薮一蔵の体験教室

riktan

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川人 雷打

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 作り方はそんなに難しくなくて最初の土日で出来上がった。あんまり作っても材料費とかが申し訳ないから、3個作った中で利章としあきの好きな天の川が一番きれいにできてる物にした。

 どれをあげようかは決まったけど、どうやって渡そうかが決まらない。ずっとカバンに入れてるから割れないか心配で若干挙動不審。

 学校の帰りも里比斗りひとさんが駅まで迎えに来てくれる。兄ちゃんの方が遠くから帰って来るから俺は少し時間に余裕がある。

 少しだけ遠回りになる道を選んだ。利章としあきが俺を庇ってくれた道。
 カーブミラーに利章としあきが映った。鏡越しに目が合ってるっぽいけど利章としあきは動かない。お互い一人だから今なら渡しやすいって思って駆け寄ると、利章としあきは「やっぱり」って言った。何が?

「女子たちに言われたんだ。『らいちゃんは信号のタイミングとか車のウィンカーとかよく見てるから、あの場所なら自転車が来てることもカーブミラーできっと分かってた。余計な事しないで』って」

「なんだよそれ」
 確かに気付いてたけど、そんな言い方するなんて!
「余計な事だなんて思ったこと一秒もない!
 もしかしてそんなこと信じて俺のこと避けてたのか?」

 利章としあきが不思議そうに聞き返してきた。
「え?雷打らいだが俺のこと避けてたんじゃないか。もう面倒みきれないって嫌になったんだろ?」

 なんだその発想。パラレルワールドにでも迷い込んだ気分だ。
「ちょっと引っ張っただけでケガする俺に呆れたんだと」

 利章としあきが盛大に首を振った。
「俺も馬鹿力だけど、自転車に気付いて雷打らいだが動こうとしたのと同じタイミングと方向に引っ張ったせいもあるだろうって。柔道とか合気道とかみたいな状態になったんだろうって壮二さんが」
「壮二さん?」
 誰?

「ジムの人。今ジムに通ってるんだ。俺がどれくらい力を入れたら何キロくらいの力になるかを勉強してる。人はこうされると動きにくいとか動いちゃうとか。
 だから、もうすぐ誕生日だし、プレゼント下さい」
 握手を待つように右手を出して90度にお辞儀をする利章としあき

 トンボ玉を今渡すべきなのかなって思ったら続きがあった。
「仲直りを下さい!」

 突然のかわいさに唇が勝手にピクピク動いてしまう。
 まっすぐ伸びている掌を握ったらそっと握り返された。頭を上げて照れてるようなちょっと得意げな顔。
「今20キロくらいで握ってる。握手の平均が25キロなんだって」
「25キロにしてみて」

 利章としあきが俺の顔を窺いながら力を入れる。
「これくらい」
「うん、ちょうどいい。今までだって痛かったことないよ。その壮二さん?が言った通り、タイミングが悪かっただけだよ」

 利章としあきが首を振る。
「せっかく力があるんだから、それでも守れるくらいになるよ」

 俺の手を握ったまま嬉しそうな可愛さと決意のかっこよさがある利章としあき。なんか言い辛いな。
「でも渡したい物があるから、ごめん離していい?」
「あ、ああ、ごめん」

 カバンからハンドタオルで包んだ小箱を出して渡す。
「俺が作ったんだ。誕生日プレゼントにしようと思って。開けてみて」

 素直に開けながらも表情が曇る。
「職業体験、一緒に行こうって約束した」
「うん。ここにする?」

「ん?」
「ん?」

「勝手に行っちゃったから避けられてるどころか約束までナシにされたのかと」
「職業体験をするのは進路が確定した人のうちの希望者だけなんだから、まだ二年生なのにやるわけないだろ。しかも授業じゃない日に。
 これは夏目先生が個人的に紹介してくれただけだよ」

 利章としあきは力が抜けたようにしゃがみこんだ。
「そうなんだ~」
「いいから開けてみろって」

 箱の中身を見ると凄い勢いで立ち上がった。
「夜空だー!」
「これなら眠くならないで見てられるだろ?」
「すげー!天の川まである!すげー!」

 かわいくてもっと見ていたかったけど、里比斗りひとさんと兄ちゃんが待ってるからそこで別れた。

 普通こう思う、みんなも自分と同じように思ってるなんて決めつけちゃいけないんだ。
 俺を預かることはできないってやぶさんは思ってないかもしれない。
 俺が続けたいと思ってることもやぶさんには予想外なのかもしれない。
 ちゃんと言わなきゃ。

 家に着いたら工房の明かりが消えていた。今日は早めに上がったんだ。玄関を開けたらちょうど水風呂から作務衣姿のやぶさんが出てきた。

「お帰りなさい」
「ただいま~」
 先に家に入った兄ちゃんが元気に答える。先頭の里比斗りひとさんの声はかき消された。里比斗りひとさんは気にせず階段を上がっていく。

 兄ちゃんが振り向いて「トンボ玉渡せたって言っておいで」ってだけ小声で言って階段を上がっていった。
「うん」

 まっすぐ自分の所へ来た俺の顔を、言葉を待つように少し首を傾げて見るやぶさん。
「トンボ玉、渡せました」
 やぶさんの表情が少し柔らかくなった。
「良かったですね」
「ありがとうございます」

 どうしよう、なんて言ったらいいんだろうって思ってたらやぶさんの上げた右手が俺の頭に乗った。

「明日からは基本に戻って練習しましょうね」
 居間に向かうやぶさんの背中に頑張って声を出す。
「はい!よろしくお願いします!!」

 言わなきゃ伝わらないことばかりでもないらしい。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

東郷しのぶ
2021.11.17 東郷しのぶ

23「川人 雷打7」まで拝読しました!

登場人物みんなが、お互いの距離を測りあいながらも、優しい心で思い合っているのが、とても良いですね。作品にただよう、温かくて澄んだ雰囲気が好きです。
一蔵さんのアドバイスのおかげもあって、雷打くんと利章くんが仲直り出来て、ホッとしました。

小夏ちゃんが、ちょっと出てきましたね~(そういうサプライズも嬉しかったです)。

riktan
2021.11.18 riktan

ありがとうございます!
「温かくて澄んだ雰囲気」と言って頂けてとても嬉しいです(///ω///)♪

一蔵は夏目のように人の背中を支えたり押したりできる人を目指して、これからも頑張ります(`・ω・´)ゞ

解除
東郷しのぶ
2021.10.25 東郷しのぶ

12「薮 里比斗2」まで拝読しました!

一蔵さんの周りに人が集まってきますね。穏やかな空気が心地良いのは、一蔵さんの人柄によるものなのでしょうか?
登場人物それぞれの思いが良く描かれていて、とても興味深いです。続きも楽しく見させていただきますね!

riktan
2021.10.25 riktan

ありがとうございます(*^^*)

一蔵はこれから失敗しながらも夏目みたいになりたいという目標に向かって自分なりに進んでいきます。見守っていただけると嬉しいです<(_ _)>

解除
ひじき
2021.09.13 ひじき

面白い!ぜひマイクロ=コール=オンライン読んでみてください!!!!

riktan
2021.09.13 riktan

ありがとうございます✨
まだ序盤なので気長にお付き合い下さいm(_ _)m

おすすめの作品も読んでみますね(*^_^*)

解除

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