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足跡

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 アラーム音ですぐに目が覚めた。
 いつもならアラームなんて意にも介さず眠り続けていただろうに、今日はなぜだかすぐに起きられた。
 意識もハッキリしており、眠気は完全に鳴りを潜めている 。
 今から二十四時間起きていられる自信すらあった。

 顔を洗い、朝食を食べ、着替えを済ませ、いつでも出掛けられるように準備をした。
 部屋で待機していると、不意に失念していたとある可能性が脳裏をよぎる。
「そういえば、早川って昼間はどうなんだ?」
 彼女を一般的な幽霊だと定義をするならば、夜以外は消えているか見えないのではないだろうか。
 いや、正確に言うと、それも本当のところはどうか分からないが。あくまでそう言われているだけだ。だが、もしそれが本当だとしたら、彼女は今頃……。
 得も言われぬ不安に駆られ、ドアまで駆け寄る。
 ドアノブに手を伸ばすが、逡巡の後、その手を引っ込めた。
「ダメだ、落ち着け…… 」
 まだ十時にはなっていない。
 ここで飛び出すより、今は約束の時間まで待つべきだ。
 今飛び出すと、行き違いになる可能性もある。そうなったら、本当に消えたのかどうか分からないまま、当たりを探し回ることになる。
 ドアを一睨みして、出ていきたい気持ちを抑え込む。
 そしてドアから顔を背けようとした、次の瞬間──
「あ、起きてた」
 唐突に、ドアから顔が生えた。
 生首。そんな言葉が浮かび、思わず大声を出しそうになってしまう。だけどよくよく顔を見ると、当然ながらそれは早川だった。
 驚く俺を見て笑いながら、部屋に入ってくる。

 改めてすり抜ける姿を目にして、彼女が幽霊なのだと再確認した。
 加えて、幽霊だというのに朝昼でも関係ないようだ。
 もしくは、幽霊が夜にしか現れないと言うのが間違いなのかもしれないが、そこは確認しようがない。

「どこに行ってたんだ?」
「どこってことはないけど。適当に見て回っただけだよ」 
 彼女の行きそうなところなんて、彼女の家と学校ぐらいしか思い浮かばないのは、俺が彼女のことをあまり知らないだけなのだろう。
「行きたい場所はある?思い入れのある場所とか」
「図書室に、図書館と本屋かな」
 早川の返答に、なるほどと納得する。
 早川と言えば無類の読書家。行きたい場所や思い入れのある場所を言えば、自ずと本関連になる。

 図書室とは、学校のあの図書室だろうか。
 だとしたら難しい。今は冬休みだ。冬休み中の登校は、何かしら理由が無い限り基本的に禁止となっている。部活動や生徒会に入っていれば別だが、残念なことに俺はそのどちらにも所属していない。
 というか、仮に学校へ行けたとしても、図書室が空いているかは分からない。
 とりあえず、図書室は最後の手段にしておこう。
 本屋は近場でもいくつかあるので、全て回るとなると時間がかかる。
 図書館は夕方までしか空いていない。
 まずは図書館へ行くべきだろう。

「それじゃあ、とりあえず図書館に行こうか」 
「うん」
 コートに手を伸ばす。
 ふと、もう一度彼女に目を向ける。
 早川は初めて会った時と変わらず、真っ赤なワンピースだけを身に纏っていた。ワンピースは長袖だが、さすがに真冬の街を歩くには寒そうだ。
「コート、貸そうか?別の上着でもいいけど」
 手に取ったコートを差し出すと、彼女は首を傾げた。
 自分の格好を見下ろし、納得したのか小さく頷く。
 だが、改めて首を横に振った。
「ううん、大丈夫」
 どうやら寒さは感じないようだ。
 安心はしたが、外見的にはやはり気になる。
「それじゃあ、せめてこれだけでもどう?」
 マフラーと手袋を差し出す。
 また断られたら、その時はもう格好については触れないでおこう。
 早川は頷いたかと思うと、なぜか恐る恐るといった様子で手を伸ばす。そしてそれらを受け取ると、これまたなぜか驚いた表情を浮かべた。
 早川の様子に引っかかりながらも、コートを羽織って出掛ける準備を済ませる。

 電気とエアコンを切り、俺と早川は部屋を、そして家を後にする。
 外に出た瞬間、凍えるほど冷たい風が襲ってきた。
 真冬の朝ともなれば当然だ。
 改めてマフラーと手袋を渡して良かったと思う。
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