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2章 婚約破棄のちプロポーズ! 婚約破棄編
ライラック
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「ふふんふんふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら、砂時計をひっくり返し、ポットのそばに置く。
茶器が触れ合い、カン、カンと高い音が響き。思わず頰を緩める。
こんな風に、手ずから茶を淹れるのは久しぶりなので、茶器の音を聞くと安堵する。なのでつい笑顔になるのは勘弁してほしい。
いや、笑顔になるのはそれだけが理由ではないか…
だらしなく緩んでいるだろう頰を押さえる。
キュッと力を入れて締め直した。
が、片手に握った紙切れを視界に入れ、抑えたはずの笑みが溢れるのを感じる。
我ながら不気味…でもまあいいや。
遂には表情を取り繕うことさえ諦める。
砂が落ちきったのを確認すると同時にポットに手をかけた。
カップに紅茶を注ぎ、少しだけレモン汁を加える。
仕上げに、さっき庭師に頼んで摘ませてもらった花を浮かべる。途端に、花の香りが広がり、確かにこれはリラックスできそうだと思った。
半透明な紅茶に、五つの花弁の白がよく映える。
曇りのない純白は、何故か少し眩しげに思えた。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「やった!」
思わず快哉を叫んだのは、2時間ほど前のこと。
本のページを捲っていた手を止める。
上の方に「ライラック」という名前と花のスケッチがある。
スケッチは、栞に使われている押し花とよく似ていた。
きっとこの花だと確信。すぐさま説明文に目を通す。
その内容は、要約するとこうだ。
・花の香りにリラックス効果あり
・主流は紫、しかし白や桃色など多種
・共通の花言葉「友情」「約束」「謙虚」と、それと別に色ごとに違う花言葉がある
・とある言い伝えがある
・食べられる、しかしあまり美味しくはないので香りだけ楽しむのがよい
ちなみに栞にされているライラックは白と桃色。
白色固有の花言葉は「無邪気」
桃色固有の花言葉は「思い出」
だった。
わお…効能が、今の私の求めるものだ…
ぜひリラックスしたい。
けれどそれ以上に、とある言い伝えに心惹かれてしまった。
複雑な思いを抱えながらも、持ってきた紙切れに概要をまとめる。
少し迷ったが、言い伝えについても書き写した。
書き終えると、まず厨房に向かう。
料理長にライラックがないか聞いてみたが、
「鮮度が落ちるので常備していませんね…。いつもあまり使いませんし…」
と首を傾げられた。
落ち込んでいると、よほど顔に出ていたのか、彼は慌て始めた。
「すみません、ですが、庭には植えてあったと思います。庭師に言えば貰えるかと。ちょっとお待ちください」
慌てたまま庭師の元へ行こうとする彼を引き止める。
「いいの、わたくしの我儘だから。それに…それなら、少しやりたいこともあるから、自分で頂いてくるわ」
なにやら渋っていたが、頑として行きたいと訴えていると、やがて折れてくれた。
「では行ってらっしゃいませ。ところで…」
何かを聞き出そうに口ごもる。何かしら?と思いつつ、続きを待つ。
「その、やりたいこととはなんでしょう?お手伝いしましょうか?」
と言ってくれた。けれども、これは手伝われてはならない。
「ありがとう。だけどごめんなさい、大丈夫」
これは私一人でやらねば。
「くっ…。望まれるものを用意することもできず、手伝いにすら役立たずとは…」
料理長がなにやら落ち込んでしまったので、今度はこちらが慌ててしまう。
「いえ、役に立たないとか、そういう事は決してないのよ。ただ、これはわたくし一人でやらなければいけないから…ごめんなさい、気を悪くしないで」
「いえ、気を悪くなど。お気遣いありがとうございます」
なんだか迷惑をかけ過ぎている気がして、申し訳なくない。気まずくなって、訳を話すことにした。
何も知らないまま迷惑をかけまくっているのもなんだし…
「ちょっといいかしら」
「?はい」
厨房の隅に寄る。
ちょうど今は人もいない時間帯。話を聞かれる心配はないだろう。
「実はね…。ライラックの花の言い伝えなんだけど…」
