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宵の明星
五夜
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その日の朝、目覚めた時から予感はあった。
例えば目覚めた時にいないアルの姿。一人でとった食事。この部屋を守る衛士の人たちの多さに何かが起こっていると感じていた。そしてそれは宮殿に現れた神殿の人たちによって現実のものと知る。
「こちらでしょうか」
そういって突然現れた白い髭を蓄えた神官は召喚された神殿で見た記憶がある。
「王族の私室に踏み込むとは無礼にも程があるぞっ」
アルが踏み込んでくる人たちを押しとどめてくれていた。
それだけで私がいないところで私を守るために何が起こっていたのかを知った。彼が朝からいなかったのは”皇子である彼"しか抑えられない人間ということだろう。そして神殿の人間は私を見つけるや否や嗤った。
「おやぁ可笑しいですな。臥せっている筈の神子殿はどうやらお元気のご様子。」
「マコは無理をしすぎるからな。昨日は臥せっていた」
たしかにアルは嘘をついていない。私は昨日、抱かれすぎて臥せっていた。でもそれをさも体調が悪かったかのように言い切る彼に恥ずかしさがつのる。
けれど神官たちは、それには気づかず鼻をならすと再び口を開いた。
「いかにアルスラーン殿下であろうと正式な手続きをもって進められている神子審議官を蔑ろにすれば罪に問われますぞ。」
そして傲岸に告げる神官にアルは怒りで目を細める。
「その程度の脅しを恐れる俺であると思うな」
「アルやめて」
アルが窮地に追いやられるのが不安で伸ばした私の手を、彼は安心させるように握ってくれる。
「マコ・・・しかし。」
「わたしに用事があるというのなら、お伺いします。」
悪意に歪む顔を前に勇気をもって告げる。大丈夫、このつなぐ手があれば大丈夫。
けれどアルは私の言葉を遮るように抱きしめて、二人にしか聞こえない声で囁く。
「いけない。マコが神子審議でツラい思いをするのが目に見えている。今からでも俺が何とかする。」
この腕の中で抱きしめられて、守られているのは安心する。でも私だってアルを守りたい。私のために一人立つ彼を支えたい。
「いいえ。私も私自身のことが知りたいの。大丈夫。だって帰ってくる場所はもうあるもの。」
そして彼の背に手を回せば、彼は一瞬、ツラさに耐えるような表情を浮かべると応えるように抱きしめてくれた。
そして再びの嵐は私たちの朝からの平穏を吹き荒らしていったのだ。
◇
「神子審議はまずは我が国でもっとも重要な水を扱えるか否かを確かめさせていただきます。」
そして連れてこられた場所は第三皇子であるアルスラーンの宮殿から出て、私が初めに召喚された神殿の中に位置する建物のようだった。青いアラベスク模様で装飾が施されたその部屋は皇子であるアルの部屋などと比べるとこじんまりとしているが、そこには中央に大きな水鏡があった。静謐な水を湛えた水瓶は重要度をあらわすように美しい装飾が施され、大の大人が手をつないでも優に超えるであろう4m程の直径だ。
それを指して神官は言った。
「真に水の神子なら、ただ願うだけで水は応えます。この水鏡から少し水を浮かせるだけで良いです。」
水を浮かせるなんて、そんな重力に反したこと出来るんだろうか。とりあえず私はそれらしく手を水瓶に掲げてみせる。
(お願いっ、浮いてっ少しでいいからっ)
けれど水は動かず波紋すら描かない。
「動かないね」
するとそんな私に向かってかかる声があった。ハッと振り返るとあの亜麻色の髪の神子が丁度こちらへやってくるところだった。
