上 下
1 / 4

最強ノ戦士、死ス!?

しおりを挟む
 その急報は伝令兵によってもたらされた。

『…ザ…う報!! ザザッ…急…う!! ザザッ…パンッ…マ…ザッ…ロ伍長…パンッ…死に…ザザッ…すっ!!』

 BGMに発砲音が鳴り響く、雑音ノイズ混じりの無線が緊急事態を告げる。

「……っんの、馬鹿がっ」
 
 硝煙の臭いも遠い場所で、そう吐き捨てて白衣を脱いだ茶髪の男は愛用のライフルを手に外へ飛び出す。一連のやりとりを聞いていた待機中の兵士達は、それぞれに武器を手にして彼の後に続いた。

 通信室の通信兵が気を回して、下に車を一台用意させるように指示する。
 下に降りた男たちは、勝手知ったる様子で回されていた車の荷台に飛び乗った。

 銃撃戦の音が実際に聞こえ始めた頃、車を停めさせ徒歩で移動する。音の方向から銃撃戦が繰り広げられている位置を割り出し、見える場所を探した。

 高所から見おろせば、そこはすぐに見つかった。

「マホロ伍長は相変わらず化物っすね。ハルク中尉」
「ただの馬鹿だ」

 部下の無駄口へ冷淡に切り返すと、車上で準備を終えていたライフルのスコープを覗き込んだ茶髪の男は照準を合わせた相手へ躊躇いなく引金を引いた。




「いやー、助かりましたぁ。敵の偵察に行ったら、敵の部隊に見つかっちゃいまして。こっち3人だったでしょう? 銃撃戦が始まって逃げるのも難しいし困っちゃいました。敵兵撃退してくれて、ありがとうございます。ハルク中尉」

 体に埋まった銃弾を摘出されながら、へらへらと笑って話している相手に、ハルク中尉と呼ばれた茶髪で白衣を血に染めている男が冷たい声で返す。

「マホロ伍長。そのとりあえず取り繕ったような言い方をやめろ」
「えー。だって、僕が伍長でハルクが中尉なら、ハルクが上官でしょう? 昨日は上の人が来て、僕の態度を改めろって言われたから」
「出来んことをするな、阿呆が。お前がさっきの言葉遣いを上官に対するものとして正しいと思っているなら、一兵卒からやり直せ」
「伍長って、一兵卒とあんまり変わんないよぉ」

 カシャン、と金属製のトレイに音を立てて、最後の銃弾が摘出された。合計13個だった。
 頭部、心臓、内臓などの重要な部分は自軍の技術力を結集して作り上げた防弾服やヘルメットをしていたので問題はないが13発もの弾をくらいながら平然としているマホロに、ハルクは無事だったその頭を叩きたくなった。

 医者として怪我人にそんな真似はしたくても出来ないが。

「縫合も完了。おい、輸血!」
「ええー、やだよー。血は怖いよー」
「こんだけ盛大に血を流しといて、何言ってんだ?」

 マホロも自分の血で血塗れなら、手術していたハルクもマホロの血で血塗れだ。
 さらに言うなら、マホロの救助のために敵兵を狙撃した時に盛大に血は流れていたし、マホロが敵兵を殺すときには返り血を浴びるのも珍しくない。

「見てるのはいいけど、体に入って来るんだよー? 怖いよ」

 子供のようなことを言うマホロに、ハルクの堪忍袋の緒がギチギチと音を立てる。それでも相手は怪我人だと自分を制して、

「……死にてぇのか、テメェ」

 と、個人的には穏当な対応を行った。
 しかし、マホロは、 

「平気だって。死なないよー」
「今、目の前で死にかけといて何言ってやがる!?」

 血圧・体温ともに低下。顔色は真っ青で、医者に毛が生えた程度の無能な藪医者ならすでに今夜が峠だと宣告している状態だ。
 怒鳴り声が続くかと思うタイミングで、

「輸血の準備が出来ました。刺しますね」

 注射が上手なハルクの部下がささっとマホロの左腕をとり、輸血用の針をブスリと刺した。

「ああー、注射怖いよー。血が入ってくるのも怖いよー。気持ち悪いよー」
「はいはい。マホロ伍長が怖いとおっしゃっていても、始まりましたからね。気分は悪くないですか?」
「平気だよー」
「それは何よりです」

 気の抜けたやりとりに気勢が逸れたハルクは、マホロを部下に任せ、カルテを書くために処置室に隣接する医務室へ向かう。
 マホロと同じ任務に当たっていた2人の兵士の治療を任せた部下達も、処置を終わらせて医務室でカルテを書いているようだった。

「オレが治療に当たった伝令兵、脇腹に一発銃弾食らってましたけど、内臓までは傷ついてませんでした。今は高熱が出ていますけど、5日もすればだいぶ回復するかと思います」
「私が治療に当たった兵士は、足を3カ所打たれて左足の膝から下の骨が粉砕されてます。切断まではしませんでしたが、壊死するようなら切断も考えています。少なくとも、あの足では回復しても足手まといにしかなりません。傷病兵として帰還させるしかありませんね」

 ハルクがカルテを書いている最中に部下が書き上がったカルテを持って来て、部下達が負傷兵の状態を説明する。
 脇腹を負傷した伝令兵をしばらくの間は後方作業に移すよう伝令部隊の隊長に進言し、足を負傷した兵士には傷病兵として帰還を認める決裁を行う。

「マホロ伍長、相変わらず不死身ですね。13発の銃弾なんて、普通なら死んでいてもおかしくないのに……。しかも、痛みで暴れるどころか平然と会話まで」
「生身で引っこ抜いた大木を武器に他の木々を敵兵ごと薙ぎ倒すなんて人間が出来ることとは思えませんよ」
「援護射撃している間に手足に13発食らった状態で、意識のない2人を抱えてスゴイ速さで遁走したって聞きました」
「マホロ伍長って、本当に人間なんでしょうか? ハルク中尉と同郷とのことですけど……」
「実は軍が作った人造人間とか言われても、驚かないよね」
 
 勝手にカルテを盗み見ている部下達を睨んで黙らせた後、

「あれは、昔からただの筋肉馬鹿だ。人間の能力値を超える馬鹿だとは認めるが、軍が作ったにしては馬鹿すぎてお粗末な馬鹿だよ」

 とハルクは吐き捨てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

黒き魔女の世界線旅行

天羽 尤
ファンタジー
少女と執事の男が交通事故に遭い、意識不明に。 しかし、この交通事故には裏があって… 現代世界に戻れなくなってしまった二人がパラレルワールドを渡り、現代世界へ戻るために右往左往する物語。 BLNLもあります。 主人公はポンコツ系チート少女ですが、性格に難ありです。 登場人物は随時更新しますのでネタバレ注意です。 ただいま第1章執筆中。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

怖がりの少年

火吹き石
ファンタジー
・ある村の少年組の、ささやかな日常の話

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...