私一人でやらなければならないことについてごにょごにょ話す。
全てを聞き終えた彼は、複雑そうな表情で、でも快く送り出してくれた。
鼻歌を歌いながら、砂時計をひっくり返し、ポットのそばに置く。
茶器が触れ合い、カン、カンと高い音が響き。思わず頰を緩める。
こんな風に、手ずから茶を淹れるのは久しぶりなので、茶器の音を聞くと安堵する。なのでつい笑顔になるのは勘弁してほしい。
いや、笑顔になるのはそれだけが理由ではないか…
だらしなく緩んでいるだろう頰を押さえる。
キュッと力を入れて締め直した。
が、片手に握った紙切れを視界に入れ、抑えたはずの笑みが溢れるのを感じる。
我ながら不気味…でもまあいいや。
遂には表情を取り繕うことさえ諦める。
砂が落ちきったのを確認すると同時にポットに手をかけた。
カップに紅茶を注ぎ、少しだけレモン汁を加える。
仕上げに、さっき庭師に頼んで摘ませてもらった花を浮かべる。途端に、花の香りが広がり、確かにこれはリラックスできそうだと思った。
半透明な紅茶に、五つの花弁の白がよく映える。
曇りのない純白は、何故か少し眩しげに思えた。
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「やった!」
思わず快哉を叫んだのは、2時間ほど前のこと。
本のページを捲っていた手を止める。
上の方に「ライラック」という名前と花のスケッチがある。
スケッチは、栞に使われている押し花とよく似ていた。
きっとこの花だと確信。すぐさま説明文に目を通す。
その内容は、要約するとこうだ。
・花の香りにリラックス効果あり
・主流は紫、しかし白や桃色など多種
・共通の花言葉「友情」「約束」「謙虚」と、それと別に色ごとに違う花言葉がある
・とある言い伝えがある
・食べられる、しかしあまり美味しくはないので香りだけ楽しむのがよい
ちなみに栞にされているライラックは白と桃色。
白色固有の花言葉は「無邪気」
桃色固有の花言葉は「思い出」
だった。
わお…効能が、今の私の求めるものだ…
ぜひリラックスしたい。
けれどそれ以上に、とある言い伝えに心惹かれてしまった。
複雑な思いを抱えながらも、持ってきた紙切れに概要をまとめる。
少し迷ったが、言い伝えについても書き写した。
書き終えると、まず厨房に向かう。
料理長にライラックがないか聞いてみたが、
「鮮度が落ちるので常備していませんね…。いつもあまり使いませんし…」
と首を傾げられた。
落ち込んでいると、よほど顔に出ていたのか、彼は慌て始めた。
「すみません、ですが、庭には植えてあったと思います。庭師に言えば貰えるかと。ちょっとお待ちください」
慌てたまま庭師の元へ行こうとする彼を引き止める。
「いいの、わたくしの我儘だから。それに…それなら、少しやりたいこともあるから、自分で頂いてくるわ」
なにやら渋っていたが、頑として行きたいと訴えていると、やがて折れてくれた。
「では行ってらっしゃいませ。ところで…」
何かを聞き出そうに口ごもる。何かしら?と思いつつ、続きを待つ。
「その、やりたいこととはなんでしょう?お手伝いしましょうか?」
と言ってくれた。けれども、これは手伝われてはならない。
「ありがとう。だけどごめんなさい、大丈夫」
これは私一人でやらねば。
「くっ…。望まれるものを用意することもできず、手伝いにすら役立たずとは…」
料理長がなにやら落ち込んでしまったので、今度はこちらが慌ててしまう。
「いえ、役に立たないとか、そういう事は決してないのよ。ただ、これはわたくし一人でやらなければいけないから…ごめんなさい、気を悪くしないで」
「いえ、気を悪くなど。お気遣いありがとうございます」
なんだか迷惑をかけ過ぎている気がして、申し訳なくない。気まずくなって、訳を話すことにした。
何も知らないまま迷惑をかけまくっているのもなんだし…
「ちょっといいかしら」
「?はい」
厨房の隅に寄る。
ちょうど今は人もいない時間帯。話を聞かれる心配はないだろう。
「実はね…。ライラックの花の言い伝えなんだけど…」
私一人でやらなければならないことについてごにょごにょ話す。
全てを聞き終えた彼は、複雑そうな表情で、でも快く送り出してくれた。
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