「でも良かった貴方が水の神子じゃなくて。むしろそうだったら困っちゃう」
「どうして?」
私が水の神子だと困るんだろうという顔をして視線を向ければ彼女は目を細めて笑った。けれど彼女の笑い方に何故かゾッとする。目の奥が全く笑っていない。
「この神子審議は貴女に来て貰うためのものだから」
「どういうこと」
んっと唇に指をあてて彼女は少し考えるそぶりをしたが、すぐにその指をピッとドアの方へ向けて言った。
「神官のみなさんちょっと席を外してください。私はこの人とお話があるから」
「神子様がそうおっしゃるなら」
そう言いながら白髭の神官たちがあっさりと出ていき、人払いがすむ。私と彼女以外誰もいなくなると私は口を開いた。
「話って何ですか」
「ん~まずは自己紹介ね!私は薫子。木下薫子。なんでかいい匂いがするみたいだから名前にぴったりってよく言われるの。それで貴女は?」
と言ってくすくすと彼女が笑う。きっと私になんの力も出てないことは彼女の耳にも届いているんだろう。
「神崎真子。力は特にないわ」
「そう?まぁ知ってたけどね。」
そして響く哄笑はとても嘲りに満ちていた。けれどそんなことなど気にもせず神子は続ける。
「あとさっき水の神子じゃなくて良かったって言ったのは単純よ。貴方が私より凄い力持っていたら・・・イヤじゃない。」
その視線は氷のように冷たい。
砂漠の国において水の貴重さから神子が重宝されるのは分かる。けれど、水の神子ならこの国の人達が助かると分かりながら“水の神子じゃなくて良かった”と言える彼女の歪さに声もでない。
「大変な思いをして神子をよんだのに、何の力もないんじゃこの国の人たち可哀想ね」
きっとここで私が家族が引き離されてこの国にいることを語っても、この子には通じないだろう。だから私は口を閉ざした。だってこれは国家による拉致・・・犯罪と変わらないのだから。
「それでどうして私と話なんか」
けれど次の瞬間ゾッとするようなことを彼女は言った。
「だって何も言わずに皇子様がいなくなるって可哀想かなって私なりに思ったから」
血の気が失せる。彼女のいう皇子様が誰を指すかなんて言われなくても分かってしまうから。胸が早鐘のように打つ。
「・・・アルに何をしたの」
神子が首をかしげて笑う。
「まだ何も?ねぇ私にあの第三皇子さま頂戴?」
意味がよく分からなかった。
「頂戴ってなに?アルは物じゃない」
「まあね?それはね。」
薫子は部屋の端まで歩いたかと思うと、くるりっと振り返ってわらった。
「私とあの皇子(アルスラーン)様が結婚して、幸せに暮らしました。それって素敵でしょ?」
でも彼が今まで与えてくれたものが私を強くする。彼がこちらの世界で“ひとりぽっち”の私を見つけて、支えてくれた。
「彼は私を愛してくれたわ」
『俺はマコのものだ』と過去・現在・未来の愛を誓って、贈ってくれた夜待鳥の羽根が私の胸に在り、指には彼がくれたルビーの指輪が輝く。アルスラーンは私にただただ愛を与えてくれた。
彼に自分の全部を愛されて幸せだった。
だから凛と顔を上げて、もう一人の神子を見つめた私にギュッと亜麻色の髪の神子は眉を寄せ、叫んだ。
「そんなのおかしいわ!貴方ばっかりズルいじゃないっあんな素敵な人に守られてっ」
何を言っているんだろう。守られて味方をけしかけているのは貴方の方なのにと思う暇は無かった。突然、彼女は近くにあった吊り下げられたランプを外してこちらに投げたのだ。
ガチャーーーンッと甲高い音と共に蝋燭と炎が床に垂れる。
「きゃあああああああっ」
つんざくような悲鳴。すぐにそれに反応して神官達や兵士達が現れて彼女の企みを知ったけれど、もう遅い、嵌められた。
