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1章 全てはここから始まった? 日常編

忌み子

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「ええい、うるさい!まずい茶を出すコイツが悪い!」
ただし、その理論は第2王子殿下には通じない。何故なら、権力者であるからだ。
どんな横暴もまかり通ると思っているし、一部の例外を除きその通りである。そのため、ニーナとシェルプの行動は悪手。

「フローシア様、こちらへ…」
ニーナが助けようとしてくれるが
「メイド如きが!この俺が話しているのだ、遮るなどと不敬ではないか!!」
「っ、しかし、フローシア様が体を冷やしてしまいます!」
シェルプの正論。それでも、
「知るかそんなもの!」
そう両断された。そう、これがまかり通るのがとても悲しいところだ。

「知らないなどとはあんまりです!」
「えぇ、フローシア様が風邪をひいてしまってはどうするのです!」
「黙れ、忌み子風情が!!!身の程を知れ、無礼者!!!」
「っ…」

忌み子とは、今も残る忌まわしき風潮である。
双子で生まれた人に対する蔑称。
古来より、双子は不吉とされ、忌避されてきた。その習慣は殆ど残っていないが、このバカは頭がからっきし。だから、平然と言い放った、だがこの言葉は、
「なんと、言った…?」
「ヒィッ?!」
私の逆鱗に触れるも同じ。

ゆっくりと立ち上がり、お茶で濡れた髪も意に介さず、バカへと歩き出す。
私の家族を、友達を、侮辱するなど、
許さない、許さない、
「許せない」

ガクガクと震えるだけのバカの前に立ち、衝動のままに利き手、すなわち右手を振りかぶろうとしたその時、
「なにをしているのです!!」
女性の凛とした声が、響いた。


✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎


「王妃様…」
「母上っ!」
バカと自分の放った言葉が、重なって聞こえた。

庭園の入り口より現れたのは、この国で王に次ぐ権力者たる王妃様、フォニア・グランドシア様。
実際、その権力関係には複雑なものがあるが、女性の身の上でありつつ凄い影響力を誇っている。

「母上、フローシアが、俺に」
パンッ!
「イダッッ?!!」
王妃様の平手炸裂。
権力者も形無し。
「お黙りなさい、ディトスリ。何を言おうとしたか知りませんが、予想はつきます。」
「でしたら!」
と王妃様の言葉を遮るバカ。

「まさか、自分は悪くないとでもいうのですか?」
「俺に悪い事があったとでも?!」
自覚なしかよ、このバカ。
「はぁ…自覚なしですか。いいです、自室で謹慎なさい」
あ、王妃様と思った事同じだ。

そう思うと、少しスッと頭が冷えた。
「何故?!」
まだ分からないらしいバカ。
「何故?分からないのですか?
あなたの怒鳴り声、聞こえていましたよ。忌み子などと…くだらない迷信です。
それに、フローシア嬢は髪やドレスが濡れています。あなたが空っぽのカップを持っているのを見れば、何があったか予想できます。
どうせばかばかしい事で、フローシア嬢に言いがかりをつけてお茶をかけたのでしょう?」

この間、呼吸をせず言い切った王妃様。流石ですが、その肺活量どこで手に入れられたのでしょう。
「悪いのはフローシアだ!俺に不味いお茶を出すから!」

無言の王妃様、私の方に向き直り
「フローシア、わたくしにお茶を淹れて頂けませんか?」
唐突でした。

「あのお茶は、貴女が淹れたものでしょう?以前のお茶会で見かけました。」
観察眼が優れている方だ。
お茶会で自分でお茶を淹れたことなど、片手で数えられるほどしかないのに。

だがまぁ、この方の意図がどうあれ、そんな方ではないと知ってはいるが、断って角が立っても嫌だし、断る理由もなかった。
「分かりました。」
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