みを包み隠さず口にしていた。
そんな振る舞いを続けていた為か、ルビアはお淑やかな姉たちや冷静な兄たちとは違う、異質な存在として城の中で孤立していった。
そしてある日、父である皇帝からこう告げられた。
「お前は皇族の血を続く者としてあまりにも品性がなさ過ぎる。しばらく隣国へ勉強をしてくるといい。お前が姫としての知識と品性を身につけたら、そのまま隣国の王子との縁談を進めよう」
こうして、ルビアは隣国にある浜辺近くの宿で、贅沢三昧だった城での日々とはかけ離れた生活を送る羽目になった。
ルビアは納得がいかなかった。窮屈な場所で勉強を強いられたことはもちろん、決められた相手と結婚しなければならないこともだ。隣国の王子については噂話で聞いたことのある程度の認識だ。急に縁談だなんて簡単に受けいられるわけがない。
(皇族の娘として生まれたからって、どうしてあたしは自由に生きちゃダメなの?あたしは皇女以前に女の子だもん。窮屈な稽古よりも甘いお菓子を欲しがって何が悪いの?自分の好きな人に恋をするのはいけないことなの?)
不満を心に募らせながら隣国での勉強漬けの日々は過ぎ去っていく。
そんな中ある朝ルビアは、空気を吸うついでに散歩をしようと浜辺へ足を運んだ。昨晩は嵐が吹き荒れていたために、心配で眠ることが出来なかった。少しでも気分転換をしたかったのだ。
(気持ちのいい空気ね。昨日の嵐が嘘みたい……)
爽やかな風が頬に流れるのを感じて、思わず笑みを零しながら歩いていたその時、ルビアは足を止めた。
遠目に何かが倒れているのが見えたからだ。その正体を確かめようと、ルビアは歩みを進める。
物体の正体がわかるほどの距離についた時、ルビアは思わず悲鳴をあげそうになった。それは物ではなく、若い男の姿だったのだ。
ルビアはすぐさまに男の安否を確かめるために駆け寄ろうとした……が、一歩踏み出した時、男の傍に何かがいるのが見えた。
「……!!」
ルビアは目を見張った。なぜなら、後光が指すほどに美しい娘が、岩に座って男を見下ろす姿が見えたからだ。
まるで太陽に照らされた海の水面をそのまま切り取ったような、綺麗な青い長髪。
真珠のような美しい瞳。
絹のようなきめ細やかな肌。
男を心配そうに見つめるその表情でさえ、儚くも美しく見えた。
けれど、彼女がただの美少女ではないことはすぐにわかった。何故なら、身体の腰から下が、まるで魚のようになっていたからだ。
ルビアは息を飲んだ。
(きっと彼女は、昔おとぎ話で見た人魚ね。なんて神秘的で美しいの……)
トクン、と胸が高鳴る。もう少しあの美しい人魚に見蕩れて居たかったが、流石に倒れている男をそのままにはしておけない。ルビアは男に近づこうと駆け出した。その時。
「……!」
ルビアが近づく足音に気づいた人魚は、ハッ、と顔をあげれば、そのまま逃げるように海の中へ飛び込んでしまった。
まって!!と声を上げて引き止めたかった。しかし、ルビアが声を出す前に、人魚の姿は波に攫われたように見えなくなってしまった。
その後、ルビアは倒れている男を自分の住んでいる小屋まで連れていき、自身のお抱え教師と共に介抱した。
冷えきった身体にぬくもりが戻ってきた頃、男は目を覚ました。そして、まだぼんやりとした表情でルビアを見つめながらこう言った。
「……あなたが助けてくれたのですか?」
ルビアはそれに対し、微笑みを浮かべながら首を横に振る。
「あなたの命を救ったのは、とても美しい人魚です」
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