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ディスクゥド

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 四人は武器を持ち、集会所から飛び出した。
 外に出るなり揃って異変に気付く。

 赤き夕日に照らされるはずの村。
 だが陽光は何者かに遮られ、村全体が暗くなっていた。
 遠くに視線を飛ばせば、村以外はちゃんと赤く彩られている。
 太陽の方角を見た四人は同時に身構えた。
 村から光を奪っていたのは、十数メートルはあろうかという巨大な魔獣だった。
 背中には大きな翼、頭には立派な二本の角を生やし、鋭い爪と牙を持った、種族としてはトカゲに近い姿をしていながらも、全くの別物と呼べる存在──ドラゴンだった。

 ギョロリとした眼が四人を睨んだ。
 遅れて集会所を飛び出した村人たちが、皆一様に悲鳴を上げた。
「きゃああああっ!」
「な、何だこれ!?」
「嘘だろ!?」
「逃げなきゃ……逃げ……」
「村長、どうしますか!?」
「お、おお、落ち着くのだ」
 凄惨なまでの混乱状態に陥っている。
 そんな中、四人だけが冷静にドラゴンの元へと向かった。

 村の敷地から出ると、結界の外のため、ドラゴンから発せられる威圧感が増す。
 四人は怯むことなく退治した。
「こんな辺境地にドラゴンか。それも巨大な」
「ふんっ。どうせ見掛けだけだろ」
「昨日今日の魔獣、もしかしてこいつの手下?」
「どちらにしても油断は禁物ね、ユユノ」
 ふと、ドラゴンが大きな口を開けた。その瞬間、突風のような吐息が放たれる。
 溜まった空気を吐き出したドラゴンは、次に声を発した。
『貴様らだな、我が勢力を滅したのは』
 ドラゴンの言葉に四人の表情が強ばる。
「喋った。人の言葉を話すだけの知恵を持っているのか」
「……魔獣の分際で」
「ユユノの言う通り、あの魔獣の群れは手下だったのね」
「ということは、魔獣の中でも上位の存在……『元』ディスクゥド」
 ユユノは低い声で、確信を持ってそう言った。

 魔王が生み従える、魔獣と呼ばれる化け物。
 その中でも、魔王に一際強大な力を与えれた特殊な魔獣、総称ディスクゥド。
 普通の魔獣は言葉を発することは出来ない。意思すら持たないと言われている。それが出来るのはディスクゥドのみであり、ゆえに眼前のドラゴンがディスクゥドてあることは疑いようの無い事実だった。

 ドラゴンの眼光が細く鋭く絞られる。
『元だと?ふざけるなよ人間。我は魔王様に選ばれし存在である』
 怒気を孕んだ声でそう言った。
 ユユノは不敵な笑みを返す。
「だから元でしょ。魔王はもういないんだから。どっかのバカにやられてね」
 ドラゴンの怒りがわずかに揺らぐ。
『何だとっ!?世迷言を……』 
 口では否定するが、動揺が見え隠れしていた。
「もしかして知らない?」
「所詮はこんな辺境の魔獣だな。自分たちの王がやられたってのも知らないのか。ディスクゥド?の名前が泣いてるぜ、魔獣様よぉ」
 クロットがここぞとばかりに煽る。
 言葉の毒に当てられ、ドラゴンの目付きが変わった。瞳の奥に猛々しい怒りの炎が映っている。
『言わせておけばッ!』
 ドラゴンは牙を剥き出しにした。
 全身から驚異的な殺気が放たれる。
 クロットは四本ある短剣のうち、最も肉厚な刃をした一本に手を伸ばす。
「丁度いい。朝のは物足らなかったんだ。あの雑魚共の頭なら責任取ってくれよ。ディスクゥドだってんなら、少しは歯応えあるんだろ?」
 するとドラゴンにも負けぬ殺気が彼からも溢れた。人間とは思えぬ気迫だった。
 獰猛な笑みを浮かべながら一歩踏み出そうとする。
 だがそれを、隣に立つデュラウが手で制した。
「待ってくれ」
 邪魔をされて立ち止まるも、クロットはデュラウを激しく睨めつける。ドラゴンに向けていた殺気を、仲間であるデュラウに向けた。
「……手を退けろよ、デュラウ」
 大型肉食獣の唸り声に似た、苛立ち混じりの低い声。
 しかし、デュラウは引かなかった。
「ここは俺に任せてもらえないか」
「はぁ?お前、何言ってんの?」
「今朝の戦いに参加出来なかった、その不甲斐ない汚名を返上したいのだ」
「知るかよ。勝手に汚名でも何でも被ってろ。そんなことでオレサマの暇つぶしを邪魔するな。この魔獣はオレサマの獲物だ。譲る気は無い」
「頼む。この通りだ」
 頭を下げて懇願する。
 クロットはより強い苛立ちを込めた。
「ふざけたこと言ってると、先にお前を殺すぞ」
 肉厚な刃を抜き放ち、切っ先をデュラウに向けた。
 短剣からは確かな殺気が放たれている。言葉に嘘が無いこと伝えていた。
 それでもデュラウは引かなかった。
「いいじゃない。今回は譲ってあげてよ」
 そうユユノが口を挟んだ。
 突然の横槍にクロットが眉をひそめる。
「お前まで何言ってやがる」
「今朝、散々暴れたでしょ」
「全然足りなかったと言ってる」
「でも暴れたのは事実でしょ。だったらここはデュラウに譲ってあげてもいいじゃない」
「ふざけるな!」
 二本目の刃も抜き、そちらはユユノに向けた。
 ユユノは微笑みを崩さなかった。
「どうせここで戦っても、結局は物足りないって言うんだから。あなたを満足させられるのは一人だけ、違う?」
「あの魔獣が強かろうと弱かろうと、オレサマは獲物を譲る気は無い。例え満足出来なかったとしても、暇つぶし程度にはなるからな」
「だったら、あのバカと再会出来たらすぐに戦ってもいい。わたしは止めないし、いっそ戦えるように協力してあげる」
 ユユノの提案にクロットが目を丸くした。明らかに意思が揺らいだ。
 二人に向けていた短剣を静かに下ろす。
「……いつも邪魔するくせに、どういうつもりだ?」
 ユユノは笑いながら杖を振った。
「別に。ただね、いい加減、わたしもバカ探しに嫌気が差してるというか、腹が立ってるというか、会えたら文句の一つ二つ言って一発殴ってやりたいの。でもそれなら、文句代わりにクロットをけしかけてもいいかなって思って」
「…………」
 クロットは怪訝な表情でユユノを睨む。
 逡巡するクロットに、今度はリーシャンが言った。
「私も手伝ってあげる。私だって彼には不満が募っているもの」
「これでどう?」
 賛同者を得たユユノは不敵に微笑んだ。
 クロットは舌を打ち、しかめっ面で頭を掻きむしる。

『仲間割れとは余裕だな、人間!貴様ら皆殺しにしてくれるわッ!』
 突如ドラゴンは雄叫びのような怒鳴り声を上げ、地面を力強くふみつけた。
 大地が大きく揺れる。
 あまりの振動に村から悲鳴が上がった。
 揺れを嫌ってか、クロットは逃れるようにふわりと跳んだ。
 華麗に着地するなり、身を翻す。
「……今回だけだ」
 そう言い残し、クロットはどこかに姿を消した。
 口喧嘩が収まったのを見届け、リーシャンとユユノは顔を見合わせ、村へ救助に戻った。

 誰もいなくなり、一人残ったデュラウが呟く。
「感謝する」
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