謝罪

みるくてぃー

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第4話

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ある日、バイトから帰って来た優はドアを開けた瞬間、血の気が引いた。
目の前に居るその人物は見た事のない男だった。
母親がまた新しい男を見つけて連れて来たんだろう。
家族が帰って来るのに家に入れるなんて…。

俺は許せなかった。家族を顧みず、いつも自分の好きな事ばかりして…。
まだ弟達は小学生なんだ。
まだ動画配信で投げ銭使って、湯水のように金を貢ぐまでは我慢出来た。
が、俺や弟達がいつも綺麗に掃除しているこの空間に、よりにもよって薄汚い男を連れ込むなんて、厚かましいにも程がある。

あの女に世話になってる覚えはない。

「誰だ!出て行け!」
男はじっと俺を見ている。
「黙ってないで、出て行けよ。ここはあの女の家じゃない!汚いことするなら、お前ん家でやれよ!」

『お前…』
男が声を発した。
『母親に似て美形だな』

『黙れ!あんなおんなと一緒にするな!』
男はニヤッと笑って奥に進んで行く。
『帰れよ!』
男は優を見ながら奥へ進んで行く。
優は玄関から台所に上がり、包丁を掴み男の方に走った。
男は母親の部屋の前まで上がり込んでいた。
そして優が走ってくると同時に、包丁を振り上げた手を男が素早く交わし、勢い余って優が前のめりになった。

優が倒れると同時に男が優に馬乗りになった。
優を男は仰向けにして、暴れる優に笑いながら男は卑猥なことを始めようと首元に吸い付き、優の手を抑え優の服の中に手を突っ込み、体を撫で回し始めた。

突然の男の行動に衝撃を受けた優は、尚も声ともならぬ怒声を浴びせながら、男の手を振り払おうともがいた。
どのくらいそのやり取りをしただろうか?
男が「うぅぅっ!」と声を上げ、力がみるみる抜け、ゆっくりと横に倒れ込んだ。

優は男を目で追いながら、激しい息の中目の前に立っている人物を見た。

裕也だった。
「…裕也……どうして…」
裕也は先程優が持っていた包丁を握りしめて立っていた。
顔や服に血しぶきを浴びていた。
段々状況を読み込めてきた優は青ざめた。

男は呻いていた。まだ、致命傷には至っていない。すぐ警察を呼べば、この男が不法侵入したのだから正当防衛になる。
優は「裕也!警察!」
そう叫んだのが先だったか、裕也が包丁を再度振り上げたのが先だったかは不明だ。

一瞬だった。
裕也は男の首元目指して体全身を使って包丁を突っ刺した。
叫びとも喚きとも何とも言えない激しい声が響いたかと思ったたが、指したところは喉の近くだ。男は口と首から血を吹き出しながら、もはや声など出ず、血の泡を吐きながらぴくぴく痙攣を起こし、みるみる動きが弱くなり、ついに動かなくなった。

裕也は目が座ったまま、包丁を引き抜くと、更に血が吹き出た。
が、もう男は息絶えているようだ。

優も裕也も壁も床も布団も服も何もかも血まみれになっていた。

しばらく優は放心状態で、男を見ていたが、裕也に目を向けた。
裕也はゆっくりと優を見た。
「お兄ちゃんを虐める奴を排除した」

優は「……裕也」
殺してしまった。
いくら小学生でも、ここまでしてしまったら、ただではすままい。

優は早鐘を打つ心臓を落ち着けようと必死に深呼吸したが、ドキドキが止まらなかった。

裕也が包丁を持ったまま、ほうけている。
ここまで弟にさせてしまったことの恐怖とこの先この状況をどう流布すれば良いのか考えを巡らすが、答えが見つけられずに時間だけが流れていた。
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