「この人が私の事を妬ましいって急にランプを倒してきたのっ!!!」
泣く神子に兵士達が私に向けて殺気立つのが分かった。
「神子に対しなんということを!!」
「違うっ私は何もしてないわ!!」
誰も私の声を聴いてくれる人がいない。アルならきっと信じてくれたのに彼は今ここにいない。でも諦めきれなくてなお言葉を重ねた。
「ランプは私の方に倒れてるでしょ?私が倒したら彼女の方へ落ちているはずじゃないっ彼女が自分でやったのよ!」
一瞬、静まり返る。それに話を聞いてくれたのだと思ったのに、
「神子様の言葉を虚偽と申すかっ」
一気に距離をつめた兵士に平手で殴られた。それでも、あまりの衝撃で倒れる私の髪を今度は容赦なく掴んで引きずり上げる。
「やめてっ離してっ」
苦痛の声を上げる私の手をそして冷たい手枷が繋いだ。
「アルッ」
助けを求める私の背を今度は神子が蹴り上げる。
「もうあの人のこと呼ばないでっ!・・・さぁ貴方たちお願いね?もうこの人が皇子様の前に立てないように穢しつくしてね。」
「カオルコさまのお達しとあれば、女囚人専用の重罪牢へと放り込みます」
無理矢理、手枷を持って引っ立てられる。でも歩くのも抵抗した私に兵士達の手が伸びて抱き上げられ運ばされた。
ここは寒い、怖いよアル。
◇
アルスラーンは神殿の待合室で、神子審議が終わるのを待っていた。時間が過ぎるのが異様に長く感じる。そんな中、「失礼します」と声をかけられて、彼が顔をあげると扉の代わりをしている紗幕の後ろに亜麻色の髪の神子・カオルコが佇んでた。
やたら着飾ってはいるが眼中には無い上に、待っていた存在ではないから顔を背けてしまうアルスラーンにだがカオルコは気にせずアルスラーンの側まで来ると彼の袖を引いて絨毯の上に用意された豪奢なチャイセットを指し示す。
「あの人も、もうすぐで来ますよ。飲まないんですか勿体ない」
「・・・」
毒を警戒して出されたものを念のため口を付けないでいたが、出されたものに手をつけないのはアルスラーンの価値観に反した。たとえ気に食わない場所であろうと食べ物に罪は無い。だからこそもうすぐマコも来るからと冷えていたチャイグラスを手に取り、アルスラーンは中身を一気に煽る。
こくりっと彼の咽喉が動くのをカオルコはじっと見つめて、そして次の瞬間、ガシャンッと彼の手からコップが落ちるのを見て彼女は本当に嬉しそうに笑った。
「・・・なにを盛ったっ」
「媚薬。あと痺れ薬と麻薬?ですって」
頭を苦し気に抑えるアルスラーンの肩に神子はツゥッと蛇の様に白い腕を伸ばし絡める。
「もうわたしが欲しいでしょ?」
カオルコはそして豊満な胸をわざとアルスラーンに押し付けた。
「俺はお前などっ」
その先の言葉を、彼女はアルスラーンに口付けを仕掛けることで封じる。
「くっ」
女の肉感がアルスラーンの力の入らない体に纏わりつき、媚薬と痺れ薬と麻薬に犯された体では耐えきれず後ろの絨毯とソファに倒れる。そのアルスラーンの上にカオルコが覆いかぶさった。
そして、アルスラーンが口づけを咄嗟に防いだ手をクチュリッと水音を響かせながら彼女は舐めて、銀糸がアルスラーンの手からカオルコの口に淫らに伸びる。
「フフッ、ねぇ無理しないで欲しいでしょ?」
チュッとアルスラーンの手に口付け、神子は淫蕩に嗤い、その手をアルスラーンの下肢に伸ばす。
「貴様っ」
シュルッとアルスラーンの帯がほどかれる。
「諫めてくれるのは貴方だけだった。初めてだった。だから私を抱いて?そうしたら神官達が証人になってくれて直ぐに結婚できるから」
女の唇が囁きながら、なおも身を寄せて、アルスラーンの耳を食んで彼は「くぅ」と呻いた。そしてゆっくりと淫蕩の紗幕が二人におちてくる。
