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第四話
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『ユルノへ
今年の秋はどうですか。寒くないかな。あなたは寒がりだから、心配です。
もう十八歳ですね。立派な魔術師になっているでしょうか。こちらは心配ありませんね、お父さんの子だもの。
そして、成人を迎えたあなたに、一つお願いがあります。
居間の引き出しの一番下に入れてある指輪を、お父さんに返してあげてくれませんか。』
(父親に?)
ユノは思わず居間へ行き、暖炉の隣にある引き出しの一番下を見た。引いてみると、確かに、指輪が入っているらしい小さな木箱があった。それを開けてみると、強烈な魔力の痕跡を感じる。もう一度手紙に目をやる。
『これは、お父さんの家に代々伝わる大事な指輪です。あなたが成人になるまで、お父さんはその指輪に魔除けの魔術をかけてくれていました。
ずっと家族を守るために残しておいてくれましたが、あなたが一人でも自分を守れる立派な魔術師になっていると信じて、お父さんに返してほしいのです。』
(だから痕跡なのか……それにしても、魔除けの魔術? しかも期日を指定してなんて聞いたことがない……)
疑問だらけになりながらも、ユノは手紙の続きを目で追う。
『そして、今日からあなたは一人前の大人です。一人の大人として、責任ある行動をしてください。お友達や、周りの人を大事にしてあげてね。好きな人ができたら、私にもこそっと教えてね。そして、その人と一生添い遂げると決めたら、そのときはあなたのユルノという名前を教えてあげてください。お父さんとお母さんが、たくさんたくさん考えてつけた大事な名前です。本当の名前を教えるのはね、あなたを信じて、愛していますという証明なの。
本当はもっとあなたに教えたいことがたくさんあったけど、それは周りのみなさんが教えてくださったり、あなたが自分で経験して知ったりしていることを祈っています。
ずっと、私の大切なユノ。愛しています』
毎年変わらぬ母からの愛で締めくくられた最後の文章を見て、大きく息をついた。例年はいつも、季節の移り変わりを気にかけたり、いかにユノを両親が愛しているかを語ったりとしていて、何も特別なことはなかった。ただ、文章の量だけが少しずつ減っていた。病床の母親から、あの悲劇が気力を奪ったのがわかる。
(……あの人、いまどこにいるんだろ。本拠地か?)
父親に関して知っている事実で最も新しいのは、あの十年前の悲劇の翌日のことまで。スタンピードに巻き込まれて弟が死に、母親が魔力に侵され床に臥せったその次の日には、家を出てどこかへ行ってしまった。そして二人の葬儀にも出ず、数カ月後にもともと所属していた騎士団の一員として復帰したという報だけ知らされたのだった。それが十年前の話。
当時八歳だったユノには、まだ父親の存在が必要だった。頼れる大人が必要だった。そばにいてくれないことが、何よりの裏切りのように思えた。スタンピードが起きる前は、誰よりも強くて優しい父が大好きだった。国王陛下直属の帝国騎士団という名誉ある立場にいながら、母と添い遂げるために騎士団を抜け、こんな僻地に単身やってきた父親を心から尊敬していた。だからこそ、裏切られた気持ちが大きかった。その思いは、今もなお消えない。
(父親のところに行くか? 今更? どこにいるかわかるのか? 会ってどうする、恨み言をぶつける? それだけ?)
様々な思いが脳裏をよぎってまとまらない 。ユノは自室に戻りベッドに寝転がった。
(帝国騎士団がいる、首都に向かうか? でも、俺一人で本当にたどり着けるか? 整備の行き届いてない道には魔物だっているし……)
かと言って、母親からの頼みを反故にする気にもなれない。
ユノは天井をぼんやり見つめながら、これからのことを考えていた。
今年の秋はどうですか。寒くないかな。あなたは寒がりだから、心配です。
もう十八歳ですね。立派な魔術師になっているでしょうか。こちらは心配ありませんね、お父さんの子だもの。
そして、成人を迎えたあなたに、一つお願いがあります。
居間の引き出しの一番下に入れてある指輪を、お父さんに返してあげてくれませんか。』
(父親に?)
ユノは思わず居間へ行き、暖炉の隣にある引き出しの一番下を見た。引いてみると、確かに、指輪が入っているらしい小さな木箱があった。それを開けてみると、強烈な魔力の痕跡を感じる。もう一度手紙に目をやる。
『これは、お父さんの家に代々伝わる大事な指輪です。あなたが成人になるまで、お父さんはその指輪に魔除けの魔術をかけてくれていました。
ずっと家族を守るために残しておいてくれましたが、あなたが一人でも自分を守れる立派な魔術師になっていると信じて、お父さんに返してほしいのです。』
(だから痕跡なのか……それにしても、魔除けの魔術? しかも期日を指定してなんて聞いたことがない……)
疑問だらけになりながらも、ユノは手紙の続きを目で追う。
『そして、今日からあなたは一人前の大人です。一人の大人として、責任ある行動をしてください。お友達や、周りの人を大事にしてあげてね。好きな人ができたら、私にもこそっと教えてね。そして、その人と一生添い遂げると決めたら、そのときはあなたのユルノという名前を教えてあげてください。お父さんとお母さんが、たくさんたくさん考えてつけた大事な名前です。本当の名前を教えるのはね、あなたを信じて、愛していますという証明なの。
本当はもっとあなたに教えたいことがたくさんあったけど、それは周りのみなさんが教えてくださったり、あなたが自分で経験して知ったりしていることを祈っています。
ずっと、私の大切なユノ。愛しています』
毎年変わらぬ母からの愛で締めくくられた最後の文章を見て、大きく息をついた。例年はいつも、季節の移り変わりを気にかけたり、いかにユノを両親が愛しているかを語ったりとしていて、何も特別なことはなかった。ただ、文章の量だけが少しずつ減っていた。病床の母親から、あの悲劇が気力を奪ったのがわかる。
(……あの人、いまどこにいるんだろ。本拠地か?)
父親に関して知っている事実で最も新しいのは、あの十年前の悲劇の翌日のことまで。スタンピードに巻き込まれて弟が死に、母親が魔力に侵され床に臥せったその次の日には、家を出てどこかへ行ってしまった。そして二人の葬儀にも出ず、数カ月後にもともと所属していた騎士団の一員として復帰したという報だけ知らされたのだった。それが十年前の話。
当時八歳だったユノには、まだ父親の存在が必要だった。頼れる大人が必要だった。そばにいてくれないことが、何よりの裏切りのように思えた。スタンピードが起きる前は、誰よりも強くて優しい父が大好きだった。国王陛下直属の帝国騎士団という名誉ある立場にいながら、母と添い遂げるために騎士団を抜け、こんな僻地に単身やってきた父親を心から尊敬していた。だからこそ、裏切られた気持ちが大きかった。その思いは、今もなお消えない。
(父親のところに行くか? 今更? どこにいるかわかるのか? 会ってどうする、恨み言をぶつける? それだけ?)
様々な思いが脳裏をよぎってまとまらない 。ユノは自室に戻りベッドに寝転がった。
(帝国騎士団がいる、首都に向かうか? でも、俺一人で本当にたどり着けるか? 整備の行き届いてない道には魔物だっているし……)
かと言って、母親からの頼みを反故にする気にもなれない。
ユノは天井をぼんやり見つめながら、これからのことを考えていた。
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