例えば目覚めた時にいないアルの姿。一人でとった食事。この部屋を守る衛士の人たちの多さに何かが起こっていると感じていた。そしてそれは宮殿に現れた神殿の人たちによって現実のものと知る。
「こちらでしょうか」
そういって突然現れた白い髭を蓄えた神官は召喚された神殿で見た記憶がある。
「王族の私室に踏み込むとは無礼にも程があるぞっ」
アルが踏み込んでくる人たちを押しとどめてくれていた。
それだけで私がいないところで私を守るために何が起こっていたのかを知った。彼が朝からいなかったのは”皇子である彼"しか抑えられない人間ということだろう。そして神殿の人間は私を見つけるや否や嗤った。
「おやぁ可笑しいですな。臥せっている筈の神子殿はどうやらお元気のご様子。」
「マコは無理をしすぎるからな。昨日は臥せっていた」
たしかにアルは嘘をついていない。私は昨日、抱かれすぎて臥せっていた。でもそれをさも体調が悪かったかのように言い切る彼に恥ずかしさがつのる。
けれど神官たちは、それには気づかず鼻をならすと再び口を開いた。
「いかにアルスラーン殿下であろうと正式な手続きをもって進められている神子審議官を蔑ろにすれば罪に問われますぞ。」
そして傲岸に告げる神官にアルは怒りで目を細める。
「その程度の脅しを恐れる俺であると思うな」
「アルやめて」
アルが窮地に追いやられるのが不安で伸ばした私の手を、彼は安心させるように握ってくれる。
「マコ・・・しかし。」
「わたしに用事があるというのなら、お伺いします。」
悪意に歪む顔を前に勇気をもって告げる。大丈夫、このつなぐ手があれば大丈夫。
けれどアルは私の言葉を遮るように抱きしめて、二人にしか聞こえない声で囁く。
「いけない。マコが神子審議でツラい思いをするのが目に見えている。今からでも俺が何とかする。」
この腕の中で抱きしめられて、守られているのは安心する。でも私だってアルを守りたい。私のために一人立つ彼を支えたい。
「いいえ。私も私自身のことが知りたいの。大丈夫。だって帰ってくる場所はもうあるもの。」
そして彼の背に手を回せば、彼は一瞬、ツラさに耐えるような表情を浮かべると応えるように抱きしめてくれた。
そして再びの嵐は私たちの朝からの平穏を吹き荒らしていったのだ。
◇
「神子審議はまずは我が国でもっとも重要な水を扱えるか否かを確かめさせていただきます。」
そして連れてこられた場所は第三皇子であるアルスラーンの宮殿から出て、私が初めに召喚された神殿の中に位置する建物のようだった。青いアラベスク模様で装飾が施されたその部屋は皇子であるアルの部屋などと比べるとこじんまりとしているが、そこには中央に大きな水鏡があった。静謐な水を湛えた水瓶は重要度をあらわすように美しい装飾が施され、大の大人が手をつないでも優に超えるであろう4m程の直径だ。
それを指して神官は言った。
「真に水の神子なら、ただ願うだけで水は応えます。この水鏡から少し水を浮かせるだけで良いです。」
水を浮かせるなんて、そんな重力に反したこと出来るんだろうか。とりあえず私はそれらしく手を水瓶に掲げてみせる。
(お願いっ、浮いてっ少しでいいからっ)
けれど水は動かず波紋すら描かない。
「動かないね」
するとそんな私に向かってかかる声があった。ハッと振り返るとあの亜麻色の髪の神子が丁度こちらへやってくるところだった。
「でも良かった貴方が水の神子じゃなくて。むしろそうだったら困っちゃう」
「どうして?」
私が水の神子だと困るんだろうという顔をして視線を向ければ彼女は目を細めて笑った。けれど彼女の笑い方に何故かゾッとする。目の奥が全く笑っていない。
「この神子審議は貴女に来て貰うためのものだから」
「どういうこと」
んっと唇に指をあてて彼女は少し考えるそぶりをしたが、すぐにその指をピッとドアの方へ向けて言った。
「神官のみなさんちょっと席を外してください。私はこの人とお話があるから」
「神子様がそうおっしゃるなら」
そう言いながら白髭の神官たちがあっさりと出ていき、人払いがすむ。私と彼女以外誰もいなくなると私は口を開いた。
「話って何ですか」
「ん~まずは自己紹介ね!私は薫子。木下薫子。なんでかいい匂いがするみたいだから名前にぴったりってよく言われるの。それで貴女は?」
と言ってくすくすと彼女が笑う。きっと私になんの力も出てないことは彼女の耳にも届いているんだろう。
「神崎真子。力は特にないわ」
「そう?まぁ知ってたけどね。」
そして響く哄笑はとても嘲りに満ちていた。けれどそんなことなど気にもせず神子は続ける。
「あとさっき水の神子じゃなくて良かったって言ったのは単純よ。貴方が私より凄い力持っていたら・・・イヤじゃない。」
その視線は氷のように冷たい。
砂漠の国において水の貴重さから神子が重宝されるのは分かる。けれど、水の神子ならこの国の人達が助かると分かりながら“水の神子じゃなくて良かった”と言える彼女の歪さに声もでない。
「大変な思いをして神子をよんだのに、何の力もないんじゃこの国の人たち可哀想ね」
きっとここで私が家族が引き離されてこの国にいることを語っても、この子には通じないだろう。だから私は口を閉ざした。だってこれは国家による拉致・・・犯罪と変わらないのだから。
「それでどうして私と話なんか」
けれど次の瞬間ゾッとするようなことを彼女は言った。
「だって何も言わずに皇子様がいなくなるって可哀想かなって私なりに思ったから」
血の気が失せる。彼女のいう皇子様が誰を指すかなんて言われなくても分かってしまうから。胸が早鐘のように打つ。
「・・・アルに何をしたの」
神子が首をかしげて笑う。
「まだ何も?ねぇ私にあの第三皇子さま頂戴?」
意味がよく分からなかった。
「頂戴ってなに?アルは物じゃない」
「まあね?それはね。」
薫子は部屋の端まで歩いたかと思うと、くるりっと振り返ってわらった。
「私とあの皇子(アルスラーン)様が結婚して、幸せに暮らしました。それって素敵でしょ?」
でも彼が今まで与えてくれたものが私を強くする。彼がこちらの世界で“ひとりぽっち”の私を見つけて、支えてくれた。
「彼は私を愛してくれたわ」
『俺はマコのものだ』と過去・現在・未来の愛を誓って、贈ってくれた夜待鳥の羽根が私の胸に在り、指には彼がくれたルビーの指輪が輝く。アルスラーンは私にただただ愛を与えてくれた。
彼に自分の全部を愛されて幸せだった。
だから凛と顔を上げて、もう一人の神子を見つめた私にギュッと亜麻色の髪の神子は眉を寄せ、叫んだ。
「そんなのおかしいわ!貴方ばっかりズルいじゃないっあんな素敵な人に守られてっ」
何を言っているんだろう。守られて味方をけしかけているのは貴方の方なのにと思う暇は無かった。突然、彼女は近くにあった吊り下げられたランプを外してこちらに投げたのだ。
ガチャーーーンッと甲高い音と共に蝋燭と炎が床に垂れる。
「きゃあああああああっ」
つんざくような悲鳴。すぐにそれに反応して神官達や兵士達が現れて彼女の企みを知ったけれど、もう遅い、嵌められた。
「この人が私の事を妬ましいって急にランプを倒してきたのっ!!!」
泣く神子に兵士達が私に向けて殺気立つのが分かった。
「神子に対しなんということを!!」
「違うっ私は何もしてないわ!!」
誰も私の声を聴いてくれる人がいない。アルならきっと信じてくれたのに彼は今ここにいない。でも諦めきれなくてなお言葉を重ねた。
「ランプは私の方に倒れてるでしょ?私が倒したら彼女の方へ落ちているはずじゃないっ彼女が自分でやったのよ!」
一瞬、静まり返る。それに話を聞いてくれたのだと思ったのに、
「神子様の言葉を虚偽と申すかっ」
一気に距離をつめた兵士に平手で殴られた。それでも、あまりの衝撃で倒れる私の髪を今度は容赦なく掴んで引きずり上げる。
「やめてっ離してっ」
苦痛の声を上げる私の手をそして冷たい手枷が繋いだ。
「アルッ」
助けを求める私の背を今度は神子が蹴り上げる。
「もうあの人のこと呼ばないでっ!・・・さぁ貴方たちお願いね?もうこの人が皇子様の前に立てないように穢しつくしてね。」
「カオルコさまのお達しとあれば、女囚人専用の重罪牢へと放り込みます」
無理矢理、手枷を持って引っ立てられる。でも歩くのも抵抗した私に兵士達の手が伸びて抱き上げられ運ばされた。
ここは寒い、怖いよアル。
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アルスラーンは神殿の待合室で、神子審議が終わるのを待っていた。時間が過ぎるのが異様に長く感じる。そんな中、「失礼します」と声をかけられて、彼が顔をあげると扉の代わりをしている紗幕の後ろに亜麻色の髪の神子・カオルコが佇んでた。
やたら着飾ってはいるが眼中には無い上に、待っていた存在ではないから顔を背けてしまうアルスラーンにだがカオルコは気にせずアルスラーンの側まで来ると彼の袖を引いて絨毯の上に用意された豪奢なチャイセットを指し示す。
「あの人も、もうすぐで来ますよ。飲まないんですか勿体ない」
「・・・」
毒を警戒して出されたものを念のため口を付けないでいたが、出されたものに手をつけないのはアルスラーンの価値観に反した。たとえ気に食わない場所であろうと食べ物に罪は無い。だからこそもうすぐマコも来るからと冷えていたチャイグラスを手に取り、アルスラーンは中身を一気に煽る。
こくりっと彼の咽喉が動くのをカオルコはじっと見つめて、そして次の瞬間、ガシャンッと彼の手からコップが落ちるのを見て彼女は本当に嬉しそうに笑った。
「・・・なにを盛ったっ」
「媚薬。あと痺れ薬と麻薬?ですって」
頭を苦し気に抑えるアルスラーンの肩に神子はツゥッと蛇の様に白い腕を伸ばし絡める。
「もうわたしが欲しいでしょ?」
カオルコはそして豊満な胸をわざとアルスラーンに押し付けた。
「俺はお前などっ」
その先の言葉を、彼女はアルスラーンに口付けを仕掛けることで封じる。
「くっ」
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そして、アルスラーンが口づけを咄嗟に防いだ手をクチュリッと水音を響かせながら彼女は舐めて、銀糸がアルスラーンの手からカオルコの口に淫らに伸びる。
「フフッ、ねぇ無理しないで欲しいでしょ?」
チュッとアルスラーンの手に口付け、神子は淫蕩に嗤い、その手をアルスラーンの下肢に伸ばす。
「貴様っ」
シュルッとアルスラーンの帯がほどかれる。
「諫めてくれるのは貴方だけだった。初めてだった。だから私を抱いて?そうしたら神官達が証人になってくれて直ぐに結婚できるから」
女の唇が囁きながら、なおも身を寄せて、アルスラーンの耳を食んで彼は「くぅ」と呻いた。そしてゆっくりと淫蕩の紗幕が二人におちてくる。
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